【映画】トンソン荘事件の記録(ネタバレ感想・考察)

【映画】トンソン荘事件の記録(ネタバレ感想・考察)
(C)2020 KT ALPHA Co., Ltd., BALPO PLAN INC. & BROTHER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

【映画】トンソン荘事件の記録(ネタバレ感想・考察)
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1992年、釜山の旅館「トンソン荘」で殺人事件が起きた。
旅館のアルバイトの男が恋人を連れ込み、隠しカメラで部屋の様子を撮影。
しかし、男はその部屋で恋人を殺害してしまう。
逮捕された男は、心神耗弱による無罪を主張したが、判決は無期懲役。
そして、仮釈放の1年前に自ら命を絶った。
その殺害の一部始終が収められたビデオは、その残虐性から当局によって封印された。
しかし、検事の間で話題になったのは、殺害の様子ではなく部屋の鏡に映っていたものだった。
それは、男でも恋人でもなく、そこにいるはずのない何かの姿。
取材班は、その真相を突き止めるべく調査を開始。
その様子を記録映画として撮影するが──。

2023年製作、韓国の作品。
原題は『마루이 비디오』、英題は『Marui Video』。
原題は英題と同じ「マルイビデオ」の意味で、「マルイビデオ」は作中でも説明されていましたが「殺人事件に関わる暴力的で残酷な証拠映像」を指すようです。

さて、近年流行りのモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)作品。
ということもあってか、それほど斬新さがあるわけではありませんでしたが、さすがの韓国、安定感のある仕上がりでした。

ビデオの質感やリアルさなど、とてもよくできていると思います。
ただ、個人的には韓国・タイ合作の同じくモキュメンタリーホラーである『女神の継承』があまりにも刺さっており高評価なので、それと比べるとスケールや作り込みなどが弱く感じてしまいました。

とはいえ、そもそも描いている規模も違いますからね。
『女神の継承』は、人間を超えた超自然的な存在が軸に描かれており「恐怖」というよりはもはや「畏怖」の領域。
対して『トンソン荘事件の記録』は、殺人事件や死者の恨みといったより身近な恐怖のテーマを扱っていた作品であり、同列で比べるべきものではありません。

『トンソン荘事件の記録』も、「実際にあり得そうなレベル」での不可解な現象を追っていく前半部分は、まさにアジアホラーらしい不穏さでとても楽しめました
真相が明かされていく過程は、ミステリィ的な要素も。
ただ、後半部分はけっこう急展開だったのと、時間軸や、初見では誰が誰だかわかりづらく混乱してしまったのもあって、あれよあれよと終わってしまった印象です。


比べるべきではないと思いつつも、ついつい観ながら『女神の継承』と比較してしまったのですが、儀式の荘厳さと、登場人物のキャラが弱かったのが、個人的にはマイナスポイントに感じてしまいました
公園で儀式やるんだ、とか、何かぴょんぴょん飛び跳ねて楽しそうだな、とか。

キャラに関しては、取材陣や祈祷師も含めてあまり印象に残る人がいませんでした。
霊に取り憑かれた記者・ホンは頑張っていましたが、それもどうしても『女神の継承』で悪霊に取り憑かれたミンの怪演と比べると弱く感じてしまいました。

『女神の継承』との比較は置いておいても、あまり印象に残るシーンや演出がなかったような。
本作ならではの要素が印象に残っておらず、何かしらあと一歩が物足りなかった、というのがやや贅沢な感想
ただ、それはそれでリアルだからこそ、かもしれません。
派手な演出を極力抑えていたのは、モキュメンタリーホラーとして好印象です。
キャラも、あえて個性は抑えていたのだろうとも感じます。

ドキュメンタリー調なのでリアルに見えますが、展開はけっこう強引な部分も見られました。
退職したとはいえ司法関係者がぺらぺらと証言したり、元弁護士の家に事件の証拠が保管されていた点などは、自分も守秘義務が徹底している職業柄、心配になってしまいました。


名前や関係性が覚えられなくて混乱してしまったのは別として、明かされた真相も、けっこう謎は残るものでした
軸は「トンソン荘の主人が過去に家族を殺害していた」というのがベースですが、それだけでは説明がつかないような謎もちらほら。

考察要素が散りばめられているのはモキュメンタリーホラーの定番でもありますが、どこまで細かく考えるべきなのか?というのは、そもそもどこまで設定が詰められているかがわからないので、いつも悩むところです。
とはいえ、そのあたりをあまり考えていても仕方がないので、とりあえずの大筋と、気になった細かい部分をいくつか拾っていきたいと思います。

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考察:出来事の整理と細かい謎(ネタバレあり)

