作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
不況のあおりを受けて失業中のダニエルは、妻レイシーの稼ぎを頼りに、思春期の長男ジェシーと次男のサムと4人で暮らしていた。
しかし、ある日を境にレイシーが耳鳴りに悩まされるようになり、真夜中に家の中に“何か”の気配を感じるようになる。
家の中が荒らされているのを見つけたレイシーは、不審者の仕業だと訴え、ダニエルは監視カメラを設置するが、そこには目を疑うおぞましい存在が映り込んでいた──。
2013年製作、アメリカの作品。
原題も『Dark Skies』。
SF × ホラー!
という組み合わせは、広義のSFで捉えれば斬新なわけではありません。
エイリアンものも、それこそ『エイリアン』を筆頭に古くから存在しますが、現代の日常を舞台としたエイリアンもののホラーというのは、けっこう珍しく感じました。
知らぬ間に我が家がエイリアンに侵略されていくという恐怖を描いたホラー。
個人的に好きで信頼しているブラムハウス製の作品で、さすがの安定した完成度でした。
作中でも言及されている通り、エイリアンというと大挙して地球に攻め込んできたり、人間社会の中枢を乗っ取ろうとするようなイメージが強いですが、とある家族だけを狙うというのはなかなか新鮮でした。
そのため、本作における恐怖は、「何が起こっているのかわからない」ことと、周囲を頼ることができない孤立でしょう。
前者の「何が起こっているのかわからない」点については、前半の演出がとても巧みでした。
窓が開き、台所で食べ物が荒らされているぐらいではまだ現実的な説明な理解が可能ですが、それでも動物の仕業にしてはおかしいし、それ以上に人間の仕業とは思いづらい痕跡。
続いて窓が閉まっているのに様々な物が積み上げられていたり、写真立てから中の写真だけが抜かれているというのは、方法も目的も不明すぎて異様。
その後も、全箇所の防犯装置が一斉に作動したりするのも面白かったですが、一番印象的なのは鳥の群れが3方向から窓にぶつかってきたシーンでした。
あれこそ異様で異常という他なく、「実際に遭遇したら」と想像してみればとても恐ろしいです。
バレット一家全員がそれぞれ、呆然と立ち尽くしたり痙攣を起こしたりおかしな行動を取るシーンも、異様さが際立っていました。
監視カメラの映像が活用されていたのも、個人的には好きでした。
ポスターなどでは、本作の製作も務めているジェイソン・ブラムが関わっていた『パラノーマル・アクティビティ』の文字が踊っていますが、『パラノーマル・アクティビティ』が2007年で本作が2013年なので、監視カメラ映像の導入は、そのヒットを受けた面もあったのかもしれません。
その後の展開も、じわじわくる恐怖感というよりは、現実的な理屈では説明がつかない現象に対する畏怖の方が大きかったように思います。
ただ、ブラムハウス製らしく(?)、唐突にジャンプスケアが訪れるので油断はなりません。
個人的には、どちらかというとこの「何が起こっているのかまったくわからない」時点での見せ方の方が秀逸で、その後は比較的シンプルな展開になっていった印象でした。
謎の対象の正体を教えてくれるおじいさんがいて、その情報をもとに家族で立ち向かう。
悪霊ものではとても多い定番の展開。
敵がエイリアンなのは比較的珍しかったとはいえ、「エイリアン」を「悪霊」などに置き換えても、本作は問題なく成立する気がします。
その意味では、骨子はけっこうスタンダードな作りだったと言えるでしょう。
「最初に接触したのは誰か?」と思わせぶりに問われ、あっさりと「サミーだ」と答えていたのは、「え、本当に?」とけっこうわかりやすく違和感がありました。
それもあって、狙われていたのが実はサムではなくジェシーだったというオチもある種定番であり、こういった作品が好きであればわかりやすかったのではないかと思います。
なので、その先にもう一段階何かあるかと思いましたが、そのまま意外とあっさり終わってしまった印象も。
しかし、ジェシーが最初に接触したのが幼少期だったとすると、時間差攻撃にも程がありますね。
背景に関しては、何せ相手がエイリアンなので、バレット一家が狙われた理由も、あのような異常な現象で怖がらせようとしたのも、はっきりした理由はまったく不明です。
