
作品の概要と感想(ネタバレあり)
タイトル:行方不明の友人を探しています
著者:櫻井千姫
出版社:スターツ出版
発売日:2025年8月28日
神奈川県I市とH市の境目付近にある、廃墟化したホテル通称「地獄館」。
坂口の友人である宇佐美晴彦が、地獄館を訪れたあと行方不明になった。
地獄館で起こった過去の事件の真実とは。
恐怖の果てには、あまりにも悲しい過去があった──。
海藤文字『ある映画の異変について目撃情報を募ります』に続き、スターツ出版からのホラー小説。
スターツ出版の作品というのはほとんど読んだ記憶がないのですが、少し調べた限りだとライトめで、10代や女性向けの恋愛小説などが多めでしょうか。
本作『行方不明の友人を探しています』は書き下ろし連載とのことですが、投稿サイト「ノベマ!」で途中までは読めるようです。
これまたどこかで聞いたことのあるようなザ・モキュメンタリーなタイトル、かつどこかで見たことのあるような表紙ですが、本作はモキュメンタリーではないと考えています。
モキュメンタリーホラー小説の厳密な定義というものもまだないと思いますが(そもそも小説にこの用語が適用されているのも最近なので)、本作は実話ベースという体ながら小説仕立てになっており、それが最後に明かされるため、本物のドキュメンタリーであるように見せかけるモキュメンタリ―とは別物として捉えています。
むしろ逆で、創作だと思わせておいて実は実話だった系、でした。
本作の感想としては、正直に言うと自分にはあまり刺さりませんでした。
ホラー小説好きでモキュメンタリーもすでにそれなりに漁っている身の感想としては、既視感が強い、物足りない、ネット掲示板などの解像度が低い、怖くない……といったあたりでしょうか。
ただ、上述したようなターゲット層の出版社であることなども踏まえると、『ある映画の異変について目撃情報を募ります』と同じく、すでにホラー好きな人間があれこれ言うべきではないのだろうと思います。
実際、感想などをざっと見てみたところ、ホラー好きと思しき方々の酷評も散見されますが、普段はホラーをそれほど読んでいなさそうな層からは「怖い」といった感想も見受けられるので、十分成功していると言えるでしょう。
著者はケータイ小説出身のようで、そのあたりも自分にとっては文章や設定の物足りなさに繋がっていそうです。
本作もどこかケータイ小説っぽい……というほどケータイ小説を読んだことがなく、著者の経歴に引っ張られている部分もあるかもしれませんが、実際、「ん?」と思ってしまう文章や表現が多かったところは気になりました。
もちろんケータイ小説を見下したりしているわけではなく、棲み分けの問題。
ですが、水晶玉を2個しか置いていないはずなのに「真ん中の水晶玉」が出てきたり、そういったレベルの部分は最低限気を付けてほしいな、と思ってしまったり(校正も含めて)。
あと「夫旦那」という単語が連発されていましたが、そんな表現ないですよね……?
どこがケータイ小説っぽいかというのも言語化するのは難しさはあるのですが、心情や文学的な表現に乏しいところが大きいでしょうか。
これも、文学的な表現の方が優れている、という意味ではありません。
事実ベースで淡々と記載されていくのは読みやすくもあります。
その一方、心の動きがわかりづらく行動が突飛に見えるシーンもありました。
キャラの個性も弱めだったのに対して登場人物はけっこう多めで、混乱も。
内容に関しては、詰め込みすぎな感はありますがけっこう好きです。
メインの謎はある程度明らかになりますし、それなりにまとまっていました。
細かい謎が多々残されてているところは好き嫌いが分かれるでしょうが、ちょっと投げっ放しな印象は否めません。
というより、ただ細部まで詰め切れていないだけでは、と感じてしまった点が大きいかもしれません。
終わらせ方は、こういった作品に慣れていると「またこれか」と思ってしまうド定番な拡散系でした。
〈坂口純の告白〉はちょっと恥ずかしく感じてしまいました。
ラストを抜きにしても、なかなかに救いのない話。
宇佐美晴彦は死んでいるだろうなぁとは思いましたが、結局死んでおり切ない話に。
表紙の帯に晴彦らしき写真が載っていますが、思ったよりだいぶチャラそうでした。
人を外見で判断してはいけません。
がっつりオカルトでありながら、人怖や人間の愚かさがこれでもかと詰め込まれていたところも好きでした。
みんなけっこうオカルトへの適応力が高かったですね。
ただやはり、<~~の怨念>パートは醒めてしまったというのが正直なところ。
