【映画】ファイナル・ジャッジメント(ネタバレ感想・心理学的考察)

映画『ファイナル・ジャッジメント』
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

強盗事件で父親を亡くしトラウマを抱えるケイトリン。
ある日、公園をジョギング中に見知らぬ男性が襲われる暴行事件に遭遇。
ケイトリンを含め、その場に偶然居合わせた誰もがその被害者男性を救う行動を起こせず、後日、ニュースでその被害者男性が亡くなったことを知る。
そして、その夜よりケイトリンの周りでは不思議なことが起き始め、暴行現場に居た者たちが次々に不審死を遂げ始める──。

2020年製作、アメリカの作品。
原題は『Don’t Look Back』。

原題は「後ろを振り返るな」ですが、見殺しにされたダグラスの弟ルーカスも、ダグラスをお金で雇った男に襲わせたアルシアも、目的は復讐でした。
しかしそれで結局何が残ったのか?といえば、ほぼ誰にも何も残っていないと言えるでしょう。
「前を向いて生きろ」というセリフも何回か出てきましたが、「復讐は何も生まない」というのがこの作品のテーマの一つなのかもしれません。

また、主人公のケイトリンも、自宅で死んだカート(不倫男)も、誰もいないのに背後から引っ張られるように見えるシーンがありました。
前半は、人間の仕業なのかオカルトなのかわからないように演出されていたので、文字通り「背後を振り返るな」というオカルト路線にミスリードする意味合いもあったのかもしれません。


さて、本作は名作『ファイナル・デスティネーション』の脚本を担当したジェフリー・レディックが脚本および初監督を務めた作品。
2作目の『デッドコースター』まで脚本に関わっているようです。

という情報があまりにも先行しているのと、『ファイナル・ジャッジメント』というさも『ファイナル・デスティネーション』シリーズの新作であるかのような邦題も手伝って、レビューなどではかなりの低評価でけちょんけちょんに言われており、なかなかにかわいそうな作品となってしまっています
ビデオやDVDのレンタル全盛期ならまだしも、すっかりネット社会になった2020年にわざわざ『ファイナル・ジャッジメント』という邦題をつけた罪は重いでしょう。

が、しかし。
内容も、どうにも『ファイナル・デスティネーション』の延長というか、『ファイナル・デスティネーション』が意識されているのは間違いないというか、誤解を恐れずに上から目線で言えば「過去の栄光に縋ったまま新作を作ってしまった」感が否めず、フォローしきれない部分もある感は拭えません。
ストーリーも面白いかと言えば、どうにも強引さが際立ってしまっている印象でした。
それが証拠に、海外のレビューを少し見ても、なかなか辛辣な内容が散見されます。


「目の前で他者が命の危機に晒されていても、何もしなかったりスマホで動画撮影する傍観者たち」「犯罪を犯したわけではなくても、ネットで特定されて私的&社会的制裁を受ける恐怖」といった現代的なテーマを取り上げたのはとても良かったですが、展開がいささか強引というか極端
ホラー演出も、古典的なJホラーっぽいジャンプスケアが多く、どうにも古臭さが目立ってしまっていました。
良い悪いではなく、不思議とどうにも2020年の作品には見えません。

そして一番引っかかってしまうのはやはり、人間の犯行と超常現象があまりにも都合良くハイブリッドされていた点かと思います。
しかも、それが特に説明がつくわけでもなく、「運命」と呼ぶにも強引で、「超常現象は、演出のためにただ都合良く使われていただけ」と言われても仕方がないと感じてしまうレベルでした。

そのため、どうにも「『ファイナル・デスティネーション』に似てるけど物足りない作品」のようになってしまっていたのが、何とも残念。
「何様だよ」な感想であるのは重々承知の上で、もう少し『ファイナル・デスティネーション』から脱却して違う個性を強く打ち出しても良かったのではないかな、と感じてしまいます。

単純にこういう作風が好きなのかとも思いますが、どうにも軸がどっちつかずで中途半端だったのが、観終わったあとにもやもや残ってしまう要因となってしまっていました。
メインの軸がそんな感じだったので、『ファイナル・デスティネーション』を観ていない人が観ても、それほど評価は変わらないのではないかと思います。


ツッコミどころはたくさんある本作ですが、一番はやはり警察があまりにも無能なところでしょうか。
さすがに事故か事件かはもう少し調べてほしいですし……目撃者の個人情報が公開されて明らかに危険だろうに「気をつけてね」で終わりですし……そもそも目撃者と被害者の遺族を同じ時間帯に呼び寄せるのも配慮が足りなさすぎますし……などなど。

