作品の概要と感想(ネタバレあり)
2015年、ハロウィンの夜。
不気味な仮面をつけた男が、突然、パーティ会場にいた人々をナイフでメッタ刺しにした。
犯人は警察に撃たれ瀕死の重傷を負うも川に飛び込み消息を絶った。
犯人は死んだと思われたが、その後も毎年、ハロウィンの夜に現れ、無差別大量殺人を繰り返した──。
2019年製作、アメリカの作品。
原題は『TRICK』。
内容からするとこのタイトルが明らかに正解ですが、日本だとドラマのイメージが強いからですかね。
『ヘルウィン』という邦題でだいぶ損している気がしますが、そのせいか、想像していたより楽しめました。
特に、映像の美しさとスピード感。
前半は、アメリカの街並みが美しく映されていました。
舞台も色々と移り変わり、あまり見ないような舞台設定が飽きさせません(展開は単調ですが)。
また、これだけのスピード感は、こういったスラッシャーものでは珍しい気がします。
犯人の中身はスティーブン・セガールなのでは?と思わせるほど、手慣れたナイフさばきで躍動的に殺しまくる犯人。
重機まで扱えて、まるでプロの殺し屋並みのスキルです。
みんなめちゃくちゃ訓練したんでしょうね。
出血量も出血大サービスでした。
だいたいがナイフでぐさぐさですが、ところどころ仕掛けられたトラップもあり、『スクリーム』と『ソウ』を掛け合わせたような印象でした。
ただ、残念ながらどちらにも及ばず。
マイナス点としては、ストーリーが弱く、特に後半は失速してしまった印象です。
犯人はモンスター、かと思いきやグループだった点は面白かったですが、特に彼らなりの哲学があるわけでもなく、何となく渋谷で騒ぐ若者たちと重なる程度の動機でした。
こういった作品では、細かい部分がぐだぐだなのは仕方ありませんが、それにしても粗は目立つ方でした。
警察官が間抜けなのも定番ではありますが、あまりにも間抜け過ぎて、やはりもどかしい。
ハロウィンホラーとして、既視感も多いながら目新しさもありけっこう面白かったですが、犯人のキャラが弱いので、続編は微妙そう。
もう少し上手く展開できそうな素材が多いだけに、ちょっともったいなく感じてしまいました。
後半は、説明不足だったりよくわからなかったポイントの中で検討可能なものをいくつか検討してみます。
考察:謎ポイントをいくつか検討(ネタバレあり)
犯人たちの目的
結局、『ヘルウィン』における犯人たちは何だったのでしょうか。
マイク・デンバー刑事への冥土の土産で懇切丁寧に説明してくれたところによると、
「恐れ、憎むべき存在の怪物が必要なんだ。自分たちの恐怖が現実になる存在が望まれている。そういう存在を与えてる。皆にトリックを提供してるんだ。いわば、公共サービスだ」
とのことでした。
よくわかりません。
つまりは、「こういう存在をみんな求めているんだろう?だから俺たちが提供してやっているんだ」ということですかね。
なかなか思い込みが激しそうです。
深読みすれば、ホラー映画好きに向けてのシニカルな視点もあるかもしれません。
こういうの好きなんでしょう?という。
犯人グループの1人、ジョニー?は、トロイたちが退屈で抜け出したホラー映画を1人で観続けていました。
彼自身、「恐怖の存在」が好きだったために、自分がなろうと思ったのかもしれません。
他には、自分は巻き込まれたくないけどこういった事件に興味津々な野次馬たち。
トリックを信奉する若者たち。
などなど。
出てきた限りでは唯一の女性(バーで働いていた)は、事件被害者の遺体写真を見ているテンバー刑事に「警官にとってはポルノと同じでしょ」と言っていました。
彼女的には、警察官はそういった血なまぐさい大きな事件を求めている、という思い込みがあったのでしょうか。
そう考えると、犯人たちそれぞれ、細かい部分では異なる動機や思想で参加している可能性も考えられます。
共通しているのは、いわゆるブギーマンの体現により恐怖を与えようという点です。
『ハロウィン』のマイケル・マイヤーズのような殺人鬼。
それも、殺しても死なないような殺人鬼です。
ラストを見る限りでは、リーダー格は、最初から胡散臭い雰囲気を放ちまくっていた医師でした。
生き残った犯人グループの2人が「2人じゃ無理だ」と言っていたあとに医師が来たことからは、医師はプレイヤーではなく、統率するような立場であることが示唆されます。
彼がいたから、病院内でも逃走したり暴れられたり、ロックのかかった部屋に入って監視カメラの映像を削除したりできたのです。
「2人じゃ無理だ」「増やしていかないとダメだよね」といった会話のあとに医師がやって来た構図からは、医師が新メンバーとして迎え入れられたと解釈することも可能です。
その場合は、これまで協力していたのはメンバーになるための条件で、それが認められてようやくメンバーになったということでしょう。
ただ、最後に偉そうに後部座席に座って「行こう」と言っていた様子からは、新メンバーとは少々考えにくいものがあります。
個人的には、医師がリーダーであり、複数メンバーによる「殺人鬼トリック」は彼が始めたプロジェクトである説を推します。
ちなみに、この医師を演じたジェイミー・ケネディは、『スクリーム』にも出演していました。
もう一つちなみにで言うと、映画館でジョニーが観ていた映画は、ゾンビ映画の原点にして金字塔『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』でした。
このチョイスは、ショットガンの音を誤魔化すためだけではもちろんなく、「犯人が複数人いる、ゾンビのように増殖していく」という点の伏線にもなっていたのかもしれません。
いずれにせよ彼らは、「俺たちは、求められているからやってあげているんだ」と自分たちに酔っている、ちょっと思い込みの激しい痛い集団なのでした。
パトリックはどうやって生き延びた?
