
作品の概要と感想(ネタバレあり)
タイトル:廃校教師
著者:三浦晴海
出版社:KADOKAWA
発売日:2025年12月25日
長時間勤務、休日返上の部活指導、保護者からのクレーム、無気力な教師。
現代の学校問題をすべて抱える市立中学で、衆人環視の中、体育教師が変死した。
あり得ないほど首が伸びきった異常な遺体と、その後も続く学校関係者の不気味な悶絶死。
若手教師の保穂は、赴任間もない理科教師の海老原の言動に怪死との関係を疑うが、調べてみると、なんと、彼が赴任前に勤務していたという学校は、存在しなかった──。
三浦晴海作品は『走る凶気が私を殺りにくる』に続き2作目の読了。
学校を舞台とした本作は、角川ホラー文庫の三浦晴海作品としては初の書き下ろしでしょうか。
『走る凶気が私を殺りにくる』でかなり相性が良さそうで好きだなと感じましたが、本作でその予感は決定的となりました。
カクヨム出身ながらなかなかの勢いで新作を刊行していることからも窺えますが、文章も相変わらず読みやすい上、『走る凶気が私を殺にくる』から比べてかなりこなれた印象でした。
社会問題も盛り込んだような身近な社会派ホラーでありながら、決して押しつけがましいわけでもなく、良いバランス。
本作『廃校教師』は学校が舞台で、教師の過酷な日常を軸に描かれましたが、ただ日常を描いているだけでも飽きずに読めました。
教員のお仕事ドラマとしても十分楽しめる。
かなりリアルに感じたので学校関係のお仕事をされていたこともあるのかと思いましたが、X(Twitter)では以下のようなポストがあったので、そういうわけではないのかも。
『廃校教師』を書いたきっかけは学校に勤務されている方に『学校の怖い話を教えて』とお願いしたら、怪談や怪異ではなくマジでリアルに生々しくて怖い話をされたことでした。(でも生徒は大好き!とおっしゃっていました)
https://x.com/AppleLINE1105/status/2012345461500244131?s=20
いずれにしても、かなり話を聞いたり調べたりされたのでしょう。
自分も過去にスクールカウンセラーとして中学校に勤務していたことがあるのですが、先生方の細かい日常まではわからないにせよ、中学校に出入りしていた立場でも違和感なくリアルに感じられました。
そもそも学校という場が特殊です。
治外法権と言われることもあるぐらい、独自の文化や慣習が根強いという意味では、一種の因習村のような場にもなり得ます。
そのため、学校の怪談を挙げるまでもなくホラーとは相性も良い舞台ですが、教員側から描き、教員のブラックな日常もホラー要素にして盛り込んだという点においては、本作は新しい切り口であったのではないかと思います。
本作には怪異的な存在も登場しますが、何より恐ろしいのは、日常に忙殺されて非日常を非日常と感じる暇もなく流れていく歪みでしょう。
教師や生徒が変死しているというのはなかなかにとんでもないことのはずですが、立ち止まることなく流れていく日々。
というより、立ち止まることができないというのが正確でしょうか。
「学校を止めるわけにはいかない」というのは正論でしかありませんが、立ち止まって振り返る暇もないまま日常に戻っていき、何となくそれほど大したことではないように思えてくる様は、ホラーそのもの。
読んでいる側もふと「何かそんな大したことではないのでは」と思わされてしまう恐ろしさがありました。
現在は少しずつ改善されているとは聞きますが、それでもまだまだ特殊な学校教員という職業の労働環境。
自分がスクールカウンセラーとして出入りしていた頃も、とにかく先生方の献身と熱意には頭が下がりっ放しでした。
スクールカウンセラーは基本的に定時に仕事を切り上げるのですが、当然のように誰も帰らず、定時など存在しないかのように仕事を続ける先生たち。
それが当たり前の日常と化しているのは、改めて考えれば異常です。
