
作品の概要と感想(ネタバレあり)

コンサル会社の戦略チームで働くリンダは、誰よりも数字に強く有能。
しかし、パワハラ気質の新上司ブラッドリーに目をつけられてしまう。
そんなある日、出張中の飛行機事故によって、無人島で二人きりに──。
2026年製作、アメリカの作品。
原題は『SEND HELP』で、「救援を求む」「助けを寄越せ」といった意味合いなので、ブラッドリー目線なタイトルでしょうか。
あるいはオフィスにおけるリンダの心情とも一致するので、2人に当てはまりつつ途中で転換する本作を象徴しているのかもしれません。
邦題の「復讐島」はズレている感が否めませんが、邦題問題はもう置おいておきましょう。
監督は、もはや巨匠と呼んで異論はないであろうサム・ライミ。
『死霊のはらわた』しか観たことはないのですが、それでも当たり前のように名前を聞きまくっています。
依頼作品ではなく純粋なサム・ライミ作品はかなり久々で、ファンの方々には熱い本作のようですが、熱烈ファンではない俄かでも十分すぎるほど楽しめた1作でした。
「パワハラされた上司と無人島で2人きり」という設定からここまでブラックユーモア溢れた独自の世界観を広げられるのは、さすがとしか言いようがありません。
大雑把な鑑賞後の感覚としては『コカイン・ベア』に近めでした。
あり得なくはないシチュエーションだけど、いちいち大袈裟すぎる、にもかかわらず不思議と現実離れしすぎず地に足もついている。
シュールさを極めてもはやコメディになっている。
それでいて怖いところはしっかり怖い。
そしてとにかく終始テンポ良く楽しませてくれるエンタテインメント。
登場人物は実質2人だけでしかないのに、無人島の2人きり生活でここまで畳みかける展開が繰り広げられるのは、並大抵の技術じゃないんだろうなと思わされます。
個人的には113分は少々長く中弛みも感じてしまいましたが、どうなるのか予測がつかない構成はお見事でした。
どうなるのか予測がつかない一方で、リンダとブラッドリーはどっちもどっちで、たとえ2人とも死んでも「うんまぁ別にいいかな」と楽しんで終われそうだったので、気楽に観られたのも良いエンタメでした。
オフィスでは野暮ったく(それでも美しかったですが)、サバイバルを続けるほどに生き生きとしてくるリンダ役のレイチェル・マクアダムスの演技が本作を支えていました。
社会生活での肩書きなんて、大自然に放り込まれたら何の役にも立ちません。
そんな逆転の構図はもはや多くの作品で描かれており、今さら風刺したかったわけではないでしょう。
ただただ「面白いシチュエーション」として採用されたんじゃないかな、と個人的には捉えました。
作中の人物は真面目なのにハイテンションすぎてギャグになっているという構図は、すでに『死霊のはらわた』で十分すぎるほど垣間見えていました。
『HELP/復讐島』の感想では「サム・ライミ味を大量に摂取できて満足」といった内容を頻繁に見かけるので、やはりファンにはたまらない作りになっているようです。
個人的にやや引っかかってしまった部分もありましたが、それらはそういうサム・ライミ要素なのかなと受け取っているので、ダリオ・アルジェント監督の『ダークグラス』のように、もはや巨匠の魅力が炸裂し溢れている1作なのでしょう。
グロさはありますが、ゴア表現はチープにド派手だったので、それがPG12で留まれた理由でしょうか。
それでいて「チープ」が悪い意味ではなく魅力になっていました。
一方で、精神的なグロさの強調もさすがです。
虫を食べたり(個人的にはこのシーンが一番苦手でした)嘔吐が顔にかかったりといったような無人島でのシーンはもちろん、リンダの咀嚼音をあえて拾っていたり、口元についたツナをどアップにしたりと、オフィスの時点ですでに嫌悪感を掻き立てられていました。
飛行機事故も面白すぎましたし、どのシーンにもこだわりが感じられます。
あれだけドタバタしている中で歯が折れたりしたのがはっきりわかったのも、すごい映像技術だなと思いました。
終盤、ブラッドリーが指を突っ込んだときのリンダの目とかも同じく。
いつまでも騙し騙され揉め続けるリンダとブラッドリーの姿は、人間って愚かだなぁ、そうそう簡単に変われないよなぁ、という現実を突きつけられました。
それでも、自分の置かれた状況を受け入れられずに「ボスは俺だ」なんてのたまっていたブラッドリーが服従するシーンなど、爽快感も各所に溢れていました。
怪我治るの早くない?とか、
そこ(婚約者のズーリが落下した崖)リンダが落ちかける前の状態に戻ってなかった?とか、
ツッコミポイントは当然たくさんあるんですけれども、「そんなの気にすんな」の勢いが大好きです。
興が削がれるようなツッコミポイントではなく、いずれも「ほらもうこのネタはここまでにして次の展開に行くぞ」という切り替えとして機能していました。
たとえば「ブラッドリーが怪我をしていて立場が逆転する構図」をある程度描いたら、潔く怪我を全快させて次の展開に移行していったようなところです。
興が削がれないのは、取捨選択の巧みさによるものでしょう。
リンダがサバイバル術に長けている設定も面白かったですが、「無人島に流れ着いたけど適応し、むしろ楽しみ、脱出したがらない主人公」というのがかなり斬新でした。
大抵の作品においてみんな脱出したいというのは共通認識ですが、本作ではその前提からしてすでにズレていましたからね。
とはいえ、リンダにはあの豪邸を見つけて、脱出しようと思えばいつでもできるという余裕もあったのでしょう。
包丁を拝借したり、豪邸にあった果物を遠慮なく食べていたことからも、純粋なサバイバルにこだわっているわけではない様子が窺えます。
リンダとしては、自分のスキルが活かせて、それが評価され必要とされる場こそが求めていたものだったのでしょう。
決してサバイバル生活を求めていたというわけではないはず。
だからこそ、都会のオフィスで働いていましたし、無人島でも適応できました。
そして何より、本当に死ぬまでサバイバル生活を求めていたのだとしたら、ブラッドリーを殺したあともあの島に住み続けたでしょう。
再び都会に戻り脚光を浴びていたことからは、評価され必要とされることが彼女の一番求めていたものであると推察されます。
一方のブラッドリーは、ステータスこそが自分の価値でした。
高い地位にあり、周囲の人をすべて自分の意のままに操ること。
2人に共通していたのは、他者視点の乏しさです。
独善的だったブラッドリーはもちろん、リンダも他者からどう見られるかという点についてはほとんど考えが及んでいない様子でした。
リンダもリンダで、「自分が評価されないのはおかしい」という独善的な視点の持ち主です。
そんな2人だけで無人島に流れ着いて、うまくいくわけがないのでした。

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