ミステリィ要素も、だいぶ矛盾や強引さが目立って感じられてしまいました。
伏線も推理できるようなものではなく、基本的に後出しの情報で新事実が明らかになっていくパターンが多かったので、ミステリィ要素の多さの割にカタルシスは少なめだったところも少々残念でした。
アナグラムや叙述トリックは、必要があったわけではないのに無理やり盛り込まれた印象が強め。
著者初のホラー作品だったようなので、色々と詰め込みたくなる気持ちはわかりますし、それはそれで良いのですが、逆に違和感になってしまっているのがマイナスポイントでした。
このあたりが詰め込みすぎと感じてしまう要因であり、読者を驚かせたいという気持ちと実話ベースという作品の構成とが嚙み合っていなかった印象です。
それはインタビュー内容にも当てはまります。
一連の出来事のあと、書籍化にあたり関係者に再度インタビューしたという形なのに、調査過程でリアルタイムに聴き取ったような話し振り。
当時の内容を再現してもらった、というのも無理がありますし、このあたりも上述したミステリィ狙いによる矛盾点となってしまっていました。
インタビュー内容もリアルさが弱く、「え?~~だって?」みたいな普通言わない説明口調も引っかかってしまいます。
ほぼほぼ全員がセイタカアワダチソウを知っていて言及してくるのは、ちょっと笑ってしまいました。
何か伏線かと思いましたが、まったくそんなことなかった。
LINEの文面も、緊急事態なのに「どうしよう追いつかれた」「やばいやばいやばいやばい」「ころされる」「たすけて」「あ」なんて打ってる場合じゃないよね、というツッコミは『ある映画の異変について目撃情報を募ります』と同じです。
「あ」みたいなコテコテの演出、ちょっと久々に見ました。
などなど、ホラー小説好き視点だとどうしてもネガティブめになってしまいますし、細かいポイントを突っ込み始めるとキリがなくなりそうので、このあたりで止めておきましょう。
念のため言い添えておくと、本当に合わないと感じた作品は最後まで読めないこともあり、そのような作品は当然ながらこのブログには上がってきません。
本作は何だかんだ言いつつもどうなるのか気になって、最後までしっかり読んだ作品でした。
考察:細かいポイントをいくつか(ネタバレあり)
細部まで詰められている作品ではないと思うのであまり細かく検討はせず、いくつかだけピックアップしていきます。
ちょっと細かく見返すほどの気力はないので、抜けているところがあったら申し訳ありません。
アナグラム
まず、名前のアナグラムについて。
戸倉浩司こと古津賀次郎に関しては、殺人犯が逃げるのに本名のアナグラムを偽名にするか?というのはさておきまして、あとがきに書かれていた「作者の正体」についてです。
これはおそらく、秋蜂巣毬恵=櫻井千姫で間違いないでしょう。
ただ、「akihachisu marie」を入れ替えると「sakurai chihime」にはなるのですが、「a」が1個余ります。
これしかないとは思うのですが、この中途半端さでアナグラムと呼んで良いのかどうか、というのは少しもやもやが残ります。
もし別のことを指しているようであれば、教えていただけると嬉しいです。
間取り図
思わせぶりな間取り図と「※ホテルの間取り図から情報をお探しください」という注意書きから始まる本作。
パッと見て思いました。
ベッドのどの辺も壁にくっついていないのは変だな、と。
読み始めると間取り図のことなど忘れ、読み終わってから冒頭に戻って存在を思い出しました。そして思いました。
間取り図、何の意味もなかったな、と。
いやしかし、改めて考えて思い至りました。
今住美佳子が殺害した滝山典樹の遺体をベッド下の床下に埋めたことを示唆していたのか、と。
そういてば坂口と権田将人が404号室を調査したときも「ベッドか何か動かしたのかね」と言っていました。
あとがきでピックアップされていた謎
あとがきでは、著者自ら本作に残された謎を4点ピックアップしていました。
これは斬新だったと同時に、いずれも作品内から解答が明らかになるような謎ではないと考えており、となると「考察してね」感が透けて見えてしまい、こんなブログをやっていながら考察を押し付けられると考察したくなくなってしまう天邪鬼な自分です。
と言って放棄するなら書くなという話なので、可能な範囲で少し考えてみましょう。
①「んが」は誰なのか
登場した人物以外の可能性も考え始めるとキリがないので、登場した人だけで考えてみます。