本作では、頭の固い管理職たちの言動にイライラもさせられますが、彼らも決して悪意があるわけではありませんし、何とか現場を回し続けるために必死だった側面も大きいでしょう。
それでも「学校を止めるわけにはいかない」「今までこれでやってきたんだから」と思考停止するのは、まるで因習村ホラーのようにすらなってしまい得る、という恐ろしさを描いたのが本作でした。
個人的に少し残念だったのは、それこそスクールカウンセラーが出てこなかったことでした。
「スクールカウンセラーに相談する」みたいなセリフもあったのでいないわけではなさそうでしたが、まったく出てこず。
スクールカウンセラー事業が始まってそこそこ経ち、ようやく存在はだいぶ認知されるようになってきたかとは思いますが、もっともっと役割や貢献を明確にして浸透する働きができるよう頑張らなければいけません。
などと話が逸れましたが、そのように色々考えてしまう要素が盛り込まれているのも本作の魅力でした。
終盤で展開は一気にオカルトになりますが、学校を取り巻くリアルな日常や問題を盛り込んでいたことで、しっかりと地に足がついていました。
地味めでありながらも楽しめて、やはり相性が良さそうだったので、引き続き他の作品も読んでいきたいと思います。
以下はいくつか、本作の振り返りを。
考察:出来事の整理とラストの解釈(ネタバレあり)
海老原尊は何だったのか
本作で鍵を握っていた新任教員、海老原尊。
彼はかつて宮幟中学なる学校で教員をしていましたが、そこで(彼いわく)いじめに遭い、最終的には逃避するように自殺してしまったようでした。
それが14年前のこと。
そんな彼が、七岬中学に再び教師として現れます。
幽霊的な存在だったわけですが、それは恨みなどではなく、彼なりに「もう一度ちゃんと教師をしたい」という強い想いからでした。
なぜこのタイミングで出てきたのかは不明。
しかし彼は、七岬中学でもトラブルメーカーのように扱われてしまいました。
学校から排除されそうになるたびに、逃れられない死が暴走して、海老原を排除しようとした相手に襲い掛かっていたようです。
首が異様に伸びて死ぬというのは、首を吊って死んだ海老原の死因が反映されているのでしょう。
ネクタイを緩く結んでいたり、首に触れられそうになると過敏に反応していたのも、それが理由であったと考えられます。
もしかすると、自分はすでに死んでいる自覚はなかったのかもしれません。
相手を殺すつもりもなかったのでしょう。
ですが結果として、彼が学校に混乱をもたらしました。
パニック症状が生じて休む生徒が増えたというのも、学校という場に対する彼の負の影響と推察されます。
海老原は、ある意味幼稚でもありました。
現実的な改善案を伴わない正論は、駄々を捏ねているだけになってしまいかねません。
それに対する批判を拒絶と感じ、対立を生み出してしまっていました。
そんな彼の理解者となったのが、主人公の香坂保穂でした。
彼女のように現実的に考え、様々な立場に配慮しながら主張ができる人は、とても貴重です。
そういう人こそ苦労を抱え込んで潰れてしまい、好き勝手に我が道を貫いている人がしぶとく残ってしまったりもするのですが。
いずれにせよ、海老原尊は自分なりの理想を持った生徒想いの教師ではありましたが、結果として学校を不安定にさせる存在となってしまっていました。
そこには海老原の未熟な万能感もあったでしょうし、学校側の問題もあったでしょう。
ですが、このような存在はトリックスターとして改革をもたらす存在でもあります。
大きく変化する過程においては、混乱や混沌は避けて通れません。
生徒たちからは信頼を得て、香坂保穂の中にも受け継がれた海老原の想いは、希望を与えてくれるものでもありました。
プロローグの解釈
それを踏まえてプロローグを読むと、切ないものがあります。
プロローグの視点は、香坂保穂で間違いないでしょう。
検討の余地があるのは、あの「廃校」がどこを指すのかです。
自然に考えれば、宮幟中学である可能性が一番高いでしょう。
