作品の概要と感想(ネタバレあり)
いじめられっ子の女子高生・ミアは、義理の姉サーシャとその友人2人に誘われ、秘密のダイビングスポットへ。
洞窟の先には、古代マヤ文明の寺院跡が広がっていた。
しかしそこには、視力を失ったサメも生息しており、ミアたちは崩壊して閉ざされた遺跡に閉じ込められてしまう──。
2016年のヒット作『海底47m』の続編で、2019年に製作された作品。
ただ、今回は(たぶん)47mまで至ってないですし、ストーリー的な繋がりもありません。
もはや量産され尽くし、発想勝負、ネタ勝負になっているサメ映画業界の中で、真っ向から真面目に取り組んで健闘している印象なシリーズです。
サメだけでなく、海底・海中の閉塞感や恐ろしさも描かれる点が特徴的。
まるで『インディ・ジョーンズ』作品かのような副題は安定の日本版クオリティで、原題は『47 Meters Down: Uncaged』。
「Uncaged」は「ケージから出す、放出する」という意味なので、基本的に海底に落下したケージの中で展開された前作に対して、今回はケージから飛び出して、海底遺跡という広い舞台で展開されている点を指していると思われます(かつ、閉塞感は維持しているところは上手)。
あるいは、海底遺跡に閉じ込められていた古代のサメが、遺跡の発掘に伴い解放されたという点で、ダブルミーニングになっているのかもしれません。
感想としては、真面目に作られていて海底遺跡の雰囲気や閉塞感は好きなんですけど、全体的に何となく中途半端で、残念ながらあまり印象に残りませんでした。
色々な設定に、ほとんど意味がなかったところがもったいない。
まずとにかく、古代マヤ文明の遺跡である必要はまったくありませんでした。
完全にただの雰囲気作りでした。
とはいえこの点は、あくまでも舞台設定レベルであったそれを前面に打ち出している邦題が悪いです。
また、主人公ミアがいじめられっ子であることも、特に必然性はありません。
いじめっ子がサメに食べられてすっきり爽快!といったこともないので、わざわざいじめられっ子だったり、複雑な家庭の設定にしなくても良かった気がします。
ちなみに、学校の入り口の正面にプールがありましたけど、あれって普通なんですかね。
いじめとかなくても、絶対飛び込んだりする生徒がいそう。
逆にそんな複雑な設定のせいで、ミアと、義理の姉・サーシャの関係性もよくわからないまま進んでいきます。
いじめられているミアを見て「妹じゃない」と言ってみせたり、ドライな態度だったのに、いざダイビングスポットに遊びに行ったあたりからは、ミアもサーシャもめっちゃ楽しそう。
サーシャの友人2人も、同じように傍観していたのに実はとても優しかったりで、全員いまいち人物像がわからず、感情移入がしづらいまま突き進んでいきます。
背景までしっかり考えられているのは良いのですが、それらがあまりよくわからないうちにパニックに突入してしまっていった印象です。
ちなみに、友人の1人アレクサが最初に名前を呼ばれたときは、Amazonのやつに話しかけているのかと思いました(どうでもいい)。
洞窟や遺跡の雰囲気や、盲目で白目なサメのビジュアルは、とても好きでした。
前作とは違い、ケージの中ではなく動き回るわけですが、洞窟の中なのでむしろ前作より閉塞感があります。
閉所恐怖症の人は息苦しくなりそう。
ただ、展開は「とにかく逃げる→サメや潮でパニックになる」という単純な繰り返し。
せっかくの盲目サメの設定も中途半端というかいまいちわからないのが、一番残念でした。
サメに襲われた際、ミアたちは海底に這いつくばって回避できていたので、主に音で判断しているんですかね。
その割には、細い道に逃げたミアたちを、顔を突っ込んで追い詰めてくるシーンが何回もあったり(騒いでるからかもですが)。
数匹いるとはいえ神出鬼没すぎて、あまりに絶妙に現れたり消えたり。
目が退化するほどということは、相当に長い時間地下洞窟に閉じ込められていたはずですが、海面に上がってきて大丈夫なのか、とか。
盲目であることのオリジナリティある演出もほぼなく、もっと面白くできそうな設定や雰囲気が、全部中途半端になってしまっていたような印象なのがもったいない。
パパが食べられるシーンも、インパクトでは『ディープ・ブルー』という先立つ作品があるので、驚きよりも「あー」しか出てきません(むしろオマージュだったのかな?)。
というより、パパとかベンとかも、巻き込まれただけなのでかわいそうですが、キャラが薄いので悲壮感も薄い。
あんなロープ1本垂らしただけで遺跡に潜っているのも、サメの存在を知らなかったとしても心配です。
前作も、ダイビングの知識がある方からは酷評されていましたが、ダイビングの経験も知識がない立場からは、特に不満なく楽しめました。
本作も同様で、閉塞的な空間でサメサメパニック!を純粋に楽しむべきも作品なのはわかっているのですが、その割には妙に設定がマニアックで無駄に引っかかってしまう細かい点が多いので、いまいちのめり込めなかったのが残念。
それでも、真っ向からパニックを描こうとしている姿勢は好感が持てます。
前作のオチは、けっこう不評だったようですが、個人的には好きでした。
今回も何かあるのかなと思いましたが、不評を受けてか、すごくシンプルに終わりスタッフロールへ。
そのあたりも、インパクトは弱めです。
『海底47m』と繋がりもなければ、海底47mまで潜ってもいないわけですが、この名前を使っていなかったらもっと埋もれてしまいそう。
全体的に真面目さを感じるんですけど、ちょいちょい挟まれるスローモーションの顔芸シーンだけは、ふざけていたのか真面目にやっていたのかわからなくてすごく気になります。
つまらなくはないんですけど、もうちょっと、もうちょっとどうにかうまくできたのでは、と思わざるを得ないポテンシャルを感じるだけに、少し残念さも感じてしまう作品でした。
それでも、「発想勝負のネタ勝負」でぶっ飛び設定のインフレ化が巻き起こっているサメ映画界において、堅実にサメの恐怖を描き続けているのは最後の希望レベルであり、とても応援したい。
この文章を書いている2022年5月時点で同年7月に公開予定の、『海底47m』製作陣による『海上48hours −悪魔のバカンス−』もとても楽しみです。
予告やポスターを見る限りでは、若干ギャグ要素が増していそうな予感もしますが、この製作陣がこのシチュエーションを思いついただけで、もう勝ってる。
さて、『海上48hours』すら公開前ですが、ここでさらなる続編のタイトルを大胆推理。
距離、時間、とくれば……?