最初のパーティで大暴れし、シェリルに火かき棒で刺され、逮捕されたパトリック。
結局、パトリックは偽名でしたが、ここではわかりやすく彼をパトリックと呼んでおきます。
ちなみに、パトリックも犯人グループの1人であり、彼が「トリック」と呼ばれていたこと、それが殺人鬼の名前になったことは、偶然と考えるしかありません。
原点が彼であり、その模倣集団と考えた方がネーミングについての矛盾は解消できますが、彼が暴れた時点ではすでに協力者だらけだったのでそれは考えづらく、ここは矛盾点なので置いておきます。
さて、彼は医師の協力を得て手錠を外し、病院内を逃走して大暴れ。
しかし結局追い詰められて、デンバー刑事とジェーン保安官に撃たれまくり、窓から転落しました。
しかし、デンバー刑事らが下に行くと、彼は消えていました。
これは一体どういうことでしょう。
あの時の目撃者、「我が目を疑った」と言っていた彼も、犯人グループの1人でした。
なので、川に逃げた痕跡はフェイクであり、転落したパトリックは彼が回収したのだと考えられます。
とはいえ、あれだけ銃弾を撃ち込まれ、あの高さからの落下です。
何で生きていたのかは、わかりません。
医師も協力者だったわけなので、こっそり防弾チョッキでも着ていた可能性もありますが、ごわごわしてすぐにわかるでしょうし、他の医療スタッフにも気づかれるでしょう。
何より、あの高さからの転落で生きていたのは奇跡でしかありません。
ただ、けっこう犯人たちは使い捨てというか、「誰かが死んでも他の誰かが続ける」という比較的ドライな集団のようなので、たまたま生きていただけで、死んでいたら死んでいたでそれまでだった可能性はあります。
転落が予想されていたとは思えないので、彼がちょうど窓の下にいて、偽の痕跡を残せたのも偶然としか考えられません。
これ以上は深く考えてはいけないポイントなので置いておくとして、とにかく、パトリックは川に逃げたのではなく、彼に回収されて治療を受けたのでした。
ちなみに、終盤で車椅子に乗って病院にいたのは、別にずっと入院していたわけではなく、最終決戦(?)のために医師の協力のもと紛れ込んでいたのでしょう。
その割には動きが不自由そうだったのは、ここもよくわからないポイントです。
あと、パトリックとシェリルたちはクラスメイトだったはずです。
シェリルは「宿題で頼られていた(学校では「あり得ない天才」だったようですが……)」「優しい人だった」とも証言していたので、それなりに関わりもあったはず。
それなのに、終盤、お腹の傷を見てシェリルは自分が刺した相手だと気がついた様子でした。
いくら髭面になったとはいえ、何で顔でわからなかったのかもわかりませんし、「パトリックね」みたいな感じでもありませんでした。
クラスメイトだったという設定が、終盤では吹き飛んでしまっていたのでしょうか。
モニタの映像の謎
謎ポイントを挙げていくとキリがないのですが、可能性として解答が考えられるところだけ取り上げていくと、シェリルパパが目撃したモニタの映像は何だったのか。
あのときには、メイクをしたいわゆるトリックの姿が映っていました。
しかし、ジェーン保安官らが目を向けたときには、その映像は消えます。
これは、何とか解釈するとすれば、医師が協力者であったので、映像をコントロールすることは可能であったと考えられます。
ただ、わざわざあそこでシェリルパパを怖がらせた理由は不明です。
どちらかというと、観客に「トリックは超常的な存在である」とミスリードさせるためだけの演出であった可能性の方が高いです。
このあたり、上述したパトリックが何で生きていたのかわからない点も含めて、「トリックが超常的な存在と思わせておいて、実は実際の人間のグループが犯人だった」というのは面白く、「TRICK」というタイトルがまさにぴったりなのですが、全体的に行動に一貫性がなく、ミスリードの仕方が自然ではなく強引だったところがマイナスポイントでした。
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