【映画】マンホール(ネタバレ感想・考察)

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作品の概要と感想(ネタバレあり)

カナダの田舎町で、原因不明の水質汚染が発生。
被害は瞬く間に拡散し、住人たちは嘔吐と下痢に襲われ次々に倒れていく。
汚染の原因を突き止めて欲しいと頼まれた配管工のジャックは、妊娠中の妻の反対を押し切り、下水道の調査に出向く──。

2013年製作、カナダの作品。
原題は『Septic Man』。

「septic」は「腐敗の、感染の、敗血性の」といった意味合いがメインの形容詞ですが、「汚水処理タンクを用いた下水設備の」といった意味合いもあるようです。
主人公のジャックは、自己紹介の際「septic man」と言っており、下水処理員と訳されていました。
また、作業着や車にも「septic man」と書かれたロゴがあり、社名(ジャックは個人事業主?)にも使っているようでした。


さて、本作『マンホール』は、観た誰もが口にする感想は「汚い」でしょう
よほど倒錯していない限り、食事中に観たくない映画ランキングの上位に食い込むのは間違いありません。
開始1秒でそれを教えてくれる親切設計。

グロさのある作品ですが、ゴア的なグロさよりも汚物的なグロさ
終始、悪臭が漂ってくる映像でした。
『バイオハザード』(ゲーム)の下水道なんて、綺麗でお上品だったんだなと思います。

しかし、汚さという点では冒頭の女性がピークだった気がします。
ジャックが落ちた場所も相当に汚いですが、上から下から垂れ流しながら死んでいく女性のインパクトに比べると、やや弱め。
総合的な汚さでは、『ムカデ人間2』に軍配が上がります。

中盤以降は景色が変わらず、グロ演出のバリエーションもそれほど増えないので、視覚的には少し慣れていってしまう面も
ジャック的には、視覚よりも嗅覚の方が厳しそう。

とはいえ、絶対体験したくない作品の一つであることは間違いありません。
本作も広義ではワンシチュエーションものに含まれるでしょうか。
あんな場所に閉じ込められたら、気が狂うのも当然です。

とんでもない悪臭にむせ返りながらも、なぜマスクなどもせずに入り込んでいったのかは謎ですが、とにかく閉じ込められてしまったジャック。
マンホール(と呼べるのかわかりませんが)の蓋が勝手に閉まったのも、謎といえば謎です。
設計上は勝手に閉まったら問題なので、あのモンスター兄弟が勝手に改造でもしていたのでしょうか。

閉じ込められた空間でのジャックの外見の変化はとても良かったです。
最初は「顔の汚れを拭いもしないのかな?」と気になっていたのですが、だんだんと「あれ?これ、汚れではない?」という疑問を経て、「何かやばいことになってる!」という最終形態に至るまで、少しずつ変化していく描かれ方が見事でした。

ただ、最初の方はやっぱり泥の汚れ?みたいなのがついていたように思います。
それを放置していたからあんなことになってしまったのでは、と思わなくもありません。
仕事の車もめちゃくちゃ汚れたままだったので、汚れに無頓着なのかも。
まぁ、潔癖だったらそもそもあの仕事は無理ですね。


様々な登場人物たちは、見た目から癖がありまくりで最高でした。
モンスター兄弟なんて、見た目からインパクトがあり、キャラも独特すぎるし、そもそも何者なのか存在が謎すぎます。
ジャックに依頼をしてきたプロッサーも、マッドサイエンティストみたいな見た目。
あの見た目にあの内容の怪しさなのに仕事を引き受けたジャックはなかなかのものです。

細かいところでは、夢だか幻覚だかの中で、プロッサーからもらったジャーキーを食べたつもりで、プロッサーの死体の指を食べていたシーンも好きでした。
耳が取れちゃったので胸ポケットに入れたところとかも。
個人的に虫が一番嫌いなので、シチュエーション的に身構えていたのですが、ほぼ一切出てこなかったところは高評価。


