作品の概要と感想(ネタバレあり)
いびつなマスクを被って若い女性を拉致・監禁し、ジャンケンをさせて負けたら殺して人形に仕立て上げ、コレクションする。
その残忍で特殊な殺害方法から「ドール・メーカー」と呼ばれた殺人鬼のピーター・ハリスは、精神病院での治療を終えて退院し、おじが残した家に戻ってきた。
しかし、家に残る忌まわしい記憶によって彼の心は再び闇へと転落していく──。
2017年製作、アメリカの作品。
監督に初代『チャイルド・プレイ』のトム・ホランド、脚本に『13日の金曜日』のビクター・ミラーと、豪華なコンビ。
なのですが、個人的には、ちょっと残念な仕上がりでした。
まず、演出や見せ方に古さを感じてしまいました。
電球などをアップにする映し方や、時折挟まれるスローモーションなんか、まさに80年代ホラーな雰囲気。
80年代ホラーを代表するコンビなので、もしかするとあえてそれを意識しているのかもしれませんが、それにしては舞台は現代でスマホもばりばり使っているので、少々ちぐはぐな印象です。
ストーリーもやや冗長。
女性を誘拐しては、じゃんけんをして負けさせたあと(ずる勝ち)、殺害してその女性を模した人形を作っていたピーター・ハリス。
序盤こそグロシーンから始まりますが、R18+にしてはさっぱりめ。
犯行過程は、ごく一部しか描かれず。
ピーターはすぐに逮捕され、「双子の弟・アーロン」という空想の存在と対話しているとして、精神病院(医療刑務所?)送りに。
その後、しばらくは退院後のピーターと、記者のモニカ・バーフィールドと名乗るピーターの最後の被害者の妹のやり取りが続きます。
徐々にピーターのトラウマが明らかになっていくプロセスは面白いですが、いまいち盛り上がりに欠けてしまっていた印象。
トラウマを与えられたおじさんの家に戻ったこともあり、かなりあっさりと、ピーターはトラウマが蘇ります。
再び殺人衝動に目覚めたピーター。
結局、空想上の存在と思われた双子の弟・アーロンが実在したというのがどんでん返しでしたが、驚きというより、「お、おぉ……?そ、そっか……」というちょっと戸惑いのリアクションになってしまいました。
どこにいたんだろう……といった気持ち。
終盤の手に汗握るはずのバトルも、鈍臭さが目立ってしまいます。
ただこの間抜けな追いかけっこも80年代を彷彿とさせるので、あえて意識された演出かもしれません。
設定や発想は面白いと思うのですが、全体的に、何を描きたかったのか、焦点がよくわからない作品になってしまっていた印象を受けました。
エンドロール後のダンスも、クランクアップのときなのかわかりませんが、謎。
13人もの連続殺人が心神喪失であるのはかなり無理があるのと、電気ショックとかいつの時代やねん、しかも無理矢理連れてきていきなりとか人権はどうなっているのでしょうというのと、たったの数年だけだし明らかに治療できてませんよねというのと、ビデオで撮って送らせるだけってどんな治療?というのと。
アーロンも実際に生まれていたのでその記録はあるはずだし、それすら見落としていた裁判所もかなり抜けています。
……などなど、精神医学的・心理学的に見るとほぼ崩壊しており、他にも突っ込み始めると止まらなくなってしまうので、ここはこれ以上触れないでおきましょう。
原題は『Rock Paper Dead』。
ピーターは、人形というよりじゃんけんへのとらわれの方が強かったので、原題の方が合っていると思います。
ただ、そのまま邦題にしても日本人的にはいまいちわかりづらいですし、かといって『じゃんけん……死!』みたいなのもチープ極まりないので、決して駄目な邦題でもないのでしょう。
ちょっとだけ考察:ピーターの心理(ネタバレあり)
正直、それほど真面目に考察するポイントにも乏しいのですが、ピーター(とアーロン)の心理について少しだけ考察します。
ピーターはもともと、両親を亡くし、引き取られたおじさんから性的な虐待を受けていました。
「幼い女の子はいつも私に反抗する」と口にしていたおじさんは、どうやら小児性愛で常習的な性犯罪者であることを窺わせます。
かなりやばい人物ですが、結局おじさんはアーロンが殺害したとのこと。
死体とか、どうやって処分したんですかね。
ただ、「赤ん坊の頃に死んだことになっている」アーロンなので、ピーターにアリバイがあるときに殺害すれば、疑われなかったのでしょうか。
そんなおじさんにトラウマを植え付けられたピーター。
過程は不明ですが、殺人に興奮を覚えるようになってしまいます。
ただしそこはアーロンとの共同作業で、アーロンが被害者を選んで連れ込み、性的な暴行を加えて、最終的にはピーターがじゃんけんをして殺害する、という流れ。
被害者が転じて加害者になるという構図の心理については、櫛木理宇の小説『殺人依存症』の考察に少し詳しく書きました。
簡単に言えば、被害者に「かつての弱かった自分」を重ね合わせ、それを支配・コントロールすることによって、トラウマを乗り越えようという試みです。
その意味では、ピーターも被害者でもあったことは間違いありません(もちろん、それで殺人が正当化されるわけでもありません)。
ただし、おそらくアーロンはおじさんからの被害は受けていなかったので、ただ欲望のまま好みの女性を引っかけては連れ込み、暴行を加え、結果としてピーターに処分させていたわけで、ピーターよりよほど危険人物です。
終盤、アーロンが初めて姿を現し、モニカが隙を突いて逃走した際、拘束され傷を負ったピーターに対してアーロンが「寝転がってないであの女を追いかけろ」と指示していたことからは、アーロンの方が立場が上である様子が窺えます。
おじさんがいなくなってからも、おじさんのときほどではないにしてもピーターはアーロンの支配下にあったと考えると、ピーターはかわいそうな存在ではあります。
裁判などではアーロンの存在も信じてもらえず、ポンコツ治療でトラウマもまったく治らず。
運や環境にも恵まれなかったと言えるでしょう。
ラストでは、ピーターは死んでしまい、アーロンだけが生き残ります。
しかも、アーロンは見事にモニカ以外には目撃されず。
モニカは、アーロンを探し続けた方が自然だった気もしますが、気が抜けて絶望したのか、なぜか完全に精神を病んでしまった状態に。
そんなモニカを、アーロンが病院からめちゃくちゃ強引に拉致。
ここまで執着していたところを見ると、アーロンはピーターを殺されたことにはそれなりに恨みを感じていたのでしょうか。
あるいは、思い通りにならなかったことへの逆恨みかもしれません。
最後には、ピーターの意思を受け継いでか、これまたなぜか正気に戻っているらしいモニカに対して、アーロンは殺人まで示唆します。
結局、アーロンの方がサイコパス的な可能性のある、生粋の悪だったようです。
ただし、アーロンの過去はまったく描かれていません。
「赤ん坊の頃に死んだことになっていた」のに生きていた、そして児童養護施設に預けられたというのは、それなりに複雑な環境で育ったことが推察されます。
もちろん、それらがアーロンのパーソナリティにネガティブな影響を与えた可能性も考えられるのです。
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