作品の概要と感想(ネタバレあり)
イタリア、ローマで娼婦ばかりを狙った猟奇的な連続殺人事件が発生する。
殺人鬼の4人目のターゲットになってしまったコールガールのディアナは、ある夜、執拗に追いかけられた末に、車が衝突する大事故に遭う。
一命はとりとめたものの両目の視力を失ってしまったディアナは、同じ事故に巻き込まれて両親を亡くした中国人少年のチンとの間に特別な絆が生まれ、2人は一緒に暮らすことになる。
しかし、そんな彼女たちを殺人鬼が付け狙う──。
2022年製作、イタリアとフランス合作の作品。
原題は『Occhiali neri』で、英題は『Dark Glasses』。
「Occhiali」が「眼鏡」、「neri」が「黒」を意味するようです。
『サスペリア』が特に有名な、巨匠ダリオ・アルジェント監督作品。
個人的にダリオ・アンジェルと作品が初めてだったので、『ダークグラス』は、何とも、何とも評価が難しい1作でした。
熱狂的なファンの方も多いようなのでなかなか感想も書きづらいですが、素直に書いていきましょう。
面白かったかと問われれば、正直に言えば実に微妙。
唐突なストーリー展開に、本気なのかギャグなのか判断しがたい演出。
行動原理がいまいちわからない登場人物たちに、はっきりしない犯人の動機。
派手ながら雑な殺され方。
しかし、ではつまらなかったのかと問われると、それもまた違います。
観終わった直後は「何だこれ……?」と戸惑いを隠しきれませんでしたが、じわじわと「あれ、もしかしてこれ、面白かったのでは……?」と思わせてくる潜在力。
面白いとかつまらないとかを超越した、インパクトがあり印象に残るのは確実な作品です。
非常に癖の強さは感じたので、「つまらないとかくだらないことを言うやつには興味がない」と言わんばかりに我が道を貫く姿勢を感じました。
80歳を超えてなお創作活動を行っているだけで、尊敬に値します。
レビューなどざっと見ると「最高傑作ではないけれど、これぞダリオ・アルジェント」みたいな感想も散見されるので、おそらくコアなファンにはたまらないのでしょう。
「ダリオ・アルジェントの新作が観られるだけでもありがたい」とまで言わしめるほど。
本作のポスターにも書かれている「決してひとりで見ないでください──」というのは『サスペリア』のキャッチフレーズだったようなので、10年ぶりの新作というのも含めて、長年のファンにはエモそう。
強迫的なまでの「赤」の使い方は、感性の鈍い自分でも芸術性とこだわりを強く感じました。
ほとんどの画面上で、何かしら赤い色が使われてた印象です。
『サスペリア』も、観ていないながら鮮烈に赤いイメージがありますが、色の使い方にアート性が高いというのは、本作だけでもひしひしと伝わってきました。
PG12とは思えないほど、まさに出血大サービスとばかりに溢れて止まらない血は、清々しさすら感じるほど。
とにかく主張の激しいBGMも、だんだんと癖になってきました。
「何でそうなった?」と何度も突っ込んでしまうような唐突な展開が続くのに、『ハロウィン』のような70年代スプラッタホラーを彷彿とさせる不協和音を絡めたシンセサイザーメインの音楽に、BPMを上げて強引に観客の心拍数の増加を煽り、力業で緊迫感溢れるシーンのように思わせてくるのは、もはや職人技。
古典ホラーのリマスター作品かのような古い映像も好き。
もはやあの映像やシチュエーションの中でスマホを使っている姿に違和感が生じるほどでした。
そのような点が「まさにダリオ・アルジェント」を象徴している映画なんだろうな、と思いました。
一方、初めて観る立場としては戸惑いもあったのは事実で、特にストーリー展開や演出はなかなか癖が強すぎました。
「失明したヒロインを襲う殺人鬼」という設定で、さぞや心理学的な考察ができる部分が多くあるのではないかと身構えていたのですが、全然違った。
いえ、たぶん心理学的に解釈しがいはあるのですが、ダリオ・アルジェントやジャッロ映画への理解が必要なので、力及ばず置いておきます。
明らかに物語の細部にはこだわっていない印象を受けるので、その点よりも映像や見せ方、魅せ方にこだわっているのもわかります。
作品全体から狂気を感じ、内容ではなくて作品そのものから観る側の心を揺さぶってくる力を感じました。
冒頭で日食を描き、失明する主人公ディアナの今後を示唆する演出はとても巧み。
畳み掛けるようなツッコミポイントも絶妙で、「いやいやいや!」と数人でわいわいツッコミながら観るのも絶対に楽しい作品。
そこもまた、古典ホラーらしさがあって好き。
馬鹿にしているわけではなく、そういうわいわい突っ込むのが好きなので、以下、書き残しておきます。
実に脆い人間たちの死に様は、思わず笑ってしまう場面も何ヶ所かありました。
車のドアをぶつけられただけで出血し昏倒する警察官。
イタリアの方々、車が突っ込んできても基本的に避けないのでしょうか。
だいたい目前まで迫ってきても棒立ち。
犯人は結局、娼婦ばかりを狙う切り裂きジャックのようなシリアルキラーなのかと思いきや、「臭い」と言われたディアナに異様に執着するストーカー気質。
首切り、絞殺、刃物で刺殺と、シリアルキラーらしさを捨てて多様な殺し方で観客を楽しませてくれるエンターテイナーでした。
ディアナとチンに水圧攻めをしていた理由はまったくわかりませんが、「臭いからシャワーを浴びろ」と言われたことへの仕返しでしょうか。
巻き込まれて殺されていった人たちは、なかなかにかわいそうでした。
特に歩行訓練士のリータは、ひたすら親切だっただけに巻き込まれ感が際立ちます。
しかし、リータはいったいどんな辺鄙な場所に住んでいたのでしょう。
リータと犯人が車で一瞬すれ違ったとき、リータは「あのときの白いワゴンだ」と気がつき、犯人は「ディアナと一緒にご飯を食べていた奴だ」と気がついたのは、お互いどれだけ記憶力と観察力が良いんだと思いました。
唐突な展開が多い中でベスト・オブ・唐突だったのは、ミズヘビでしょう。
あのシーンの必要性と言ったらもう。
心理学的な解釈ができそうな気もしますが、やめておきます。
「アタック!」で不審者を撃退してくれる、頼りになる守護天使の盲導犬ネレアは、まさかの相手を制圧するだけではなく殺してむしゃむしゃ食べてしまう獰猛犬でした(ちょっとうまいこと言ってません?)。
やや物理を無視した不運すぎるアクロバティックな事故で犠牲となったチンの両親。
事故とはいえ両親の死を招いたディアナに、チンくんが反発するのも当然と思いましたが、意外とあっさり懐いていました。
しかし、助けてくれた人が襲われているのに「銃があるよ」と冷静に言っているのはまだしも、目の前でネレアが犯人を食いちぎっているのに「助かった助かった」とディアナと楽しそうに騒いでいるチンが一番サイコパスっぽさが漂い、ホラーなシーンでした。
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