【小説】入間人間『たったひとつの、ねがい。』(ネタバレ感想・考察)

【小説】入間人間『たったひとつの、ねがい。』(ネタバレ感想・考察)
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

タイトル:たったひとつの、ねがい。
著者:入間人間
出版社:KADOKAWA
発売日:2012年11月22日

彼女と知り合ったのは学生時代だった。
互いに心を通わせてる、そのことすらも確認しなくてもわかる日々。
そして今日。
思い切って結婚を彼女に持ち出してみた。
下手に出て、お伺いしてみる。
恐る恐る顔を上げて反応を確かめると、非常に希少なものが拝めた。
彼女がにたにたと、ともすれば意地悪く見えるほどにやついている。
つまり、良いよ、ということ?
やったぁ……と、思ったその瞬間。
あんな、あんなことが起こるなんて。
それから、僕のもう一つの人生は始まった──。


デビュー作である『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』が有名な入間人間。
それこそ『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』シリーズの最初の2作ぐらいを遥か以前に読みましたが、それ以来の入間作品でした。

『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』はほぼうろ覚えですが、デビュー当初は西尾維新に影響を受けたことを公言しており、『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』も確かに西尾維新っぽいなと感じつつも(当時のラノベ界は西尾維新の勢いが凄かったので)、それだけではない、ラノベらしさを活かした独自の世界観やトリックが印象的で好きだったのは覚えています。

それもあって、けっこうグロいという噂も聞きつけて久々に手に取った本作。
噂に違わぬ、表紙やあらすじ詐欺(褒め言葉)な1作でした


いやもう好きです、こういうの。
とにかくひらすらに設定は粗いですが、そこはあくまでもラノベ路線。
あとがきで書かれていた「シンプルな復讐モノ」という芯がしっかりと感じられました
諸々の周辺設定は、あくまでもその芯のための味付け。
それでなお、叙述トリックを絡ませてきて印象を一転させ、羽澄の復讐という伏線まで回収してまとめ上げる強引さは、にわかファンでも入間人間らしさを感じました。

とにかく、ほのぼのとした冒頭からの転換が見事で最高です
「彼女が頷殴られた。」の文章から唐突に一転する世界。
「頷こうとしたところを殴られた」などではなく「頷殴られた」という表現が、ラノベならではのスピード感であり、幸せな日常が何の脈絡もなく反転する運命の容赦なさを突きつけてきます。

その後のカニバリズム展開は、まさに地獄そのもの。
ホラー好きには定番要素とも言えますが、日常にここまで唐突に組み込まれると、さすがにインパクトがあります。
何もできず、大切な人が家畜のように食べられていく姿を見ているしかない絶望感。
冒頭でのほのぼのとした食べ物に関する会話の印象が真逆になります。


プロローグで圧倒的な衝撃を与えながらの、「一章『魂の牢獄』」「二章『車輪の旋律』」までが、正直に言えば個人的なピークでした
水川に対する残酷な復讐劇は、フィクションで復讐をするなら容赦なくやってほしいという個人的な願いを叶えてくれていました。
幼い子まで躊躇なく殺害するのは明らかにやり過ぎで鬼畜ですが、復讐のためだけに生きる主人公がそこで慈悲を見せるはずもありません。

幸せを奪って壊して絶望させてこその復讐劇。
あまりに痛々しいからこそ、フィクションではこれで良いのです。

とはいえ、最後に主人公に対する印象が完全にひっくり返されてしまうのですが、それは一旦置いておいて。

グロさも水川一家がピークだったので、その後は何となく盛り上がりに欠けてしまった印象が否めません。
容赦ない復讐というよりは、警戒する相手をどう出し抜いて殺害するかという方向性に転換したのと、その出し抜き方があまりに突飛というか、もはやちょっと笑ってしまうレベルだったのと。
火口の娘を引っ掛けて騙したのも、右手だけで階段を下りるのも、放火魔の協力を得て火口家に突っ込んだのも、まぁ突っ込みどころのオンパレードで、あくまでも「芯のための味付け」とはわかっていながらもさすがに突っ込まずにもいわれませんでした。

特に、うまく丸め込まれて主人公に協力しているのかと思った火口志摩が、ただただ本当に風間に惚れていただけというのは逆に意表を突かれました。
ただ、それを「あの女が爺好きの変態で助かった」だけで押し切るところ、嫌いじゃありません


そんな、若干失速感も感じられてしまいながらも繰り広げられた強引な復讐劇を経て、訪れたエピローグ。
この叙述トリックありきだからこそ色々強引だったんだろうなとは思ってしまいますが、勢いだけ楽しんで読んでいたので、しっかりと騙されました
確かに細かい部分で違和感を抱かなくもありませんでしたが、まさかこんな叙述トリックが仕掛けられていたとは。

叙述トリック自体よりも、主人公と思っていたダンタクヤの印象が180度転換するところが素晴らしかったです。
彼女を食われたという想像すらできない悲劇を抱え、復讐のためだけにどんな努力も惜しまずに生きていたタクヤ。
そんなイメージで少なからず応援する部分がありましたが、それすら潰してくる容赦のなさは、本作の締めくくりに相応しい演出でした。

ただの、ただの執念深いカニバリストだったー!
食べ物の恨みは恐ろしかったー!

