【映画】スケア・キャンペーン(ネタバレ感想・心理学的考察)

映画『スケア・キャンペーン』のポスター
(C)2015 Cyan Films Pty Ltd and Major International Pictures Pty Ltd
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『スケア・キャンペーン』のシーン
(C)2015 Cyan Films Pty Ltd and Major International Pictures Pty Ltd

出演者を嘘の心霊現象などで怖がらせるドッキリ企画で長年人気を集めてきたテレビ番組「スケア・キャンペーン」。
しかし最近は無料動画投稿サイトの過激な映像に押され、人気が下降しつつあった。
そんな現状を打ち破るべく、廃墟となった病院を使い、大規模な仕かけで驚かそうというドッキリ企画を敢行することに。
しかし、やって来た男は本物の殺人鬼で、番組スタッフを1人また1人と血祭りにあげていく──。

2016年製作、オーストラリアの作品。
原題も『Scare Campaign』。

視聴率を求めて過激なドッキリを仕掛けてみたら、仕掛けた相手が本物の殺人鬼だった!
と思ったら、その人も仕込み人で、本当に仕掛けられていたのはエマ(ヒロイン)だけど、本物の殺人集団が現れちゃった!

と、二転三転する面白い試みの映画で、個人的には好きな路線でした。
「オカルト」「殺人鬼」「スプラッタ」とホラー要素欲張り詰め込みセットなのも嬉しい。

ただ、二転三転のトリックが甘く、いずれも観ている途中で気づけてしまうものでした。
「いやぁこんなの簡単でしょ、ちょっと注意すればすぐにわかるヒントばかりで、すぐに気がついちゃいましたね(早口)(眼鏡くいっ)」マウントではなく、これは普通に気づいた人の方が多かったのではないかな、と思います。

マーカス(スケア・キャンペーンの監督)が視聴率至上主義過ぎたり、殺人動画集団の存在が事前に示唆されていたり、アビー(幽霊役の女の子)がずっとスマホいじっていたり、「スパイがいる」の台詞であったり。
伏線やヒントが丁寧というか下手というか、でした。


もはやポスターや作品紹介レベルで「スケア・キャンペーンというテレビ番組」「ドッキリ」という文字が踊っているので、冒頭のシーンもドッキリだろうというのはわかってしまいますが、死体が起き上がって目が開くあたりが、一番ホラーホラーしていた気がします。

前半はホラー映画の裏側を見ているようで面白かったのですが、それが終始、観客にも「今観ている映像も裏があるのでは?」と思わせる方向にも作用してしまっていたので、それがなおさらヒントを拾いやすくさせており、この構成の難しかったところでしょうか。

後半は、ホラーというよりスプラッタ化
個人的には、カメラに色々な凶器をつけて臨場感ある殺人映像を撮影する手法、とても好きでした。
特にチェンソーまで持ち出したところは、マスクフリークスたちのホラー愛を感じます。

マスクフリークスたちは、ちょっと紙一重でぎりぎりギャグになってしまっていたと思います。
あまり、打ち合わせ場面とかマスクフリークス側の裏側は映さない方が良かった気がする。
もごもご喋ったり神妙に頷いたりする姿や、リーダーの「しゅこーしゅこー」というダース・ベイダーばりの呼吸音には、ちょっと笑ってしまいました。

ラストシーンは、個人的には物足りなかったのが正直なところ。
もう一捻りあってほしい、というところで終わってしまったので、素直に終わった印象です。

マーカスは終盤、異様に物分かりが良くなりましたね。
エマに「わかってるよな」とアビーを助けさせたり、生きたまま火葬される直前には、ネタばらしをされて「なかなかのオチだ」と敵を称賛し、「やれやれ、俺の負けだぜ、しょうがねぇな」と言わんばかりの諦め切った表情で火葬待ち
前半の視聴率至上主義自己中さが嘘のように、かっこ良く見えました。

せっかくなので(?)、最後にマーカスをガッと火に突っ込むシーンも見たかったです。
全体的に、グロさもここまでやるならあと一歩踏み込んでほしかったというのが個人的願望。

人物像としては、エマも「私が残るから2人を解放して!」とはならなかったところが潔い。
あそこまでアビーを助けようとするものすごい正義感はホラー映画ではよく見られますが、個人的にはあんなにも明らかに罠とわかっていてまで助けに行くかな……?とついつい疑問に思ってしまいます。
冷たい人間でしょうか。

終盤すっかり忘れられてしまいましたが、ローハンことトレント(殺人鬼を演じた役者)の方が、アビーよりも演技が上手でした。
実は一番頑張ってた。

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考察:集団の心理とラストシーンの解釈(ネタバレあり)

映画『スケア・キャンペーン』のシーン
(C)2015 Cyan Films Pty Ltd and Major International Pictures Pty Ltd

暴走する集団の心理メカニズム

集団や組織が極端なことをして失敗したり炎上したりすることが多々あります。
それは、有名な大企業なども例外ではありません。
大勢で話し合ったのに、え?何でそんな判断をしたの?と思ってしまうような判断を下してしまうことがあり得るのが、集団による意思決定の落とし穴です。

もちろん、そもそもの背景として、所属する個々人のモラルの低さなどもあるでしょう。
スケア・キャンペーンチームにおいても、ヴィッキー(上司?のヒステリックおばさんとても厳しいお姉さん)やマーカスは特に、数字のためならば倫理観はあまり重視していなかった様子。

