【映画】バーバリアン(ネタバレ感想・心理学的考察)

映画『バーバリアン』
(C)2022 20th Century Studios.
スポンサーリンク

 

作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『バーバリアン』のシーン
(C)2022 20th Century Studios.

仕事の面接のため、デトロイトを訪れたテス。
深夜に宿泊のために借りたバーバリー通りにある家に到着するが、ダブルブッキングにより、すでに見知らぬ男キースが滞在していた。
嵐の中、行く当てがなかったテスは、彼とともにそこに宿泊することを決意。
その夜、自分の部屋で眠っていたテスは、部屋のドアが開けられ、家中を動き回る大きな音で目がさめる。
翌日、地下室にトイレットペーパーを探しに下りたテスは、誤って鍵をして閉じ込められる。
そこで、謎の扉を見つけるのだが──。

2022年製作、アメリカの作品。
原題も『Barbarian』で「野蛮人」などの意。

軽く作品情報だけを見ても、どんな作品かまったくわかりませんでした。
そのためけっこう評価が高そうだなと思いながら観るのが後回しになってしまっていたのですが、結果、早く観れば良かったと思えるほど楽しめた作品でした。
観たあとでも、どんな作品かを簡単に説明するのも難しいですし、何も知らないで観てこそ面白さが増す作品でもあるので、他の人に勧めるときには「とにかく観てみて!」としか伝えようのない作品。

とにかく予想のつかない展開が魅力でした
序盤、主人公のテスが家の中を探っていくシーンでは、キースはとにかく怪しいし、地下のさらに地下道があるところなんかはとてもドキドキしました。
スタイリッシュな演出、テンポの良い展開に、これはもしや、とてつもなく大好きな作品になるのでは……?と期待が膨らみます。

そして、突然の場面と視点人物の転換。
これ、ちゃんと同じ作品?
何か操作を間違えたかな?
と思ってしまうほど異なる雰囲気。
しかし、しっかりとあの家に戻ってきて、別の視点で明かされていく真実。

そして、まさかの、は、は、裸の落武者だー!!

いやもう、色々な点において、予想の斜め上ばかりだったとしか言いようがありません
お見事。
お見事ですが、後半はホラーというより「何なんだこれ」状態で、半ばコメディでもありました。
ホラー作品として楽しめたピークは前半でしたが、トータルでも好きな作品です。

終盤、急にぶっ飛んだゴア要素が増したのも最高
助けてくれたホームレス?の男性が速攻でフラグ回収したのは、まごうことなきギャグ。
そして引き抜かれた自分の腕で殴られて死ぬなんて、最高のショーだと思わんかね(ムスカ大佐)。
その後のAJも、目を潰されて頭部を左右に引き裂かれるという素晴らしさで、目が、目がぁぁぁっ(ムスカ大佐)!

半ばコメディという感覚はおそらく間違っていないようで、本作の監督ザック・クレッガーはもともとコメディアンとして活躍し、コメディ番組に関わったりもしているようです。
コメディアンでありホラー映画監督といえば、『ゲット・アウト』『アス』『NOPE/ノープ』などで確固たる地位を築きつつあるジョーダン・ピール監督が浮かびますが、まったく先の読めない感覚が似ており、定石にとらわれないオリジナルの世界観や展開などが共通して感じられます。
押しつけがましくない絶妙な加減で社会風刺的な要素が取り入れられているところも。


『バーバリアン』は女性と男性、現在と過去と視点が入り乱れて進んでいき、ヒトコワ系か?オカルトか?と惑わされましたが、まさかのモンスター的なホラーに着地
そして明かされた真実は、なかなか救いようのないものでした。

しかし、あの地下で襲ってきた化け物は、エンドロールのクレジットでは「The Mother」と表記されていましたが、どうにもインパクトが強く、笑いと恐ろしさの絶妙なバランス……いや、笑い寄り……になっていたので、そこが重々しくなりすぎなかったポイントかもしれません。
最初のテス編の最後に一瞬ちらっと出てきたときには『REC/レック』のような恐ろしさがありましたが、ずっと画面に映っているとだんだん面白く見えてきてしまいます。
日本人には落武者にしか見えないところも影響していそう。

