作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
異常なほど神経質で束縛する母のもとで育った姉妹。
姉は非行を重ね、妹のアニーは独り立ちできる年齢になると家を飛び出した。
以来、母とは絶縁状態にあったが、突然の母の死を機に生家を訪れる。
だがそこで、遺品整理をしていたはずの姉が姿を消し──。
2012年製作、アメリカの作品。
現代は『The Pact』。
原題の「pact」は「協定、条約」といった意味で、邦題の「discord」は「不仲、確執」といった意味合い。
どちらも作品との関連がいまいちわかりづらいですが、邦題に関しては母親や実家との確執ということで、主にアニー目線のタイトルなのだと思われます。
原題については「(協力・停戦などのための)協定」というニュアンスもあるようなので、母親ジュディとその兄チャールズ(殺人鬼ジューダス)の協定、といったところでしょうか。
家に匿う代わりに殺人を止める、という協定です。
さて本作は、母親が亡くなり、久々に帰った実家で不穏な出来事が起こる、というよくあるパターンのお家系ホラー。
しかし、
オカルトなのか?
いやいやヒトコワなのか?
と惑わせておいて、
ど、どっちもだー!
という、まさかのハイブリッド仕様というチャレンジングな作品でした。
オカルトとヒトコワの両方を取り入れている作品もありますが、ここまでどちらの要素も尖っている作品も珍しいのではないでしょうか。
妙にねちっこい映像と、不穏さを掻き立てる独特の音楽も印象的。
ストーリーに関しては、もう整合性はめちゃくちゃと言っても過言ではありません。
ホラー演出の多くは、ミスリードさせたり怖がらせるためだけのもの。
家で恐ろしいオカルト現象が……そして実は、地下にシリアルキラーが隠れ住んでいた!
という軸を強調することだけに特化したような作品で、これはこれで面白い取り組みであったと思います。
その分、ハイブリッドによる中途半端感もやや否めませんが、描きたいものははっきり感じられました。
考えるよりも感じる系の作品。
ただ、妙に展開がわかりづらく、メリハリがはっきりしていて個性も感じられた割には印象が薄いのが不思議なところ(これは自分だけかもしれませんが)。
画面が暗かったり、謎解き要素がけっこう適当なこともあって、何が起きていて何がどう繋がっているのかわかりづらく感じる場面も多々ありました。
上述したような作りであるため、細かく考察する作品ではありませんが、大筋としては、シリアルキラー・ジューダスだったチャールズを、ジュディが家の隠し部屋の地下に匿っていた、というのが肝。
そして、最後の被害者でありジュディの友人であったジェニファーの霊が、アニーにチャールズの存在を知らせようと警告していたのでした。
その割には、ジェニファーの霊はかなり乱暴にアニーをぶんぶん振り回していました。
かなり直接的に干渉できる、パワータイプの霊。
あの感じなら、椅子とかを使って壁を突き破って、自分でチャールズをやっつけられそうでしたけどね。
突然始まったお手製ウィジャ(コックリさんみたいなやつ)でも、「YES!」「YES!」「JUDAS!」「BELOW!」と、とてもはっきりと求める答えを教えてくれます。
思わせぶりなことだけ言い残して去っていく典型的なヒント出し霊感キャラだったスティービーに比べて、とても親切。
「YES」を指したあと、自分から初期位置に十字架を戻していたところも、さり気ない優しさとして見逃せません。
スティービーは本当に思わせぶりに登場して役に立たないヒントを残しただけで、出てくる必要あったのか……?感は否めませんが、キャラの濃さはトップでした。
何であんなに取り乱していたのかがよくわかりません。
「まだいる!殺人鬼がまだ生きて地下にいる!」というポイントが怖かったのでしょうかね。
それを伝えるのを躊躇う理由がわかりませんでした。
ニコール&アニー姉妹と母親ジュディの関係性は結局一切具体的には描かれなかったので、その点の没入感は低めでした。
ジュディに関しては、どの作品紹介を読んでも「異常なほど神経質で束縛する母」と書かれているのですが、字幕になっていない部分で語られていた内容もあったのかな。
ただ、死に顔が確かにめちゃくちゃ気難しそうだったので笑ってしまいました。
刑事のビルは、とってもイケオジでしたが、ほぼ役立たずで涙。
1人だけで捜査しすぎですね。
カメラ越しに映った謎の白い現象は、オカルトなのでジェニファー由来の現象なのだと思いますが、それに気を取られたせいで、ビルはチャールズに殺されてしまいました。
ジェニファー、敵なのか味方なのかいまいちわからない立ち回り。
チャールズは地下で暮らしていたわけですが、「え?そんなの無理じゃない」という現実的なツッコミは自重しましょう。
アニーが16年間出会さなかった点については、ジュディがチャールズの管理や世話をしていた、と理解できそうです。
つまり、ご飯とかもあの小さな扉から差し入れていたので、毎日うろうろしていたわけではないのでしょう。
ジュディが死んだため、食べ物などを求めてうろうろし始めたのだと思われます。
シクシク泣いていたのは、理由はわからず。
冒頭、ニコールの娘のエヴァがビデオ通話越しに「後ろにいるのは誰?」と言っていたのは、もちろんチャールズ。
オッドアイの演出からは、アニーの父親がチャールズであることが示唆されます。
つまり、兄が妹に暴行を加えた、ということですかね。
母親も違う可能性もありますが、さすがにそれを隠すのは難しそう。
でも、ジェニファーの十字架を持っていたということは、アニーはチャールズとジェニファーの娘という可能性もあるのかな……?
1989年に殺される直前に生まれたとすると、その子は23歳ということになるので(作中の時間が製作された2012年頃と仮定した場合)、あり得なくはないのかも。
シリアルキラーとしての犯行を含めてチャールズの背景も一切明かされないので、その点も考えるには情報不足。
チャールズが死んだあと、ジェニファーの霊がドアを開け放ちましたが、だいぶ豪快でした。
あれは解放されて喜んで飛び出して行ったのか、「よくやったわアニー!さぁもう大丈夫よ、この家から出て行っていいわよ!」という激励だったのか。
後者だとすると、アニーにチャールズを殺させるよう仕向けていたことになるので、なかなか策士です。
ストリートビューに映り込んだのも真相へ誘導していたと考えられるので、やはりジェニファーの思惑通りに動かされてしまったようです、アニーさん。
そもそも、実家から逃げたアニーをわざわざホテルまで追いかけていきましたしね。
ホテルでの恐怖体験はアニーの夢でしたが、首を切られたジェニファーの死体も登場していたので、ジェニファーが見せたのだと考えられます。
あのときにも教会のある位置情報をスマホに表示させていましたが、1989年に殺されてしまった割には、現代の技術にも精通していました。
いとこのリズは、完全に巻き込まれただけでただただかわいそう。
終盤、地下からチャールズが登場して以降は、緊張感が漂い良かったです。
特に、壁1枚隔てただけでチャールズとアニーが対峙する構図が好きでした。
次点は、視線を上げたら宙に浮いていたジェニファー。
ラストで暗い穴の奥に目が映ったのは、よくわかりません。
ただの不穏エンドか、あるいはまさかの続編『ディスコード/ジ・アフター』があるようなので、そこで明かされる可能性もあり。
いつか観てみようかなと思いつつ、だいぶ後回しになりそうなので、その頃には内容を忘れてしまっていそう。
オカルトとヒトコワのハイブリッドは面白く、けっこう個性を感じる作品でしたが、ストーリーラインがふわっとしているせいか、上述した通り個人的にはいまいち記憶に残らない作品でもありました。
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