【映画】デスNS/インフルエンサー監禁事件(ネタバレ感想・考察)

映画『デスNS/インフルエンサー監禁事件』のポスター
(C)DYSTOPIAN FILMS LTD 2022.ALL RIGHTS RESERVED.
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『デスNS/インフルエンサー監禁事件』のシーン
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SNSのフォロワー数が40万人を超える人気インフルエンサーのケリーは、ある日突然、何者かに拉致され、地下室に監禁される。
すると彼女の前に異様なマスクを被った男が現われ、SNSで配信を行い、「1時間以内に1,000いいね!」を獲得するように命じてくる。
できなければ命はないと脅し、拒否すれば別の女性を連れてきて危害を加えるという。
なんとか要求を達成したケリーだったが、男の要求はエスカレートし、今度は「6時間以内に5万いいね!」を獲得しろという。
ケリーの肉体と精神は追い詰められていき、やがて男が彼女を拉致監禁した目的が明らかになっていく。

2022年製作、カナダの作品。
原題は『Deinfluencer』。

英語の「de」は否定などを表す接頭語なので、原題は「インフルエンサーの否定や除去」といったような意味合いで、なるほど内容と合っています。
『デスNS』の邦題はセンスが抜群で大好きですが、内容との合致度はさすがに原題に軍配が上がります。

さて、邦題の副題通り、インフルエンサーが監禁される事件が描かれる本作。
『#フォロー・ミー』などの「調子に乗ったYouTuberの成れの果て」系の作品とは異なり、主人公のケリーは完全なる被害者でした
舞台は監禁場所でほぼ固定されており、ワンシチュエーションものと言えるでしょう。

正直な感想としては、うん、これは、ちょっと、微妙というか、あんまり面白くなかったな……と言わざるを得ません。
印象に残っているシーンが、ない……。
お好きな方には、すみません。

当然ながら過度な期待はしないどころか相当に期待度は下げていったのですが、そもそもの方向性が全く異なっていました
まさかこんなメッセージ性がびしびし伝わってくるお説教系だったとは。

『ソウ』『CUBE』を超えたウルトラ・ソリッド・スリラー!」という謳い文句を真に受けて観に行く人はいないと思いますが、「どのポイントを超えた」というのは言っていないので許容範囲でしょうか。
しかしまぁ、犯人の目的としてはジグソウ的なものがありましたが、改めてジグソウや『ソウ』の偉大さを感じました。

メッセージ性も「虚構じゃなくて、そのままのあなたが素敵!今あるものを大切にしなさい!」的なものなので、斬新さはほぼなし
展開もすぐに読めてしまうもので、予想をひっくり返してくるポイントはまったくありませんでした。
突っ込みどころが満載なので、「いやいやいや!」とみんなで騒ぎながら観るのが正解な作品です。

一番の難点としては、退屈さ。
演技力の問題もあるかもしれませんが、終始主人公たちと犯人が会話しまくっているので、このようなソリッド・シチュエーションに必須の緊迫感が冒頭からほぼ皆無でした。

主人公のケリーはかなり強気で反発しまくり、ほとんど怖がっている様子が窺えません。
犯人も結局ケリーを殺すつもりはなかったので、脅しが中途半端で、何とか必死に説得しようとしている感が否めません。
「(ゲームを)やるのかい?やらないのかい?どっちなんだい!?」
「(私を)るのかい?殺らないのかい?どっちなんだい!?」

というやり取りがひたすら繰り返されていた印象。

みんなで楽しむツッコミポイントは、

・明らかに死んでいないサブリナ(ドアに血飛沫だけの演出)
・奪ったスマホ、犯人がポケットに入れて持ち歩くと思う?
・足の指切られたり腎臓取られて、痛くないの?自分の感覚的にわからないの?
・麻酔されているから感覚的にわからないのかと思いきや、普通に歩いてる
・腎臓取られた跡、あんなホッカイロみたいのだけで心配にならなかった?
・普通に寝るんかーい!(いやいや、体力温存は大事)
・傷口のある右側を下にして寝るんかーい!
・投稿写真に額の出血とかホッカイロとかばりばり写ってますけど!
・犯人に語りかけるときと、ケリーとサブリナが内緒話するときの声の音量、ほぼ一緒
・犯人のマスク、何だか『テリファー』を思い出しますね

といったあたりでしょうか。
もっとあった気もしますが、強く印象に残っている点だけでもこれだけすぐ浮かんできました。

そして何より、46万以上のフォロワーがいながら、自撮りの写真が1時間で999いいね!というのは、相当にまずいのではないでしょうか。
むしろそこにショックを受けそう。

ちなみに、犯人のチャールズを演じていたのは、『人肉村』で狂った兄弟の長男を演じたサイモン・フィリップス。
女性の1人(ジル役?)のアン=キャロライン・ビネットも、『人肉村』のテイラー役の人だったようです(テイラーはギャルっぽかったので気づかず)。

