現在、サイトデザイン変更作業中です

【小説】知念実希人『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』(ネタバレ感想・考察)

(C) Futabasha Publishers Ltd. All Rights Reserved
目次

作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

タイトル:スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ
著者:知念実希人
出版社:双葉社
発売日:2023年8月20日

大学生の一色和馬は「就職に有利になる」と聞いて「やばいバイト」に手を出す。
これで稼げれば彼女との同棲もうまくいく……と始めたバイトだったが、都市伝説「ドウメキの街」を調べていくうちに、あれ、どういうことだ?
黒い服の女は誰?
えっ、あれ、死体が!?


著者初のモキュメンタリー・ホラー『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』と対をなす、まったく新しい恐怖体験!
文庫より小さい「スマホ本」ホラー!!

と公式に謳われている通り、スマホサイズで目立つ1冊
自分が持っているiPhone 12 Pro Maxとほぼ同じサイズだったので、7インチ弱ぐらいですね。
スマホで読むのがぴったりかと思いきや、見開きでイラストと文章が対応しているので、電子書籍よりも紙書籍の方が読みやすそう。

以前、知念実希人のTwitterで「モキュメンタリーホラーを作成中」といった投稿を見てからずっと楽しみにしていた作品。
知念実希人のホラーといえば『ヨモツイクサ』を以前読みましたが、本作および『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』も同じ双葉者から刊行されます。
今のところ、知念ホラーは双葉者が独占ということになるでしょうか。

ちなみに、冒頭の作品紹介の文章は双葉者の公式サイトの文言なのですが、「えっ、あれ、死体が!?」など公式の紹介文にしてはあまり見ないノリな気がして面白いです。
しかも決して「やばいバイト」に手を出したわけではないような(結果としてやばかったですが)。

著者初のモキュメンタリーホラーとのことでしたが、『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』はそこまでモキュメンタリーという感覚ではありませんでした
一人称視点の主人公が死んで終わるラストも、モキュメンタリーとは呼び難いという認識。
知念実希人の公式Twitterでも「新感覚のホラーミステリー」と宣伝されており、モキュメンタリー推しは続刊の『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』の方かもしれません。

本作の特徴はとにかく、上述の宣伝文句通りの新感覚な読書感でしょう
サイズもそうですし、構成も斬新。
毎ページごとに、スマホ画面の内容と必要性を考えるだけでも大変だっただろうと思います。

とはいえ、形態としては決して完全に新しい発想というわけではありません。
スマホ画面をベースに進んでいくところは『search/サーチ』など映画では多く見られます。
そもそも「モキュメンタリー」という用語自体、映像作品が発祥だと思いますが、その意味ではまさに「モキュメンタリーを小説に導入した」と言えるでしょう。

また、スマホ画面(のイラスト)と文章が対になって進んでいく構成は、まさに絵本。

しかし、これらを組み合わせてホラー小説として作り上げたのは、本作が初でしょう。
組み合わせの発想でまだまだ新しい体験を生み出せる、というお手本です。
内容だけで見ると少し物足りなさも感じてしまいますが、あくまでも序章として、新たな体験を楽しむ1作であったと思っています
試行錯誤やチャレンジを評価したい。

値段が税込499円というのも、現代では驚異的です。
おそらく各方面のとんでもない努力があったでしょうし、本作が売れれば『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』も売れるだろうという、出版社の知念実希人に対する強い信頼が窺えます。

小さい本といえば、古来「豆本」という存在がありますがそれは置いておいて、近年のホラー小説としてはやはり背筋『口に関するアンケート』が浮かんできます。
『口に関するアンケート』の方が小さくて薄いですが、こちらでも税込605円というのを考えると、やはりワンコインに収めたのは途轍もない。
文字数ではそれほど変わらないかもしれないのと、『口に関するアンケート』は色も使われているので、一概に比較できるものでもありませんが。
それでも本作はカバーもついていますし、単体だと赤字ぐらいの勢いかも。

と、ついつい斬新な形態に関する話が止まらなくなってしまいますが、少し内容に移りましょう。
体験としては斬新でしたが、内容はやや平凡めなホラーミステリィでした
都市伝説と、それに巻き込まれていく主人公。
ある意味では王道でありつつも、スマホ画面と並行していく面白さがありました。

ただ、あえて本作をモキュメンタリーと捉えるには、イラストであることは没入感の妨げとなってしまいました。
とはいえ、写真の方がコストがかかってしまうでしょうし、あくまでも本作は『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』の導入的な位置付けとも考えられるので、仕方ないところ。

少し気になってしまったところは、終始説明口調だったところです。
それも、文字数が少ないので仕方ありませんが、何となく没入しにくい要因にもなってしまっていました。
スマホ画面上の、LINEなどのやり取りの文章も同じく。

トリックに関しては、メインは叙述トリックでしたが、気が付きやすいのではないかと思います
槇瑠璃香という名前が出てきているのに意地でも「恋人」呼びな点はやはり違和感がありましたし、瑠璃香の一人称が「オレ」な点と、瑠璃香からのLINEメッセージを見て返信しない時点でほぼ確定的に。
ちなみに、一色和馬は「俺」表記でしたが、瑠璃香がなりすましていた文章は「オレ」表記となっており、しっかり伏線も仕込まれていました。
プリクラの写真でこれでもかというほど強調されていたホクロも同じく。

