
作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
タイトル:或るバイトを募集しています
著者:くるむあくむ
出版社:KADOKAWA
発売日:2024年11月14日
新作の執筆依頼でバイト体験者たちに取材をしていく一人の作家。
電話をするだけ、差し入れを渡すだけ、映像のチェックをするだけ。
たったそれだけの業務内容なのに何かがおかしい──。
SNSやYouTubeで独自の世界を展開するくるむあくむの作家デビュー作。
名前はよく見かけつつもこれまで触れたことはなかったのですが、主にX(Twitter)で手軽に楽しめるホラー作品を公開し、人気を博してYouTubeも連動させる形で始めたようです。
観たかったのですがタイミングが合わず行けなかった映画『〇〇式』でも共同脚本を務めています。
本作『或るバイトを募集しています』は、近年流行りのモキュメンタリーホラーに位置づけられていることが多いようです。
いざ読んでみても確かに納得ですが、もともとがXで発信しているのもあってか、説明は最低限。
謎や不気味さは残りますが考察型というほど情報量はなく、短い作品でゾッとさせる、強いて言えば実話怪談に近いような印象でした。
全体的にSNSなどネット上の文章のようにすらすら読めますし、文字は基本的に大きく、時には1ページに数文字しかないので、小説を求めると物足りなさや割高感は否めません。
ですが、SNSでの発信がベースですし、内容はとにかく発想重視で視点が面白く、読書好きというよりはライト層にアプローチしていると思われるので、これはこれでホラー小説というよりは現代的なホラー作品として楽しめました。
文体も形式も全部異なるものにしてあって、普段本を読まない人も飽きないように、という工夫が窺えます。
こういった作品では珍しく、と言って差し支えないかと思いますが、先ほども述べた通り考察するような曖昧さや複雑さはあまりありませんでした。
著者(語り部)が収集した怪しいアルバイトに関するエピソードが集められている、という体ではありますが、共通する何かがありそうなわけでもない。
ここはもしかすると自分が気づけていないだけかもしれませんが、最後のボイスレコーダーの送り主なども謎ですし、続編として『或るバイトの募集しています 再求人』もあるようなので、そちらで明らかになる何かがあるかもしれない、とあまり深く考えずに保留にしています。
とにかく発想が面白く、作品ごとにゾッとするポイントが明確。
それぞれにキャッチーなフレーズがあり、ちょっとわざとらしく感じてしまうものもありましたが、短い中で印象に残るという点において上手く機能していました。
くるむあくむという名前も印象に残りますし、「アルバイト」と「或るバイト」がかかっているタイトルも面白く、SNSから誕生した新世代のホラー作家として日常から些細な違和感を拾っていく独自の視点はこれからも楽しみです。
以下、簡単にそれぞれの感想と、考察まではいきませんがどういう話だったのか振り返ってみたいと思います。
ある男の手記
シンプルな導入部分。
この導入でも、最後の「差出人不明で届いたボイスレコーダーに残っていた音声」でも編集者の佐竹さん(仮名)が出てくるので、おそらくボイスレコーダーの音声における佐竹さんの会話相手はこの手記を書いた男性で間違いないでしょう。
合わせて読むと、本作がこの男性によって集められたアルバイトのエピソード集であることがわかりますが、あくまでも「ある男」の手記なので、著者のくるむあくむとは別の人物という設定が窺われ、その正体は本作中の限りでは謎に包まれたままでした。
アルバイト1 留守電
どういう作風なのかわかる1作目にして、全体を通した中でも印象に残っている作品。
どの作品もそうですが、募集広告だけで「あ、やばそう」と思わせるのが上手いです。
くるむあくむについてはあまり追えていませんが、Xで少し遡ってみると、この「留守電」のアルバイト募集広告とリストは過去に画像投稿されていました。
本文のところがすべて書籍化にあたって加筆されたのかと思います(違ったらすみません)。
ちなみに、Xだと金子さんの原因が「でんしゃ」ではなく「したい」となっていました。
『或るバイトを募集しています』は「自分がこのバイトをすることになったら」と考えてみるのが楽しいと思いますが、「ほんとうにしんでいますか」と留守電に入れるの、だいぶ嫌ですね。
表記が「死因」と「原因」の2パターンあった理由も不明ですが、いずれにしてもせいなちゃんの「お風呂」はまだしも、さとるくんの「むしとり」は謎すぎて不気味でした。
あと、さり気なく書かれていた菊池さんの「孵化」がとても気になります。
流れとしては、慈善団体職員がふざけていたずらのつもりで流したものが、怪異的なものと結びついてしまった、ということでしょう。
折り返しの電話があり、それぞれの子が死んだときの音が流れていたというのは、オカルトの介入と考えるのが自然です。
誰かが創作した音声である可能性もなくはありませんが、可能性としては低そうです。
余談ですが、実際に聴くと雰囲気でわかったのかもしれませんが、泣き声とドアの音だけで「火葬場だ」と見抜いた友人はだいぶ名探偵な気がしました。
蝉の泣き声というので、ちょっと背筋『口に関するアンケート』を思い出しました。
アルバイト2 家出少女の保護
家出少女のマツノエリちゃんは……まさかの日本人形!
