作品の概要と感想(ネタバレあり)
ロサンゼルスから遠く離れた場所で行方不明になった母を捜す<デジタルネイティブ世代>の高校生ジューン。
検索サイト、代行サービス、SNS…使い慣れたサイトやアプリを駆使し、捜索を試みる。
スマホの位置情報、監視カメラ、銀行の出入金記録など、人々の行動・生活がデジタルで記録される時代、母は簡単に見つかるはずだった。
不可解な事件はSNSで拡散され、国境を越えて大きなトレンドになっていく。
BUZZに翻弄される中、真相に迫ろうともがくジューン。
そこは“秘密”と“嘘”にまみれた深い深い闇への入り口だった──。
2023年製作、アメリカの作品。
原題は『Missing』。
パソコンやスマホといったデバイスの画面上の映像だけで展開されるという斬新さと、引き込まれるストーリー、そして散りばめられた伏線の怒涛の回収で圧倒的面白さを誇った『search/サーチ』の続編。
以下、前作『search/サーチ』のネタバレも含まれるのでご注意ください。
前作『search/サーチ』については、以下の記事をご参照ください。
前作の感想で、続編について「完成度の高い脚本こそが『search/サーチ』の売りだったので、そのあたりがどうなるのか、あるいはまた違った路線で魅了してくれるのか、期待したいと思います」と書きました。
いやぁ絶対「1の方が面白かったなぁ」ってなるんだろうなぁ……と内心思いながらも、「いやでももし面白かったら恥ずかしいぞ」と思って上述したような保険をかけた表現にしたのですが、結果、大正解。
非常に珍しく、大成功している続編と言えるでしょう。
とはいえ、基本的なコンセプトをそのまま転用した形で、ストーリー上の繋がりはほとんどありません。
なので続編というよりは、シリーズものの続きといった印象。
「続編」「シリーズものの続き」と何が違うのか、という話ですが、何となくそのように感じました。
同じ世界観の、違う話。
原題が『searching2』ではなく『missing』なのも、そのあたりが意識されていそうな気がします。
怒涛の伏線回収の快感はそのままに、デジタルネイティブな高校生を主人公にしたことで、作品全体のテンポもアップ。
スマートウォッチやライブカメラを利用するなど、技術面での演出もアップデート。
二転三転する展開から目が離せず、一気に111分を駆け抜けました。
しかし、母親がマッチングサイトを利用していたことを知り、さらにはその内容を見てしまうというのも、なかなかに苦行。
前作で脚本を務めたアニーシュ・チャガンティ監督とセヴ・オハニアンは製作に回り、前作で編集を務めたウィル・メリックとニック・ジョンソンの2人が共同で監督・脚本を担当した本作。
2人は初監督作品だったようですが、それでこの完成度は見事でした。
と、鑑賞直後は大絶賛でしたが、少し冷静になって考えてみると、個人的にはやはり前作の方が完成度がも高かったし好きかな、とも感じます。
比べる必要もなく、どっちも好きなのは間違いありませんが。
観終わってからじわじわと「これはすごい作品だ……」といった感覚が高まっていった前作に対して、逆に観終わった直後がピークで、じわじわと落ち着いていくのが今作だったようなイメージ。
要因としては色々考えられますが、一番は深みが減ってエンタメ度が強まっていた点かな、と感じます。
国境を超えて前作よりも規模が大きくなったこともあり、ツッコミどころが多い本作。
しかし、観ている間は怒涛の展開でその矛盾を感じている暇がありません。
引き込み勢いある展開は、とにかく素晴らしい。
怪しい人がどんどんと入れ替わっていく様は、見事としてか言いようがありません。
一方で、冷静に振り返り始めると細かい点が「あれ?あれ?」と感じられてしまいます。
作品全体の評価に支障を来すほどではありませんが、観終わった直後の評価が落ち着いていく要因にはなっていました。
また、前作はストーリーの多層性も見事で、表面的な謎の解決と伏線の回収は言うまでもなく、背景には親子関係の修復も描かれていました。
娘のことを何も知らなかった主人公デビッドが、事件を通して娘に向かい合い、妻を亡くして以降生まれていた確執が解け、父として娘との絆を取り戻す。
一方では、ヴィック刑事も息子を守るために事件を起こしていました。
ヴィック刑事の誤った母性と、デビッドが取り戻した父性とが対立するという構図も、切なさを喚起させるものがありました。
しかし本作では、言ってしまえば結局は暴走したDV男がさらに暴走した事件でしかありません。
家族関係の修復というような話でもなく、主人公ジューンと母親グレイスの仲が深まったとはいえ、死んでいたと思った父親が実は生きていたけれどひどい男で、今回また暴走して結局は母親に殺されるのを目の前で目撃してしまった、というのはなかなかの悲劇。
また、伏線の回収は見事ながら、犯人がジェームズだとわかったあたりからは、謎の解明や伏線の回収ではなく、どう逃げるか、どう解決するのかというハラハラサンペンスものに。
