
作品の概要と感想(ネタバレあり)

霊媒師一家に生まれた愛里と、ある事件によって霊となった姉・美玖。
霊と交信できる力で全国の怪事件を解決して回る姉妹のもとに「屋敷に出る男の亡霊を祓ってほしい」という依頼が舞い込む。
目撃した張本人の禎子は愛里の仕事に興味津々だが、息子・群治は霊の存在に懐疑的。
しかし屋敷では怪現象が相次ぎ、除霊の儀式を始めた愛里はさっそく亡霊に遭遇する──。
2026年製作、日本の作品。
このあたりは調べればいくらでも出てくるので細かくは端折りますが、賀来賢人がデイヴ・ボイル監督と共同で設立した映像製作会社「SIGNAL181」による初の長編映画作品。
グローバルで新しい映像製作会社が作っているというところからも期待していましたが、まさに斬新さ溢れる1作でした。
Jホラーのじめじめした雰囲気と洋ホラーの派手さをハイブリッドさせた展開からヒトコワなミステリィに転じ、切なくも後味の悪くない形で着地させる手腕は見事。
純粋にホラーを求めて行ったので、その点においては正直やや刺さらなかったり物足りなかった部分もありますが、新しい試みとしてとても独創性に富んでおり、今後の作品への期待も高まりました。
まずとにかく、設定が良いですね。
姉妹の霊媒師、しかも姉が死んでいて妹にしか見えない、といった設定は決して斬新とまでは言えませんが、小道具含めて緻密に丁寧に組み立てられた世界観がとても好きでした。
あらゆる面において「丁寧」という印象が強いです。
監督が斬新さにこだわったらしいオリジナルの儀式も、ビジュアル的なインパクトが強くて良かったです。
特定の国や宗教に依存せず、誰が見てもわかりやすい視認性が重視されているところは、グローバルな展開を視野に入れている野心も窺えました。
主人公である愛里の車もボルボの古い型だったり、レトロな洋館やアンティークな家具や道具が多々登場する点も、特定の国や時代にとらわれない普遍性を感じさせます。
今思いましたが、スマホが登場しなかった気がするので、実際作中の時代設定もはっきりわからないようになっていたのかもしれません。
ちなみにあの洋館、セットではなくて実在する洋館のようです。
柱時計もチャペルも、あの洋館にもともと存在しているものとのこと。
あの洋館を見つけた人があまりにも神です。
霊の姿もそうですが、全体的に視覚的な表現がとても重視されているように感じました。
さらには、序盤は『死霊館』などのようなオーソドックスな洋館オカルトホラーに見せかけて、実は根底はヒトコワという普遍的な恐怖だった点も、幅広い国で受け入れられるポテンシャルを秘めた1作と言えるでしょう。
個人的には、ホラーというよりミステリィ要素を強く感じました。
霊媒師が主人公なので怖がらないため、観客側にも一定の安心感が生まれます。
その分、ホラー要素は霊の見た目やジャンプスケアに重きが置かれていましたが、恐怖度的にはライトめでしょう。
伏線の回収もとても丁寧で見事でしたが、霊すらパズルに組み込まれたようなミステリィ的な枠組みは、ホラーとしてはやや窮屈感も。
ただそれは贅沢な意見でしょう。
ジャンルを一つに絞れと言われたら「ミステリィですね」とはならず紛れもなくホラーですし、チャレンジングな作品でありながら綺麗にまとまっており、唯一無二の存在感を放っていました。
ゆっくりと謎を探っていく前半から、殺人犯の登場により物語が急展開するため、105分という長さも感じさせません。
舞台がずっと同じで登場人物も少ないにもかかわらずこれほど中弛みしないのは、なかなかに難しいことだと思います。
音や音楽の使い方も、主張は強めでしたが個人的には好き。
呪怨じみた霊の声までしっかり伏線回収されたのは、見事としか言いようがありません。
Jホラーあるあるな「ぼそぼそ喋っていて台詞が聴き取れない」現象がほとんどなかったのも、さり気ない評価ポイントです。
色々な面において、変に説明するのではなく視覚や聴覚を使って表現する巧妙さが光っていました。
キャストもみんな役に合っていて素晴らしかったです。
愛里を演じた穂志もえかは初めて拝見したので、それが没入しやすさにも繋がりました。
賀来賢人と木村多恵が親子なのは最初若干違和感がありましたが、実年齢は19歳ぐらいの差っぽいので、あり得なくはないんですね。
殺人犯を演じた吉岡睦雄も初めて見たのですが、普通に喋っているだけであからさまにヤバい奴感が秀逸すぎました。
作中に散りばめられた謎や違和感はしっかり回収しつつ、ラストだけ解釈の余地を残したバランスも良かったです。
一方、ツッコミどころは多数あり、登場人物の背景がほとんど明かされず、特に殺人犯が色々と謎すぎたまま終わったのは個人的にはやや物足りなさもありましたが、あくまでもホラーとして明確な取捨選択が感じられたので不満ではありません。
作中の謎はほぼ説明された一方、描かれなかった部分は情報がなさすぎるのででそれほど考察ポイントがあるわけではありませんが、以下、いくつかピックアップして考えてみたいと思います。
考察:ラストの解釈と続編の可能性(ネタバレあり)

警察に通報したのは誰か?