そこは劇中でも「がんの研究者の意図がラットにわかると思うか?」とわざわざ言わせていたので、考えるだけ無駄であり野暮な点なのでしょう。
人間はエイリアンのグレイズの実験対象に過ぎません。
グレイズの造形は不気味で、はっきりとは映さないところも良かったです。
謎が残るポイントとしては「移植」でしょうか。
耳の裏に埋め込み(?)、「無意識に行動させたり、見えないものを見せたりする」という移植。
耳の裏の痕跡を確認したのは父親のダニエルだけでしたが、母親のレイシーも記憶のない行動を取っていたことを考えると、家族全員、少なくともダニエルだけではなくレイシーも移植されていたと考えた方が自然です。
ただ結局、移植して無意識に行動させたり見えないものを見せたとして、それに何の意味があるのかはよくわかりません。
ここも上述した通り、グレイズの何かしらの実験であるとすれば、人間の想像は及ばないのでしょう。
あえて人間的な理解で説明がつく形で考えるとすれば、変な行動をさせて周囲から孤立させ、対象を攫いやすくするのが目的だったのかもしれません。
教えてくれたエドウィン・ポラードの耳の裏にも痕跡があったことから、移植されても失踪もせず普通に生き続けることは可能なようです。
ポラードは、悪霊者の霊能力者のように活躍してくれるかと思いましたが、情報を知っているだけで完全に無力でした。
それはそれでリアルで良い。
ですが、彼も移植されていた点を踏まえると、もしかするといまだにグレイズに操られていた可能性も考えられます。
つまり、「家族で団結して戦う」という対策が実は間違っており、グレイズに襲撃させやすくするための策略だったのかもしれません。
果たして彼が失踪した子どもの写真を壁に貼っていたのは、無事や解決を願う心からだったのか、グレイズの手下として協力した実績としてだったのか。
ラストのトランシーバーからジェシーの声が聞こえてきたシーンも完全に謎ではありますが、「月面基地と司令室」というSF設定で交信していたのも、伏線のようになっていて面白かったです。
ポラードは「攫われてから戻ってきた事例は滅多にない」と言っていましたが、逆に言えば戻ってこられる可能性もゼロでないということなので、続編を作る際の伏線として残しておいたのかもしれません(本作公開から現時点で10年ほど経っていて音沙汰はないようですが……)。
バレット一家はなかなか魅力的で良かったです。
息子2人はとにかく可愛い。
父親ダニエルは少々短気で直情的ですが、ちゃんと考えれば冷静さも持ち合わせており、家族想い。
ただちょいちょいトラブルも引き起こすので、ダニエルが失職中だったこともあり、母親レイシーの心労はかなりのものだったでしょう。
全体的に不合理すぎてもどかしい行動がなかったのも好印象なポイントですが、最後に分散して逃げたのはやはり失敗でしたね。
レイシーすら子どもたち2人を部屋に押し込んで自分は廊下で待機したのは、グレイズが防犯装置を作動させずに出入りできることは知っていたはずなので、さすがにちょっと謎行動。
まぁ本当に襲いかかってきたのでテンパってしまったのでしょう。
「明日来る」と言っていた児童保護局が来なかったり、薬の効果が絶大だったのか犬アレルギーのダニエルと犬が共闘(?)していたりとちょっと突っ込みどころもありましたが、展開はとてもスタンダードながら設定が面白く、全体的に楽しめた作品でした。
ただ最後に、どれほど細かいと言われようと、どうしても言い残しておきたい点が1点。
それは、暴走したダニエルがラトナー少年を問い詰めに行って、ラトナー父に殴られたシーン。
このシーン、よく見ると、ラトナー父は拳を握った右腕を振り上げますが、視点が切り替わっていざ殴るシーンでは左拳で殴っているんです。
その後、ダニエルは右頬を冷やしていたので殴られたのは左拳で正解だったのでしょう。
でも、一瞬ですが拳を振りかぶったシーンは確かに右手なのです。
だから何?
そんな質問が聞こえてきます。
本筋に関係ないですし。
自分でもそう思います。
いやでも別に揚げ足取りでも批判でも何でもなく、むしろ逆で、当然かもしれませんが、あの一瞬、たった数秒の些細なシーンでも、視点を切り替えてシーンを分けて撮影しているのだなぁと思うと、撮影の大変さと尊敬の念を感じたのでした。
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