似顔絵がけっこう似ているところがポイントです。
本作に載っているアルバイトはすべて、税金とかちゃんとしているのかな?なんて気になってしまいましたが、そんなまともな感覚を持ち合わせている人がこのようなバイトに応募するとは思えません。
家出少女を保護するという違法になりかねないバイトに応募するのも、また然り。
日本人形の背景はまったくわからないままでしたが、今回の話だけではなく、こうやって少しずつ自分が失ったパーツを取り戻して(?)、いずれ全身が完成するのかもしれません。
日本人形とは別に、本体がいるのかな。
いずれにせよ、家出少女保護のバイトに応募したら日本人形が届く、という状況はかなり不気味で好きでした。
あれって、毎日1体ずつ届いたんですかね?
そうだとすると、7体ぐらい家にある状態になったのかな。
その状況がシュール。
「ストーブをつけてもらえませんか」や「めくれてありがとう」なんかは、ちょっと可愛いと思ってしまいました。
アルバイト3 代理参列
ちょうど最近親戚の葬儀があり、そのときに「全然知らない人が紛れ込んでいたら怖いな」なんて考えたことがあったのですが、ちょっとそれに近い設定でした。
とはいえこちらはそんなレベルではなく、そもそも故人であるマツイタカキすら実在した人物ではなさそうで、遺影は色んな人の写真が切り貼りされたもの。
果たして遺体があったのかも定かではありません。
架空の個人の葬式を架空の親族が行う儀式。
目的すら不明でしたが、実在しない人間を生み出そうとしたりするような方向性ではなく、主催者としては何らかの調和を保とうとしていたようです。
「ぜんぶくっつけたらほんとにいるみたいになるじゃん」のセリフは好きなのですが、全部平仮名なのがこの作品に関しては何だかちょっとわざとらしく見えてしまいました。
「ほんとうにしんでいますか」とか「くろくなります」とかは平仮名であることが効果的だったように感じたので、このあたりの感覚は人によってかなり違うでしょうし、その違いは何なのか興味深い。
アルバイト4 鑑賞
謎のビデオを押しつけられる、超迷惑なバイト。
バイトというより、もはや押し売りに近いですね。
捨てようにも、すでに報酬の現金もセットでポストに投函されているところが何ともいやらしい。
手紙には運動会と書かれていましたが、実際は全然違ったようで。
本当に運動会を撮影したものだったのか、観てもらうためにそのような嘘をついたのかはわかりません。
が、「くろくなります」の注意書きもありましたし、後者の可能性が高そうです。
相変わらず真相はわかりませんが、何らかの呪いか、あるいは呪いを分散したり解除したりするために大勢を犠牲にしたかったのでしょうか。
盛り塩が黒くなり、しかし盛り塩が足りず、映像を観た人が盛り塩の代わりに黒くなっていく様子からは、そのような背景が推察されます。
必死に「みないで」と止めていた人が誰だったのか、そもそも人間だったのかも不明ですが、ビデオを投函してきた人や呪いの関係ではない、善良な存在そうでした。
2ちゃんねる風の掲示板で展開された本作ですが、最終的には冷やかしていた住人たちも映像を観て犠牲(?)となってしまい、掲示板形式であることに意味があったのもポイントが高いです。
アルバイト5 自殺防止
個人的に好きな1作。
ここまですべてオカルト絡みで来たからこそ、ヒトコワの怖さが際立っていました。
いのちの電話を筆頭に自殺防止に関連するボランティアは多々ありますが、アルバイトでしかも直接的に関わるというのは、かなり負担も大きそうですね。
自殺を止められなくても自分が悪いわけではないとわかっていても、色々と考えてしまうのは間違いありません。
最後の砦として他者との触れ合いを提供しているのかと思いきや、「迷惑なので他の場所でお願いします」という突き放し。
あの紙はおそらく、食べ物や飲み物と一緒に入っていたと考えられます。
