【映画】パージ(ネタバレ感想・考察)

映画『パージ』のポスター
(C)Univesal Pictures
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

映画『パージ』のシーン
(C)Univesal Pictures

人々の生活を裕福にするため、安全を維持するために政府が定めた「1年に一晩(12時間)だけ殺人を含む全ての犯罪が合法になる」という法律「パージ」。
この夜は、警察や消防といった救急サービスの機能はすべて停止なり、街は完全に無法地帯と化す。
妻と2人の子どもと暮らすジェームズ・サンディンは、家族とともに「パージ」の夜を完璧なセキュリティの家で平穏に過ごすはずだった。
しかし、「パージ」開始直後にターゲットとなった1人の男を家にかくまってしまったことで、暴徒と化した市民から一家全員の命が狙われることとなる──。

2013年製作、アメリカの作品。
原題も『The Purge』で「粛清」といった意味合いです。

12時間あらゆる犯罪が合法化される法律「パージ」。
という設定だけでも、個人的にはどう考えても大好き。
非常にシンプルな設定で、斬新な発想というほどではありませんが、この発想をしっかりと固めて作品を作っただけでも大勝利でしょう。
しかもジェイソン・ブラムとマイケル・ベイの共同プロデュースで、イーサン・ホークが主演と、隙がありません。

冒頭の映像だけでもわくわくしました
秩序が崩壊した世界のような防犯カメラのリアルな映像もそうですが、バックで流れていたドビュッシーの「月の光」が、荘厳さを高めていました。

国が定めた殺人や暴力を容認する法律、というとパッと浮かんでくるのは日本の『バトル・ロワイアル』です(これも大好き)。
高見広春の原作を深作欣二監督が映画化した作品でも、バッハの「G線上のアリア」などのクラシック曲が使われていました。
エヴァなどでもクラシック曲は多数使われており、そのような例は挙げていくときりがありませんが、暴力的な映像と、暴力とは真逆のイメージの強いクラシック曲(激しい曲もありますが)の対比は、不思議な相乗効果を生むのでしょう。


内容に関しては、案の定とても好きな作品でした
ただ、思ったよりはこじんまりとしていた印象です。
パージ法に翻弄される社会全体というより、イーサン・ホーク演じるジェームズ・サンディン一家を中心に、ほぼジェームズの家の中だけで展開されたからでしょう。

パージ法に関してもさほど深掘りはされず、それに伴う人間のどす暗い部分が描かれるわけでもありません。
個人的にはもっとダークで暴力的でドロドロしていても良かったですが、程良いバランスで、多くの人が気軽に楽しめるエンタテインメントに仕上がっていた印象です。

冒頭のご近所さん(グレース)はどう見ても怪しくて「絶対襲ってくるでしょ」な雰囲気を醸し出していましたが、まさにその通り。
意表を突こうとはせず、あくまでもこの状況下での緊張感を楽しむエンタテインメント・スリラーに徹した作りでした。
メインはスリラーですが、マスクのパージャーがジャンプスケアで現れるなど、ホラー寄りの演出も見られました。

しかしとにかく、ジェームズの息子チャーリーがひたすらトラブルを招くので、もどかしさも募りました。
ただそれは、「持てる者」である富裕層家庭の息子らしい純粋さ、無知さとして描かれていたのかもしれません。
美少年でしたけれども。

娘ゾーイの彼氏ヘンリーは、パージを利用してジェームズを銃殺しようとするとは、なかなか短絡的な人物でしたね。
もし普通に交際が認められていたとしても、いずれDVとかしそう
ゾーイは男を見る目がなかったのかもしれませんが、年齢的にもまだまだ仕方ないでしょう。
というか、「ヘンリーとゾーイの年齢差が問題だ」みたいな話が何回か出てきましたが、ヘンリーは18歳だったので、別にそんなに離れていないのでは……?
ゾーイ、何歳だったんだ……?
もしかしたらそこもジェームズのこだわりがあったのかもしれませんが。

ジェームズは、良くも悪くも独善的
家族に対しても、思い遣ったり話を聞いているように見せかけて、自分の意見を押しつけます。
ナチュラルに醸し出る嫌味っぽさも、イーサン・ホークの演技も相まって見事でした。
ジェームズの敗因は、思ったより家が脆かったところ

メアリーは逆に、根は優しいですがあまり自分の軸がなさそう、と見せかけてジェームズがやられてからの終盤は一気に覚醒
ショットガン片手に睨みつけながら朝を待ち、抵抗しようとしたグレースの顔面を容赦なく叩きのめすなど、すっかり別人になっていました。
パージだからといって誰も殺さないという意志を徹底して貫きます。
母は強し。

そしてもう、いかにもすぎるパージャーのリーダー、大好き
演じていたリース・ウェイクフィールドは初めて知りましたが、あの不気味な笑顔(褒め言葉)が抜群に合っていました。
これもまたいかにもすぎるマスクのパージャー集団も好き。
結局カルト的な存在だったのか何なのかまったく説明されなかったところも、狂気度や不気味さを高めており良かったです。

