作品の概要と感想(ネタバレあり)
母と祖母を立て続けに亡くし、末弟のイアンも行方不明になったリニ。
それまで住んでいた一軒家を後にし、父親とふたりの弟と共にジャカルタ北部の高層アパートに4年前に越して来た。
一方、数年に渡り2,000人が犠牲となっている前代未聞の連続殺人事件が世間を賑わせていた。
そして、慎ましく暮らしていたリニたちの周囲を、度重なる不幸が襲い始める──。
2022年製作、インドネシアの作品。
原題は『Pengabdi Setan 2: Communion』で、「Communion」は「(宗教的・精神的な)共有、交流、交わり」といった意味合いのようです。
キリスト教では「聖餐、聖体拝領」といった意味合いもあるようなので、本作のベースはイスラム教っぽいですが、イメージとしてはこちらに近いのかな。
ベースはイスラム教とはいえ、毎回ウスタッド(イスラム教における師匠、宣教師)はまったく役に立たずあっさり殺されるので、イスラム教の話ではありませんが。
以下、前作『悪魔の奴隷』のネタバレも含まれるのでご注意ください。
前作『悪魔の奴隷』については、以下の記事をご参照ください。
前作を忘れる前に観たいと思っていたので、無事に観られて良かったです。
と言いたかったですがけっこう忘れてしまっていたので、前作も軽く観返しました。
その上で、まず、まず言わせてください。
前作の謎が色々と明かされる解決編かと思いきや……
まったく何も解明されませんでした!
いや、これ、3部作だったのですね。
ちゃんと把握していなかった自分が悪いだけです。
終盤、ブディマンが相変わらずいいとこ取りをした上で「全てを話してやろう」と言ったときには「ついに……!でも時間ないけど大丈夫?」と思いましたが、まさかのそこで「次回に続く!」でした。
次回作はすでに撮影中のようですが、3作すべてを担当するジョコ・アンワル監督いわく「まだ物語全体の10分の1も語っていない」そうなので、果たして次回作で無事に完結するのかだけが心配です。
そんなわけで、本作『呪餐 悪魔の奴隷』は、物語の世界観を広げた上での完全に“繋ぎ”の位置付けでした。
その中で、不気味すぎるアパートを舞台に描かれる徹底したホラー描写は、個人的にはとても楽しめました。
ただ、邦題だと「3部作の真ん中」というのがわかりづらいので、間違って本作から観る方がいたり、謎が何一つ(と言って良いでしょう)解決しないことへの不満が出てしまったりしても仕方ないのが難点。
しかしもうとにかく、何か起こる前から舞台となるアパートがやばすぎますね。
住民の大半がカルト教団のメンバーだったかと思われますが、それを差し引いても、立地も整備も雰囲気も治安もやばい。
エレベーターを乗り降りする人がぶつかってごちゃごちゃしているシーンは笑ってしまいました。
みんな自己中で、結果として全員が余計に時間をかけて損をしているような愚かさでしたが、あのシーンだけで治安が窺い知れる見事な演出でした。
本作は、基本的に徹底して孤立したアパート内でだけで展開され、ぎりぎりで抑え込んでいるような緊張感を伴う恐怖を描いた作品でした。
前作同様ジャンプスケアは多用しつつも、終盤まではあくまでも抑えた演出。
そして最後に一気に畳み掛ける感じは前作とも共通していましたが、一軒家から高層アパートに舞台が広がった分、その勢いも大きくなってしました。
119分というのはちょっと長かった気も。
しかしまぁ、このシチュエーションを作った時点で成功していたと言っても過言ではないでしょう。
もうあの死体の転がる真っ暗なアパートの存在だけで怖い。
光と影どころか光と闇のコントラストは、それだけで畏怖を感じるような恐ろしさがあり、美しくもありました。
特に雷光を使った演出が見事で好きな場面がたくさんありました。
また、前作以上に容赦ない展開が、先の読めない魅力を生み出していました。
子どももあっさりエレベーターに潰されて死にますし、新キャラのタリ(9階の女の子)とディノ(タリをナンパ?していた男の子)もメインキャラ入りかと見せかけておいてあっさりと死亡。
タリの死に様が一番インパクトがあり好きでした。
キャストで言えば、リニたち家族が全員続投だったのは、やはりとても大きいです。
リニと父親バーリは変わらない感じでしたが、トニーとボンディ、そしてイアンはしっかりと成長していて面白かったです。
トニーとボンディのキャラが深掘りされた点が、本作における癒しでした。
ボンディパートはジュブナイルホラー感すら漂っていたので、全員助かったのは良かったです。
隣人の少年ウィヌスが手話を操っていたのは最初から伏線感が強めですが、想像以上の大活躍でした。
ブディマンは自分で言っていた通り相変わらず来るのが遅いので、ウィヌスがいなければ全滅していたでしょう。
ブディマンはヘル・クスマ所長から託された謎の武器を使ってラミノムを撃退していましたが、よく使い方がわかりましたね。
というより、思わせぶりに姿をチラ見せしておいて、最後に満を持して登場したラミノム、あっさりと情けない姿で弾き飛ばされてしまいました。
活躍は次作までお預けということでしょうか。
今回、だいぶ間抜けなイメージになってしまったので、頑張って覆してほしい。
ブディマンは1955年パートにも1984年パートにも登場していましたが、風貌がまったく変わっていませんでした。
前作に引き続き最後にダンスを踊る男女も1955年の写真に同じ容姿で映っていたので、伏線かもしれません。
さすがに「同じ俳優を使ったから30歳若く見せられなかった」というわけではないと思うので……。
ブディマンは明らかに秘密を知るキーパーソンなので、きっと次作で色々と明かされるでしょう。
