【映画】プロミス/戦慄の約束(ネタバレ感想・心理学的考察)

映画『プロミス/戦慄の約束』のポスター
(C)2017 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

映画『プロミス/戦慄の約束』のシーン
(C)2017 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

1997年、タイは経済破綻の危機に陥り、多くの失業者や自殺者がでた。
中学生のボウムと親友のイブは、2人の父親が投資した高級マンションに一緒に引っ越すことを楽しみにしていたが、それも叶わなくなる。
15歳の誕生日、絶望したボウムはイブと一緒に自殺する約束をするが、イブだけが自殺し、ボウムは怖くなりその場から逃げ出してしまう。
20年後、ボウムは不動産ビジネスで成功し、娘のベルと暮らしていた。
イブが自殺した建設途中のマンションを訪れた2人だったが、それ以来、ベルに死んだイブが乗り移ったかのような奇妙な現象が頻発し、ベルは医師から夢遊病と診断される。
ボウムはそれがイブの呪いだと確信し、娘を救うために奔走するが──。

2017年製作、タイの作品。
原題は『The Promise』。
タイ語では『เพื่อน.. ที่ระลึก』で、翻訳にかけたら「友達…お土産」と出てきて笑ってしまいましたが、「ที่ระลึก」はお土産だけではなく「思い出す」「思い出のある物」といったような意味があるようです。
日本版タイトルのチープな副題は、もはや定番。

『女神の継承』以降タイホラーにハマっており、タイホラー月間になりつつありますが、本作は初めて作品を鑑賞するソーポップ・サクダービシット監督。
主演のボウム役の方はとても美しかったですが、お名前はナムティップ・ジョンラチャタウィブーン。

いやもう、タイの方の名前、覚えられませんて
タイの名前については『THE POOL ザ・プール』で触れているので省きますが、タイ史とか勉強したら人名を覚えるだけで発狂しそう。

タイ史といえば、『プロミス/戦慄の約束』で描かれたタイにおける1997年の経済危機は本当にあった出来事で、アジア通貨危機と呼ばれているようです。
さらには、本作に登場した廃ビルも実在する「サトーン・ユニーク・タワー(Sathorn Unique Tower)」なる建造物で、実際にアジア通貨危機がきっかけで開発が中断され、心霊スポットにもなっているようで、廃墟好きにはたまらないロケーションでした。

そういった現実の出来事を絡めているところも、本作の魅力。
映像は全体通して美かったですが、いかにも東南アジアな超高層ビルがそびえ立つ夜景が特に美しかったです。
『スクリーム』が上映されていた小ネタも好きでした。
小物としては、タワレコの袋やSONYのウォークマンに親近感。


さて、そんな本作は、派手な演出は極力抑えられた、ストーリー重視の印象が強いホラー
いわゆるオカルト・心霊ものですが、日本の『リング』などに影響を受けたバンジョン・ピサンタナクーン監督の『心霊写真』などとは異なり、『プロミス/戦慄の約束』ではほとんどイブの幽霊が姿を現さない点が印象的でした。
ぼやけて映るシーンはありますが、恐ろしいものではなく、当時のイブのままに見えます。
それでいて、霊感があるのか?廃ビルでイブのもとへ案内してくれた少年モンの怯えたリアクションや様々な工夫によって、恐ろしさが演出されていました。

特に、スマホや防犯カメラを中心とした電子機器を使った演出が非常に巧みでした
このあたりはアメリカや韓国などのホラー作品でも目立っていますが、近年の日本のホラーは若干こういった演出の多様性が弱い気がします。
でも、『牛首村』でSiriがいきなり喋り出す演出などは良かったので、頑張ってほしいところ。

幽霊が電子機器を扱えるのか?
ポケベル世代のまま亡くなったイブが、スマホとか駐車場のランプとかの最新技術を使いこなせるのか?
などとは思ってしまいますが、昔から霊障として電気系統に異変が起こるのは定番演出ですし、超常的な存在が科学的な電子機器に影響を与えるというのは「科学では太刀打ちできない」感が漂い、相性が良いのかもしれません。

本作は、友情と親子の愛情を描いた物語でもありました。
中学時代のボウムとイブはまさに2人で1人のようであり、一体感や「同じ」であることを求め、境界線が曖昧になる思春期女子の親密な友情が見て取れました
今で言う双子コーデみたいな感じですかね。
2人で一つの存在であり、その片割れの喪失が悲劇を生み出すという点は、『フェート/双生児』とも共通するテーマでした。

しかし、心中で拳銃での自殺というのはなかなか衝撃的でした
あのシチュエーションと2人の関係性を考えれば、日本的な感覚ではどう考えても2人で手を繋いでせーので飛び降りるだろうと思わせますが、そのあたりの感覚は違うのか、それだと本作が終わってしまうのであえてあのような演出にしたのか。
ちなみに、タイの映画では拳銃がよく出てきますが、けっこう銃社会のようで、2023年末にようやく規制が強まったようです。
それでも、目の前で「ハッピーバースデー」と同時にクラッカーを鳴らすかのごとくバーンと自殺されたら、怖気付くのも仕方ないでしょう。