まず小さな謎からですが、警察に通報したのはおそらく殺人犯である謎の男でしょう。
「4つの死体がある」という通報内容だったようですが、愛里とオーナー親子、そして警察官を殺すということの暗示かと思われます。
しかしまぁ、警察官が1人で来た時点で失態ですね。
「今時警察官が1人で来ないだろう、しかもこの警察官何か怪しい」と思ったので偽警察官だったり裏があるかと思いましたが、全然そんなことなくてただ1人で来ただけのちゃんとした警察官でした。
疑ってごめんね。
タクシーも1台しかないような田舎なので、警察も人手不足なのかもしれません。
後述しますが最後は愛里も死んで全滅したと解釈しているので、彼らの死体が見つかるのはいつになるんだろう……なんて余計な心配もしましたが、警察官が音信不通になっているのできっとすぐ見つかるな、と思い直しました。
さすがに、さすがにどこに行くのかは伝えたり残しているはず。
そこまでポンコツ警察官ではなかったことを祈るのみ。
殺人犯の謎あれこれ
本作で強いインパクトを残した殺人犯の謎の男ですが、バックグラウンドはほぼ謎のまま。
彼はおそらく、歯を抜いてから殺すことに快楽を抱く快楽殺人犯のようなイメージだったのではないかと想像します。
歯に魂が宿る云々言っていましたが、おそらく後付けの詭弁でしょう。
歯を抜くこと自体に快感を覚えていた可能性もなくはありませんが、それだと歯医者になれば良いだけなので、殺人もセットであると考えます。
拷問的に歯を抜いて痛めつけてから殺していたのかな。
歯医者になれなかった恨みかもしれませんが(考えすぎ)。
また、なぜ彼の死後の姿の霊が彷徨っていたのかも謎です。
それは禎子と群治親子の死のシーンが先に見えた謎とも繋がります。
美玖の説明が突然で早口だったので聞き逃してしまったのですが、自分と同じで強い怒りなどの感情がもとで霊を生み出してしまったみたいなことを言っていたので、口裂け殺人犯の霊もそういった存在だったのかと思います。
ただ、それでもなぜ死後の姿で彷徨っていたのかは謎。
この点は、「能力者が介入すると時空を超える」みたいな話があった気がするので、そのせいかな、と考えています。
殺人犯も手を繋ぐだけで相手のことを読み取れるような能力者であったようですし、2人の能力者の力が介在したりぶつかり合って時空が乱れたのかと。
ただ、細かい設定よりは「口の裂けた男の霊が自分の歯を探していると見せかけて、彼が殺人犯で歯をコレクションしていた」という意外性のための演出的な要素も強かった気もするので、あまり深読みするものでもないのかもしれません。
歯の入ったケースをあの洋館に隠していた理由もわかりませんでしたが、以前あの洋館の部屋を借りて出張の拠点にしていたとのことなので、その時期に抜歯&殺人を繰り返して歯をあの部屋に隠していたけれど、オーナーが変わって貸してもらえなくなった、とかでしょうか。
殺人の犯行現場はさすがにあの洋館ではなかったはずですが、いずれにしても、たまにしか使わないあの部屋に隠したままにしてあったのは失敗でしょう。
ラストの解釈
さて、本題であるラストの解釈。
こちらは上述した通り、個人的には愛里も死んだものとして捉えています。
最後に蝋燭が消えたのは、儀式を終わらせて愛里が生還したということではなく、愛里の死の表現ということになります。
一番大きな理由は、姉の美玖に抱き締められていたからです。
幽体離脱(?)をするだけで美玖と触れ合えるのであれば、とっくにそうしていたはずです。
美玖は彷徨える霊だったわけではなく、愛里にしか見えない、愛里を見守る存在でした。
つまりは境界よりは死後の世界に属している可能性が高く、その美玖に抱き締められるということは、愛里の魂も死の世界側に近づいていたと考えるのが自然でしょう。
蝋燭が消える=生き返るというわけではなく、幽体離脱が解除されるに過ぎません。
