
作品の概要と感想(ネタバレあり)

大学生ステファニーは、自分と家族が悲惨な死を遂げるという悪夢に苛まれていた。
“ただの夢”ではないと感じた彼女はある手がかりにたどり着く。
それは50年以上語られなかった“死の連鎖”のはじまりだった──。
2025年製作、アメリカの作品。
原題は『Final Destination Bloodlines』。
ナンバリングは外れましたが、「bloodline」は「血統、血筋」といった意味合いなので、本作にぴったり。
「デッドブラッド」は「死に呪われた血」みたいなニュアンスでぎりぎり許容範囲でしょうか。
1作目『ファイナル・デスティネーション』から25年。
そして前作である5作目『ファイナル・デッドブリッジ』から数えても15年ぶりの、待望の新作。
シリーズ過去作の記事にも挙げていますが、各作品の原題、邦題、製作年は以下の通りです。
| 原題 | 邦題 | 製作年 |
|---|---|---|
| Final Destination | ファイナル・デスティネーション | 2000年 |
| Final Destination 2 | デッドコースター | 2003年 |
| Final Destination 3 | ファイナル・デッドコースター | 2006年 |
| The Final Destination | ファイナル・デッドサーキット 3D | 2009年 |
| Final Destination 5 | ファイナル・デッドブリッジ | 2011年 |
| Final Destination: Bloodlines | ファイナル・デッドブラッド | 2025年 |
以下、シリーズ過去作のネタバレも含まれるのでご注意ください。
さて、もう、えぇ、
ありがとうございます。
その一言に尽きる新作でした。
『ソウ』、『オーメン』、『エクソシスト』シリーズなどもそうですが、昨今のハリウッドもネタ切れの影響か、ホラーも過去作のリメイクや「十数年ぶりの続編!」みたいな作品が目立ちます。
そんな中には無理矢理作った感が否めない残念な作品も存在しますが、本作は続編としてあらゆる要素においてとてもクオリティが高く、シリーズファンとしても大満足でした。
まずは、現代の技術によるピタゴラ死のド派手さ。
冒頭のスカイビューの事故から、過去作以上のピタゴラスイッチによってド派手に死を繰り広げてくれました。
もうスカイビューが出てきた時点で、何も起きていないのに笑っちゃいましたしね。
「そうはならんやろ!」な死に方をとにかくスタイリッシュな勢いで押し切る姿勢は、もはや貫禄すら感じます。
かと言って興醒めするような非現実感やチープ感はなく、エンタメとしてのバランスが絶妙です。
バスでドーン!かと思いきや背後を通りすぎるなど、過去作のオマージュめいた要素も織り交ぜながら、シリーズファンの裏をかいてくる演出も憎い。
ただ、その点を意識しすぎたのか、「これで死ぬかと思いきや死なない……と思わせておいて一瞬でバーン!」な死に方が多かったので、最終的には人肉ミンチになるパターンばかりになってしまっていた印象なのが、欲を言えば残念でした。
過去作以上に人体が豆腐。
一瞬で肉塊パターンが多かったのと、死神もこの14年で職人技を極めたようでピタゴラスイッチがスタイリッシュになりすぎていた影響か、過去シリーズよりも強く印象に残る死に方は少なめだったかもしれません。
とはいえ、ごみ収集車に回収されちゃうジュリアの綺麗さと、全身のピアスがMRIに引っ張られたエリックの死に様は印象にも残り、好きでした。
フラグを乱立することで観客を惑わしてきましたが、決して無駄はなく、ピーナッツバターを買った自動販売機のバネのようにすべて伏線として回収したのもお見事でした。
スカイビューの事故の最後、元凶であるクソガ……育ちのよろしくないお坊ちゃんがピアノに押し潰され、コインがちゃぽんと水の中に入って終わった美しさは感動すら覚えたほど。
それ以上に感心したのはストーリー。
ストーリーなどあってないようなシリーズですが、『ファイナル・デッドブラッド』はタイトル通り「家族、血筋」というテーマを軸にドラマ性も強めでした。
これまでになかった、死を回避した者の死の運命が、「本来は存在するはずではなかった」子孫にまで影響を及ぼすという設定。
それでいて、過去作へのリスペクトも感じられる細やかな展開。
さり気なく、『デッドコースター』では結局検証されなかった「死の運命を回避した者が新しい命(子ども)を産めば死のリストは無効化されるのでは?」という仮説が否定されたのも評価ポイント。
子孫まで追いかけないといけなくなったことで忙しくなったのか、ド派手なピタゴラスイッチはもはや死神のやけくそ感を感じました。
しかも、アイリスが粘ったことで、なかなかリストの消化を進められませんでしたからね。
律儀にリスト通りに仕事を進める几帳面な死神は、さぞやイライラしたことでしょう。
それならもう楽しんでやるとばかりの、華麗なコンボばかりでした。
家族の絆に関しては、下手をすると重い展開になりかねないところを、絶妙なバランス感覚で調整していました。
『ファイナル・デスティネーション』の感想で「それなりに背景は設定されていつつもあまりキャラを深堀りしないことで、重くなりすぎないようなバランスが保たれており、その匙加減が絶妙です」と書いたのですが、このスタンスは5作目までのシリーズ通して踏襲されていました。
しかし今回は、家族やその背景が描かれることで、やや観客側の共感や感情移入度が高まりました。
