作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
閉鎖が決まった警察署で、最後の宿直を任された新人警官ジェシカ・ローレン。
1人で暇を持て余していると、不可解な現象が次々と起こりはじめる。
実はこの警察署内では、1年前にカルト教団のメンバーが自殺する事件があった。
ジェシカは動揺しながらも、同じく警官だった亡き父の教えを思い出して任務を続けるが──。
2014年製作、アメリカの作品。
原題も『Last Shift』。
「最期の夜勤」というのは日本版だけの副題ですが、「最後」じゃなくて「最期」なところが、「あ、主人公、死ぬのかな」と予感させてしまうので、ネタバレな気も。
『ハロウィン』シリーズの生みの親であるジョン・カーペンター監督による1976年のアクション映画『要塞警察』へのオマージュ作品のようですが、『要塞警察』は未鑑賞。
さて、本作の感想としてはとにかく、
「ジェシカ、真面目すぎ!」
「ジェシカ、かわいそう!」
に尽きます。
勤務初日から、1人で夜勤。
しかも、いわくつきの建物で。
どれだけブラックなのでしょう。
そんな逆境にもめげず、警察官としての心得を呟きながら、どれだけ恐ろしい出来事が起こっても逃げ出さずに立ち向かうジェシカ。
報われてほしかったです。
トータルとしては、良質ホラーといった感触。
不気味な雰囲気や霊(?)のデザインなどはとても好き。
登場人物が全員不穏なのも、誰が頼れて頼れないのかわからなくて良かったです。
霊のクリーチャーっぽさや、現実と非現実が入り乱れて境界が曖昧になるような感覚も含めて、ゲームの『サイレントヒル』っぽさも少し感じました。
異常現象的なものも、定番なものが多くはありましたが、見せ方に色々なバリエーションがあり、楽しめました。
特に、椅子が積み上がっていたりするところとか、芸術性すら感じます。
カメラワークも上手い。
ただ、「視線を逸らした瞬間に、怪奇現象が起こっている or 見えていたものが消える」のパターンが多かったというか、そればかりだった、という印象もあります。
それらの現象に(作品の中での)意味や必然性があるかといえば、ほぼありません。
それを見ている第三者、つまりは「映画を観ている観客」に向けている側面が強い演出なので、あまり繰り返されてしまうと、没入しづらくなってしまいます。
いかんせん主要な登場人物がジェシカだけだったので、それが孤独感に伴う怖さにも繋がっていましたが、一方ではすぐにジェシカが死ぬわけにもいかないので、怖がらせるに留まるしかない演出的な難しさもあったでしょう。
あとは、起こる異常現象がもはや1人の新米警察官でどうにかできるレベルではなく、「ジェシカは生き延びられるのか?」というドキドキ感よりも「こんなんもうどうしようもないやん」という諦めの感情が上回ってしまいました。
もう一つの個人的な難点は、ストーリーが結局よくわからなかった点でした。
結論から言えば、「悪魔モノ」だった本作。
雰囲気や用いられていたテーマやモチーフは好きで、大筋は理解できますが、細かいところで整合性が取れている作りではなく、ラストもよくわかりません。
取り上げている一つ一つの要素は面白いのに全体としてまとまっていない感じで、少々もったいなかった印象です。
細かいことは考えずに雰囲気を楽しむ作品として観るのがベストだと思いますが、果たして何がどうなっていたのか?という点について、少しだけ検討しておきます。
敵側(?)のボスだったジョン・マイケル・ペイモンは、作中でも言及されていた通り、チャールズ・マンソンがモデルの一つとなっていたのは間違いないでしょう。
ただ、チャールズ・マンソン「っぽい」というだけで、それほど一致している点があったわけでもありません。
それこそチャールズ・マンソンやマンソン・ファミリーを直接的なテーマとして描いた作品もたくさんあり、いずれそれらの作品で触れることもあるかと思うので、ここではチャールズ・マンソンの詳細については省きます。
カルト教団の教祖としてもシリアルキラーとしても名前が挙がるチャールズ・マンソンですが、本作におけるペイモンも、その両面を兼ね備えていました。
ただ、ペイモンの場合は悪魔崇拝が主軸だったようです。
少女を誘拐しては殺害していたというのも、悪魔に捧げる生贄的な目的だったのかもしれません。
ペイモンは、キティとドロシアという2人の女性らと合わせて「ペイモンズ」と呼ばれていました。
殺人を犯していたのはこの3人がメインのようですが、「ペイモン・ファミリー」的な信者は他にも多数いた様子。
「ペイモンズ」3人を逮捕した際に殉職してしまったのが、ジェシカの父と、プライス巡査。
プライスは口内から撃たれたような死に方で、自殺したようにも見えますが、自分で撃ったのだとしても、操られて自殺させられたのでしょう。
もしかすると、正気を失ったプライスがジェシカ父を撃ち、自分も撃ったのかもしれません。
ジェシカの前に現れたプライスの霊は、ペイモンの演出によるものとも思えないので、純粋にプライスが謝りに来たのでしょうか。
後ろを向いたら実は死んでいたのがわかった、という演出は良かったですが、『シックス・センス』に似ていました。
逮捕後、ペイモンズの3人は、ジェシカが夜勤をした警察署旧庁舎の留置場内で自殺しました。