あとはずっと気になっていたのは「そ、そこまで目撃者たち責められちゃう……?」という点。

もちろん、遺族のルーカスの立場であれば許せないのはわかります。
ただ、本作における事件は、そんな長時間暴力に晒されていたのをずっと見ていたりしたわけでもありません。
けっこう唐突な出来事であり、殴っている男性を止めに入るのは、特に銃を持っている可能性もあるアメリカでは、相当勇気はいるでしょう。
動画撮影していたネイサンはあまりフォローのしようがありませんが、ケイトリンはけっこう迅速に通報はしていたように思います。
そのあたりの前提部分の描かれ方も、ちょっと雑に感じてしまいました

個人的には、上述した通り取り上げられたテーマは興味深いのと、古臭い雰囲気もそれ自体が嫌いなわけではありません。
追悼式で目撃者が再会するところなどは、同じようなシーンがあった『ファイナル・デスティネーション』のパクリというよりは「ジェフリー・レディックらしさ」に感じられます。
設定などは好きですしポテンシャルを感じただけに、あらゆる部分が中途半端で詰めの甘い仕上がりになってしまっているのが惜しいと思ってしまったのでした。

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考察:傍観者効果と、結局何がどこまで何の仕業?(ネタバレあり)

傍観者効果

本作で描かれていた「目撃者が何もしないで傍観してしまう」という現象は、社会心理学では「傍観者効果」と呼ばれます。
「援助行動を起こすことが必要な場面で、自分以外の他者がいることによって、判断を誤り、必要な援助行動が躊躇されることがある」というのが、傍観者効果。
傍観者効果が提唱されたのは1960年代であり、決して都会や現代だけの問題ではなく、目撃者たちが冷たい人間なわけでもなく、誰もが陥る可能性のある集団心理なのです。

きっかけとなったのは1964年に28歳の女性が襲われ殺害されたキティ・ジェノヴィーズ事件と呼ばれる事件。
被害者キティの叫び声によって、近隣住民38人が事件に気がついていたにもかかわらず、30分以上の間、誰も助けもせず警察に通報などもしませんでした。

「たくさんの目撃者がいたのに、誰も助けようとしなかった」と報道されたこの事件を、逆に「たくさんの目撃者がいたからこそ、誰も助けようとしなかったのだ」と傍観者効果を提唱したのが、ラタネとダーリーという心理学者たちです。

傍観者効果には、主に以下の三つの心理的社会的要因によって説明がなされています。

  1. 聴衆抑制:行動して失敗した際に、ネガティブな評価をされることに対しての不安
  2. 多元的無知(社会的影響):周りの人が何もしていないので、緊急性がないのだと判断してしまう
  3. 責任の分散:自分がしなくても誰かが行動してくれるだろう、と考える

つまり、周囲に他にも目撃者がいることによって、人目を気にしたり誤った判断が生じ、援助行動がむしろ抑制されてしまうのです。

特に「責任の分散」は要因として大きく、「誰かがしてくれるだろう」という以外にも、「他の人と同じ行動をしていれば、非難されることはないだろう」という考えにも基づいています。
同調圧力の強い日本では、特に強く働くかもしれません。
咄嗟に行動して誰かを助けたり犯人を取り押さえたりしたニュースを見かけることがありますが、そういった人たちの判断力、行動力、そして勇気は、やはり素晴らしいものがあります。

上述した三つの要因以外にも、咄嗟の出来事に固まってしまってどう対応すればいいのかわからなくなったり、異常な出来事が生じていると認めたくない心理なども影響します。
もちろん、「トラブルに巻き込まれたくない」といった気持ちによることもあり得るでしょう。


本作に即して考えれば、上述した要因に加えて、個人的な事情も色々とありました
ケイトリンは過去に暴力によるトラウマがあり、咄嗟に恐怖心を感じてしまったのは仕方がないと言えるでしょう。
むしろ、撮影していたネイサンのスマホを取り上げて通報しただけでも、褒められる行動です。

不倫関係で揉めていたカートとマリアは、トラブルに巻き込まれたくない気持ちが強かったはずです。
自分が仕掛けた事件なのでアルシアが助けようとしなかったのも当然ですし、一緒にいたトニーはむしろ助けに向かうような素振りを見せましたが、アルシアに制止されてしまいました。
ただ、早々に動画撮影を始めたネイサンに関しては、やはり責められても仕方ないかもしれません。

誰かが行動できれば助けられる可能性はあったので、ルーカスが目撃者たちを恨むのも、目撃者たちが自分を責めてしまうのも、事件を聞いた人たちが「どうにか助けられなかったのか」と思ってしまうのも、それもまた自然な心理です。
ただ、やや過剰な描かれ方をされていた感もありますが、細かい事情も知らず、ひたすら目撃者バッシングをする社会にも、また別の問題が認められます

本作で起こっていたこと整理と、あの人が実は……?