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出来事の整理

まずは大筋の流れを確認したいのですが、その前に。
登場人物の名前が混乱しがちなので、主要な人物たちを整理しておきます。

ホン……途中から取り憑かれた女性記者
キム……ドキュメンタリーの監督

チョ・ギョンホ……長男。母と妹を殺害し焼身自殺扱い。鏡などに映った霊
チョ・ウンミ……長女。ギョンホの妹

チョ・ビョンソン……双子の兄。ギョンホの父。ベトナム戦争後、精神を病んで福祉施設に入所していたが、閉鎖と同時に行方不明に
チョ・ヨンテ……双子の弟。ウンミの父

さて、遡れば色々あるのかもしれませんが、今回の物語の起点は1987年5月のチョ一家における事件でした
写真に書かれていた説明によれば、5月3日にビョンソンが福祉施設から逃走、5月4日にチョ一家のもとに帰ってきて、5日のこどもの日に事件が起こりました。
韓国でも5月5日はこどもの日なのですね。

この日の事件も明言できない部分がありますが、おそらくはビョンソンが双子の弟でもあるヨンテを含めた全員を殺害し、ヨンテになりすましたと考えられます
殺害の動機ははっきりしませんがそれは後述するとして、取材陣が会った老人ヨンテの正体はビョンソンでほぼ間違いないでしょう。
ヨンテの住民登録番号がわからなかったのと、福祉施設であった事件で負った右手のやけど痕、そしてチョ・ギョンホの霊が「父さん」と呼びかけていたのがその証拠となっていました。

ヨンテになりすましたビョンソンは、事件のあった家は引き払い、トンソン荘のオーナーに。
ビョンソンのトンソン荘。
語呂がいいですね。

ビョンソンはトンソン荘の管理人として平和に暮らしていた……のかはわかりませんが、1992年にトンソン荘で、アルバイトの青年が交際相手の女性を殺害する事件が起こります
このときの映像に、学生服のチョ・ギョンホらしき人影と、「父さん」と呼びかける声が入り込んでいました。
この事件も、1992年の5月5日、こどもの日の出来事でした。

そして2019年、トンソン荘事件の映像を手に入れたキム監督やホンらが、真相解明に乗り出します。
その過程でホンがチョ・ギョンホの霊に取り憑かれ、再び5月5日にビョンソンや取材班を殺害するという惨劇が起こってしまいました。
ホンには記憶がなく、キム監督は行方不明となって幕を閉じます。

1987年に何があったのか?

以上が本編の大筋で、この時点で理解を止めてしまうぐらいで良いような気もしますが、せっかくなので少し踏み込んで考えてみます。
まずそもそも1987年のチョ一家の事件はなぜ起こったのでしょうか。

考えられる一つは、自分がいない間に、妻が弟のヨンテと関係を持ち、子どもまで作っていたことにビョンソンがキレた説です。
もう一つは、ビョンソンは精神を病んでいたという記述があったので、ただただ精神に異常を来して事件を起こしたという説。

ただ、福祉施設でも暴力的な事件を起こしていたことから、現実を認識できないような精神病の状態にあったとは考えられません。
しかし、妻と弟の不倫にキレたとすると、自分の息子のギョンホまで殺害した上に罪を被せた理由がよくわかりません。

また仮説を考えると、一つは、人生をリセットしたかった。
もう一つは、妻と弟とその娘を殺し、ギョンホと一緒に心中するつもりでギョンホも同意していたが、ギョンホが先に焼身自殺をして気が変わった。

後者は、あり得なくもないかもしれません。
ホンに乗り移ったギョンホは「庭でずっと待っていた」と何回も言っていました。
一緒に死ぬと約束したのに裏切られた、という恨みと捉えることもできます。
寺に位牌を置き、毎年こどもの日に供養に訪れていたのも、懺悔とも考えられます。
ラストでは、ギョンホの霊も「泥棒を捕まえに行くと父さんが言ったので、そこに行ったら……」という思わせ振りで謎のセリフもありましたが、これもビョンソンに何かしら騙された可能性を示唆します

ちなみにギョンホは、途中までは自分が死んだ事件の詳細はあまり覚えていなかったのではないかと思います。
ホンの身体を通して少しずつ真相を明らかにするうちに、徐々に思い出していったはずです。
そうじゃなければ、1992年の時点でアルバイトの青年を使って、彼の交際相手を殺すのではなく、真相を明らかにした上でオーナーであるビョンソンを殺せば良かったわけですからね。

ここで少し気になるのが、ギョンホの位牌とともにあった何人もの遺影です。
パッと見、全部子どもに見えました。
また、途中で現れた霊媒師は、ギョンホの写真を指して「赤子が乗り移った写真」と言っていました。
字幕の訳が間違っている可能性もありますが、ギョンホだとしても、妹だとしても、赤子という表現はやや違和感があります。

少し飛躍させると、ビョンソンは昔から何かしら犯罪に加担してきた可能性があるかもしれません
その被害者が、遺影として飾られていた子どもたち。
そう考えると、今回の事件はギョンホの霊だけではなく、たくさんの赤子や子どもたちの霊も影響している可能性が浮上します。