幽体離脱中に肉体が死んでしまったら、幽体離脱を終わらせたとて生き返るわけではありません。
愛里は死を覚悟したからこそ怖がり、素直な気持ちを吐露して姉を求め、最後の最後に触れ合うことができたのだと考えられます。
姉妹の設定と謎あれこれ
愛里と美玖姉妹の過去については、最低限語られましたが、まだまだ謎に包まれています。
澤村伊智の『ぼぎわんが、来る』から始まる比嘉姉妹シリーズのように人気が出そうな設定ですし、実際すでに続編などを期待する声も多いようですが、そんな魅力的なキャラをあっさり死なせて姉妹を苦悩から解放した潔く綺麗な終わらせ方も、個人的には高評価です。
なので「実は生きていました」的な続編が生まれてしまったら、ちょっと残念かも。
それはさておき、姉妹も謎だらけなのでいくらでも深読みできます。
極端な話、美玖の霊が本当に存在していたのかも定かではありません。
実は、愛里の妄想だった可能性すらあるのでは?
そう考えると、愛里の主観的には最期に美玖に会えて幸せかもですが、めちゃくちゃバッドエンドなのでは?
みたいなことまで考えてしまったのですが、デイヴ・ボイル監督のインタビューで以下のように述べられていました。
「主人公に話し相手がいないと、彼女の性格やバックストーリーを描くチャンスがなかったんですよ。そこでもしバディみたいな存在がいるとしたら幽霊かなと思ったんです。最初は愛里のお母さんにするというアイデアもあったんですが、子供の頃に死んだ姉がそのまま霊体としてついてきているという方が、切なくて良いですよね」
「美玖の現れ方として“鏡に映る”というのは、実はそんな深く考えずに書いたんですね。他の人には見えていないけど、愛里にだけ見えているという表現として分かりやすくしたかった」
https://news.nicovideo.jp/watch/nw19388095
えぇ、あの、そんな意地悪いこともなく、普通にちゃんと存在していたようです。
ホラー映画の観すぎか、自分の性格が悪いだけでした。
また、同インタビューでは、
「愛里役の穂志さんたちにはキャラクターのバックストーリーや歴史を書いた資料を渡していて」
https://news.nicovideo.jp/watch/nw19388095
とも述べられているので、細かい設定もしっかりあるようです。
続編があり得るとすれば、このあたりを活かした前日譚でしょうか。
美玖が毒で死んだというのはあまりにも気になりますし、なぜあんな被り物をしていたのかも謎に包まれすぎています(などと言っては失礼でしょうか)。
ただ、本作はこのまま終わってこそ綺麗だな、とも思っています。
しかしまぁ、お姉ちゃんはあんな強大なポルターガイストを起こせたので、とんでもない力の持ち主ではないでしょうか。
あの力があれば殺人犯をやっつけるのなんて赤子の手をひねる(この表現、すごいですよね)ようなものだったでしょうし、少なくとも手錠で拘束された愛里を前に「どうしよう」なんてか弱いフリをしている暇があったらさっさとバキッと柱でも折ってあげた方が良い気がしました。
なんていうのは冗談で、力は自分でもコントロールできなかったのかもしれませんし、愛里を助けなかった(教会ではちょっと助けていましたが)のは「1人でやり切る」という愛里の意思や約束を尊重したからかもしれません。
それでも、愛里にしか見えない割にオルゴールをかけたりと物理にも干渉できたようなので、美玖の力を借りて陽動などをしてもらうだけでもどうにかなった気もしますが、それは姉妹が望んでいなかったことなのでしょう。
本作のラストは悲しいですが、姉妹にとってはようやく再び触れ合うことのできる温かいものだったのだろうと感じます。

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