作品の概要と感想(ネタバレあり)
電話しながら運転していた警備員ディエゴは、誤って人を轢いてしまう。
動転して思わずその場から逃げ出し、自宅に戻るも気持ちが落ち着かない。
その夜、ディエゴは臨時の仕事で、ある病院の夜警を担当することに。
それは深夜の病棟を見回るだけの簡単な仕事のはずだった。
やがて廊下から聞こえる物音や監視モニターに映る何かが気になり確かめに行ったディエゴは、死体安置所にたどり着く。
そこで彼は、正気を失うほどの恐怖を体験する──。
2019年製作、パラグアイの作品。
原題は『Morgue』。
タイトル通り、モルグ(遺体安置所)で繰り広げられるホラー。
ホラーに限らずおそらく初めてのパラグアイ映画でしたが、「これぞホラー!」と叫びたくなるようなベッタベタのホラー演出、とても良かったです。
何がどこまで実話扱いなのかはわかりませんが、たぶんそこは触れない方が良いでしょう。
初めての国の映画を観ると「映像とか音楽の使い方が面白いな」と感じることが多々ありますが、本作もそうでした。
印象的なカメラワークも多く、ちょうど上に画像を載せた、床にカメラを置いたようなアングルが良かったです。
音楽は、世界観が合ってなさすぎるけどめちゃくちゃかっこいいエンディング曲、好きでした。
現役とは思えないボロッボロの病院と、あまりにも適当で雑すぎるモルグ。
その寂れた雰囲気だけでもう十分ホラーすぎて、最高でした。
パラグアイ事情を何も知らないので現実と比べての判断はできませんが、さすがにボロボロすぎやしませんか。
警備室なんて、どれだけ端っこに追いやられているのか。
そんな寂れた病院内で、孤軍奮闘する主人公の警備員ディエゴくん。
81分という短い尺の中で、たっぷり冒頭の15分ほども使って「彼がどれだけクズ男なのか」ということだけをこれでもかというほど見せつけてくれるので、彼がひどい目に遭っていても「まぁ、しょうがないよね」と落ち着いて観ていることができました。
中身は空っぽで、ひたすら見栄ばかり張るディエゴ。
1人で高級車の前だったり銃を持ってポーズを取りながら自撮りしている姿を見るのは激しく共感性羞恥心が喚起され、身悶えしました。
先ほどカメラワークを褒めましたが、ディエゴのドアップ連発はちょっと胃もたれしちゃいました。
でもディエゴ、仕事だけはしっかりとやっていて偉かったです。
普通だったらあんな寂れた病院での勤務だったらある程度のんびりしそうなものですが、防犯カメラの映像を終始チェックし、不審者がいれば駆けつけ、逃げられても追いかけるというギャップを見せてくれました。
まぁ、自撮りしたり彼女と電話したりはしていましたけど……。
終盤、消えそうな懐中電灯のバッテリーを取り出して入れ直して蓋を閉める際、焦って蓋を落としてしまっていたのがアドリブだったら上手い。
あとすごくどうでもいい点で、ディエゴが初めてフード男と顔を合わせた際、拳銃と懐中電灯をクロスさせて持っていましたが(ハリエステクニック)、拳銃を持った右手が下、ライトを持った左手が上になっていました。
あれは正しくはライトが下、拳銃が上です(相手を照射しつつ、拳銃を持った手をブレないように支えるため)。
次のシーンでは正しい形になっていたので、ディエゴの慣れてなさを演出したのか、単純にミスなのか、気になります(本当にどうでもいい)。
ジャパニーズホラー的な雰囲気もありつつ、ホラー演出のメインはジャンプスケア。
ただ、唐突なジャンプスケアではなく、「いいですか……いきますよ……いきますよ……はいっ!」という感じで小さな予兆を数回見せてくれる親切設計。
ワンパターンではなく、様々なパターンを駆使したホラー演出は、とても好印象でした。
一方で、いかんせん異常現象に巻き込まれた登場人物がディエゴだけなので、すぐに彼が殺されてしまうわけにもいかず、ひたすら彼が怖がらせられるシーンばかりが続いていくので、81分という短さながら、後半は冗長さを感じてしまった部分も。
ただ、登場人物が限られており、似たようなシチュエーションで繰り広げられる『ジェーン・ドウの解剖』は個人的には最高に面白かったので、見せ方次第であり、ストーリー性を持たせるかにもよるのでしょう。
とはいえ、本作もストーリー性がなかったわけではありません。
轢き逃げした被害者=ゴンザレスによる心霊現象というシンプルな展開……かと思いきや、終盤に突如急加速して情報量が増えて、大混乱。
どれが誰で、誰が何をしたかったのか?というのがかなりざっくりしたまま、ふわっと終わってしまった印象です。
整合性を検討するタイプでの作品ではありませんが、少し整理してみたいと思います。
考察:何が起こっていたのか?(ネタバレあり)
上述した通り、あまり整合性を求める作品ではないので、一番ベーシックな捉え方としては「ディエゴの轢き逃げにより死んでしまったゴンザレスの霊に呼ばれ、復讐として殺された」で終わらせておくことでしょう。
