【映画】フォービア/4つの恐怖(ネタバレ感想・考察)

映画『フォービア/4つの恐怖』
(C)2008 GTH ALL RIGHTS RESERVED.
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

映画『フォービア/4つの恐怖』
(C)2008 GTH ALL RIGHTS RESERVED.

タイ映画界屈指のヒット・メーカーたちが結集して恐怖を競い、本国で大ヒットを記録した4話のオムニバス・ホラー。
「孤独」(監督:ヨンユット・トンコントーン)事故で足を怪我したビンは、出会い系サイトである男性と意気投合するが。
「報復」(監督:パウィーン・プーリジットパンヤー)一人の少年がクラスの不良グループからリンチを受け、死亡するが、少年は死の直前、黒魔術でいじめっ子たちを呪っていた。
「真ん中の人」(監督:バンジョン・ピサンタナクーン)渓流下りを楽しんでいた4人の仲間。だが、ボートが転覆し、一人が行方不明になってしまう。
「最後のフライト」(監督:パークプム・ウォンプム)大富豪と不倫しているフライト・アテンダントが某国のVIPからの指名を受け特別便に機乗する。だがそのVIPとは不倫相手の妻だった。

2008年製作、タイの作品。
原題は『4BIA(Phobia)』で、タイ語では『สี่แพร่ง』。

「phobia」は「恐怖症」の意味なので、4つのホラー作品によって『4BIA』というのはなかなか秀逸なタイトルです
それだけに、続編は5つのオムニバスで『フォービア2/5つの恐怖』となり、原題も『PHOBIA 2』となってしまっているところが少し残念。

タイ語原題の『สี่แพร่ง』はいまいちわからないのですが、ローマ字表記にすると「Si Phraeng」で、交差点的なニュアンスのようでした。
「Sam Phraeng」というのが「三叉路」を意味する古いタイ語で、古代タイの信念によれば、三叉路は幽霊やさまざまな霊が通る道であるため、不吉な場所であり、誰も家を建てようとしない、とのこと。
「sam」が「3」で、「si」が「4」なので、これもまた、4つのホラーが交差するようなイメージなのでしょう。
ポスターもそれがイメージされているのだと思いますし、4つの物語の登場人物が一堂に会しているのが熱い。

さて、すっかりハマっておりますタイホラー
とは言いつつ、まだ観ているのは『女神の継承』のバンジョン・ピサンタナクーン監督作品のみであり、同監督が参加しているのと、他にも広げていきたいのでオムニバスな本作を鑑賞。

感想でちらほら見かけますが、タイ版『世にも奇妙な物語』と表現するのがしっくりきますね。
どれも個性があり、面白い。
Jホラーに通じるものも感じますし、一方では新鮮さや斬新さを感じる部分も多く、やはり好きなようです、タイホラー。
オープニングの映像も、センスを感じさせる出来栄えでした。
エンドロールの曲は、安定のホラーとは思えないのどかな曲。
今後、タイと韓国を中心に、アジアのホラーはさらに色々と観ていきたいです。

4つの物語に相互の関連性はないので、簡単にそれぞれの感想を。

「孤独」(監督:ヨンユット・トンコントーン)

懐かしきガラケーでのメールのやり取りを中心に、ほぼほぼ主人公のピンの1人演技で繰り広げられる物語。
1話目ということもあってか、4作の中では一番スタンダードかつ大人しめな印象でした
真上からのアングルが多いカメラワークが印象的。

とはいえ、じわじわと忍び寄ってくる恐怖感は、もっともJホラーへの近さを感じる作品でした
序盤では窓の外からの視線を感じさせて、ストーカーか?いやでもかなり高層階だしな?と惑わせておいて、まさかの心霊ストーカー。
しかも、ピンの骨折を伏線として回収するところなんかは、ミステリィ要素も織り交ぜられていました。

状況がいまいちわからなかったのですが、あらすじなども見るに、あの部屋はピンの部屋で、最初に「孤独だ」と投稿したのは出会い系サイトだった、ということですかね?
友人のムンから「大家が集金に来る」というメールが来ていたので、旅行中だけムンの部屋を借りているのかと思ったのですが、違うのかな。
ルームシェアしていた可能性もあるかもしれません。

まぁそのあたりは些事ではありますが、メールしながら一喜一憂している姿は微笑ましかったです。
知らない人から来たメールに返信したり、写真を送ってしまうところは無防備でしたが、出会い系サイトに投稿したのであれば理解の範囲内。
でも、それならそれでもっと連絡が来そうな気も。

あとは暇すぎたので仕方ありませんが、それにしても暇すぎませんでしたかね
お金がない上に骨折しているにせよ、家での趣味がネットサーフィンぐらいしかなかったのでしょうか。
お金がないという割にはキャラクターグッズなど色々ありましたが、見逃してはいけないのは、序盤の朝、初めて相手に電話をかけようとしたシーンのピンの背後に、ピンボケしていますが明らかにドラえもんの姿が映っていました。
すごいぞドラえもん。

メールのやり取りを繰り返す中で、徐々に相手の正体がわかっていくところは、じわじわした恐ろしさがありました。
特に、死者の棺に携帯電話を入れる、それによって連絡してくる、という設定は面白かったです
ちょっと調べた限りでは、タイに実際にこのような風習がある or あったのかは不明でした。

写真に相手の姿が浮かび上がってくるところや、近づいてきているのを電気が消えることで表現していたのも好きでした。
そして、真っ暗闇の中をガラケーの頼りない光で照らす。
演出が上手いな、と感心。

と、思いきやですよ。

まさかの突然のズームアップ!