大門ユウキ(このバイトに応募した人)はもちろんそのことを知らず、本当に自殺志願者を思い留まらせることにやりがいを感じていたので、相手には善意や優しさもきっと伝わっていたはず。
そんな人の温かさに触れ、自殺を思い留まったあとにあの紙を見つけたときの衝撃は、想像を絶するものでしょう。
それはもちろん、大門ユウキも同様です。
自殺を思い留まらせていたつもりが、下手をしたら自殺をする前よりも絶望を与え、最後の光を奪い、さらに自殺への気持ちを助長させてしまっていた。
純粋に助けたいという想いが強いほど、その反動は計り知れないものであったはずです。
自殺の名所となっている場所を管理している人にとっては、それは当然悩みの種でしょう。
やるなら他所でやってくれ、と思ってしまう気持ちも理解できなくもありません。
手紙の内容は冷淡ですが、管理者側も被害を被っているわけであり、正論とも言えます。
しかし、それを第三者に、しかも紙の存在を知らせずに渡させるというのは、冷淡を超えた冷酷さを感じずにはいられません。
その冷酷さは、善意の第三者であった大門ユウキをも自殺させてしまうことを厭わないものでした。
アルバイト6 おそなえ
心霊スポットには、何かしらの理由やいわくがあってほしい。
確かに、何の理由もないのに霊が出たりする場合、対処のしようもありません。
そもそも人間は理由を求めるものであり、曖昧な状況には不安を感じるようにできています。
このバイトに応募した人は最後に、最近この空き地で焼身自殺をした人がいたらしいという情報を知って安心していました。
しかし、きっとこの焼身自殺は、この人が空き地にお供えをしたのよりだいぶあとの出来事と考えられます。
つまり、焼身自殺があったから空き地に霊が出るのでお供えをしていた、というわけではないのです。
それでも、この人は安心していました。
自分の中で、無理矢理にでも理由をつけたかったのです。
明らかに時系列が逆なので、きっと本人も傍から見れば滑稽だとわかっていたのでしょうが、それでも。
それにしても「はなもうかれちゃいましたよ」「わたしまだここにいてもいいですか」みたいなことを言ってくる霊もまた、何だか可愛く思えてしまいます。
アルバイト7 ビデオチェック
モザイク越しに見える、明らかにやばい映像。
それが結局何だったのかはわかりませんが、亡くなったのが映像を観たバイトではなく雇い主であったところが、まだ救いでしょうか。
雇い主は何だか様子がおかしかったので、そもそもバイト募集をかけていた時点で取り憑かれてしまっていたのかもしれません。
内容以上に、「ほらこれ」だけで1ページ使っていたのはすごいなと思ってしまいました。
差出人不明で届いたボイスレコーダーに残っていた音声
この音声は先述の通り、冒頭の手記の男性と編集者である佐竹さん(仮名)の会話であると思われますが、誰が録音し、何の目的でどこに送ってきたのかまったくわかりません。
一応、奇妙なアルバイト体験談をまとめた本作の制作経緯の説明にはなっていますが、あえて差出人不明で届いたボイスレコーダーに録音されていた、という設定になっているのはなぜなのかというのも、わかりません。
くるむあくむが集めたんだよというのではなく、見知らぬ男が集めていた情報を手に入れたのでまとめてみたよ、という設定の示唆が目的なのかもしれません。
佐竹さんが怪しかったりもするんですかね。
「大勢に知ってもらうために出版した」といったような最近のモキュメンタリーホラーの定番設定すらないところは、投げっ放しとも言えますが、本作の特徴である「訳のわからない不気味さ」が最後まで維持されており、評価したいポイントです。
あるいは続編でわかる何かもあるかもしれないので、このあたりはまた続編を読んだら考えてみたいと思います。

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