結局、『ファイナル・ジャッジメント』において何が起こっていたのか。
細かい部分は整合性が取れないと思うのでさておいて、大枠について少し整理しておきたいと思います。

軸はやはり、復讐です。

アルシアは、過去、ダグラスの運営する施設に入っていましたが、ダグラスから「息子と路上で暮らすか、俺の言う通りにするか」と鬼畜な2択を提示されます。
おそらく、性的な関係の強要などでしょうか。
その恨みから、アルシアはお金で何でもする男を雇い、ダグラスを襲撃させます
殺せとまで指示はしていなかったようで、ダグラスが死んでしまったのは事故でした。
ケイトリンが公園で犯人の男とすれ違った際、だいぶ落ち着きなくそわそわしていたので、おそらく暴力行為には慣れていなかったのでしょう。

そして、ダグラスの事件を目撃していた者たちが襲われたのは、ダグラスの弟ルーカスによる復讐でした。
兄を助けず何もしなかった目撃者に恨みを募らせ、自責の念による自殺や事故に見せかけて殺していきます。
犯行はだいぶ雑でしたが、発覚しても世間からは同情を得られる、という計算もあったのかもしれません。


さて、問題はその他の超常現象です。
あれらは基本的に「ただ起こっていただけ」と考えられます。
27という数字も、現象のヒントとなるサインであり、誰が誰に、など意味や目的があるものではないのでしょう。

カラスは、死の予兆として機能していましたが、ただ死の匂いにつられてやってきただけ


ラストシーンに関してはまた解釈が難しいですが、そもそも、首に破片刺されて銃で撃たれて窓から落ちたルーカス、生きていたのが強すぎます
きっと彼はあれで死ぬはずでしたが、ただアルシアから真相を聞かされるためだけに生かされており、それが終わったのでカラスが襲いかかったのだ、というのはどうでしょう。
神だか悪魔だかの、えぐくて粋な計らいです。

ただ、カラスにダグラスが宿っていた説もあり得るかもしれません。
その場合ラストは、恨みを晴らしてくれなかったルーカスへの八つ当たり、ということになるでしょうか。
ダグラス、とんでもないやつ。


一番難しいのが、カートの死です。
普通に考えれば、あれもルーカスによる犯行ではあるはずです。
地下のブレーカーを落とし、カートをおびき寄せ、後ろから引っ張って階段から落として殺害したのです。

窓にぶつかったカラスは、誰かが何かを伝える意図があったわけではなく、ただカートに死が近づいていることの予兆。
直前に聴こた「ねぇカート、助けて」という声は、酔っていたカートの幻聴。
電球が割れたのも、ただの不吉な超常現象。
一番解せないのは、背後からルーカスが引っ張ったのだとすると、ルーカスはとんでもなく素早い&怪力ということになる点ですが、演出の都合として見逃しましょう。


ケイトリンが見たダグラスの霊や声は、ケイトリンには怒られるでしょうが、幻覚・幻聴と考えるのが妥当でしょう。
しかし、雨の中、脚を引っ張られたのはこれまた相当に謎。
ここも、めっちゃ素早く怪力なルーカスが頑張り、激しい雨のために隣人にも見えなかった、という考えが一つ。

あるいは、3分間死んだことのあるケイトリンは霊的な世界との繋がりができていたという説を採用すれば、ケイトリンだけにはダグラスの霊が実際に見えており、脚を引っ張ったのもダグラスと考えられるかもしれません。
実は性格が悪かったダグラスなので、犯人だけでなくケイトリンたちを恨んでいても不自然ではありません。

終盤、ルーカスに追いかけられるケイトリンを助けたのは、演出的にもケイトリンのお父さん(の霊)でしょう。
パパ、ひたすらに良い人でした

良い人すぎたと言えば、ケイトリンの恋人ジョシュもそうです。
あまりにも良い人すぎて怪しいほどでしたが、それはミスリードさせるためでもあったようでした。
終盤は、ケイトリンにも疑われちゃってかわいそう。

その後、ケイトリンはルーカスに拉致されてしまいました。
車の後部座席に隠れていたルーカルが、霊だかゾンビだかのように起き上がって襲いかかったのでしょう。
最後に全員まとめて廃ビルで決着をつけて、すべてはケイトリンの仕業に見せかける計画だったようです。
自責の念に駆られたケイトリンが、償いのために同罪である他の目撃者と自分を殺してしまう、という筋書きです。

しかし、ルーカスに拉致される直前まで、ケイトリンはジョシュと話していました。
ケイトリンに拒絶されたジョシュは自分の車の方に戻る感じでしたが、ケイトリンが拉致されたことにジョシュが気がついていないというのは、どうにも不自然です。

また、ケイトリンは車に乗る際、しっかりと鍵でロックを外していました。
つまり、あえて現実的に考えれば、ルーカスが後部座席に乗ったのは、その後と考えた方が自然です。

というわけで、実はジョシュも共犯だった!?説を推してみます。
ジョシュがケイトリンの意識を引きつけている間に、ルーカスが後部座席に滑り込んだのです。

ジョシュの目的は、さっぱりわかりませんが。
ジョシュ共犯説
推したいと思います。

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