そう、速度です。
続編は、
『時速49km』
に間違いありません。
時速49kmの猛スピードで追いかけてくるサメたちの恐怖が描かれます。
ここでググってみました。
サメが泳ぐ速さは、ホホジロサメが狩りをするときで時速40kmほどとのこと。
種類によっては、もっともっと速いサメもいるようです。
『時速49km』、ただの普通のサメ映画でした。
考察:サメ神話
サメ映画は、もはや一つのジャンルとなっています。
サメ映画の怖さや魅力は、やはり、「人間が食べられる」という恐怖です。
食物連鎖の頂点に立つ人間が「食べられる」というのは、それだけでインパクトがあります。
ホラーというわけではない漫画『進撃の巨人』が怖かったのも、人間が捕食されるという衝撃によるものでしょう。
しかも、水中では人間は無防備で、素早く動けません。
サメ側が圧倒的に有利な環境も、恐怖を引き立てます。
ただ、人間を主食とする生物はいませんが、人間を食べてしまうことのある生き物は多く存在します。
その中で、なぜここまで映画界ではサメが圧倒的なシェアを誇っているのかというと、サメのかっこよさもあると思いますが、やはり『ジョーズ』の完成度の高さとヒットが大きく影響しているのでしょう。
動物パニックものでは、いまだに頂点と言っても過言ではありません。
しかし、「サメは本来臆病で、映画のように積極的に人を襲わない」というのは、もはやサメ映画が生まれるたびに語られる話で、一般常識にすらなりつつあります。
それでもサメ映画が廃れることがないのは、『ジョーズ』による最初のインパクトが大きく、人々のイメージに刻み込まれたことが大きいと考えられます。
これは、心理学的にはステレオタイプと呼ばれるものの一種で、誤った信念や思い込み、先入観です。
そして、サメはそうそう日常で接する機会がないので、誤っていると頭では理解していても、イメージがあまり変わりません。
むしろ、日常の中でたまに触れるとすればサメ映画であったり、実際に人がサメに襲われるという事件がごく稀に起こってニュースなどになっているのを見ることで、誤ったイメージが維持・強化されます。
水族館などで見たとしても、一緒に泳げるわけではないので危険度はわからず、むしろリアルで見ながら『JAWS』的なイメージが頭に浮かび、強化されていることも少なくないでしょう。
心理学では、そのような誤ったステレオタイプについて、「古く間違ったイメージがいまだに残り続けている」という意味で、「〜神話」といった表現がなされることがあります。
映画『REC/レック』の考察でも取り扱った、「危険な情報を周知すると人々はパニックになる」といったようなパニック神話。
「性犯罪の被害に遭うのは露出の多い服装の女性だ」といったようなレイプ神話。
「サイコパスは、頭脳明晰で凶悪な事件を引き起こす存在だ」といったようなサイコパスについての神話。
サメや、他にもピラニアなども、滅多に人を襲わないことはすでに知れ渡っています。
それなのに、いまだに「サメは危険だ、怖い」という現実の危険性を上回るイメージが完全に払拭されていないのは、数々のサメ映画が生まれ続けていることによる「サメ神話」と呼べるかもしれません。
「ピラニアの水槽に手を突っ込んだら一瞬で骨になる」という「ピラニア神話」も提唱します。
でもやっぱり、サメはかっこいいし、海面から飛び出した背びれが迫ってくる姿は映像上も映えますし。
古代から生きていることもあり、恐竜のようなロマンがありますね。
それだけに、海底で目が退化するほど生きていた『海底47m 古代マヤの死の迷宮』のサメはさらにロマンがあるんですけど、なに食べて生きてたんだろう……。
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