一方、展開や演出は、やや冗長な印象でした。
低予算感が漂うので仕方ありませんが、あまり変化のないシーンを、BGMとジャックの叫びで押し切っていたように感じます。
BGMは、作中ずっと流れていたのでは?と思うほど常に流れていた印象。
ひたすら必要以上に叫び続けるジャックは、喉が心配になるレベル。

しかしとにかく、ストーリーが意味不明すぎるのが本作の最大の欠点でしょう。
事件の背景も謎なら、ラストシーンも謎。
モンスター兄弟も何一つ謎は明らかになりませんし、死体を投げ捨てていた理由も謎。
詰まった死体が水質汚染の原因だったという点を除けば、あらゆる謎が一切明かされないと言っても過言ではありません。

ただ、あそこまで意味不明で何も明かされないのは、意図的にそう作られているとしか考えられません。
ストーリーや謎ではなく、閉じ込められたジャックがモンスターへと変貌していく過程や、常識を揺さぶってくるような狂気を感じさせる登場人物たち、そしてひたすら汚く理不尽な絶望感に集中するのがこの作品の味わい方なのでしょう。

モンスター兄弟を含め、意味不明すぎる展開は、それだけで観ている側の気持ちも不安定にさせる効果があります。
その理不尽かつ常識を超えた状況に対する落ち着かなさは、狂気に溺れていったジャックの気持ちに観客の気持ちをオーバーラップさせるものでした。

ちなみに、エンドロールの途中でも映像が少し流れます。
これもだいぶ訳がわかりませんが、せっかく最後まで観た方は見逃さないようにご注意。

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ちょっとだけ考察:ラストシーン(ネタバレあり)

冒頭と最後に演説していた知事(?)は、わざわざジャックの名前を出しており、その存在を知っていたようでした。
つまり知事もプロッサーも、事態の早期解決を求めており、実質的に町を治めているという組合との関係が示唆されます。
真相を知るプロッサーは、口封じのために殺されたのかもしれません。

このあたりの事件の背景は情報に乏しすぎて考察のしようもないのですが、一つ考えたのは、落下後のすべての出来事は、ジャックの幻覚だったのではないか?という仮説です。
それぐらいあまりにも支離滅裂。
モンスター兄弟の存在はもちろん、妊婦であるジャックの妻シェリーが1人で歩いて古い浄水施設に来たのも、施設の設備の使い方を知っていたのも不自然でした。

しかしそうだとすると、外部の様子も描かれていたのが、不自然というかアンフェアになってしまいます。
汚い下水空間から離れ、外部の様子が映るのは癒しかつ解放感漂う時間でしたが、流れ的にはあれは現実だったと考える方が妥当でしょう。

そうなると、モンスター兄弟も、シェリーの終盤の行動も、すべて現実ということになります。
基本的には「そういうもの」としてそのまま受け入れるのがベストなのでしょう。
細部にこだわるのではなく、説明がつかない、理解ができないことの恐怖や不快感が描かれていた作品、ということです。

シェリーがなぜ設備の使い方を知っていたのかはさておいて、ジャックを見つけ優しい言葉をかけるシェリーに対して、ジャックは「クソ女!」「ここは俺の家だ!」と暴言を吐きます。
これは、ジャックが極限状況で精神に異常を来し、心までモンスター化したかのように見えますが、個人的にはあのときジャックは正常だったのではないかと思います。

理由としては、シェリーの呼びかけにしばらく反応がなかったことと、暴言を吐く前に幸せだった頃の2人のシーンが映し出されたためです。
おそらくジャックは、妊婦であるシェリーに感染させてしまうことを恐れたのか、異形と化して人殺し(モンスター兄)までした自分がもう一緒にいるべきではないと考えたのか、わざわざシェリーに自分を見捨てさせるためにあのような暴言を吐いたのだと考えられます。

ただ、一番大事だったシェリーとの関係を絶ってしまったことが最後の引き金となってしまったのか、どうやって脱出したのかはわかりませんが、最後に釣り人の前に現れたジャックは、完全にモンスター化してしまっていたように見えました。

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