このあたりが、エンタメとしてはよりスピード感が増しながらも、作品としての深みは少し浅くなってしまっていた要因であるように感じました。
謎や伏線自体も、前作は娘の意外な一面や本当の気持ちにデビッド気がついていく過程に観客も一緒に引き込まれましたが、本作では、単純に「親によって隠されていた」だけなので、「そりゃあジューンは知らなくてもしょうがないよね」と感じてしまった部分も。
ジェームズとケヴィンは結局ただの悪者でしかなかったのは残念でなりませんが(特にケヴィン)、ハビエルという最高癒しキャラを登場させた功績はとても大きいでしょう。
改めて振り返ればトータルとしてけっこう救いのない話でしたが、とにかく優しすぎるハビエルに、ジューンも観ている側も救われました。
最後にはいいところをSiriに持っていかれるところも憎めない。
ただ、ハビエルが息子と和解するのも、脇役なので仕方ないですが取ってつけたような予定調和感も漂い、やはりそのあたりの人間模様の深みは前作の方が強く感じられました。
緩急のつけ方も同じくで、前作で印象的だったのは、マウスのカーソルの動きだけからデビッドの葛藤などの心情が読み取れるところでした。
本作でもそのような演出もなくはありませんが、全体的に登場人物の細かい心情の変化やヒューマンドラマ要素は弱まり、サスペンス・スリラーとしてのエンタメ度が強く押し出されていた印象です。
ここは良い悪いではなく、好き嫌いでしょう。
そんなわけで個人的には、何重にも重なった深みのあるストーリーと、無駄のない伏線や細かい演出は前作に軍配が上がります。
それでも本作が楽しかったのは間違いなく、Apple製品が好きなこともあり、大好きなシリーズとなりました。
スマートウォッチはあえてApple Watchではなかったところも、妙にリアル。
技術面の活用が楽しいのも本シリーズの魅力ですが、パスワードの再設定は最近は2要素認証なども増えてきているので、本作のようなやり方が通用するのは時代的にもぎりぎりのタイミングだったかもしれませんね。
考察:出来事の整理と犯人の目的
スピード感がある分、観ている間はついていくのに精一杯だった本作。
出来事について、少し整理してみましょう。
まず発端は、DVとドラッグに染まっていたジェームズと、グレイス(本名はサラでしたが、グレイスで統一します)との離縁でした。
グレイスはジェームズを告発し、司法の力も借りて名前を変え、別人として娘のジューンと新たな人生を歩み始めました。
このときに協力してくれたのが、弁護士のヘザー。
ヘザーからの「私が担当します。無料で結構です」というメールでこれまでの構図がひっくり返ったあたりが、個人的には正直本作におけるピークでした。
あっさり殺されてしまったヘザー、無念。
ジェームズは12年服役し、出所後、どうやったのかはわかりませんがグレイスを見つけました。
ジューンのパソコンをクラッキングしたりと、かなり高度な形で監視していました。
10年以上も社会から離れていていたらIT系には疎くなるでしょうし、お金もなかったのではないかと思いますが、そのあたりは説明されず。
お金はあって、詐欺師かつITに強いらしい(アプリ会社のCEOをしていた?)ケヴィンを雇って何とかしたのでしょう。
そして、ここから妙に複雑な手を打ち始めます。
まずはマッチングサイトを通してケヴィンをグレイスに接近させました。
相性抜群だったのは、ジェームズからグレイスの好みなどを聞いていたのでしょう。
何度連絡してもグレイスがガン無視を続けていれば話はまったく展開しなかったでしょうが、その場合は違う方法を用意していたのか、あるいはケヴィンの外見もグレイス好みであると踏んでいたのか。
晴れてグレイスと付き合ったケヴィンは、彼女を海外旅行に誘います。
そして、舞台女優的な女性も1人雇い、ウーバーの運転手に扮したジェームズとケヴィンは道中でグレイスを監禁。
グレイスに偽装した女性とケヴィンは旅行を続け、わざと街中のカメラに映り込んだりしながら、海外で誘拐されたように見せかけました。
あれは結局、あのままグレイスもケヴィンも行方不明になる、という目論見だったのですかね。
飛行機での女性の写真がグレイスではなかったというのが判明するシーンも、Live Photosを使っているところが面白かったですが、あんな最高の証拠を気づかず送ってしまったことになるケヴィンは間抜けすぎました。
「iPhoneにちょっと疎い人から送られてくる写真がみんなLive Photosになっている」というのもあるあるなので、そのあるあるネタを活かしたのもあるかもしれません。
ジェームズの目的が何だったのかといえば、一つはグレイスに対する復讐だったのでしょう。
かつて2人が住んでいた家の物置(?)にグレイスを閉じ込め、「ずっと監禁しておくつもりだった」みたいなことを言っていたので、自分が苦しんだ12年と同じ苦しみを味わわせてやろう、という復讐に燃えていたことが推察されます。