いや、びっくりしましたけどね。
びっくりのあとには、恐怖ではなく笑いが込み上げてきてしまいました。

その後明かされた真相は、やや強引さもありながら、伏線を回収して綺麗にまとまっていてお見事
しかしあれ、「乗っていたタクシーが横転した」で表現しきれるレベルじゃありませんでした。
3ヶ月経ったとはいえ、よくまぁ脚の骨折以外問題なかったですね。
あと、あんな目の前に死体が落ちてきて目が合ったら、トラウマになりそう。
ショックで記憶が失われていた可能性もありますが。

あの男性は、別れを切り出された勢いでタクシーの前に飛び出して死のうとするという、衝動性の高さが窺えました。
ピンをマンションから突き落として殺したのも、仲良くなりたかったのにピンが拒絶したからだと考えると、衝動性に加えてだいぶ自己中心的で、元彼女には暴力を振るっていたりして別れを切り出された可能性もあるな、なんて邪推してしまいます。
死の間際に一目見ただけのピンに執着して、電源を切っただけで「そういうのは嫌いだ」とブチ切れたり、メリーさんばりに報告しながら近づいていくる粘着具合は、だいぶ恐ろしいものがありました。

「報復」(監督:パウィーン・プーリジットパンヤー)

エグいて。
いや、エグいて

何がエグいかと言えば、高校生には見えないヤンキー高校生たちによる、壮絶ないじめです。
いやもう、完全に暴行、脅迫、殺人未遂、というか殺人事件でした。
髪型といい顔つきといい、ヤンキーの見た目はタイでも同じなんだ……と妙なところで感心してしまいました。

そんな本作は、いじめというか暴行被害に遭っていた少年ンギッド(「ん」から始まる名前!)が、黒魔術によって加害者たちに復讐していくお話(残念ながら相打ち)。
まとめてしまえばそれだけの話なのですが、勢いがすごい

まず、がっくんがっくん揺れながら動き回り、必要以上に明滅するカメラワーク。
そこにメタルのような激しい音楽が重なり、それこそまるでドラッグでトリップしたような(したことないのでわかりませんが)高揚感によって、だいぶ雑で謎な黒魔術設定を勢いで押し切ります

加害者少年少女たちは、短時間でこれでもかというほどクズっぷりを見せつけてくれていたので、黒魔術発動後は不思議な爽快感すら漂います。
「お前を見たぞ」の紙を見たら最後、『ファイナル・デスティネーション』レベルで死の運命に囚われてしまい、ピタゴラ死
落ちてきた紙を自分で見て自滅してしまう姿は、どれだけ運がないんだと観ている側も血の涙を流さずにはいられません。

必要以上にド派手なスプラッタは、好きな人にはたまらないものがあるでしょう。
ヨーの首に棒が突き刺さったとき、貫通しきっていないのが逆に痛い。
ンギッドが転落死した際は、通りがかりの少年のアイスに血が降りかかって舐めちゃうのとか、素晴らしい発想です。

しかし、残念ながらそのあたりがピークで、その後は何とも言えない炎上シーン、何とも言えないCG幽霊と、何とも言えない展開が続きます。
最後の最後に目玉くり抜きでラストスパートをかけてきますが、予想できてしまった展開でもありました。
でも目玉をくり抜いてしまった姿を変に誤魔化さず、しっかりと映していたところは素晴らしい。
あまりにも暗すぎる取り調べ室(?)は笑ってしまいました。

ラストでは、「お前を見たぞ」という紙を絶対に観客側に見せてくるな、という予想を、良くも悪くも裏切りませんでした。
内容は一番薄いですが一番個性が強く、好き嫌いが分かれそうな作品でした。

「真ん中の人」(監督:バンジョン・ピサンタナクーン)

待ってました、バンジョン・ピサンタナクーン監督!
期待を裏切らぬ、綺麗にまとまった完成度でした。
というのは、贔屓目に見過ぎでしょうか。

ただ、ホラーというよりは、1話目の「孤独」以上にミステリィ要素が強め
しかしそれでも、メタ的に数々の映画に言及してくるところからは、映画愛が感じられます。
自分の作品である『心霊写真』はまだしも、『シックス・センス』のネタバレをここまで直球でぶつけてくるのは強い。
『フォービア/4つの恐怖』を観るぐらいなんだから、ホラーがお好きでしょう?当然、名作『シックス・センス』ぐらいは履修しているでしょう?と言わんばかり。