かつて海老原が勤め、理想の教師を追い求めながらも挫折し、命を絶つきっかけとなってしまった場。
そこを本作のあとで香坂保穂が訪れるのは、不思議ではありません。
もう一つ考え得るのは、七岬中学である可能性です。
本作後長い時間が経過し、宮幟中学のように廃校となってしまった七岬中学跡。
そうだとすると、本作から数年、いや数十年は経過しているシーンとなります。
海老原から香坂が想いを受け継いだとて、学校全体の環境がすぐに改善されるわけではありません。
本作のあとも、きっと様々な葛藤や衝突が続くでしょう。
もし本作から数十年経ったシーンだと考えると、いまだに葛藤し海老原に問い続ける香坂の姿は、さらに切なさを増します。
可能性としては宮幟中学である方が高いでしょうが、七岬中学と捉えることも否定はできず、そのように読んでみるとまた違った感覚が抱けるのではないかと思います。
ラストの解釈
最後に、急展開したラストの解釈について。
ラストでは、香坂が海老原(霊)に教員失格の烙印を押し、学校から追い出しました。
これは、海老原を認め、海老原から学びを得ていた香坂からは意外な行動にも思えます。
これは個人的には、上述した海老原の幼稚性を叱責したシーンに感じられました。
理想や思想は立派で生徒想いだけれど、やり方が稚拙で、学校全体に混乱を招いてしまう存在。
心のどこかでは、海老原がすでにこの世ならざる者であることを予感しており、海老原を楽にしてあげたいという気持ちもあったかもしれません。
また、海老原は香坂の中に取り込まれたのでは?とも感じました。
理由としては、学生時代の海老原のエピソード(ロケット台の話)を、香坂が認識していたからです。
海老原が香坂に話したシーンがカットされているだけとも考えられますが、個人的には海老原が香坂に入り込んだような解釈をしています。
それは、香坂が取り込まれたり取り憑かれたりしたような意味ではありません。
海老原の無念や想いが、香坂に引き継がれたことを象徴するような意味合いです。
海老原も、香坂なら託せると思った。
だから香坂を殺すことなく、海老原も言われるがまま成仏できた(?)のです。
それが、香坂だけが海老原のことを覚えていた理由でもあるでしょう。
それは、一種の呪いのようなものとも言えるかもしれません。
ただ、最後の、
私にできることは、この学校から出て行けと宣告することだけだから。
いつかきっと、必ず。
誰の記憶にも残らないように、追い出してやる。
という独白は、解釈に迷います。
自分なりの解釈としては、追い出すのは芝畑校長や山脇教頭、そして剣淵のような教員です。
それはそのままの意味で彼ら個人個人を追い出すということはなく、彼らを「古く悪しき慣習に囚われた学校の象徴」と捉えて、という意味です。
海老原は、そんな旧来的な体制と対立することしかできませんでした。
その対立が生み出すのは、息の詰まるような閉塞感であり、究極的には相手か自分が死ぬことでしか解消されません。
生徒だけではなく全体を見る香坂に、海老原の想いは託されました。
彼女が目指すのは、七岬中学に限らない学校全体の改革です。
それは、話し合いお互いの立場や考えを尊重しつつも、悪しき風習を無くすことでもあります。
それが「追い出す」という表現である、という解釈です。
あるいは、シンプルに海老原のことを指しているのかもしれません。
香坂にだけ海老原の記憶があるのは、香坂がなすべきことをなすためである、と香坂は考えていました。
香坂の中からも海老原が消えるのは、その目標が達成されたとき。
そういった意味の可能性も考えられるでしょう。
香坂しか記憶がないのに「誰の記憶にも残らないように」というのは不自然にも思えますが、ロケット台の話をしてくれた理科教師など、他にも覚えている人がいるかもしれません。
あるいは、読者すら含んでいる可能性もありそうです。
もし他の解釈がありましたら、ぜひお教えください。

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