『ソウ3』の概要と感想(ネタバレあり)
小学校で発生した殺人事件の現場に呼び出された女刑事ケリーは、現場にある死体が同僚のエリックのものではないと安堵するが、その夜、何者かに拉致され、どこかの地下室に監禁されてしまう。
轢き逃げで息子のディランを失ったジェフは、使われていない食肉加工工場で目覚める。
女医のリンは職場で突然拉致され、目を覚ますと、医療器具が置かれた部屋で脳腫瘍で余命数日のジグソウがベッドに寝ていた──。
2006年製作、アメリカの作品。
原題も『SAW III』。
本記事には、前2作『ソウ』『ソウ2』のネタバレも含まれるのでご注意ください。
前作『ソウ2』については、以下の記事をご参照ください。
こんなにも素晴らしい続編があるでしょうか。
この調子でいくと、シリーズ通して毎回賛美から入ってしまいそうですが、いやしかしそれでもやはり大好きです。
リー・ワネルが脚本を務める最後のシリーズ作品でもあり、ある意味、ジョンの物語の完結でもありました。
『ソウ3』と『ソウ4』はセットの感覚が強いのですが、『ソウ4』以降はリー・ワネルは脚本からは離れ、ジェームズ・ワンとともに製作総指揮に回っています。
その割に『ソウ3』においては、アマンダに託した封筒、終盤で液体をかけていたカセットテープなど、明かされないままの伏線も多々見られます。
これは以降のシリーズで明かされていきますが、その解答は後続の脚本家に伝えられてたのか、あるいは「適当に思わせぶりな謎を残しておくから、自由に広げてね」というリー・ワネルからの挑戦状のようなものだったのか、気になるところ。
個人的には、後者であったら熱いな、と思います。
そうだとすると、ジョンの死と共にリー・ワネルは脚本を離れるけれど、この人気だとシリーズは続いていきそうだし、これからは『ソウ』シリーズそのものも内容も後継者に託すよ、という形になります。
ジョンが残した謎=リー・ワネルが残した謎。
もちろん、リー・ワネルがもともと続編があるにしても4からは脚本から離れるつもりだったのか、製作総指揮に回ってからもどれだけ内容に関わっていたのかなどもわからないので、妄想に過ぎませんが。
さて、そんな『ソウ3』は、前2作とはまた若干毛色が異なり、ジョンとアマンダのドラマが深掘りされます。
メインとなるゲームに関しても、生か死か選択するのは被験者たち自身ではなく、復讐に燃えるジェフに委ねられていました。
それでもやはり紛うことなき『ソウ』シリーズらしさがあるのは、もちろんトビン・ベルの存在感もありますが、最高に悪趣味なゲーム内容と、最後のどんでん返しによるものでしょう。
この二つが、『ソウ』シリーズを支える2本の柱と言えそうです。
残虐さやグロさ、ゴア表現は前2作よりさらに増していました。
日本では当初R18+予定でしたが、最終的には四つの残虐シーンを暗転させ、R15+指定での公開になったとのこと。
『ソウ3』は残念ながら映画館で観ていないのでどのシーンなのかはわかりませんが、リンの頭部爆破あたりは確実でしょうね。
前2作よりも、人体破壊描写がしっかり映されるようになっていたのも印象的です。
精神的な痛みと身体的な痛みの両方ともがエスカレートしていたのも、本作の特徴でした。
『ソウ3』のゲームはだいぶ印象に残っているものが多く、秀逸であったと言わざるを得ません。
シリーズの中でもインパクトが強い装置である「歯車」はまだしも、豚のゲームを思いついたのは嫉妬すら感じます(拷問とか好きなので……)。
身体的な痛みで言えばゲームの中ではだいぶ低めにはなりますが、一番やられたくないゲームの筆頭です。
また、ジョンの手術シーンを長々と克明に描写するのも、悪趣味としか言いようがありません。
医療従事者からすれば失笑ものなのでしょうが、素人には十分それっぽく見えますからね。
そこまで映す必要あります?というほどしっかりと手術プロセスを見せてくれました。
それらのインパクトに引っ張られがちですが、本作はジョンとアマンダについて深める物語でもありました。
というより、そちらがメインストリームのはず。
特に、潔くジョンの死を描いたのは、生みの親であるリー・ワネルだからこそでしょう。
後継者のアマンダも失敗し、ある意味、3部作として本作で一旦完結しているとも捉えられます。
しかしアマンダ、完全におじいちゃんを心配するメンヘラの孫と化していました。
裏方だったからとはいえ『ソウ2』のときに感じられた逞しさは微塵も感じられず。
ただ、もともと薬物依存だったアマンダは、今度は完全にジョンに依存していたのでしょう。
元来の弱さが露呈していたのだと考えられます。
さて、恒例の(?)今作のゲーム振り返りを簡単に。
冒頭で出てきたトロイは、何度も犯罪を犯して服役を繰り返していたようです。
「繋がれた生活が好きなのか」という発想からのゲームは好きでしたが、アマンダ仕立てのゲームだったので、鎖を解き放ったとてドアが開かず、助からなかったようです。
続いて、刑事のケリー。
彼女はずっとジグソウを追っていましたが、ついに(逆に)捕まってしまいました。
こちらもアマンダプレゼンツだったので、頑張って酸の中から鍵を取り出したのに、外し方がわからず、というか外せないようになっていたのでインパクトある死を迎えてしまいました。
ケリーは実は、ジョンとアマンダ以外では唯一、『ソウ』『ソウ2』『ソウ3』と3作皆勤賞のキャラでもありました。
2はわかりやすいですが、1でも序盤、タップ刑事やシン刑事に現場の説明をしていました。
そんな皆勤賞キャラだったのに、テープでちょっと家族を失って逃避していた背景が説明されただけで、それほど深掘りされることなくあっさりと殺されてしまいました。