それでも重くなりすぎなかったのは、ド派手でコミカルな死によるところが大きいでしょう。
もはや笑ってしまうレベルの死の連発が、逆にシリアスさを薄めていました。
いかにもCG感が強めだった死に様も、おそらく意図的だったのではないかと思います。
ちょいちょい笑ってしまう要素が挟み込まれていたところも、全体の雰囲気をエンタメとして維持していました。
あのタイミングで母親の不倫を知ったエリック、めちゃくちゃにつらいでしょうしかわいそうですが笑ってしまいます。
やんちゃに見えて根はいい奴やん……と思わせておいて「DAD」のタトゥーがコメディにしかならない容赦のなさ、好き。
エリックはアイリスと血が繋がっていなかった、つまりは火事もただの純粋な事故だったことになるので、一番かわいそう。
重さで言えば、とにもかくにもトニー・トッド。
シリーズを通してキーマンであったJBことウィリアム・ジョン・ブラッドワース。
本作では彼の過去も描かれました。
多くの場合、こういったミステリアスなキャラの過去が描かれるのは、蛇足にしかなりません。
ウィリアム・ブラッドワースに関する本作における過去設定も、普通であればそのように感じたでしょう。
しかし、末期がんで闘病しながらも出演したトニー・トッドの存在が、あまりにも大きな意味を生み出していました。
本作は、ウィリアム・ブラッドワースとの、そしてトニー・トッドとの別れの作品でもありました。
最後のセリフは、トニー・トッドから観客に向けたものとしても、ウィリアム・ブラッドワースからステファニーたちに向けられたメッセージとしても違和感がない。
そんな脚本やセリフを設定した製作陣も、役ではあるとはいえ最後のメッセージになるであろうメタ的なセリフを残すトニー・トッドの覚悟も、素晴らしい。
死の直前に撮影できたという点も含めて、それこそ運命的でドラマチックでした。
こういった背景的な要素は通常、作品そのものの評価とは関係ないものですが、『ファイナル・デスティネーション』シリーズとトニー・トッドは切っても切り離せない関係にあり、トニー・トッドとの別れを作中に溶け込ませてくれた製作陣には、ファンとしては感謝しかありません。
「今さら続編?」と思ってしまう作品も少なくありませんが、本作は2024年(製作は2025年となっていますが、トニー・トッドが亡くなったのは2024年11月なので撮影は2024年だったはず)だからこそ作れた奇跡の1作であったと思います。
どうやら本国では本作の興行成績が良かったためさらなる続編の製作も決まっているようですが、色々な面で本作を超える作品を生み出すのは難しいでしょう。
とは言いつつも、やはり好きなシリーズなので続編ができたらできたで期待したいと思います。
ただ、トニー・トッドの存在はシリーズの中でも大きいですし、今までのシリーズ作品へのリスペクトを捧げつつ丁寧にまとめ上げた本作は、シリーズの一つの区切りになり得ます。
次作以降は新シーズン的な位置づけになると想定しておいた方が良いかもしれません。
今までは「やっぱり主人公たちも助からないかも~!」みたいなラストが多かったですが、本作ではがっつりぐっしゃりこれ以上ないほど主人公姉弟の最期も描かれたので、「一旦終わり!」という意思を感じました。
考察:ステファニーはなぜ夢を見るようになった?(ネタバレあり)

それほど考察する要素のあるシリーズではありませんが、過去作のネタも含めて時系列や設定が入り乱れた本作は少しだけややこしかったので、数点だけ考察。
過去シリーズとの絡み
まず一つ目は、過去のシリーズの事件についてです。
本作で明かされた謎は、
- スカイビューで死の運命を回避した者たちが、死のリストの順番に死んでいく
- 死ぬ前に子どもが生まれていた場合は、その子孫たちにも順番に死の運命が及ぶ
というものでした。
ステファニーの祖母にしてスカイビュー事故の救世主であるアイリスは、立てこもって死神の研究を続けることで、死の運命を回避してきました。
彼女が死ななければ、子孫にも死神による死の運命が及ぶことはありません。
他のスカイビュー事故の生存者も、同じルールが適用されます。
彼ら彼女らは順番に死んでいきますが、それまでに子どもが生まれていた場合、死神はその子孫も追いかけなけらばいけません。
アイリスの研究資料には、過去シリーズの事故に関する内容も認められました。
『ファイナル・デスティネーション』の180便や、『デッドコースター』の丸太を積んだトラックなど。
これらとの関係は明言されません。
死の運命に囚われた事例として拾ってきて研究していただけかもしれませんが、過去シリーズの犠牲者たちはすべて、スカイビュー事件の生き残りの子孫である可能性も考えられます。
そうだとすると、死の運命を回避した者たちの子孫がさらに死の運命を回避したことになるので、死神の忙しさが尋常ではなくなります。
死神も楽じゃないですね。
過去シリーズで事故を予知していた人(=主人公)たちが、スカイビュー事件の生き残りの子孫、ぐらいなのかも。
この説が合っていたとしても、スカイビュー事件が原点なのかどうかはわかりません。
一応、日本版のポスターには「すべての“死の連鎖”はここから始まった」とあるので、スカイビュー事件が原点であり、過去シリーズの事件もスカイビュー事件の生き残りの子孫説が濃厚ですが、日本版ポスターはたまに適当なことを言っていることがあるので、断定するには微妙な根拠かも。
ステファニーは電気羊の夢を見るか?
