【映画】ウィッチサマー(ネタバレ感想・考察)

映画『ウィッチサマー』のポスター
(C)Cailleach Productions, LLC.
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

映画『ウィッチサマー』のシーン
(C)Cailleach Productions, LLC.

高校生ベンがある町にやってくる。
両親の離婚後、夏休みを利用し父親のもとへ遊びに来たのだ。
ベンは、隣の家に住むディロンという少年と知り合うが、ディロンはなぜか母親に怯えており、ベンも徐々にその母親の様子がおかしいことに気づき始める。
母親が魔物に身体を乗っ取られていることを知ったベンは、その後姿を消してしまったディロンを見つけようとするが──。

2020年製作、アメリカの作品。
原題は『The Wretched』。
wretchedは「惨めな、哀れな、卑劣な、不快な」など色々な意味がありますが、本作のニュアンスは「卑劣な者」「不快な者」あたりのイメージでしょうか。
あるいは、落武者みたいな魔女の外見も表しているのかもしれません。

悩める思春期ベンくんが過ごす、ひと夏の不思議な物語
ちょっと不思議すぎるというか、かわいそうすぎるというか、まさかのお隣さんが魔女。
お隣さんが魔女というか、魔女に乗っ取られ。
魔女に乗っ取られというか、モンスターに乗っ取られ。

魔女モノを多く観ているわけではないのですが、なかなかに斬新な魔女像だった印象です
というか、本当に魔女で合っていたのでしょうか。
魔女に塩が効くというのもあまり見聞きしたことがありません。
でも、公式がわからないのですが、色々なサイトを見るとどこも「1000年を生きる魔女」と書かれているので魔女と捉えて良いのでしょう。
個人的にはどちらかというと地底人モンスターみたいなイメージでした


人間を乗っ取れるというの悪魔の定番中の定番ですが、そこに記憶を消せるという能力がプラスされているのが新鮮でした。
独自の魔女像と、それによって繰り広げられる意外性ある展開は良かったですが、個人的な感想としては残念ながらちょっといまいち合いませんでした。

実は弟のネイサンがいたというのが本作一番の盛り上がりポイントかと思うので、そこの驚き度合いによって本作の評価は変わるように思います
個人的には、細部はけっこう強引な「何でもあり展開」の作品として観てしまっていたので、弟の存在が明かされたときもそれほど驚けず。
でも、「小さいのに芸術家ね」という電車の乗客の台詞だったり、「息子“たち”に会いたい」という母親の台詞だったり、家族で過ごす場面だったり、違和感を抱ける伏線はしっかりと散りばめられており、見せ方は上手でした。

どのタイミングでネイサンが攫われベンたちの記憶が消されたのかははっきりしませんが、わざわざ「5日前」から始まったのは、あの操られた警察官によって水に顔を突っ込まれたシーンで気を失ったあたりからの回想シーン、あるいは走馬灯みたいなものという位置付けだったのだと考えられます。
そうじゃないと、最初からネイサンが映っていないのがアンフェアになってしまうからです。
さらにその前に、本編とはそれほど関係のない35年前の事件をわざわざ持ってきたのも、「5日前」から始まる不自然さを隠す意味合いもあったのではないでしょうか。
ただ、35年前の事件では魔女の能力などが凝縮されているので、決して蛇足なわけでないのも上手いところ。


魔女の能力は若干不透明で、人を操るのと記憶を消すのは別の方法のようでした。
操る場合は、その人の耳元で呪文のようなものを囁くことが条件で、それをされた相手は耳から血が流れていました。
一方、ベンは魔女に囁かれたシーンや耳から血を流しているシーンはありませんでした。
映像になかっただけかもしれませんが、ベンは記憶がなかっただけで別に操られてはいなさそうだったので、記憶の消去はより簡単にできるのだと考えられます。

とはいえ、さすがにあまりに遠隔操作はできないと考える方が自然なので、少なくとも母親はネイサンのことを忘れてはいなかったはずです。
そのため、電話において母親がネイサンのことを一切話題に出さないのは不自然でしたが、ネイサンについての会話をベンが忘れてしまっていた、と考えられます。
「息子たちに会いたい」という言葉は覚えていたのは、ぎりぎりのラインですかね。

写真からもネイサンの姿が消えていたのはちょっと謎ですが、ベンの目に見えなくなっていただけかもしれません。
魔女に攫われたら写真からも記憶からも消える可能性もありますが、隣の家の息子ディランや、マルことマロリーの妹リリーは写真に写ったままでした。
このあたりはあまり細かく検討すべき作品ではないでしょうが、ベンの目に見えなくなっていただけと考えるのが一番自然です

あとは、ディランについては父親リアムは忘れていましたが、ベンは覚えていました。
全員から記憶を消した方が明らかに楽なので、家族以外の記憶は消せない、と考えるのが自然でしょうか。


