
作品の概要と感想(ネタバレあり)
タイトル:変な地図
著者:雨穴
出版社:双葉社
発売日:2025年10月31日
2015年、大学生の栗原は、意外な事実を知る。
彼の祖母が、正体不明の古地図を握りしめて、不審死を遂げたという。
その古地図には、7体の妖怪が描かれていた。
これはいったい何なのか。
なぜ、祖母は死に際にこんなものを持っていたのか。
謎を探るため、栗原は旅に出る。
そこに待ち受けていたのは、海沿いの廃集落、不可解な人身事故、潰れかけの民宿、因縁に満ちたトンネル、そして古地図に秘められた悲しい事実だった──。
満を持して発売された「変な」シリーズ4作目。
自分は最初に『変な絵』を書籍で読み、その後『変な家』をWeb上で読みYouTube動画(『【完全版】変な家』)で観ています。
映画版『変な家』も観ていますが、まぁまぁそれはさておいて。
本作『変な地図』は発売後1ヶ月で70万部を突破し、海外からも翻訳オファーが殺到しているとのことで本当にすごいですね、勢いが。
出版不況の中、これだけ安定して売れているだけでもう、畏敬の念を禁じ得ません。
本作のざっくりした感想としては、『変な絵』で書いたものとほぼ同じでした。
もはや絵本のごとく数ページごとに挿入される絵とライトな文章が生み出す、間口の広さ。
それでいてしっかりと地図を軸に構成されたミステリィ。
昨今の考察系とは異なり、非常に丁寧に伏線が回収されるので、後味もすっきり。
本作はそれにプラスして、人気キャラ栗原文宣の人間ドラマが繰り広げられました。
パズル的な印象が強く、登場人物は駒としての印象が強かった『変な家』『変な絵』に対して深みが増しており、「『変な』シリーズの集大成!」と謳われているのも納得です。
新作は相当に期待値が高かったかと思いますが、それでいてこれだけの評価を得ているのはすごい。
個人的にはライトめな作風は物足りなく感じてしまいますが、普段はあまり本を読まないけれど雨穴作品なら読むという層もたくさんいると思うので、不満はありません。
雨穴作品に対してはライトな読者なので、ドハマりという感じではありませんが、それでもやっぱり読んでしまう面白さはさすがでした。
ただ、個人的には正直に言うと『変な地図』はそれほど熱中できず、『変な絵』の方が好みでした。
過去作以上にホラーテイストが少なくなった、というよりほぼなくなっていたことも影響しているかもしれませんが、モキュメンタリー性の低下は意図されたものであると思うので問題ありません。
その分、地図と栗原を巡るドラマに重きが置かれていた印象ですが、そもそもそれほど栗原に思い入れがないのと、地図の秘密自体にそれほど魅力が感じられず。
一つの地図から、測量や地形など多様な知識をわかりやすく織り込みつつあれだけの背景を明かしていったのは素晴らしい作りこみでしたが、明かされた真相がそれほど衝撃だったり引き込まれたりしたわけではありませんでした。
動機もやや弱めで、特に肝心な栗原の祖母である知喜子の自殺の原因が少々弱く感じてしまいましたが、このあたりは個々の好みでしょう。
ただ個人的には、謎だらけな前半の方が先が気になりました。
真相や細部はリアル指向というよりエンタメ性重視の強引さが強いので、後半に進むにつれて、特に女将の語りが始まったあたりから読むスピードが遅くなってしまいました。
これは雨穴作品全体に言えることで、細部のリアリティを突っ込み始めたら雨穴作品は成り立ちませんが、提示された答えを素直に味わうにもやや物足りない、という感覚が強かったのが本作でした。
ちょっとだれたのは、短~中編の連作ではなくて、完全に長編だったことにも起因しているでしょう。
その分キャラや世界観が好きな方にはたまらなかったと思いますし、こういうチャレンジはとても評価したいです。
キャラは魅力的でしたし、色々な点においてストレスフリーなところも評価ポイント。
イラストが挿入されていると、やはり気軽に読めますね。
あとは、読んでいて気になった箇所にすぐ栗原が反応してくれるのが嬉しい。
「あ、これ伏線だろうな。これ意味があるんだろうな」と感じたポイントにすぐに気がついて解明してくれているのが、細かいけれど重要な点。
読者視点を適切に予測して寄り添う姿勢が、これだけ売れている要因でもあるでしょう。
というわけで、はい、あの、面白かったんですけど、あまり書くことが浮かんできません。
さほど印象にも残っていないので、個人的にはあまり相性は良くないのかも……と思ったり思わなかったり。
それはそれとして、読んでいる間は素直に楽しめましたし、文芸界において影響力の大きい偉大な作品であるという評価は変わりません。
考察の余地が残されている過去作と比べて、本作は考察ポイントもほぼないように感じました。
ただ、本作はあくまでも「栗原さんから聞いた話を雨穴が物語化した」という体なので、もしかすると隠された真相があるのかもしれません。
それはもしあるにしても本作のみで推測するには何でもありな妄想の域を出なくなってしまうので、何かしら追加で情報が提示されたときに考えましょう。
本作は、素直に古地図の謎を巡る旅を栗原と一緒に辿って楽しむ作品だろうと感じました。
作り込みの凄まじさは感嘆。
栗原の過去を描くという目的もあってこれまでのテイストから変化もあったのだと思いますし、それでいて安定した面白さはさすがなので、さらなるシリーズ作品もきっと出ると信じて、楽しみに待ちたいと思います。

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