そしてとにかく、映像や展開のテンポの良さが素晴らしかったです
時間を稼ぐためにも、どうしてもぐだぐだしたシーンが挟まれがちなホラー映画ですが、複数の視点を織り込むことで無駄に伸ばす必要性が解消。
時間のスキップのさせ方や、独特のBGMも印象に残ります。
監督の今後の作品にも期待。

ちなみに本作は、ザック・クレッガー監督のインタビューによると、防犯コンサルタントであるギャヴィン・ディー=ベッカーの『暴力から逃れるための15章』という本を読んでアイデアを思いついたそうです。
「『バーバリアン』では、男性なら気にも留めない、でも女性なら誰でも気付く”危険信号”を、できるだけ多く描きたかったのです」とも述べられている通り、本作では男女の視点の対比が印象的でした

慎重で責任感の強いテスと、危機管理ガバガバで自己中心的なAJ。
ホラー映画でも、生き残るのに大切なのは、暴力を含めた恐怖の察知と、適切な対処
AJがホラー映画で死ぬキャラの典型だった一方、テスはホラー映画の登場人物らしからぬ慎重さを備えていました。
あの不穏さの中、ウキウキで地下空間の広さを測るAJはあまりにも滑稽。
AJが死に、テスが生き残ったのも、必然と言えるでしょう。
とはいえテスも、人の話を聞かなかったり(面接のあと)、「そこでそっち行っちゃう?」みたいな行動が多かったので、しっかり巻き込まれてしまいましたが。

もはやRPGの地下ダンジョンのようなシチュエーションで、展開としても脱出ゲームっぽさがあるなと思っていましたが、何とすでに、ゲーム化が2023年10月頃に発表されているようです。
この記事を書いている2024年1月時点では対応ハードや発売日などはまだまったくの未定のようですが、ぜひやってみたい。

スポンサーリンク

考察:The Motherとは何だったのか?(ネタバレあり)

映画『バーバリアン』のシーン
(C)2022 20th Century Studios.

「The Mother」あれこれ

『バーバリアン』において、地下で襲ってきた全裸落武者女子ことThe Mother
彼女は一体どのような存在だったのでしょうか。

作中で説明された限りでは、彼女はフランクの娘だったようです
フランクは、女性を攫っては自宅に監禁し、強姦して子どもを産ませ、さらにその子どもも妊娠させたりしていたらしい、相当に危ないヤツ。
現代では、 地下室で寝ており、銃で自殺した老人がフランクでしょう。
過去シーンは、レーガン政権が発足したあたりのようだったので、1981年頃であると考えられます。

The Motherの現実的な設定としては「フランクの子」ですが、明らかに人間を超越したモンスターとなっていました
ちょっとした攻撃ではほとんど無傷。
人間の解体もちょちょいのちょいの怪力。
近親相姦は障害の可能性を高めますが、そういったレベルではありません。

「The Mother」という名称からは、母性的な存在を想像させます。
なるほど、哺乳瓶を差し出したり授乳するシュールなシーンや、ベイビーと認定したテスを命懸けで守ろうとする姿からはそのような要素も汲み取れます。

しかし、忘れてはならないのは、彼女は母親になりたくてなったわけではないということです。
他の作品でも母性については多々触れていますが、生命を生み出したり優しく包み込む、あるいはすべてを呑み込み死に至らしめるといった、いわゆる母性的な要素とはまったく異なる存在です。

個人的な解釈としては、フランクの被害者たちの集合体のようなイメージです
フランクに監禁・強姦され、子どもを産まされ、育てさせられた女性たち。
フランクはきっと、ろくに子育てもしなかったでしょう。
地下で流れていた育児映像は、母親たちに育てさせるために見せていたと考えられます。
ただただ、子どもを産み育てさせられるためだけに監禁され続けた女性たちの恨みは、尋常なものではなかったはずです。

しかも、その子どもたちもフランクの被害に遭うのです
男児もいたでしょうが、男児の場合はすぐに殺されていたのかもしれません。
The Motherに関して特筆すべきは、演じていたのがマシュー・デイヴィスという男性の俳優である点です。
フランクの犠牲となり、フランクのことを恨んでいたのは女性だけではないわけで、 The Motherはもはや男性も女性も超越した存在でした。


そう考えると、キースはすぐに殺したのに、テスはすぐに殺さなかったことや、テスを赤ちゃんとして認識したことも理解しやすくなります。
男性は、The Motherにとって大きな脅威であり、敵です
男児がすぐに殺されていたとすれば、彼女が知る男性はフランクのみです。