途中で現れた霊たちは、過去遺体となってあのモルグに運ばれてきた者たちの霊。
殺すまで時間をかけたのは、怖がらせるためと解釈できそうです。
いっぱい現れた幽霊たちは、みんなゴンザレスに協力してくれたのでした。
優しい世界。
最初はドアを動かしたり飲み物の容器を動かしたりする程度で「えへへ?怖いでしょ?」みたいにやっていたのが、けっこう図太いのか鈍感なのか、さほど怖がらないディエゴに業を煮やしたようで、どんどん力業になっていったのがちょっと面白かったです。
彼女とビデオ通話しているディエゴの背後をわざわざ裸の女性の霊が通るところなんか、最高に意地悪な霊たちなのでした。
ディエゴはクズ男らしく、霊たちに誘導されてもあまり深く考えることもなく、ただただ素直にあっちにふらふら、こっちにふらふら。
霊たちもさぞ誘導しやすかったことでしょう。
武器(ナイフ)を手にした瞬間、これまでの恐怖が一気に怒りに転じて暴走するところもリアルでした。
フード男も、通れない柵を通り抜けたあたりからは人間じゃないことが示唆されていましたが、最後には死者であったことが明らかになりました。
ラストシーンでは、他のみんなけっこう実体はっきりタイプだったのに、彼だけ古典的幽霊っぽい半透明な姿でちょっと面白かったです。
彼もおそらく、ディエゴをモルグへ連れ込む役目を果たしていたといえるでしょう。
ただ、「連中が怖い」みたいなことも言っていたので、一匹狼的な存在なのかもしれません。
「自分でまいた種は 自分で刈り取るもの」と最後に出ていたので、おそらく何か悪いことをした人が、霊に呼ばれてやってきては殺されていた、という流れがありそうです。
フード男が「お前はどんな悪さをした?」とディエゴに問いかけていたことからは、彼も何か悪事を働いたためにあの病院に呼ばれ、殺されたのだと推察されます。
ただ、みんながみんな警備員として呼ばれたと考えるのも不自然なので、他のパターンもあるのでしょう。
ちなみに、途中で現れたDV大男、あれはゴンザレスかと思っているのですが、どう思われますか?
あれがゴンザレスだとすると、彼は浮気した妻を殺し、あの病院に呼ばれた可能性が推察されます。
ただそうなると、ゴンザレスの死はディエゴの轢き逃げが原因のはずなので、矛盾してしまいます。
となると、あの大男は特に関係ないただのDV男で、妻?娘?を暴力で殺害してしまい、その霊に呼ばれて殺されたのかもしれません。
そう考えると、あのモルグにはどんどん霊が溜まっていきますね。
ディエゴにナイフを渡してくれた霊?遺体?も相当に謎ですが、被害女性の関係者だったのかもしれません。
最後は、わざわざ戻らなければディエゴは死ななかったのかもしれないのに……とも思いましたが、上司から病院で夜勤するように指示された電話が実際のものではなかったと考えると、ラストの同僚からの電話も本物の同僚からの電話ではなかったのだろうと考えられます。
非通知だったのも怪しいですし、ディエゴを呼び戻すための罠だったと考えた方が自然です。
やや突飛な説として、すべてがディエゴの妄想だった、というのも考えてみました。
この場合、轢き逃げ以降、病院に行ったこと自体が妄想ということになります。
夜といえどもさすがに病院内に人が少なすぎますし、フード男とあれだけ大騒ぎしながらチェイスを繰り広げても誰ともすれ違いもせず誰も駆けつけもせず。
さらには、ゴンザレスいわく「ニュースで大騒ぎになっている」らしい轢き逃げ事件の被害者の遺体が放置されたままというのも不自然です。
そう考えるとすべてが妄想説もありかと思いますが、「実話」を売りにしていることや、彼女と電話したりしていることからは、やはり現実にあった出来事として描かれていると考えた方が妥当なようです。
ラストシーンでは、病院内も普通に人が行き来していましたしね。
そうなるとゴンザレスの遺体が放置されていた謎が残りますが、実際にはゴンザレスの死はまだ轢き逃げ事件として事件化されておらず、「ニュースで大騒ぎになっている」というのはゴンザレスの脅しのような発言だったのかもしれません。
いずれにしても、たとえばDV男は霊でありつつも刃物を刺すことができて実体もあったようでした(全部ディエゴの幻覚・妄想だった可能性もなくはありませんが)。
ホラーとしても、蘇る遺体の恐怖を描きたかったのか、霊の恐怖を描きたかったのか、いまいちはっきりしません。
というより、全体的に、起き上がった遺体の概念と霊の概念が混ざっていたように感じます。
パラグアイは主に土葬文化のよう?なので、そのあたりも影響していそうですね。
最後の防犯カメラの映像ではディエゴだけが引きずられていたので、霊の姿はディエゴ=悪事を働きあの病院に呼び込まれた者たちだけに見える存在だったのだと考えられます。
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