相手が子どもとはいえあれだけの人数をビョンソン1人が殺し続けてきたとも思えませんが、福祉施設でも暴力事件を起こしたり、帰ってきて即家族を殺害したとすると、精神を病んでいたというだけでは説明がつきません。
もともと暴力的な傾向があり、過去の事件の被害者たちにすでに取り憑かれていた可能性も考えられます。
あるいは、躊躇なく放火するような人間性だったので、トンソン荘の管理人になってからも犯行を重ねていた可能性すらあるかもしれません。

別解としては、チョ一家の家があった場所は、以前は日本人の墓地であったと不動産屋が説明していました。
そのため、もともとあの場所が呪われていた可能性もあります
映画の最後はこどもの日の説明で締められたので、こどもの日に事件が起きたのも、より大きな背景があることを示唆するような意味があったのかもしれません。
わざわざそんな土地であることが説明されていたので、けっこうこれが本命かも。

キム監督はどうなった?

ラストでは、なぜかキム監督は行方不明となっていました。
殺されたのかと思っていましたが、違ったようです。
ラストの森のシーンは、画面が揺れまくりだったので、何が起こっていたのかいまいち把握しきれず。

とりあえずなぜ行方不明になったかと考えると、取り憑かれたからとしか考えられないような
殺されていれば遺体が見つかったでしょうし、普通に生きていれば保護されていたでしょうし。

しかし、ホンに取り憑いたギョンホの霊は、「もう終わりにしよう」と言ってビョンソンを殺害しました。
これは遺体も見つかっているので間違いありません。
ギョンホはずっと父親を恨んでいるようだったので、これで恨みは晴らせたはずです。

いやいやそれだけじゃ恨みの念は晴れずに留まってしまっていた、とも考えられるかもしれませんが、個人的にここで取り上げたいのは、上述した他の子どもたちの遺影です。
彼ら彼女らとビョンソンに関係があるのかは置いておくとしても、あの位牌や遺影があった場は、寺や祈祷場ということもあり、たくさんの霊が渦巻いていた場所と考えても不自然ではありません

そう考えると、もはや問題はギョンホの恨みだけではなく、大勢の恨みつらみの集合体となります。
ギョンホの恨みは晴れたにしても、それらの霊にキム監督は取り憑かれ、行方不明に。
あのあとまたいつかどこかで、何か不吉な事件が起こるのかもしれません。

ちなみに、ホンが器として選ばれた(?)のは、祈祷師が指摘していた「赤子の乗り移った」写真を素手で触ったのが原因なのかと思います。
さらに終盤でエスカレートしたのは、ビデオのオリジナル版を見たからでしょうか。
それを踏まえると、キム監督が選ばれたのは、ホンが屋根裏で見つけたビョンソンが帰ってきた日の写真や、ホンの部屋にあったオリジナルのビデオテープを触ったりしたからなのかな、と想像できます。

細かい部分は謎のまま

大きなところは上述した感じでイメージしていますが、それでも細かい部分に謎は残ります。
そのあたりがすべて説明がつく仮説は今のところなく、すべてが詰められているのかもわからないので、ひとまず思いついたものをピックアップして列挙するに留めましょう。
もし何か仮説をお持ちの方がいらっしゃいましたら、教えていただけると喜びます。

まずは、なぜ1992年に事件が起きたのかということ。
発覚していないだけで他にもあるのかも。
あるいは、ギョンホの霊の目的は、過去の自分の死の真相を暴いてほしいという願いであったようなので、「こいつちょうど部屋の様子を録画してる!映り込めば色々調べてもらえるかも!ラッキー!」となったのかもしれません。

妹が幼い日の集合写真で「自分の運命を知っているような表情で」1人違うところを見ていたのも謎です。
何かしら霊感的なものがあったのか、たまたまなのか。

祈祷師が家を調べているとき、外で釘を打ちつけたのは誰?
あれはただのオカルト現象でしょうか。
ビョンソンがやったにしては意味がありませんし、早業すぎますし。
脅して手を引かせようとした、ぐらいは考えられるかもしれませんが、それでもやっぱり無駄でリスクが高い上に早業すぎるでしょう。

取り憑かれたホンが廃屋の庭で何か探していたのは?
地面を掘ろうとしていたのを考えると、ヨンテの遺体でしょうか。

屋根裏に上がる際、ビデオの映像にギョンホらしき顔が映ったこと。

昔観た映画の話の意味。
ビデオ通話越しにホンがその話をしている際、窓ガラスの外に映った人影。

バス停からワープしたホン(そんな能力が!?)。

寺の事件のときに夜の森で祈祷していた女性。
あのお寺は子どもの供養のお寺だったのかも?
だとすると子どもたちの遺影はビョンソンとは関係ないのかも。
こどもの日だから祈祷していたのかも?
あんな夜中に1人で?周りが騒がしくなっているのに?

などなど、それほど大きな意味もなくただホラーとしての演出の要素もあると思うので、これ以上は今は踏み込まず、また何か思いついたら加筆したいと思います。

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