ジグソウのビデオを自宅に持ち帰って見ていたのは、ちょっと問題がありそう。
ケリーに関しては、酸のゲームもケリーの過去とは絡みがなかったですし、単純に「邪魔だったから」殺されたに過ぎません。
アマンダの暴走を象徴するゲーム、というかもはや、アマンダが行っていたのはゲームですらなくなっていました。
そしてメインのゲームが、ジェフのゲームであり、リンのゲームであり、そしてアマンダのゲームでもありました。
この点、ジョンの目的も合わせて少し複雑に絡み合っているので、項を改めたいと思います。
考察:ジョンの目的(ネタバレあり)
後発シリーズで明かされる謎や伏線も多いため、序盤のナンバリング作品については都度考察する必要はないかなと思っていましたが、本作のメインのゲームに関しては少し複雑、かつ本作の中で完結しているので、改めて少し検討してみます。
まず、ジェフ、リン、アマンダの3人のゲームは絡み合っていました。
その中でも優先的なのは、リンとアマンダです。
ジェフが選ばれたのは、リンの夫だったからに過ぎません。
リンが選ばれたのは、後発シリーズでもプラスアルファの要素が明かされますが、言うまでもなく、ジョンの手術をさせるため。
なぜ手術をさせるのかというと、一つはもちろん、ジョンが生きたかったから、というのはあるでしょう。
ただ、それだけのためというよりは、アマンダの問題が大きかったと考えられます。
後継者として選ばれたアマンダは、ジョンの思想に沿うことなく暴走していました。
ジョンに依存しつつも、ジョンの「命や今あるものの大切さを思い出させる」という思想に則らず、生存ルートのないゲームをセッティングし、ジョンの忌み嫌う「人殺し」になっていたアマンダ。
いわば後継者に相応しくないわけで、後継者として更生する最後のチャンスを与えたのがアマンダのゲームでした。
そのため、リンに「ジェフのゲームが終わるまでジョンを生かしておくこと」というルールを設けたのは、ジョンがアマンダのゲーム終了を見届けるためでもありました。
遅かれ早かれ死ぬにしても、アマンダのゲームだけは見届ける必要があった。
アマンダのゲームに自分の命まで賭けていたわけなので、ある意味、ジョンの優しさだったのかもしれません。
生に執着していたという理由だけでリンをゲームに巻き込もうとしたのではないはずです。
そのため、ジェフのゲームも、アマンダのゲームの一環として設定されました。
それはアマンダには知らされていなかったため、入れ子構造のように複雑になっていました。
ジェフのゲームは、自分の息子を轢き殺したティモシー・ヤングと、目撃証言をしなかった女性、軽い処分しか与えなかった判事への復讐か赦しか。
これは、従前のジグソウのゲームとはまったく異なります。
被験者自身が生か死か選択できるゲームではないからです。
つまり、ジョンの一番の目的は、アマンダのゲームでした。
リンもジェフも、都合の良い条件が揃っていたので巻き込まれて利用されたに過ぎません。
その意味では、ゲームに巻き込まれるほどの悪事を働いていたり、今ある幸せを軽視していたわけではないので、だいぶ不運でもありました。
ジェフもリンも、そしてジェフのゲームの被害者たちも、すべてアマンダのゲームのために巻き込まれただけであり、かなりジョンのエゴが強いゲームでもあったということになります。
アマンダに求められたのは、人の命を助けること。
そして、赦すこと。
それが、ジグソウの後継者としてのアマンダに欠けていた要素でした。
ジェフに赦しのゲームを繰り返させたのは、その姿をアマンダに見せるためでしょう。
復讐は何も生ないことや、赦しの必要性。
ジェフが誰かを見捨てていたら、もしかするとジェフのゲームはそこで終了していたのかもしれません。
そうなると、ジェフはジョンたちのもとへは辿り着きませんが、そうなったらそうなったで、アマンダがリンを解放することはないとジョンは予想していたのでしょう。
ジェフが赦す姿を見て、アマンダが変わるかどうか。
その意味では、ジェフがかなり大きな役割を果たしていたことになります。
しかし、ジェフが赦す姿を見てなお、アマンダはリンを解放しませんでした。
愛するジョンへの嫉妬が強かったのでしょう。
男女というよりは、親子に近い感覚だったはず。
自分のすべてを捧げたジョンがリンを頼る姿を見て、アマンダはどんどん不安定になっていきました。
その根底には「自分はもう必要とされていないのでは」という強烈な見捨てられ不安があったはずです。
とはいえ、古いラブコメかのようにひたすらタイミング悪い場面ばかり目撃してしまったアマンダ、ちょっとかわいそうではありました。
アマンダがリンを撃てば、ジェフがアマンダを撃つ。
最後の選択は、赦しを積み重ねてきたジェフに委ねられましたが、失敗パターンも想定していたのがジョン。
自分が死んだら、リンの頭部は爆発し、ジェフも閉じ込められて死ぬ。
簡単にまとめれば、ジェフやリンを巻き込み、自分の命を賭けてまで、アマンダに最後のチャンスを与えたことになります。
綺麗に進めば、全員が助かる選択肢もあった点が見事。
しかし、失敗すれば今までの思想から外れ、ジョンの定義する「人殺し」の道に自分も踏み入ることになってしまうのはわかっていた上でセッティングされたゲームであり、ジョンの究極のエゴと愛情に溢れていたのが『ソウ3』のゲームだったのです。
追記
『ソウ4』(2024/8/14)
続編『ソウ4』の感想をアップしました。
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