魔女の能力の他の条件としては、魔女が乗っ取れるのは女性のみのようでした。
また、魔女はおそらく1人だけで、物理的に体内に入り込む必要があるので同時に何人も乗っ取ることはできないはずです。
本作では、隣人のアビー → ベンの父親リアムの恋人サラ → マルの順番に乗っ取っていました。
魔女がサラに乗り移ったあと、アビーの抜け殻死体の横でアビーの夫タイが首を吊っていたのは、用無しになったから自殺させられたのでしょう。

一方、ベンを襲った警察官は、そもそも殺そうとしていたベンを魔女が助ける理由はないので、操られて自殺したというよりは、警察官の理性が残っていてベンを撃つことに抵抗を感じて自分に向けたと考えた方が自然であるように思います。
偉い。
あと、助けてくれた犬はヒーローすぎました
最後のシーンで釣りをするおじさんの横にいたのがあの犬だと思うので、撃たれながらもちゃんと助かってくれた親切設計。

アビーの前には鹿の体内に入り込んでいたので、どうやら魔女は動物も乗っ取れるようです(メスの鹿だったんですかね)。
アビーが鹿の死体を持ち帰った時点ではアビーは乗っ取られていなかったはずなので、鹿を乗っ取った魔女がわざとアビーの車に轢かれ、鹿の死体を持ち帰ったのはアビーの意思、ということでしょうか。
まだ乗っ取られていなかったとすれば、轢いた鹿を持ち帰って解体しようとするアビーはなかなか過激な人物な気がします(魔女の影響を受けていたのかもしれませんが)。

鹿の解体シーンは、なかなかグロくて良かったです。
自分はグロ耐性は非常に高いのですが、別にゴア表現があったわけではないにも関わらず、内臓がぼとぼとびちゃびちゃと落ちるシーンはリアルさという点では微妙であるはずなのに妙にリアリティがあり、異臭が漂ってきそうで「うわぁ……」となりました。


ラストシーンの解釈的には、パパが車で突っ込んでみんなで逃げる際、マルは燃える車を振り返っていましたが、あのあたりで実は生きていた魔女に乗っ取られたのでしょう
カウンセリング?で、「リリーが木を燃やすべきと言っていた」という点についてマル(魔女)はとぼけていましたが、魔女の存在を隠すために魔女関連の話題に触れなかったのだろうと考えられます。

魔女の目的などは一切不明でしたが、少なくとも子どもを攫って食べることが大きな目的の一つだったようです。
何でわざわざ人間を乗っ取ったり操ったりしていたのかはわかりませんが、子どもだけ次々行方不明になって大騒ぎになるのを避けたかったのかもしれません。
でも記憶を消せるので、攫っては記憶だけ消せば一番楽な気もしますが……。
ただ、上述したように家族しか記憶を消せないのだとすればそれも難しいので、魔女なりに苦労して工夫していたのかもしれません。


本作は、主人公ベンを軸に見ればジュブナイルホラーで、ベンが家族を取り戻す物語でもありました
女の子に翻弄されたり、陽キャにいじめられたり、お隣さんの情事を覗いちゃったり、反抗期丸出しだったり、思春期真っ只中の苦悩を抱えまくっていたベンくん。
双眼鏡でお隣さんを除いてしまうところなんか、若干ストーカー気質な粘着性も感じてちょっと心配。

実の弟の存在を忘れて隣の子を必死に捜索していたと考えるとやや滑稽にもなってしまいますが、回想シーンからすると、警察官がベンの家に来たときにはまだネイサンは家にいたので、攫われたのはそのあと、ベンが警察官に連れて行かれてからということになります。
そのため、隣の家の男の子ディランが行方不明になった際には、まだネイサンは普通にいたはず。
ベンが躍起になってディランのことを探していたのは、「家族を取り戻したい」という想いがベースにあったと考えられます。
バラバラになった自分の家族への苦悩を抱えていたベンにとって、家族に対する悩みを抱えるディランの存在は他人事ではなかったのでしょう。

父親リアムに必死に訴えるも信じてもらえずかわいそうだったベンですが、最後にはリアムが助けに来てくれました。
重症を負いながらも車を運転し、一瞬で状況を把握して魔女に突っ込むパパ、かっこいい。
それはさておき、自らの力で弟ネイサンのことを思い出して救い出し、母親が迎えに来てくれて家族を取り戻したベン。
母親はあくまでも「迎えに来ただけ」で、今後どうなるかはまだわかりませんが、ベンにとっては大きな一歩になったと言えるでしょう。
あの街はマルを乗っ取った魔女によってさらに大変なことになりそうですが……。
魔女がマルを乗っ取ったのはベタベタなラストであり、「不穏に終わらないといけない」という義務感もやや感じてしまいました。

魔女モノに分類するにはやや違和感もあり、個人的にはちょっと合いませんでしたが、設定なども含めてオリジナリティも強く溢れており、チャレンジングな作品でした。

コメント

  1. より:

    ベタなラストの展開でしたが造花を使ったのは新しかったと思います

    • アバター画像 異端者のフォーク より:

      >あさん
      コメントありがとうございます。
      触れられていませんでしたが造花良かったですね。
      全体的に魔女の特性の使い方が巧みだったと思います。

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