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ちょっとだけ考察:犯人の目的と本作のメッセージ(ネタバレあり)

映画『デスNS/インフルエンサー監禁事件』のポスター
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どこまでが犯人の演出だったのか

最初に少しだけ内容の整理ですが、本作で起こった出来事のどこまでが犯人側の演出だったのか。
結論としては、すべてが犯人側の演出であったと考えられます。

スマートウォッチを用いた警察とのやり取りや、パトカーのサイレンはもちろんのこと。
ゲームにおけるいいね!の数も、犯人側がコントロールしていたと考えるのが自然です。
つまり、ケリーが行ったつもりの投稿は、実際には投稿されていなかったということです。

さすがに999で失敗というのはドラマティックすぎますし、上述した通り、46万人超えのインフルエンサーの自撮りに対するいいね!の数としてはあまりにも違和感があります。
ただ、999いいね!で終わったことについて、ケリーはそれほど違和感は抱いていない様子でした。
「パニックになっていたから仕方ない」で説明がつけられるかもしれませんが、もしかしたら、そもそもケリーはフォロワーを買ったりしていたのかも……。

ツッコミポイントで挙げた「血や医療テープが写り込んでいる」問題も、実際に投稿されていなかったので問題になりませんでした。

犯人の目的と、本作のメッセージ

結局犯人が何をしたかったのかといえば、世直しみたいなものでした。
終盤で懇切丁寧に説明してくれるので考察の余地はありませんが、「SNSの承認欲求に溺れ、現実を見失い、虚構に生きるインフルエンサーたちを正気に戻そう!」という活動でした。

これは実に、エゴイスティック
それこそ、自分が思う正義を押しつけているだけであり、ネットやSNSに蔓延る「正義マン」「正義警察」のような存在です。

しかしそれは、そのインフルエンサーだけに問題があるわけではありません
そもそも、虚構に生きるインフルエンサーの原動力となっている大きな心理的要因は、言わずもがな、承認欲求です。
現実の自分ではなく、理想の自分を作り出し、それが認められる。
ただそれは本当の自分が認められているわけではないので、どんどんと歪んだ方向へと進んでいきます。

そのような「承認欲求依存」のような状態に陥るのは、もちろん、現実で自分のことを大切にしてくれている人たちを軽視しているといったような、その人自身に問題がある可能性ももちろんありますが、外的な要因が影響していることも多々あります。
現実離れした演出に憧れるフォロワーであったり、たとえば痩せているほど良いといったような偏った社会的価値観やルッキズムであったり、無責任な誹謗中傷であったり。
ネットにおける人間社会全体の歪みが反映されている現象の一つが、虚構に生きるインフルエンサーと捉えるのが適切です。

そのため、そのようなインフルエンサーが生まれる根本的な問題を考えれば、インフルエンサーだけを現実に目覚めさせても、ほとんど意味はありません
もちろん、虚構に溺れていた自分に気がつき、忘れていた現実の大切さを理解できれば、それはそれでその人にとってプラスもとても大きいでしょう。
ですが、そのような状態に陥ったのは、その人だけの責任でもないのです。
犯人たちの活動は、根本的な部分には目を背けているような、自己満足な解決でしかありません。

しかし、現実のネットやSNSに目を向ければ、そのような「押しつけ正義マン」は大量に溢れています
『デスNS/インフルエンサー監禁事件』で描かれている表面的なメッセージは上述したようなものでしたが、SNSにおける虚構性はもはやほとんどの人が認識しており、あまりにも「今さら」感が漂います。
『デスNS/インフルエンサー監禁事件』における本質的なメッセージは、実は、そのような「エゴイスティックな正義マンの滑稽さ」なのかもしれません。

インフルエンサー撲滅運動を掲げる犯人の、真なる動機は本作では明かされません。
しかし少なくとも言えるのは、彼がこだわっているのはインフルエンサーが支持される社会そのものの改善ではなく、インフルエンサーの撲滅です。
その背景にあるのは、恨みなのか嫉妬なのか。
いずれにしても、彼はこの活動によって自分のエゴイスティックな欲求を満たしているだけであり、その意味では、虚構に生きるインフルエンサーとメカニズム的にはほとんど変わりない存在であるとも言えます。

しかし、ケリーが本当にゲームを放棄していたら、犯人はどうしていたのでしょう。
ケリーを説得できなければ、実際に監禁や傷害といった犯罪行為は行っているので、そのまま帰すわけにもいかないはず。
その場合は本当に殺害するつもりだったのか。
そうだとすると、それこそ私刑でしかなく、個人の掲げる正義の暴走ですし、いずれにしてもあまり長続きする活動ではなさそうなのでした。

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