しかし、一緒に死んでくれると信じきっていたイブさんは、恨みの念を残しまくっていたようです
20年経っても衰えないその怨念は、ボウムの娘ベルに向けられました。

ボウムを呪うのではなく矛先がベルに向いたのは、ボウムを苦しめたい思いがあったのでしょう
ボウムの「自分を殺せ」という訴えは、頑なに拒否していましたし。
そこまで恨むか?とは思ってしまいますが、思春期の時期に信じきっていた相手に裏切られるというのは、世界が崩壊するほどのショックに感じられても不思議ではありません。

さらにここで、『女神の継承』の際に学んだ知識が活かされました。
それは、ウジ虫を表す「หนอน」という単語が「裏切り者」のニュアンスでも使われる、というものです。
ボウムが20年越しに謝罪するために廃ビルに行ったとき、供えたリンゴに一瞬でウジが湧いていましたが、「裏切り者を許すつもりはない」という意味合いだったのでしょう。
愛情が強いほど、一転したときの憎しみも強烈なものとなります。

その後の展開は、怖いというよりは、ホラー演出の織り交ぜられたドラマ性の方が強めでした
ベルの死が予感され、誕生日というリミットが迫ってくるところは緊張感もありましたが、113分というのはやや冗長に感じてしまった点も。

ベルは、取り憑かれたというよりは、操られていた感じでしょうか。
終盤、銃で自分を撃つ直前には、壊れたスマホの着信時に点滅するライトによって正気を取り戻しかけた感じだったので、夢遊病というのはあながちまったく間違っていたわけではないのかもしれません。
しかしまぁ、親の因果が子に報いというか、ベルはひたすら被害者でかわいそうでした

イブがなぜこのタイミングで動き出したのかというのは、ボウムが20年ぶりにあの廃ビルを訪れたからでしょうか。
ベルを狙ったのは、たまたま娘がいたから、よりボウムを苦しめる選択肢を選んだ、と理解できます。
ベルが15歳目前だったというのはちょっとタイミングが良すぎではありますが、そのあたりの細かさより、過去の因縁と母娘の愛情というメインの流れを重視した作品でしょう
イブの能力も、銃を不発にしたりとなかなか都合良く何でもありでしたが、お茶を飲むのがめっちゃ早かったのはちょっと笑いました。

そして、結局最後にはベルが自分に銃を撃ってしまったというのも、衝撃的な展開でした
なかなかに容赦のない展開で、何だかんだベルは助かると思っていたので、あの容赦のなさは個人的には評価が上がったポイントです。
ただ、あの撃ち方と出血量で生きていたというのはなかなか。
実際、頭蓋骨で銃弾が止まり貫通しないことはあるようですが、命を取り留めたのはものすごい奇跡でしょう。

精神的には、ボウムはだいぶ感情的かつ短絡的で、ベルの方が強さを感じました。
自分の命を犠牲にしてまで愛する母親を助けようとしたベルですが、果たして寝たきりの状態ながら助かったのが、良かったのかどうか。
最後はハッピーエンド風でしたが、命さえあれば、という綺麗事だけでは済まないでしょう。
そのあたりは、何とも後味の悪さが残る作品です。

ボウムは色々な点において、もう少し他人を頼った方が良かったですが、過去の経験や両親の様子を鑑みれば、「自分で何とかしなければいけない」という強迫観念のようなものが身についていたとしても不思議ではありません
特に、妄想上の顧客とビジネストークをする父親の姿を目撃した際のショックは、察するに余りあります。
1人で抱え込む癖がついてしまっていたのでしょうし、それが成長してあれだけ成功する原動力にもなっていたとも考えられます。
イブの呪いが始まる前から、落ち着いているように見せながらも、常に張り詰めたような空気感を醸し出しているのが見事でした。


そして最後に、『女神の継承』好きとしては、触れないわけにはいかない点があります。
『女神の継承』も『プロミス/戦慄の約束』も両方観た方はおわかりでしょう。

そう。

ニムさん!

ニムさんじゃありませんか!

ハウスキーパーのチャーおばさんが、『女神の継承』で女神バヤンの巫女・ニムを演じていたサワニー・ウトーンマでした。
『女神の継承』を観たあとだと、ただのハウスキーパーなのに存在感がやばい。
もはやチャーおばさんがどうにかしてくれるようにしか思えてなりませんでしたが、当然ながらそんなことはなく、明らかに様子のおかしいベルにハサミを渡して背後の不穏にも気づかず買い物に出掛けてしまうポンコツでした。

『女神の継承』が2021年なので、『プロミス/戦慄の約束』の方が先行している作品ですが、『女神の継承』は全員初めて見る俳優たちである点がモキュメンタリーとしてのリアリティを大いに高めていたので、サワニー・ウトーンマを初めて見たのが『女神の継承』で良かった、と思ったのでした。

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