作品の概要と感想とちょっと考察(ネタバレあり)
アメリカの大都市にある高層ビル内のエレベーターに、5人の男女が閉じ込められる。
一見、普通の事故かと思われたが、エレベーター内では不可解なことが連続して発生。
これは人間の仕業なのか、あるいは本当に悪魔の仕業なのか──。
2010年製作、アメリカの作品。
原題も『Devil』。
監督は、スペインの名作POVホラー『REC/レック』のハリウッド・リメイクである『REC:レック/ザ・クアランティン』を手がけたジョン・エリック・ドゥードル。
製作・原案は、『シックス・センス』『ヴィレッジ』『オールド』などのM・ナイト・シャマラン。
シャマランが原案で若手の監督が撮影する「ザ・ナイト・クロニクルズ」シリーズ第1弾という位置付けのようです。
「ザ・ナイト・クロニクルズ」シリーズは3部作で想定されており、『デビル』に続いては『Reincarnate(リインカーネート)』という作品の制作が決定したという情報はあるのですが、その後の情報が何も出て来ず、頓挫したのかどうなのか。
『デビル』は、シャマランが5年ほど温めていたアイデアを映画化したというもの。
アガサ・クリスティーのファンとのことで、なるほど、『そして誰もいなくなった』の影響を強く受けていることも窺えます。
個人的にはそれなりに楽しめましたが、この作品ならではの魅力がいまいち欠けてしまっていたような印象です。
1ヶ月後にはけっこう忘れてしまっていそう。
エレベータという極限の密室の中で繰り広げられる殺人は、それなりに緊張感が漂います。
ただ、最初から「悪魔」推しなので、「誰が犯人なのか?」という緊張感はあまりありません。
悪魔ならしょうがないよね。
「もしからしたら悪魔と見せかけてこの中の誰かの仕業なのかも」とも一瞬考えましたが、話が進むほど明らかに超常的な現状が続くので、人間の仕業だとしたらそれはそれで無理がありました。
悪魔とわかっているので、終盤、ジグソウばりに老女が起き上がるシーンも、ややインパクトに欠けてしまいます。
とはいえ、人間の仕業だと思わせておいて、最後に「実は悪魔の仕業でした〜」の方が評価はだだ下がりだった気もするので、これはこれで正解でしょうか。
シャマラン自身は、『デビル』に関するインタビューにおいて以下のように述べていました。
ジェットコースターに乗っているようなスリルを味わってほしいです。座席から飛び上がり、思わず隣の人にしがみついてしまうような感覚をね。ただそれだけではなく、ねっとりとした重い感覚も味わってほしいです。まるで何かにとりつかれてしまったような。それが私たちのゴールです
https://moviewalker.jp/news/article/23267/
おそらく、ソリッド・シチュエーションな緊張感と、悪魔の恐怖をミックスした感覚がイメージされていたのだと思われます。
日本人は悪魔というと実感が湧かず一歩引いた感覚で見てしまいますが、アメリカなどだとまた違った感想になるのかもしれません。
展開については、字幕と、防犯カメラを監視する若手警備員・ラミレスくんによって、事前に丁寧に説明されます。
悪魔の目的としては「罪人を一ヶ所に集め、苦しみを与えてから殺害して魂を奪う」といったところ。
「自殺騒ぎが悪魔の訪れを告げる」ことから始まりますが、結局最初の自殺は詳細不明のまま。
遺書はあったようですが、もしかすると今回の事件のために、わざわざ悪魔に自殺まで追い込まれたのかもしれません。
そうだとすると、一番の被害者は彼(彼女?)かも。
自殺死体を載せたトラックは結局、落下の衝撃で動き始めてしまって、ガードレール的なのにぶつかって曲がって、発見された場所で停まったということですかね?