ドウメキの都市伝説はシンプルながら面白く、目のイラストがたくさん描かれたゴーストタウンは不気味で好きでした

ただ、ドウメキの謎に関しては、本作ではまだほとんどわかりません。
本当に怪異なのか、あるいは著者らしく、実は科学的・医学的に説明がつく事象なのか。
次作が精神鑑定書であることを踏まえると、後者の可能性が濃厚でしょうか。
あるいは、精神鑑定書を通して怪異の正体が明らかになっていくのか。

説明がつく路線だとすると、瑠璃香目線で見えていた黒い女性の存在がどのような扱いになるのか。
けっこうがっつり写真にも映り込んでいたので、妄想に囚われて普通の人の姿が黒い女性に見えてしまっていた、ということになるでしょうか。

また、送られてきた写真も謎です。
あれは画角的に防犯カメラなどの映像っぽかったので、たとえ驚異的なクラッキングスキルを有していたとしても、個人の力では無理があるような。
とはいえ、あくまでも瑠璃香目線なので、どこまでが現実でどこまでが妄想なのかの区別は本作だけでは困難です。
ただ、怪異であれ現実であれ「カメラが目となる」というのは重要そうなポイント

ホテルの差し入れも難しい。
物理キーではないので、QRコードさえあれば誰でも入れますし、ホテルのスタッフももちろん入れるでしょう。
ただそこまでする理由は見えません。

タバコ煮出しコーヒーを飲んでしまったり、病院でタバコの吸い殻があったことからは、タバコに幻覚作用があるのかな、とも思いましたが、瑠璃香は差し入れのタバコは吸ってないですしね。
一色和馬も吸っていたようですが、レイングラウンドこと雨地くんが吸っていたのかは不明(ごちゃごちゃしていますが、部屋のイラストからは判別できず)。

怪異だとすると、攻撃がけっこう物理寄りな点にちょいちょい引っかかりを感じます
点滴に注射器で何かを流し込まれ、目が覚めたら寝タバコのような痕跡があったという一連の流れはよくわからない流れで違和感がありますし、最後はどんっと背中を押してきた点なども含めて、黒い女性はシンプルに怪異というわけでもなさそうな気が。

1点気になってしまった細かいポイントは、タイトルです。
最後にタイトル回収されたのは良かったのですが、スマホの電源をつけるときって、おそらくiPhone以外でもボタン長押しですよね?
電源を切るときはスワイプですが、つけるときにスワイプするというのは聞いたことがありません。

この点を踏まえると、「もしや冒頭でスワイプしたのは、瑠璃香がスマホを起動したのではなく切ったのでは?だとすると本作の内容すべてが妄想なのでは?」とも一瞬思ったのですが、さすがにそれはどうかと思いますし、冒頭を見返すとしっかりと「電源のアイコンをスワイプして起動させると」と書いてあったので、違いそうです。
パスコード入力だったっぽいので、ロックを解除したというニュアンスでもなさそうですし。

何かの伏線かとも思ったのですが、単純にスワイプで起動する機種、として認識しておいた方が良いのかな
というか、自分がiPhoneしか使っていないので、ただ知らないだけかも。

ついでにもう1点だけ細かくいやらしい点に言及しておくと、シンプルさゆえにやや強引な展開は仕方ないのですが、大抵パスワードマネージャもデフォルトで装備されている今どき、自宅でアカウントとパスワードをポストイットに書いて貼っている若い人はそうそういない気がします。

以下、次作『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』のあらすじ(公式の紹介文)にも触れるのでご注意ください。

とはいえ、本作を読んだ方ならほとんど目にされているでしょうが、本作巻末の『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』に関する作品紹介には、

八重樫信也はなぜ事件を起こしたのか?
それを読んだとき戦慄の真実が暴かれる!

と書かれていました。

いやいやいや!?

そんなん知りませんが!?

八重樫パイセンどうしたんっすか!?

となること必至。

これを見て、「まさか瑠璃香や和馬の死は八重樫が仕組んだのか?」と思ったのですが、双葉者のサイトにおける『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』の紹介には、

東京郊外で起きた大量殺人事件の記録には不審な点がいくつもあり、それは恐ろしい秘密の手がかりだった。犯人である八重樫信也の精神鑑定を担当した医師・上原香澄のインタビューから徐々に明らかになる事件の真相。犯行時の八重樫は「何」に怯え、一体「何」に襲いかかったのか。ずっと八重樫を見ていたという「ドウメキ」の正体とは?

https://www.futabasha.co.jp/book/97845752484010000000?type=1

と書かれていました。

つまり、本作の内容では大量殺人とは言えませんし、本作のあと、瑠璃香から送られてきた情報をもとに八重樫もドウメキの呪いにかかり、大量殺人事件を起こすということですかね。

そうだとすると、その内容については次作を待つしかなさそうです。
今のところ、瑠璃香目線の情報が真実だとするとオカルトが混ざった現象となりそうですが、どのように着地するのか。

精神鑑定は自分の専門領域であるため、通常であればそのリアルさを懸念してしまいますが、そこは精神科医ではなくとも医師である知念実希人の作品なので、あまり心配はしていません。
視点が変わると構図がひっくり返るぐらいのことは軽々としてくるイメージがあるので(実際はとんでもなく努力されているのはわかっていますが)、楽しみに待ちたいと思います。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

SNSでシェア
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次