ブログのコメントは「地獄に引きずりこむ」と「しねしねしね」だったので、順当に考えれば滝山典樹でしょう。
作中で描かれている限りでは、「地獄に引きずりこむ」のルーツは1999年に達也(ホスト)の目の前で首吊り自殺をした風俗嬢の関根杏子だったはず。
ですが、「地獄に引きずりこむ」と「しねしねしね」をセットで使っていたのは、今住美佳子を殺害しようとした際の滝山典樹だけだったはずです。
怨念の強さ的にも、滝山典樹が一番の有力候補かと思います。
ただ、何でKパパのブログにまで食って掛かったのかはわかりませんし、Kパパの写真に映っていたのは赤ん坊、Kパパが目撃したのはかっと目を見開いた女(=関口杏子)っぽいですし、そのあたりのメカニズムはよくわかりません。
「んが」の意味もわかりませんが、「んが」は〈ノベマ!『行方不明の友人を探しています』掲載時コメント欄より引用〉のコメントにも出没していましたし、作中の最後、「この物語はフィクションです」の文章にも使われていました。
後者はメタ的な演出だと思いますが。
②深山智紗子がホラービデオを撮ったのはなぜなのか
これはさっぱりわかりません。
深山智紗子自身が、浅村紫帆の事件を風化させたくないから作ったことを明かしました。
ですが、何でわざわざAVメーカーに持ち込んだのかは不明。
関係者が死にまくっているのにそれについては言及していない点は、ちょっと怪しさを感じさせます。
一つ考えられるのは、呪いのビデオであるとわかっていながら作った可能性です。
その目的は、浅村紫帆の恨みを晴らすため。
また、深山智紗子はキャバ嬢として世間から見下されることに強い抵抗を感じていました。
たとえ古津賀次郎まで届いて浅村紫帆の恨みを晴らせかなかったとしても、女性を見下すくだらない男性たちへの恨みを晴らしたい。
そんな想いが、AVという媒体を選ばせたのかもしれません。
オカ板のスレ主がわざわざ縦読み(書籍だと横読み)で助けを求めていたのはかなり謎ですが、単なる怖がらせ演出として捉えています。
ちなみにこの横読みの「たすけて」は、〈ノベマ!『行方不明の友人を探しています』掲載時コメント欄より引用〉の部分にも認められます。
③河童のような足音の霊の正体
河童のような足音って、河童の足音を聞いたことがあるんですか?
などという意地悪な問いはさておいて、個人的な解釈としては、このエピソードは本編とは関係がありません。
あとがきにあった「今回は十数年前に作者にかなり近しいところで起こった出来事を元に書いたエピソードが、一部あります」の話かな、と思っています。
河童のような足音のエピソードは、ただ足音が追いかけてくるだけでした。
その後も、夜中に生肉を食べるというA子のおかしくなり方も、クローゼットから髪が巻きつき釘が刺さった藁人形が出てきたというのも、地獄館や地獄姉さんのエピソードとは異質です。
また、舞台となったZトンネルは、「大した心霊スポットではない」と秋蜂巣毬恵は述べていました。
毬恵が信用できる語り手であるかは一考の余地がありますが、ここではとりあえず信じておくとすると、この現象は別件の可能性が高いでしょう。
④身元不明の女性の遺体の正体
〈ノベマ!『行方不明の友人を探しています』掲載時コメント欄より引用〉に書かれていた、身元不明の女性の遺体が発見されたというニュース。
これは、坂口純の可能性が高いでしょうか。
〈坂口純の告白〉から判断すれば、坂口も呪われていると見て間違いありません。
その後、出版が間に合わず、坂口が死亡した可能性も十分あり得ます。
さらに邪推すれば、秋蜂巣が殺害した可能性も考えていますが、それほど動機が認められるわけではないので死因は置いておきましょう。
思えば、この本が「実話」であると考えてみると、この内容で出版されると坂口の犯行(将人の殺害)が明るみになります。
せっかく細かく分解して隠蔽までしたのに、いくら呪いの影響を軽減するためとはいえ、それが明るみになるような内容を坂口が承諾するでしょうか。
あのパートはカットされていても本筋には関係ないはずです。
つまり、出版の時点ではすでに坂口は死んでいた可能性が高まります。
そうなると、インタビューの数人が口にしていた「お姉さん」というのは、坂口に見せかけて毬恵を指していた可能性もあります。
そう考えると叙述トリックにも意味がなかったわけではないので、その場合は評価が高まるのでした。

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