
作品の概要と感想(ネタバレあり)
タイトル:ウラミズ
著者:佐島佑
出版社:KADOKAWA
発売日:2013年9月25日
霊が視えてしまう真城と、視えないけれどペットボトルの水に霊を溶かす力を持つ早音。
その水を二つ混ぜることで強力な霊を発生させる”ウラミズ”を作り出した二人は、その水を売ってみようと思いつくが──。
第20回日本ホラー小説大賞〈読者賞〉受賞作。
この年は大賞は該当作なしで、〈優秀賞〉は倉狩聡『かにみそ』でした。
表紙は、黒髪女性が狐寝子こと秋津ミサ、横になっている女性が宇佐美早音、そして見えづらいですが陸橋に立ち影につきまとわれている人影が坂上渉でしょうか。
著者のデビュー作ですが、日本大学の芸術学部を卒業後、劇団を立ち上げて放送作家やシナリオライターとして活躍されていたようです。
それもあってか、初めての小説である本作『ウラミズ』も文学的というよりはライトで読みやすい文体でした。
『ウラミズ』後は、2014年に『ハサミ少女と追想フィルム』、2015年に『夏風モノクローム ハサミ少女と追想フィルム』と立て続けに刊行していますが、その後は止まっており、現在は会社員をされているとのこと。
さて、本作はシンプルなように見えて、なかなか独自の路線でブラックな作品でした。
タイトルや表紙、あらすじからは何となくラノベ寄りな作風をイメージしており、それは決して間違っていたわけではありませんでしたが、思った以上にドロドロしていました。
もう、オカルトというよりもヒトコワというよりも、昼ドラでした。
ある意味、展開されていた内容はだいぶしょーもない。
「霊が見えるだけの人」である真城弘道と、「霊は見えないけれど除霊だけできる人」である宇佐美早音という2人のバディは、決して斬新というほどではありません。
水に溶かすという設定は斬新ながら、シンプルにバディものかな?と思いきや、本作における一番の特徴は、霊の存在があまりにも雑というか軽いところでしょう。
もはや霊は道具でしかなく、グレーゾーンなお仕事であれば何に置き換えても問題なさそう、と思えてしまうほど。
霊となった背景が描かれるのも序盤ぐらいで、後半はほとんど造形が描かれるだけで、捕まっては混ぜられ合体し、とどんどん道具のように活用されていきます。
ゲームの『ペルソナ』が浮かびましたが、もはやゲームのようにただの「設定」に成り下がっていた印象です。
ホラーとしては、怖くない。
霊は怖くないし、ヒトコワというほどでもない。
しかし、もしかするとそれこそが怖いことなのかもしれません。
霊が実在するとすれば恐怖を感じるでしょうが、本作では登場人物すらほとんど怖がりません。
それもそのはず、真城にとっては当たり前の存在ですし、早音にとっては存在は見えず、いざとなれば排除してしまえる存在でしかないのです。
どちらも実感できるような実害はないので、それを怖がれという方が無理があります。
しかし、本来は恐ろしい存在であるはずなのです。
それはラストでしっかりと実証されました。
ですが登場人物も読者も、ほとんど怖いと思わないまま進んでいく。
その状況こそが、本作が描く恐ろしさなのでしょう。
早音の祖母の言葉通り、「怖さに慣れて、怖いことが怖くなくなる」ことの恐ろしさです。
真城の立場に立ってみれば、10年以上見えているのに何も実害は感じていないわけですし、それは仕方ありません。
ですが、慣れるとそれが当たり前になり、その先のリスクに(それがリスクであると気づかないまま)踏み出すきっかけになってしまうのです。
依存症や犯罪行為に関しても、最初の一歩はとても小さなものであることがほとんどです。
ちょっとだけ、これぐらい、今回だけ。
その小さな一歩がハードルを下げ、再度実行しやすくなり、繰り返すようになり、繰り返すとその下がったハードルが基準となり、さらに次の一歩が踏み出しやすくなってしまう。
一気にハードルを飛び越えるのではなく、ちょっとずつちょっとずつ、自分でも自覚のないうちに基準ラインが下がっていってしまうという方が圧倒的に多いのです。
本作も、まさに茹でガエル理論です。
少しずつドツボにハマっていく過程が描かれており、そのプロセスこそが本作の恐怖でしょう。
登場人物のほぼ全員がそうでしたが、特に主人公の真城は、その場しのぎの選択が多く、計画性に乏しい傾向が窺えました。
将来のことを考えているようなことは言いながらも、ほとんどはその場に流されたり楽な選択を選び、計画的な行動はほとんど見られません。
ですが、それもまた、真城の「霊が見える」という背景を考えると、理解できなくもありません。
死んだら霊になる人もいるけれど、霊になっても大したことはできない。
それを知ってしまったとき、生きる目的がわからなくなっても不自然ではありません。
死が恐ろしいのは、死んだらどうなるかわからないからです。
宗教がなくならないのは、その不安を軽減してくれるからです。
ですが、もし「死んだら大して何もできない」というようなことを知ってしまったら。
それはもしかすると、死んだらどうなるのかわからないことよりも恐ろしいかもしれません。
真城は自業自得だったと言ってしまえばそれまでですが、無気力になっていたのは仕方ない側面も否めません。
そう考えると、真城と早音、そして狐寝子こと秋津ミサが共倒れになってバッドエンドを迎えた一方、一番鈍感だった坂上渉が一人勝ちのハッピーエンド(?)を迎えたのは、当然とも言えますし皮肉とも言えます。
特別な能力を持ちながらも特別になれなかった早音とミサは、かわいそうでもありました。
そんな強烈なブラックさを終始感じた本作でしたが、本作中の設定は設定で深められているところも面白く感じました。
ウラミズを放置したらどうなるのか?混ぜたらどうなるのか?飲んだらどうなるのか?
そういった疑問がちゃんと説明され、むしろそれを軸に話が進んでいくところは、上手い作りになっていました。
色々とはっきりしない部分もありますが、このブラックな世界観をライトに楽しむのが一番で、あまり深読みして考察すべき作品ではないだろうと思っています。
一応その根拠としては、オフ会後に初めて真城とミサがカフェで会った際、真城が本名を名乗る前からミサは「真城さん」と呼んでいました。
なのでもしかすると伏線?ミサは真城のことを把握しており何かを企んでいる?と思ったのですが、結局全然そんなことなく。
真城も不審がるでもなく、2回ほど真城さん呼びされたあとに「その流れから仕方なく、真城も苗字を名乗った」とありました。
これは単純にミスなのでしょうが、このあたりから、あまり細かく詰められているわけではなさそうですし、深読みしても伏線なのかミスなのかわからなくなりそうなので、深掘りするのは避けておきます。
いずれにしても、「ウラミズ」というオリジナルの面白い概念を生み出し、バディものの除霊屋としてシリーズ化したくなりそうな設定なのに、全然そういう方向には進まず、ひたすらドロドロと泥沼にハマっていきしょうもないラストを迎えたブラックさが好きな1作でした。

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