そして「実は自分が死んでいることに気づいていなかった」ネタを全員に適用するトリックに、挑戦的な姿勢を感じました
中盤ではホラー要素もしっかりしており、『フェート/双生児』に似た幽霊のデザインは、バンジョン・ピサンタナクーン好きには馴染みあるものでした。

何より「真ん中の人」というタイトルが秀逸です
これにより、エーは死に、その後真ん中で寝た者に何かが起こるのか……?という方向にミスリードされますが、実際は真ん中の人は何も関係がなかったという。
タイ語のタイトルでも「คนกลาง」で「仲介者、中立者、(3人きょうだいの)2番目の子」という意味で一致していました。

とはいえ、コメディ要素も強め。
「入れてやれよ」と言いながらテントの入り口を開けて速攻閉めるところは、笑ってしまいました。
自業自得でお馬鹿な主人公たちでしたが、ホラーにありがちな男女グループではなく、何となく憎めない男4人組であるところが、不思議と青春ものの雰囲気や、ラストには切なさすら漂っていました
しかし、立ち上がって転覆させたプアックが大戦犯。
そんなプアックに「顔を見ろよ。生きていても怖い」とからかわれたシン、「何だよ、自分が男前だからって」と返すの、弱気でしたがいい奴すぎました。

何だかんだ、4作の中では一番ホラーっぽさが弱めでしょうか。
バンジョン・ピサンタナクーン監督は、『フェート/双生児』のあと、スランプというか、ホラー映画から離れたくなっていたそうです。
『フェート/双生児』のあとは『女神の継承』までコメディ路線の作品を作っていたようなので、その片鱗がすでに「真ん中の人」で見えているのかもしれません。

「最後のフライト」(監督:パークプム・ウォンプム)

最後を飾るのは、パークプム・ウォンプム監督。
『心霊写真』『フェート/双生児』と、バンジョン・ピサンタナクーン監督とタッグを組んでいた監督です。

これは、すごい
最後を飾るだけあって、がっつりと恐ろしいホラーでした。

いやもう、状況の作り方がすごすぎませんか?
不倫相手の奥さん(しかも妃)と2人だけで飛行機に乗り、さらにはその死体と2人きりになる。
そんなあり得ない状況を、あの短時間で作り出すの、すごすぎませんか?

当然ながら、ツッコミどころには溢れています。
コーヒーか紅茶か返事がないとキレかけながら何度も聞いたり、コーヒーのスプーンを落としたりと、明らかにピムは客室乗務員として完璧ではなさそうです。
いくら妃の指定とはいえ、そんなピムだけに他国の妃を任せた航空会社は、あまりにも愚か。

そもそも妃も、何がしたかったのかわかりません。
さすがに自分が死ぬつもりはなかったと思うので、ただ「お前のことはわかっているぞ」と釘を刺して嫌がらせをしたかったのか。
2人きりだったのをいいことに、あることないことでっち上げて追い詰めようとしていたのかもしれません。

しかしもちろん、短編映画に細部の整合性を求めるのが間違っています。
不倫相手の妻と、そしてその死体と、2人きりでフライトする。
その状況だけが重要なのです

前半は女性の怖さが滲み出て、観ているこちらの胃が痛くなりました
ヒールの踵でコーヒーかき回すの、怖すぎる。
パスタ?焼きそば?的なやつを出したのは、もちろん殺意があったわけではなく、悪気もなさそうでしたが、「エビアレルギーならエビを抜いて出せばいいじゃない」という発想、遅かれ早かれ誰かをアナフィラキシーショックで殺してしまいそうでした。

そして帰り道、と言っていいのかわかりませんが、死体とのフライト。
さすがに怖いって
あんな人間でした感丸出しの包まれ方した死体と2人きりなんて、さすがに怖いって
いくら荷物扱いできないとはいえ、座席に立てかけて固定するのとか、航空会社もテンパりまくっていた様子が窺えます

ホラーにおいては、対象がはっきり見えるほど怖さは低減していきやすいものだと思っていますが、その点、本作は何度も夢オチを用いて引っ張ることで、絶妙な怖さを維持していました。
吐く音や口から溢れる吐瀉物など、嫌悪感を喚起する演出も見事。
いざ姿がはっきり映ってからも、「報復」のような興醒めCGではなかったため、最後まで勢いを保持。

とにかくもう状況はめちゃくちゃなんですけど、あの状況を作り出しただけで拍手でしょう。
結局、もともと妃が何をしたかったのかも含めて、最後まで一切説明はありません。
ただあのシチュエーションの恐怖だけを演出した作品
ぶっ飛びすぎていてところどころ笑ってしまいますが、短編の割にインパクトがあり、印象に残る好きな作品でした。

追記

『フォービア2/5つの恐怖』(2024/04/14)

続編『フォービア2/5つの恐怖』の感想をアップしました。

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