作品の概要と感想(ネタバレあり)
スウェーデンからクリスマス休暇のためノルウェーの家族を訪ねたイダは、妹のトゥーヴァに誘われて山間部の岩場の海にダイビングをしにいく。
神秘的な海中散策を楽しんでいたふたりだったが、突然山から落ちてきた岩がトゥーヴァに当たり、30m以上深い海底まで沈んで身動きが取れなくなってしまう。
イダは妹を救うため地上に上がり助けを求めるが、真冬の山に人影は見当たらない。
さらに、岩場に置いていた予備の酸素ボンベも、落石によって使えなくなっていた。
凍てつく海底で、刻一刻とトゥーヴァの酸素は尽きていき──。
2020年製作、スウェーデン・ノルウェー・ベルギーの合作作品。
原題は『Breaking Surface』。
海底に取り残されちゃった!
というシンプル設定なソリッド・シチュエーション・スリラー。
人間が小さく思えてくるような、雄大な雪山と暗く静かな海中が実に恐ろしい。
『海底47m』に似ていますが、本作ではサメは登場せず、あくまでも海底に取り残された恐怖感とタイムリミットの緊迫感のみで勝負していたところが好印象。
ワンシチュエーションものは、観客をいかに飽きさせないかが重要になってきますが、色々な要素を詰め込んだ方が、当然飽きない展開は作りやすくなります。
しかし本作ではあえて要素は少なめで、地上も使って場面を切り替えることでうまく飽きさせないように演出しており、『海底47m』の二番煎じ感は観る前に想像していたより感じませんでした。
ただ、上の画像はDVDのジャケットですが、さすがにこれは詐欺と言われても仕方ありません。
確かにシャチ(ややCG感強め)は出てきましたが、一瞬も一瞬。
しかもこんなに大きく見えませんでした。
シャチを活用したらしたでそれこそ『海底47m』感が強くなってしまうとは思いますが、シャチは珍しいので、せっかくならもう少し見たかった。
さて、ソリッド・シチュエーション・スリラーとしては上述した通り緊迫感もしっかりあって楽しめたのですが、いかんせん姉妹のキャラクターがあまりにも共感しづらかったのが残念なところ。
妹のトゥーヴァの方が明るく、ダイビングの知識が豊富な背景も描かれており、自身が海底で身動き取れなくなってからも冷静でしたが、やはり序盤で犬にタバコの吸い殻を食べさせていたところがあまりにも鬼畜すぎて、その印象が最後まで頭から離れませんでした。
本作で一番衝撃を受けたのがまさかのそのシーンで、犬にタバコを食べさせるなんて初めて見ました。
姉のイダは、あまりにもポンコツ具合が目立ちました。
ホラーやスリラーの登場人物にはポンコツさがある程度必須とはいえ、親近感の湧くポンコツなら良いのですが、イダはどちらかというと見ていてイライラしてしまうポンコツ。
車のトランクを巡る行動はちょっと失笑してしまうほどでしたし、トゥーヴァに開け方を聞かなかったのは謎でした(開けられたとしても結局意味なかったわけですが)。
パニックについては『REC/レック』の感想などでも少し触れていますが、誰しもパニックになったら自己中心的になり冷静な判断ができなくなってしまうものなので、その点は仕方ないのですが、それにしても終始ずっとパニック状態だったので、あれだけ時間があったのでもう少し落ち着いてほしかったところ。
ただ、次々とトラブルが発生するのでパニック状態が維持されてしまう演出は上手かったと思います。
トラブルはほとんどイダのパニックのせいだったので、ただ1人で悪循環に陥っていただけとも言えますが。
危機的状況では人間の本質が現れやすいものですが、イダの場合はだいぶヒステリックな側面が垣間見えました。
特に、やはり近くにあった家に助けを求めに行ったときの姿は忘れられません。
緊急事態でのパニック中なので、窓を割って侵入するのは百歩譲って理解できますが、犬の殺害はこれまた衝撃的すぎました。
襲われてさらなるパニックに陥ったのはわかるにしても、刺し殺すのはなかなか……。
犬の鳴き声は聞こえていたはずですし、そもそも侵入する部屋も選ぶべきでした。
しかし、本作はとにかくずっと犬の扱いが劣悪でしたね。
その点だけで拒否反応を示して、本作の評価だだ下がりな人も多いのではないかと思います。
しかも、犬がそのような扱いをされる必要性も、そのようなシーンを挟む必要性もまったくなかったので、さすがに文化差による感覚の違いということもないでしょうし、なぜあんな演出が続いたのかが謎すぎます。
2人がダイビングしている最中、ずっと寒い雪山で外に1匹で放置されているのもかわいそうすぎでしたし、そもそも連れて行かなくても良かった気がしますし。
落石によって、トゥーヴァの脚が挟まれたのも、備品がすべて埋もれてしまったのも、さすがに運がなさすぎてかわいそうでしたが、普段からひどい扱いをしていた犬の恨みだった可能性もあるのでは、と思えてくるほどです(さすがにない)。
犬については一旦置いておいても、無人の家に侵入したイダは、Skypeが繋がらなくてはヒステリックにキレて、探し物が見つからなければ「ノルウェー人ときたら」と差別的に愚痴り、その割に犬のことはまったく罪悪感を抱く様子もなく救助メッセージを残し、と何とも身勝手。
必死なのはわかります。
わかるんですけれども、ここまでのキャラに描かなくても良かったのでは、と思うポイントが多々感じられてしまいました。
別に映画なり物語の登場人物には必ずしも共感できなくて良いと思いますが、本作のようなソリッド・シチュエーション・スリラーの場合、それなりに「助かってほしい」という思いがないと緊迫感が薄れていってしまいます。
その点、姉妹がどちらもそれほど応援したい感じではなかったのが惜しいところですが、それでも緊迫感が保たれていたのは、それはそれでそれだけ演出が巧みだったとも言えるでしょうか。
共感しづらいといえばお母さんもキャラもそうで、幼少期にトゥーヴァが溺れた際、「死んだらお前のせいよ」と言い放ったのは、言ってはいけない台詞ナンバーワンでした。
車の中でセラピーを巡って怒りをぶつけるシーンもそうですが、どうやらイダのヒステリックなパニックに陥りやすい傾向は、母親譲りだったようです。
トゥーヴァが溺れたエピソードに関しては、この件がなくてもイダは最善を尽くしていたでしょうし、イダがそのトラウマを乗り越えるというほどの展開でもなかったので、あまり上手く活かされていなかった印象。
無茶な登山をして遭難するようなもので、半ば自業自得でトラブルに巻き込まれた2人でしたが、最後には2人とも助かるというハッピーエンドだったのは、本作のようなスリラーでは意外でもありました。
あの家の人がメッセージを見て救助を呼んでくれたのだとすれば優しすぎますし、ハッピーエンドの後日談としては不法侵入や犬の殺害などを巡ってトラブルになりそう。
そんなわけで、共感しづらいどころか、人としてどうかと思ってしまう登場人物が気にはなってしまいましたが、ワンシチュエーションのスリラーとしてはかなり楽しめた作品でした。
そして何より、ノルウェーの景色の壮大さ、雄大さがあまりにも美しすぎて圧巻。
登場人物に共感できないけれども、細かい不満を吹き飛ばしてしまうほどの景色の美しさは、雪山のリフトに取り残されるワンシチュエーション・スリラーの『フローズン・ブレイク』とまったく同じような感覚でした。
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