同じ部屋で勾留されるわけもないので、実際にペイモンがキティやドロシアに袋的なものを被せたり儀式的なことをしたとは思えませんが、そこは悪魔の力を借りてどうにかしたのかもしれません(便利)。
ジェシカが夜勤をしたのは、そのちょうど1年後であり、ペイモンの1周忌だったようです。
何度も旧庁舎に侵入してきたホームレスは結局意味不明な存在でしたが、何かを探していた様子からは、ファミリーの一員だったのかもしれません。
終盤、侵入してきてジェシカの銃を奪って自殺した女性もかなり意味不明でしたが、あれはジェシカの幻覚の可能性もあるかな、と思います。
新庁舎でジェシカの電話に対応してくれた男性(ちゃんと話を聞いてくれてすごく優しかった)によれば、ペイモンらが自殺してから、旧庁舎内で異常現象が起きたり、留置されていた犯罪者が正気を失ったりするようになったとのことでした。
途中、ジェシカもペイモンたちから語りかけられるような演出がいくつかありました。
自殺女性と出会う前にもその演出があったので、あの演出があるたびにジェシカは正気を失っていっていたのだ、と考えています。
ジェシカパパからの電話は、旧庁舎から逃げ出そうとしたジェシカに対してめちゃくちゃスパルタでした。
ただ、あれも、本当のパパの霊的な声ではなくて、悪魔がパパの声を借りて(真似て)喋っていた、と考えた方が自然でしょう。
本当のパパだったら、パパだいぶやばい。
あるいは、タイミング的には産廃業者のジョーからの電話だった(それがジェシカには違うように聞こえていた)かもしれないとも考えましたが、ジョーとやり取りしていたのは固定電話だったので、違いそう。
最後は結局、幻覚に支配されたジェシカが産廃業者のジョーたちをペイモン・ファミリーの一員と錯覚して射殺し、そのジェシカをコーエン巡査部長が射殺する、というバッドエンドでした。
ジェシカがペイモンを称える歌を歌っていたのは、ジェシカも悪魔に支配されてしまったことの示唆でしょうか。
ペイモンが述べていた「人間性を凌辱」されてしまった結果として捉えられそうです。
ここで問題となるのはコーエン巡査部長。
最後の最後には彼の背後からペイモンらが登場しましたが、あれは最後に現れたコーエン自体が幻覚だったり、コーエンもペイモンの支配下にあった、という可能性もあるかと思います。
ただ、個人的な結論からは、彼は特に支配されたりしているわけではないただの変人だった、と解釈するのが一番自然な気がします。
最後に現れたのも本人、ということです。
最初は、彼がペイモンの1周忌に、ペイモンを逮捕した警察官の娘であるジェシカを呼び寄せたのかとも思いましたが、ジェシカが名乗った際に「ローレン?」と少し驚いたようなリアクションをしていたので、どうやら知らなかった様子。
「留置場に近づくな」とわざわざ忠告してくれたり、ジェシカを撃ったあとに無線で応援を呼んでいたのは、普通の警察官としての行動に思えます。
きっと、単純に変人ながらもツンデレなだけで、電話ではジェシカを冷たくあしらいながらも、心配になってわざわざ制服を着て様子を見に来てくれたのです。
ところが、見に来たらジェシカが無抵抗の一般市民(ジョーたち)を射殺しているではありませんか。
旧庁舎でおかしな現象が起きていることはコーエンも知っていたはずなので、ジェシカも正気を失ったと判断して撃ったのだと考えると、特に不自然でもありません。
最後にコーエンの背後からペイモンたちが現れてコーエンが消えたのは、ジェシカ視点の幻覚でしょう。
と思ったのですが、見返してみるとコーエンは「(ジェシカの)宿直が終わる頃に戻ってくる」と言っていました。
時間もぴったり4時だったので、ジェシカを心配して来たわけではなく、ただただ出社してきただけかも。
その後の流れは上述した通りだとしても、やっぱりコーエンはただの変人で嫌な奴でしかなかったかもしれません。
ただ結局、色々細かい部分を想像したところで、今回の出来事の目的や意味がほぼ一切わからないのが、本作の評価を下げる一因にもなってしまっているのは否めません。
ペイモンの1周忌であったことも影響があったのだろうとは思いますが、それを説明するものは何も描かれていなかったように思います。
すべてに目的があったり説明できる必要もありませんが、あまりにも全体的に謎が多すぎるのが、本作のマイナスポイントでもありました。
だいぶ大雑把な感じではありましたが、設定や雰囲気は良かった本作。
クリーチャー的な造形も良かったので、そのあたり、もう少し活かしてほしかったとも感じました。
バッドエンドも好きなのですが、本作のラストは胸糞と呼べるほどでもなく、ジェシカはひたすら真面目だけだったので、理不尽な恐怖というよりも、ただただかわいそうな気持ちだけが上回ってしまいました。
本作は、まさかの(失礼)2023年にアンソニー・ディブラシ監督自身がセルフリメイクしているようで(原題『Malum』)、ストーリーが少しわかりやすくなっていたら嬉しい。
最後に余談ですが、冒頭でコーエンが説明してくれた際の「史上最悪の放射能汚染を生じさせる有害物質がここにある。今夜、近隣の犯罪者は皆これを奪おうとするはずだ。町の壊滅を君の力で防いでほしい」というジョーク。
個人的にはこのジョークが好きで、むしろこの設定の作品が観てみたいと思ってしまいました。
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