そして、そう、前作で訳のわからなかったラストの男女のダンス。
まさか本作でも見られるとは思いませんでした。
さすがにエンドロール中ずっと踊り続けるしつこさは今回はありませんでしたが、この男女とブディマンがシリーズの鍵を握っているのは間違いありません。
あとはイアンの対抗馬として、ウィヌスも大事そう。
できればまた忘れる前に次作を観たいところですが、現在撮影中となると、観る頃にはまた忘れてしまっていそうです。
考察:ちょっとだけ明かされたこと(ネタバレあり)
もはや考察というよりはただの整理になりそうですが、本作で明かされたのは主に、ブディマンとリニたちの父親バーリの過去、そしてカルト教団の存在でした。
遡ること1955年に見つかったラミノムのカルト教団。
悪魔信仰系だとは思いますが、詳細が明かされるのは次作になりそうです。
ちょっとわかりづらかったのですが、冒頭、ブディマンをカルト教団の施設に運ぶ車を運転していた警官がリニたちの父親バーリだったのかと認識しています(違っていそうでしたらご指摘ください)。
ブディマンの「前に会ったことが?」という台詞が謎めいていましたが、さすがにループ要素を持ち込むとごちゃごちゃになりそうなので、バーリの方が以前から関わっていた、ということでしょうか。
バーリだけ口元にバンダナを巻いて顔を隠していたのも意味深で、バーリ側もブディマンを認識していたことが推察されます。
そのあたりも次作で明かされるでしょうか。
いかんせん次作を見ないと何とも言えない点が多いのが難点。
いずれにせよブディマンの話では、1955年に当時警官だったバーリもラミノムのカルト教団の存在を知り、「子どもを授かりスターになれるように」妻マワリニを入会させました。
前作では「悪魔に受胎を祈るという教団」と明かされていましたが、不妊に悩む女性や夫婦につけ込んでいたのでしょう。
おそらく入会当初は悪魔絡みということまでは知らなかったのだと思いますが、その実態や7年後に末子を回収されるということを知り、脱会を望みますが、代償として1,000人を殺さないといけないことに。
前作からどこで何をやっているかわからないバーリでしたが、まさかの殺人を繰り返し、その証拠として指(?)を集めていたわけです。
しかし1,000人て。
30年あったとしても、1年で30人は殺さないといけません。
それで捕まっていないわけなので、実はかなりプロい殺人鬼ということになります。
その割に、まったく腐臭が漏れないあのケースもすごいですが、さすがに裏をかいての「000」はやばいですし、そもそも3桁しかないロックもやばい。
そのロック以外にも鍵のかかる棚に入れてはいつつ、家に保管するのもどうかと思いましたが、まぁ他に最適な場所があるかと言われればなかったでしょう。
タトゥーがある=犯罪者という決めつけはよくありませんが、その可能性が高いだろうとタトゥーの人ばかりを被害者に選んだのは、バーリのせめてもの良心でしょうか。
しかし、訳が間違っているのか追加で代償を求められたのかわかりませんが、殺害されているのは2,000人と報道されていました。
最後にバーリが処刑されたのは、用済みになっただけかもしれませんが、1,000人に満たなかったからかもしれません。
それも合わせて考えると、殺人鬼、つまり脱会を望んで代償を差し出していた者がバーリ以外にもいた可能性も考えられます。
リニたちの母親マワリニは、教団の広告塔のような役割だったのかと思われます。
歌を出して以降服装なども変化したとのことですし、ダンスカップルの部屋にもいつもマワリニの歌がかかっていました。
教祖(?)ラミノムと容姿が似ている点も、秘密がありそうです。
ただ、ブディマンの話では「マワリニはカムフラージュで、狙いはバーリだった。もっと不吉な計画が進んでいる」とのことだったので、次作ではより壮大なラミノムとカルト教団の計画、そしてバーリの関わりが明かされるでしょう(じゃないと困る)。
八つ裂きの刑はとても好きでしたが、バーリはこのまま退場というわけではない可能性も高いかな、と思っています。
カルト教団の施設跡があのアパートになっていたわけですが、あの土地は国が所有しているとのことでしたし、1955年の事件は首脳会議という名目でしたが揉み消されていたので、国絡みの壮大な計画かもしれません。
あのアパートに一般人が住んでいたとも思えないので、誰しも多かれ少なかれカルト教団との関わりはありそうです。
タリはよくわからないまま死んでしまいましたが、トラウマ回想っぽいシーンから推察するには、何かしら教団から虐待(教団側はその認識じゃないでしょうが)を受けていた雰囲気。
最後にタリが落下死する直前、ダストシュートの入り口から顔を出した女性が口から赤ちゃんを生み出して(?)いましたが、もしかすると悪魔の子を産ませるカルト教団なので、タリも産まされたり中絶した過去があるのかもしれません。
29年周期の4月17日、といったあたりもどう繋がるのか。
ダンスカップルも敵とは限らない雰囲気でしたし、1955年の写真と容姿が変わらないどころか「1,000年経ってもあなたを嫌いにならない」という台詞からは、かなり壮大な世界観になりそう(もちろんただの比喩の可能性もありますが)。
というわけで、ホラーとしては楽しめましたが、本作で明かされた謎は上記ぐらいで、ほとんどは次作に持ち越し。
だいぶ大きな話になりそうですが、次作で本当に完結編としてまとまるのか、やはりちょっと心配になってきてしまったのでした。
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