パージ中は、狩る側も、当然ながら反撃を警戒しないといけません
単独行動をしていたパージャーたちは、案の定、順番にジェームズたちに返り討ちに遭いますが、かといってしっかりと統率の取れた集団行動をしていたら、作品が成り立ちません。
その点、襲撃者を狂気を感じさせるカルト集団っぽくしたのは、上手かったのではないかと思います。
楽しむかのように殺戮や無駄な破壊を繰り広げる彼らの姿は、「自分たちの正義の成功を信じきっているのかな」「死ぬのも怖くないのかな」「とにかく狩りのスリルを楽しんでいる狂人たちなのかな」と思わせるものでした。

グレースを中心とした近隣住民たちは、あくまえもジェームズの家が破壊されているのを見て、これはチャンスと便乗しただけ。
とはいえ、メアリーたちを殺そうとしたときには儀式めいたものを行っていたので、もともとパージの狂信的な信者のような集団であり、機を窺っていたのかもしれません。

ホームレスの男性は、結局ただの良い人でした
チャーリーが作った機械のおもちゃティミーに導かれるまま素直に追いかけていく姿、めっちゃピュア
最後にグレースたちの背後から現れてメアリーたちを救ったのはかっこ良かったですし、助けてもらったティミーを利用して助けるのも面白かったです
しかし、ティミーをしっかりと使いこなしていましたが、どうやって操作していたのでしょう。
自動走行機能とかついてたのかな。
助けに行く前に1人でコントローラを見つけて操作練習をしていたと思うと、微笑ましい。

彼が襲われた理由も、あれだけ執念深く追われていた理由もまったくわかりませんでしたが、でも、それがパージなのでしょう
罪のない者が、社会的弱者であるというだけで標的にされる。
結局、弱者への救済やカタルシスという名目で、弱者を合法的に排除できるシステムが、パージなのでした。
国内の分断が相当進んじゃいそう。


実際にパージ法ができたらどうなるだろう?と妄想してみるのも楽しい作品です。

最初に気になったのは、病院なども全部停止してしまう点でした。
パージの時間中に、富豪や政治家とかが急に倒れたときや、24時間365日治療が必要な人たちはどうするんだろう、と思いましたが、それはそれで弱者として諦めろということなのかな。
とはいえ、さすがにこの点だけでも反発や崩壊は激しそうです。

合法だからといって、普段憎んでいる人を実際に殺すかというと、できない人がほとんどでしょう
性善説的な話ではなく、人を殺すというのは相当心理的なハードルが高い行動であり、どれだけ殺したいと思う人がいても実行に至らないのは「捕まるのが怖いから」という理由だけではありません。
銃もあるアメリカならまた違うかもしれませんが、刺したり殴ったり首を絞めたりといったような、直接手を下している感の強い方法を取らざるを得ない日本だったら、さらにハードルは高そうです。

普段抑え込んでいるものを発散するというのは大事ですが、いきなり「はい、この12時間は何してもいいですよ」と言われても、直接的な暴力や攻撃性として表現するのは難しいですし、抵抗感も強いでしょう
殺人に限らないので、強盗とかも増えそうな気もしますが、自分が殺される可能性も普段より高いと考えると、むしろ逮捕されるリスクよりもハードルが高くなりそうです。

もし実際に攻撃性を解放してカタルシスを得られたとしても、一度解放の快感を知ってしまえば、日常では耐えないといけないのが今まで以上にストレスになったり、犯罪へのハードルが下がる可能性も考えられます
そのような人が「また1年後のパージまで我慢しよう」という考えでコントロールできるかどうかは、微妙。
あるいは、合法だったとはいえ罪悪感を抱え、病む人も増えそうです。

また、パージは日常の中に組み込まれているようなものなので、その後の生活にも影響があります。
パージを利用して殺人をしたのがバレていれば、「あの人に恨まれたら殺される」的な視線に晒されるのは間違いありません。
いくらパージの時間中は何もかもが合法とはいえ、その時間中の行動は、日常生活にも影響を及ぼし得るものです
飲み会やイベントなどで羽目を外して痴態を晒した人が、その後白い目で見られるようになるのと同じです。

あとは、上述した通り、襲うにしても反撃される恐れもあります
そうなると、結局お互いが牽制し合って何も起こらない、というのがほとんどになり、逆にストレスが溜まりそう。
日常への影響があることも考え合わせると、個人で実行するには、結局こそこそやるしかありません。

大っぴらに実行できるのは、調子に乗っちゃった集団や、本作に登場したような狂人的な集団でしょう。
多くの常識人は引きこもって籠城し、一部のやんちゃな集団だけが街に繰り出して騒ぎ、そんな集団同士で潰し合いそう。
パージを利用して調子に乗る集団に制裁を加える自警団的な組織もできそうですね。

作中では「パージのショーでも見る」と言っていましたが、あれは街中の様子が中継されるということでしょうか(冒頭の映像?)。
そうだとすると、家にこもってその映像を見て楽しむ人たちが一番陰湿な気がしますが、実際そういう人は多そうで、それが一番安全なカタルシスになりそうです。

とはいえ、一度社会が慣れて定着したら、年に一度のお祭り騒ぎのようにもなり得るのかもしれません。
そんな世界を描くのが『パージ』シリーズなのだと思うので、シリーズも追っていきたいと思います。

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