また、すべてが発覚してからは、グレイスを殺害してジューンとあの家を離れようとしていました。
発覚しなかったらどうしようと思っていたのかはわかりませんが、ジューンにも執着はあったようなので、グレイスが行方不明になり意気消沈しているジューンの前に現れてグレイスを悪者扱いして、一緒に暮らそうと考えていたのかもしれません。
しかし結局、反抗したジューンも監禁していたりと、その行動は場当たり的で支離滅裂。
DVを振るう人は大抵、直情的です。
感情のコントロールが難しく、瞬間的に感情を爆発させてしまいます。
そしてあとから後悔はして謝るけれど、それは本心から悪いと思っているわけではなく、相手を繋ぎ止めるための、つまりは自己中心的な謝罪でしかありません。
そして結局は同じパターンを繰り返します。
つまり、計画性には乏しく場当たり的なことが多いので、本作のジェームズの計画も、それほど明確なビジョンがあったわけではないのでしょう。
グレイスを殺害してジューンを無理矢理連れて行ったところで、ジューンが大人しく一緒に暮らしてくれるわけもありません。
そもそも、事件自体が壮大な割に相当な無理がありました。
しかし、12年も経っているのにこんな事件を起こすか?という点については、「起こし得る」と言えるでしょう。
ストーカーやDVの加害者は、異常なまでの執着心が特徴的です。
特に、自分を裏切った相手への怒りは凄まじく、通常であれば時間の経過とともに怒りなど強烈な感情は落ち着いていくものですが、彼らの場合は衰えることを知らず、むしろエスカレートしていくことも少なくありません。
たとえば2012年の逗子ストーカー殺人事件では、途中で諸々の経緯があったにせよ、最初に別れを切り出されてから殺害に至るまで、実に6年ほどの時間が経過していました。
ジェームズが生きているのを知らなかったジューンは真相に気がつけなくて当然ですが、 FBIは当然、ジェームズの犯罪歴やグレイスに対する保護命令などこれまでの経緯は把握していたはずなので、すべての情報を持っていたはずのFBIがあんなに手間取ったのは解せません。
グレイス周辺で事件が起こったとなれば、まずはジェームズの名前が挙がるでしょう。
警察がポンコツなのはこういった作品の定めではありますが、さすがにあまりにも役立たずでした。
また、これを言い出したらキリがありませんが、ジェームズを死んだことにしていたのがそもそもどうだったのかなぁ……とも思ってしまいます。
保護命令が出て改名もしていたのでもう大丈夫だろうと思っていたのかもしれませんが、今後危険が及ぶ可能性もあるので、ジューンには打ち明けておいても良かったようにも思います。
もちろん、忘れたい過去だったでしょうし、成人してから話そうなど考えていたのかもしれませんが。
最後に一つ、どうしても謎なのが、冒頭のパソコン画面に「James Medical」として「脳腫瘍」や「髄膜腫」のファイルがあったことです。
鼻血も結局、ただたまたまだったのか、ドラッグなどの影響だったのか、あるいは病気は病気で本当にあったのか。
あのファイルたちによって完全にジェームズが病死したとミスリードされたわけですが、あれの意味が明かされないのは、正直ちょっとずるい感も。
「時には嘘も必要」という言葉とともにあのファイルを準備していたので、あれは成長したジューンに対する偽装であったのだろうとは思いますが、あそこまでする必要はない気もします。
また、細部から離れて心理学的・社会的に本作を俯瞰して見ると、非常に現代的な作品であると感じました。
もちろん、ITデバイスが駆使されているからというだけではありません。
まず構造的に、「少年が父親を探す旅に出て、父親を乗り越えて自立する」という古典的な英雄譚とは真逆と言えるでしょう。
主人公は女子高校生。
親を探すという構図は古典的ですが、その失踪の理由は何と、親同士の揉め事。
明かされた真実は、犯罪者で自己中心的な父親と、良かれと思って嘘で塗り固めていた母親や大人たち。
そして、その真実に至る過程では、役に立つ大人はまったく出てきません。
ハビエルは重要でしたが、あくまでも情報提供者、サポーターに過ぎません。
役に立つのは大人ではなく、パソコンでありスマートフォン。
最後にグレイスが身を挺してジューンを守り、ジェームズを殺害したのはせめてもの救いでしたが、家族の平和を取り戻したのは完全にジューンの努力と機転でしかありません。
親を乗り越えるのでもなく、親との絆を取り戻すのでもなく、自分だけの力で、真実を解き明かして人生を切り拓いていく少女の物語。
そのような観点で見ると、非常に現代の暗部が投影されている感が否めず、なかなかに不安な気持ちになってくるのでした。
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