そこまで誰にも目撃されなかったのかとか、ブレーキかけてなかったのかとか色々思いますが、本筋とはあまり関係がないので置いておきましょう。
さて、エレベータに集められたのは、男性3人、女性2人。
みんなそれぞれ、詐欺、暴行、ひき逃げ、窃盗、恐喝(結婚詐欺?美人局?)といった罪を抱えていました。
陽気でお調子者の詐欺師ビンスは、何となく大泉洋を彷彿とさせます(どうでも良い)。
エレベータに閉じ込められるというのは誰しも想像したことがあると思いますが、あれだけの高層ビル、しかも下層階には止まらない上階への直通エレベータだとすると、実際大変でしょう。
救出するのにあんなにもどうしようもないものかと思いますが、そこはエレベータ会社も倒産していたとのこと、きっと手抜き工事だったのです。
エレベータに閉じ込められるのは、特に閉所恐怖症の人にとってはまさに地獄。
ただ、閉所恐怖症らしかった派遣の新米警備員ベン(暴行)は、途中から普通になっていました。
もともと嘘をついていたのか、極限状況でそれどころではなくなったのかは、結局わかりません。
「死体を見るのは初めてだ」と言いながら、時間が経たないと瞼を閉じられないということを知っていたというのは、ベンも嘘つきであった可能性もあります。
ただ、39階ですらエレベータより階段で行こうとしていたのは、実際に閉所恐怖症であった可能性を支持する言動です。
詐欺師ビンスは、フラグをびんびんに立てまくったせいで、あっさりと最初の犠牲者に。
続く財布窃盗の老女も、一瞬で首を吊って(吊らされて)死亡します。
結局この老女が悪魔だったわけですが、乗っ取られた(?)のはどの段階だったのですかね。
そもそも、悪魔が老女に扮して登場しただけで、老女は実際は存在しない可能性もあります。
ジェーン・コウスキーという名前も、ジェンコウスキーというトニー(ひき逃げ)のファミリーネームをボーデン刑事が勘違いしただけで、名前があるのか、実在する人物なのかは明らかになっていません。
ただ、それだと財布窃盗の映像がやや謎というか、「この人も罪人ですよ」と人間に思わせるためにわざわざ窃盗したという、間抜けというか丁寧というか、人間の視線をかなり意識した悪魔になってしまいます。
悪魔がやってきて、自殺騒ぎがあって、悪魔が老女に取り憑いたタイミングはわかりませんが、発現したのはエレベータに乗る前あたりからでしょうか。
あのタイミングで5人が同じビルに集められ、同じエレベータに乗り合わせることになったのは、悪魔の仕業で間違いありません。
最後には、ひき逃げをしたという自らの罪を正直に告白したトニーは、殺されずに済みました。
どうやら自らの罪を隠す罪人の魂しか奪えないようで、律儀なのかそういった制限がかかっているのかわかりませんが、善人悪人関係なくひと睨みで殺せる『オーメン』などの悪魔に比べると、だいぶ不自由そうな悪魔でした。
殺人が起こってからは、悪魔の思惑通り乗客たちは疑心暗鬼になるわけですが、サラ(恐喝)の「煽り虫」っぷりは半端ではありません。
ビンス(詐欺)がお尻を触ったという冤罪をでっち上げたのも。
トニー(ひき逃げ)がエレベータの上に出て調べようとした際、「彼、逃げる気だわ!」と騒いだのも。
ベン(暴行)の方が信頼できると見るや、「自己紹介がまだね」と言ってベンとは握手して、トニーは無視するのも。
終いには、トニーとベンが取っ組み合いを始めた際には、「殺して、ベン!」「殺せ!」とこれ以上ないほどに煽り散らす始末。
上着を脱いで露出を増やしたのも謎ですし(みんな別に暑くはなさそう)、資産家に嫁いだり、さらには離婚を考えて弁護士に相談しているなど、計算高いというか、サラの方がよほど悪魔にも見えてきます。
トニーは、元海兵隊にしてはなかなかビビリで冷静さを失いがちだった印象です。
海兵隊は、それなりに精鋭部隊、エリートしかなれなかったような。
ただ、トニーの過去から推察すると、アフガニスタンでの惨劇がトラウマとなり海兵隊をやめて、アルコールに走ってひき逃げの事故を起こしたと考えられ、だいぶメンタル的には弱ってもいたのでしょう。
ボーデン刑事は、かなり優秀でした。
こういった映画ではだいたい警察が間抜けなので、珍しい。
とはいえ、なぜか警備室には増援がまったく来ないので、何かあるたびにボーデン刑事が走り回ります。
どう考えても警察がエレベータ内の防犯カメラを常に見ていないといけない状況ですが、人手が足りないので仕方ありません。
「悪魔の仕業だ」と最初から正解を教えてくれていた若手警備員ラミレスの言葉に耳を傾けるようになったのも、ボーデン刑事の優秀さを表しています。
とはいえ、警備室にラミレスを1人残したのは失敗でした。
閉じ込められ、殺人が起こったエレベータ内で、突如ぶつぶつと祈りの言葉が聞こえてきたら、それはもう乗客はとんでもない恐怖に陥るでしょう。
しかも結局彼の祈りは、悪魔に何のダメージも与えられなかったようです。
ボーデン刑事が最後にトニーを赦したのは、やはりちょっとご都合主義的に感じてしまいます。
洗車クーポンに「Im so sorry」だけ残して逃走するのはなかなか鬼畜ですが、他に紙がなくてトニーなりの精一杯だったのでしょう。
彼の誠実さに、ボーデン刑事は車ではなく心を洗われてしまったのでしょうか(何言ってるの?)。
ただ、罪を赦すという行為は、非常に神的です。
続く「心配ないよ。もし悪魔がいるなら神様もいるから」という言葉も合わせて考えると、もちろんボーデン刑事が神というわけではないですが、悪魔との対比で赦すという行為が描かれていたのだと考えられます。
冒頭では逆さまに映っていた世界(悪魔視点?)が、最後には正常に戻っていた(神視点?)のも、ひとまずは悪魔が去り、穏やかな日常が戻ってきたことを感じさせるものでした。
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