【映画】スプリー(ネタバレ感想)

【映画】スプリー(ネタバレ感想)
(C)2020 Spree Film Holdings, LLC. All Rights Reserved.
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

【映画】スプリー(ネタバレ感想)
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フォロワーを増やしたい一心のライドシェアドライバー、カート・カンクルはSNSをバズらせて人生の一発逆転を狙うために、乗客を手にかけ、その様子をライブストリーミング配信するという恐ろしいアイデアを思いつく。
絶対バズると意気込むカートだったが、「フェイクだ」「退屈だ」というネガティブな反応ばかりで全く盛り上がらない。怒りの矛先は乗客だけでなく、拡散させないインフルエンサーにまで向けられ狂気は加速していく──。

2020年製作、アメリカの作品。
原題も『Spree』。

『#フォロー・ミー』などに通ずるような、「調子に乗ったライブ配信者の成れの果て系(勝手に命名)」の作品でした。
『search/サーチ』などのようにパソコンやスマホなどの画面上の映像だけで展開されていく演出も、近年定番化しつつある印象です。
プラスして、ライドシェアやSNSによる承認欲求といったような現代的なテーマも盛り込まれており、楽しめました。

薄々気づいていましたが、こういった系統の作品、かなり好きです。
『#フォロー・ミー』『search/サーチ』はもちろん、『ズーム/見えない参加者』『DASHCAM ダッシュカム』など、調子に乗ったライブ配信者の成れの果て系や、画面上の映像だけで進んでいく作品が。
あと、もともとPOVホラーが好きなのもありますかね。

その意味では『スプリー』は決して斬新な作品というわけではありませんでしたが、スタイリッシュな演出が好きでした
テンポよく進み、複数のデバイスの画面が入り乱れたり、常にEDMな音楽が流れていたり。
特に音楽が好みの系統だったのが、より飽きなかった要因かもしれません。

公式が「ジェットコースタースリラー」と謳っている通り、とにかく勢いを楽しむ作品でした
殺し方もバリエーションに富んでおり、特に野犬と電気ドリルを使って3人まとめて殺ったシーンが好き。

その一方で、死体は映りましたが、過激なグロシーンがほぼなかったの本作の特徴でしょう。
グロに頼るのではなく、しっかりと社会風刺的な要素が盛り込まれていた点も、本作の個性を光らせていました。
中でも特徴的だったのは、「人を殺してもバズらない」点でした。

これまでの「調子に乗ったライブ配信者の成れの果て系」では、迷惑系の配信である程度の人気を博しているライブ配信者が、さらなる数字や視聴者の反応を追い求めて内容が過激にエスカレートしていき、ついには身の破滅を招くというパターンが多かったように思います。
しかし『スプリー』の主人公カートは、10年も動画配信やライブ配信を頑張っているにもかかわらず、視聴回数は伸びずにライブ配信の視聴者数は1桁という始末。
そんな現状を打破すべく、ついに殺人の配信という禁忌にも手を出しますが、それでも伸びないのです。

この点が、非常に現実的に感じました
もはやYouTuberやSNSが飽和状態にある現代においては、個人がちょっと派手なことをしたところで、簡単には目立てません。
さらには、やらせやフェイク動画の概念も浸透しており、本作のように無名の配信者が殺人を配信したところで、フェイクを疑われるのがオチでしょう。


冷静に考えて、10年も諦めずに継続してきたカートはとても偉いと思いますが、10年もやっていてまったく伸びていないというのは、才能がない、あるいは方向性が間違っているとしか言いようがありません
本作で印象的なのは、「これでついにバズるぞ間違いない!」とうっきうきの笑顔で犯行を重ねるカートのキラキラ感と、視聴者の醒めた反応との温度差でした。

さらに、それでも伸び悩んだカートの最終手段は、インフルエンサーの影響力に頼る、あるいは彼ら彼女らのアカウントを乗っ取るというものでした。
完全に他者頼みであり、オリジナリティの欠片もありません
乗っ取ったボビーのアカウントの視聴者数で大喜びしているカートの姿は、数字だけに振り回される哀れなピエロでしかありませんでした。

ボビーはもちろん、ジェシーやDJウノといったインフルエンサーたちも、超有名というわけではなかったようです。
実際に、カートはそもそも彼女らの存在を知りませんでした。
それなのに、視聴者や他の人が知っていたというだけで、彼女らに羨望の眼差しを向けます
この点からも、数字や周りの評価に振り回されるカートの価値観が窺えます。

結局、カートには中身がなく、10年間の積み重ねもなく、空っぽだったとしか言いようがありません。
そんなカートが思いつきで殺人配信をしたところで、バズるわけがないのです。
堅実に努力しようとしてきた長い過去がある点がまた、カートの哀れさを際立たせていました。


ただ、最後のメッセージのようなものを残していたり、犯行を始める前に母親を殺害していたのは、自らの破滅を予期していた様子も窺えます
さすがに自分が死ぬとまでは思っていなかったかもしれませんが、逮捕される可能性は当然視野に入れていたでしょう。
すぐに発覚させず、かつてない被害者数を稼いでから捕まる。
そうなればさすがにある程度話題になるだろう、といった意識はあったかもしれません。

その意味では、もはやその最終手段を取ることでしか自分はバズることができないという諦めの境地に達していたとも言えますし、自分を客観視できていたとも言えます(視野は狭くなっていたでしょうが)。
実際にその通りになり、有志のファンたちによって本作『スプリー』という映画が作られた、という最後のまとめ方も好きでした。
カートの願いが叶ったとも言えるでしょう。

しかし皮肉なのは、さらに有名になったのはジェシーだったという現実です
カートの犯行を止め、打ち勝ったヒロインとして脚光を浴びたジェシーは、再び表舞台に戻ったようでした。
SNSをやめると宣言しながら、返り討ちにしたカートの死体と記念写真を撮り、再びSNSの世界に戻った彼女もまた承認欲求に取り憑かれており、一度ハマってしまうとなかなか抜け出せない現実も垣間見えます。

とはいえ、あくまでも社会風刺的な要素は演出の一つであり、シンプルに勢いを楽しむスリラー作品であったと捉えています。
カートのレッスンで何を学んだかといえば、しっかりと自分軸で自分の価値を作っていくことが大切だな、という当たり前のことでしょうか。
他者評価や承認欲求だけに縛られている限りは、やはり永遠に安定した幸せは得られないでしょう。
何だかんだそんな当たり前の教訓しか得られないところが、カートの空虚さを作品自体が体現しているようで涙

最後に余談ですが、インスタやYouTubeでは実際に「@kurtsworld96」のアカウントが存在します。
こういった作り込みも近年珍しくはありませんが、インスタの投稿数が尋常じゃなかったりと、気合いの入り方がなかなかでした。

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