あとがきで「ちなみにどこがシンプルかというと、動機。ちょう分かりやすいですね。」と書かれていた通り、ほんともう「食い物の恨みは、恐ろしい」の一文のためにすべてを組み立てたんだろうなと想像してしまいます

復讐というより逆恨みと言った方が近いですね。
「フィクションではこれで良いのです」とか言っていた自分が馬鹿みたいです。

あえてカニバリストの復讐視点に立てば、水川の次女(優衣)は水川の目の前で食べてしまのが一番効果的だった気がしますが、そうしなかったのはグルメの血が許さなかったのでしょうか。
あるいは、叙述トリックに勘づかれてしまうからでしょうか(元も子もない深読み)。


描写や時系列など、時にわかりやすく時にわかりづらい印象ででしたが、整理すると、
「一章〜五章」→「プロローグ」→「エピローグ」
の順番ですね。
一章〜五章がダンタクヤ視点で、プロローグとエピローグは風間拓也視点。

そう考えると、「プロローグ『悲劇と復讐の始まり』」というタイトルはちょっとずるい気もしますが。
ちなみに「四章『く歩』」は逆立ちして歩いていたからでしょうが、西尾維新っぽいと思ってしまいつつも面白い。

ダンタクヤは、当時付き合っていた彼女を食べるために近づきましたが、それが発覚して裏の世界とも繋がりのある(?)親戚4人からフルボッコにされますが、放火魔による放火によって奇跡の脱出・生還。
なぜ彼女を食べようとしていたのがバレたのかというのははっきりとは描かれていませんでしたが、おそらく過去にそのような事件を起こしていたのが知られたような感じでした。

そして、狙っていたご馳走を奪われた恨みの復讐のためだけに、4人を殺害
動機を知ると、いつまでも消えない復讐心や、復讐のためだけに生きる姿の異常性が際立ちます。
「彼女を食べられたから」であればまだ納得できるのに、「食べ物の恨み」となると狂っているように感じられてしまうのは、興味深い。

そして、水川の長女が産んだ子供と、火口志摩が産んだ子供が結婚。
前者は水川と土方の血を、後者は火口と風間の血を受け継いだ子供たち。
その2人の子が、風間拓也でした。

どうやって育てたのかとか、過程は触れてはいけません(途中で挟まっていた「意訳」の会話がその一端でしょうが)。
とにかく4人の血を継いだ孫に当たる風間拓也を食べるのが、ダンタクヤの最後の夢でした
生きている人間1人が達成可能な「末代まで祟ってやる」の限界まで見届けた感があります。

ただ、これは「新たな夢」とも言っていましたし、もともと計画されていたものではないはずです。
4人を殺すという復讐を終えてみたらたまたま条件が揃ったので、思いついたのでしょう。
東雲陽子は、本当に最後までただただ巻き込まれただけでした。

そしてさらに、ダンタクヤの祖父と、羽澄の右脚を食べた羽澄の祖父が同一人物。
だからダンタクヤもカニバリストだったのです。
「地球外生命体のものでも混じっているかもしれない血」が「隔世遺伝」したので、仕方なかったのです。
羽澄には遺伝しなかったようですが。

そんな羽澄は、自分の脚を食べた祖父が自然死してしまったため、復讐の機会を逸しました。
その復讐心は老婆になるまで抱き続け、ついには祖父そっくりに老いたダンタクヤに祖父の姿を重ね合わせて復讐し、終幕。


いやもう、改めて整理してみると相当にはっちゃけてますね
赤佐のババア(とあえて呼びますが)がどこまで計算していたのかはわかりませんが、羽澄がダンタクヤに祖父を重ね合わせて復讐する可能性と、2人が仲良く平和に暮らしてくれる可能性と、半々ぐらいで考えていたのではないかと思います。
願わくば後者であってほしいと思っていたのかな、というのが個人的印象。
結局赤佐のババアもよくわからないというか、何であんな車椅子を作れたのかの謎も特には明かさませんでしたが、ただただ単純に凄腕の技師だったようです。

そこまで深掘りしていたわけではありませんが、生死や復讐について言及されていのも面白かったです。
復讐は何も生みませんが、それでリセットしないと前に進めないと感じてしまうような気持ちもわかります。
しかし、復讐が生きる目的となったとき、復讐を終えた瞬間に死ぬのは、ある意味で人生の目的を達成した絶頂で死を迎えることになり、ダンタクヤの場合は幸せだったのでは、とすら思えます。

一方で、死は解放とは限らず、意識が死の苦痛を抱いたまま肉体に固定されてしまうとしたら。
これ以上の苦しみはないかもしれません。
それなら、自分を食べて消化してほしいとすら思ってしまうかもしれません。
いや、普通に火葬でお願いします。


というわけで、勢いを楽しみ、勢いのまま突き進めば叙述トリックでひっくり返される、尖っていて個人的にはけっこう好きな作品でした。
入間人間を知らず、表紙やあらすじでほのぼの恋愛モノと思いながら読んだ人がどんな感想になるか、聞いてみたい。

ただ、本当に何も知らずに読んでこそ衝撃でしょうし、かといって何も説明しないと魅力が伝えづらいですし苦手な人も多そうなので、他の人におすすめするのは難しい作品。
他者のレビューや感想を参考に読むことが多くなっている世の中ですが、こういった「何も知らずに読んだらとんでもなかった」系の作品に、情報ゼロで出会いたいなとも思います。

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