あまり長くなっても退屈なので簡単にまとめますが、集団の歴史が長くなるほど、その集団なりの規範が出来上がり、それが価値や行動の判断基準となります
過激な演出で視聴率を稼いできたスケア・キャンペーンには、「過激な動画で人気を獲得してきた」「もっと過激にすればもっと数字が取れるだろう」といったような規範ができていたでしょう。

個人だと正しい判断ができるのに、集団で話し合うと間違った判断をしてしまうことを「集団的浅慮」、集団における意思決定が極端になりがちな傾向を「集団極性化」といいます。
集団極性化のうち、極端に危険な判断になることは「リスキー・シフト」、極端に安全で無難な判断になることは「コーシャス・シフト」と呼ばれます。

そうして一度決まってしまうと、その結論・決定にこだわってしまい、間違いが判明しても「きっと大丈夫なはずだ」「もうちょっと頑張ってみよう」などと考え、方向性を修正できなくなるという「心理的拘泥現象」が生じやすくなります。

集団的浅慮に陥りやすい集団の条件としては、

  • 高い集団凝集性(結束力が強い)
  • 組織の構造的欠陥(孤立した集団、不公正なリーダーシップ、規範の欠如)
  • 誘発的状況(外部からの脅威による強いストレス、リーダーよりも優れた解決策を持たない、最近の失敗や困難な状況など)

という3点が挙げられており、スケア・キャンペーンチームも「高い集団凝集性」だけは若干不透明ですが、

  • エマ以外は凝集性は高そう
  • ヴィッキーやマーカスという過激なリーダー
  • これまでの過激な演出による倫理観・道徳観の麻痺
  • 視聴率低下という問題や、より過激なネット動画集団マスクフリークスという脅威
  • 「何をしてでも数字を取れ」というようなヴィッキーの圧力
  • 過激な方向性に反対していたエマも、スケア・キャンペーンの視聴率を回復させる代替案を提示できない

といったように、見事に当てはまっていました。
それが、スケア・キャンペーンのチームをリスキー・シフトに陥らせたのです。

こう考えると、終盤を見るとマークスはまともさも持ち合わせていたようなので、ヴィッキーの存在がなかなか危険であったことがわかります。
会議中に見ていたからといって、スタッフのスマホを取り上げて床に叩きつけるのも、パワハラの権化のような存在でした。
ある意味、一番怖い。

ラストシーンの解釈

ラストシーンは、エマとアビーの2人が車で走り去っていく様子が描かれていました。
スパイというかマスクフリークスの仲間であるアビーはもちろん、エマにも脱出の解放感はなく、運転席右上に設置されたカメラに気がつき、気にしていました。

この先は想像するしかありませんが、やっぱりエマも殺されるんじゃないかな、と考えるのが妥当でしょうか。
アビーが裏切り者であると気がついていないにしても、アビーの顔を目撃しているエマをマスクフリークス側が生かしておくというのは少々考えづらいものがあります。

そもそも、アビーは顔出ししてしまっていますが、良かったんですかね。
マスクフリークス側が動画を流すときは、モザイクとかかけるつもりだったのかもしれません。
それでも、エマが見れば、遅くともその時点で真相には気づくでしょう。
エマの会社にはアビーの履歴書などがあったはずで、マスクフリークス側にはリスクとなります(偽装されてそうですが)。

だいぶ都合良く生き残っているので、エマも共犯説もあるかもしれませんが、個人的には否定します
そうであるなら、そのことも死ぬ前のマーカスに教えた方が、ショーとしてはよりドラマティックな演出になるはずです。
車の中にもカメラがあるのはまだ終わっていないことを示唆しており、やはりエマも犠牲になるというのが一番自然でしょう。

もしかしたら、さらなる入れ子構造となっており、映画全体がトリックで、ほら、この映画を観て怖がっているあなたの部屋にもカメラが仕掛けられていませんか……?

というのは蛇足でした。

黒幕は誰か

さて、マスクフリークスが乗り込んできた構図としては、次回の過激殺人動画の犠牲者としてスケア・キャンペーンチームに目をつけ、アビーを役者兼スパイとして送り込み、情報を得てそこに駆けつけた、というものです。
スケア・キャンペーン側の人物と思われたアビーの裏切りが、動画に驚きの要素を加えるスパイスとなっていました。
マスクフリークス側も、演出に頭を悩ませている様子が窺えます。

物語の構図は、ただただ上述したシンプルなものかもしれません。
しかし個人的には、ヴィッキーがマスクフリークスに売り込んだのでは?とも考えています。

もはや落ち目のスケア・キャンペーンを売り、大金を得る。
犠牲となったスケア・キャンペーンチームを利用して、さらに視聴率を稼げる特集番組も作れるでしょう。
それらの収入は一時的ですが、落ち目であるスケア・キャンペーンチームをこのまま続けていくよりも、損切りをして一時的な利益を得た方が得、という判断です。

マスクフリークスについて詳しかったり、「接触することすら難しい」と言っていたのは、「連絡を取ろうとしたのか?」と訊かれた際には否定してはいましたが、やはり怪しい。
とはいえヴィッキーは、あれだけ強烈に登場したので終盤にも出てくるんじゃないかと思っていたのですが、さっぱり出てきませんでしたね。

でも個人的には、ヴィッキー黒幕説、推したいと思います。
殺人動画を見せた上で、直接何をしろとは言わずに、より過激なものを求め抽象的な表現で焚きつける。
黒幕でなかったとしても、なかなかに危険なパーソナリティの持ち主であると考えられます。

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