地下にいたフランクを世話していたのも、The Motherであると考えられます。
ただそれは、もちろん愛情に基づくものというより、支配によるものです。
精神的な支配、フランクに対する恐怖感は、フランクが寝たきりになったからといって薄まらなかったはず。
フランクはきっと、あの部屋でThe Motherに自分の世話をさせ、過去のビデオを再生させてそれを見る毎日を繰り返していたのでしょう。

The Motherがテスを殺さなかったのは、女性だから殺さなかったわけではなく、テスが逃げてあの空間(天井から哺乳瓶を差し入れられた空間)に閉じ込められたからかもしれません。
しかし、その後の展開を踏まえると、やはり女性のことは育児対象として認識していた可能性が高いでしょう
よく観ると、テスが逃げたので追いかけはしましたが、The Motherがテスを襲ったり殺そうとしたシーンというのは、全編通して存在しません。

AJに哺乳瓶を差し出したり授乳したのは、同じくあの空間に閉じ込められたからと考えられます。
ただ、「赤ちゃん」と呼びかけたのはテスに対してのみであったので、AJに対しては、「ここにいるし、うちの子なのか……?」みたいな感じで一応育てようとしたけれど、逃げ出したので「やっぱ違うな!」となったのではないかと思います。

残忍なやり方で男性陣を殺していったのは、抑圧されていたフランクに対する恨みや攻撃性とも捉えられるでしょう
夜しか移動できなかったのは、ずっと地下で育てられていた影響でしょうか。

我が子を守り育て、その他はすべて排除する。
人間社会では極端ですが、ある意味で究極の母親的な存在とも言えます。

「バーバリアン」だったのは誰?

タイトルにもなっている「バーバリアン」つまり「野蛮人」だったのは誰でしょうか。

これは言うまでもなく、フランクでしょう
言葉も喋らず、全裸で襲いかかってきて怪力で殺戮を繰り返すThe Motherが一見バーバリアンに見えますが、上述した通り、彼女もまた被害者でしかありません。

自らの欲求だけで女性を物のように扱い、管理し、さらには我が子にまで手をかけ続けたフランクは、まさに野蛮としか言いようがありません。
地下室に女性を監禁するというのは珍しくない設定ですが、その規模が大きすぎるぜ、フランクさん。

フランクが最後に自殺したのは、後悔の念などではなく、事態が発覚したことで自らの終わりを悟ってのことだと思われます。
最後まで自分勝手に逃げたわけですね。

ただ、ザック・クレッガー監督の話では、作品のデータを保存する際、名前をつける必要に迫られて「バーバリ通りの住民だから”バーバリアン”だ」と名づけたらしいエピソードも見かけたので、さほどタイトルの意味にこだわる作品ではないかもしれません。

キースは結局何者だったのか?

謎多き男、キース。
彼は結局謎を残したまま退場し、その後現れることはありませんでした。

結局彼は怪しい人物だったのか?
夜、テスが寝ている寝室のドアを開けたのはキースだったのか?

結論から言えば、キースは序盤の当て馬でしかなかったと思います

まずは、展開を予測不能なものにするための、キースが危ない人物なのか?オカルト的な現象なのか?とミスリードさせる役割。
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』でペニーワイズを演じたビル・スカルスガルドをわざわざ起用している点からも、キースが怪しく見えるように演出されていたのは明らかでしょう。

さらに、キースもまた、AJとは異なる男性らしい危機意識の薄さが見られました。
テスに対して、すぐにメールを見せなかったり、「そこまで警戒しなくていいのに」という感じだったり。
AJより紳士的・常識的に見えながらも、女性がどう感じるか、というところまでは十分に配慮できていません。
上述したテスとの対比で男女の危機意識の違いを描きつつ、あの家の不気味さを深めていく。
それらのための駒として登場したのが、キースでしょう。

なので結局、The Motherという存在をメインに描いた本編に対して、キース編は導入部分に過ぎません。
キースが実はテスを狙っていて、寝室に忍び込もうとしたり、地下深くに連れ込もうとした。
あるいは、寝室のドアが開いたのも、キースがうなされていたのも、被害者の霊による心霊現象だった。
どちらで解釈しても本筋には何も影響がなく、観た人が好き勝手に解釈して良い部分なのだと考えられます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました