
作品の概要と感想(ネタバレあり)
タイトル:このくまを必ず正面に置いておやすみください
著者:西羽咲花月
出版社:スターツ出版
発売日:2025年12月28日
プレゼントでもらったクマのぬいぐるみ。
ただのぬいぐるみなのに、なぜかみられている気がする。
このくま、どこかおかしい。
※このくまを絶対に捨てないでください
※このくまから絶対に離れないでください
波に乗って怒涛の勢いでモキュメンタリーホラー小説を出版している(と思われる)スターツ出版。
小林力『この本の拡散は防止不可能です』や沼堂幼太郎『四ツ谷一族の家系図』といった作品たちに引き続き、その中の1作をまた読んでみました。
これまで読んできた作品は主に、スターツ出版が運営する小説投稿サイト「ノベマ!」からの書籍化作品でしたが、本作『このくまを必ず正面に置いておやすみください』は同じくスターツ出版が運営する「Berry’s Cafe」なる投稿サイトからの書籍化のようでした。
「Berry’s Cafe」は初めて知りましたが、幅広い年齢の男女をターゲットとしている「ノベマ!」に対して、「Berry’s Cafe」は20~40代の女性がターゲットとのこと。
投稿されている作品も、恋愛小説が多い模様。
著者の西羽咲花月(にしわざき かつき、と読むようです)は、本作が初めてのホラーというわけではなく、同サイトでホラー小説をいくつか投稿しているようでした。
珍しめの存在なのかもしれません。
相変わらずタイトルと表紙はとても惹かれるのですが、これまでに読んできたスターツ出版作品と同じく、タイトルは書籍化にあたって改題されているようでした。
さらに経緯は少々ややこしく、本作は今回二度目の書籍化のようです。
本作が投稿されていたのは2015年とそこそこ古く、投稿当時のタイトルは『この監視カメラに何が映っていても安全の保障はしません』だったそうです。
それが2016年に文庫化されており、そのときに『カ・ン・シ・カメラ』に改題されていました。
文庫は絶版になったようですが、2025年にまた『このくまを必ず正面に置いておやすみください』に改題されて発売されたようです。
上述したような他のスターツ出版のモキュメンタリーホラー作品と同じく、新しいタイトルは内容と微妙に合っていないように感じられてしまうところが若干もやもやします。
くまのぬいぐるみが襲ってきたり呪われてたりするようなホラーかと思ったら、全然違った。
原題の『この監視カメラに何が映っていても安全の保障はしません』で良かったような気も。
一度文庫化されて絶版になったのに、約10年後にまた改題して単行本化されるというのは夢がありますね。
それも昨今のホラー小説ブーム、特にモキュメンタリーホラーブームによるものでしょう。
ただ本作は、モキュメンタリーと呼ぶにはかなり微妙に感じましたが、本作の単行本化に際して著者の西羽咲花月自身が「今回はモキュメンタリーホラーを単行本として出版させていただくことになりました!」とコメントしていました。
いずれにせよ、本格的なものというよりは、もともとの投稿サイトのターゲット層も踏まえる必要があるでしょう。
また、内容に関しても、過去に「Berry’s Cafe」なる投稿サイトに投稿されていた作品である、という点を踏まえる必要があります。
だいぶ偉そうな物言いになりますが、本作に対してラノベというかケータイ小説というか、といったような印象が拭えなかったのですが、そもそもそういうフィールドの作品でした。
なので、リアルなモキュメンタリーを求めて本作を手に取ると、肩透かしを食らってしまう可能性が高いでしょう。
個人的には、山田悠介や二宮敦人あたりに近いイメージです。
引き続き何様になってしまいますが、文章も完成度も、正直洗練されているとは言い難い。
登場人物も、「しっかりとした背景設定のあるヤバい奴」ではなく、「理由などはわからないけれどとにかくただただヤバい奴」しか出てきません。
このあたりを許容できるかどうかによって、評価は変わってきそうです。
個人的には、山田悠介や二宮敦人といったような、奇抜な設定ありきのぶっ飛びホラーやスリラーも好物なので、本作も何だかんだ楽しめました。
主人公の野原純白、ヤバい奴やん……から始まり、あれ、この人もやばそう?この人もやばそう?となり、最終的にはヤバい奴しか出てこなかったという振り切れ具合は、かなり好き。
ヤバい奴視点でヤバい奴を見ると、実はヤバくないんじゃ?と思えてくる訳のわからなさも面白かったです。
序盤からさらっとストーカー気質全開の野原純白にはついていけませんが、さらにヤバそうなハイパーシスコンに見えた天満颯が何とか純白を守ろうとしていただけで、真のハイパーシスコンは純白の兄・野原虹色(すごい名前だな)だったというのはなかなかに巧妙な作りでした。
天満楓が本作の中では一番まともだったでしょうか。
努力の方向性がだいぶ間違っていた気はしますが。
野原虹色と叶篤夢のコンビは、救いようがありません。
妹と彼氏を別れさせるために、彼氏のフリをして監視カメラ越しに殺人を見せる。
いやもう、本作はその発想だけですごいですよね。
手に入らないなら心中を望むほどに妹を愛していた(本当の愛ではなくエゴでしかありませんが)虹色と、そんな虹色のぶっ飛び作戦を手伝うほどに虹色を愛していた叶篤夢。
妹と心中することすら受け入れ手伝ったという点からは、叶篤夢が一番純愛だったかもしれません(歪んでいますが)。
江原杏里はただただ巻き込まれでかわいそうでした。
忘れていましたが、一番まともだったのは彼女ですかね。
財布を拾ってくれた初対面の相手に「今日の夕方、お会いできませんか?」と誘っていたのは、ちょっと常識的とは言えませんが。
本作にはちょくちょく違和感を覚えてしまう表記があったのですが、江原杏里が好きな人ができたことを打ち明けてくる場面での以下の文章。
彼女はまるで中学生のように耳まで赤くして、絶対に誰にも内緒だよ? と、口封じをしてきました。
「口止め」ぐらいのニュアンスで不意に出てきた「口封じ」という強いワードに、思わず笑ってしまいました。
これは全然揶揄とかではなく、江原杏里のめちゃくちゃ初心な雰囲気と「口封じ」から漂う暴力性や闇深さのギャップで、純粋に。
喋ったら殺されそう、というより下手したら好きな人の話を聞いたらそのまま殺されそう。
監視カメラのログ映像を活用する発想は面白かったですが、文字で表現するしかないのでいまいち小説との相性が悪く難しそうでした。
何回も出てくる「野原純白からのお願い、この監視カメラ映像の内容は決して口外しないでください」は、個人的にはだんだんこちらが恥ずかしくなってしまいました。
監視カメラのバッテリー問題はどうしていたのか?
というのは本作の根幹を揺るがす問いですが、突っ込んではいけません。
盗んだ自転車の持ち主が「どうして盗まれたのか理由を知りたい」と自宅を訪ねてきたという状況の謎さは、物語とはほとんど関係ないのにかなりホラーでした。
というわけで、ツッコミポイントは多数あり粗さ拙さも目立っては感じられてしまいますが、何だかんだ先が気になり、ツッコミポイントも含めて楽しめた作品でした。
同著者の『自殺カタログ』など他の作品も設定が面白そうで気になってはいるのですが、立て続けに読むと粗さの方が気になって楽しめなくなってしまいそうなので、うーんどうしましょう。
こういうライト系はたまに読んだ方が楽しめるので、少し期間を空けてから読んでみたいと思います。

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