元ネタがわからない方へ。
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』というSF小説があるのです。
さて、基本的に丁寧に説明されるので本作もそれほど謎は残りませんが、唯一と言っても過言ではないであろう謎が、「なぜ急にステファニーがアイリスの予知内容の夢を見るようになったのか」です。
結論から言えば、よくわかりません。
と終わらせてしまっては身も蓋もないので、想像してみましょう。
作中で言及されていたのは、「アイリスが病気になったから」説でした。
アイリスにがんが発覚したのが5ヶ月前。
ステファニーが夢を見るようになったのが2ヶ月前。
少しタイムラグはありますが、50年という長いスパンで考えると、関連がありそうなタイミングの良さです。
なぜアイリスが病気になるとステファニーが夢を見るのか。
おそらくは、死神がアイリスを動かすためでしょう。
実に50年以上も死の運命から逃げ続けたアイリス。
家を要塞化して、家族からも変人扱いされて仲が険悪となりながらも死神とのバトルに人生を捧ぐおばあちゃんの姿は、『ハロウィン(2018)』シリーズのローリーを思い出さずにはいられません。
どちらも家族を守るために孤独に闘うその姿は、泣けるものがあります。
2人とも不器用すぎるところも。
何にせよ、アイリスの覚悟は凄まじく、何回もアプローチをかけてくるストーカーのごとき死神による死の運命を何度も回避してきました。
死神は思ったことでしょう。
こいつ、マジでめんどくさいと。
死神もきっと、少し嫌になっていたのでしょう。
面倒で後回しにしていたのでしょう。
あとでいいや、明日やろう、と。
しかし、そんなこんなで50年。
何と、アイリスにがんが見つかってしまいました。
これまでのシリーズを見る限り、さすがの死神も病気にさせることはできないようです。
このままでは、アイリスは天寿を全うしてしまう、とまでは病気なので言えませんが、少なくとも死神による死の運命からは逃げ続けたまま、寿命を迎えます。
死神は思いました。
これはやばいぞと。
死神界のルールはわかりません。
そもそも死神が1人なのか、複数いるのかもわかりません。
1人ずつ順番に殺していくところや、だいぶ忙しくしているっぽいところからは、少なくとも担当のグループは1人で進めていくことになっていそうです。
死のリスト通りに殺せなかったらどうなるのか。
人事考課が下がるのか、クビになるのか。
あるいは、ただ完璧主義な死神自身がそんな例外は許せないだけなのか。
いずれにせよ、アイリスにアプローチし続けても埒が明きません。
そこで死神は、孫のステファニーを利用してアイリスを動かし、子孫ともども一気に殲滅する計画を立てました。
ステファニーが選ばれたのは、人間性や行動力、そしてアイリスとの関係性などを総合的に考慮してのことでしょう。
思惑通り、ステファニーはしっかりと動いてくれて、閉じこもっていたアイリスを引きずり出すことに成功しました。
50年越しとは思えないほどピタゴラ度が低めで一瞬で仕留めた殺し方からは、「このタイミングを絶っっっっっ対に逃すわけにはいかない!!」という死神の強い意志と焦りを感じました。
そうして事態は一気に動き出し、一族を殲滅できたわけなので、死神の作戦は大成功だったと言えるでしょう。
毎日悪夢を見るというのは当事者にとっては耐え難い苦しみですが、それによって自分を含めた家族親族が一人残らず死んでしまったので、どっちに転んでもステファニーの負担は大きすぎました。
一族殲滅とは言いましたが、アイリスの血は繋がっていない、影の薄すぎたお父さんと、不倫の告白がまさかの最後の出番となったブレンダおばさんはまだ生きていますね。
もしかすると彼らが今後のシリーズに登場……する可能性は限りなく低そうです。




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