作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
恐怖と犯罪の雰囲気が漂う、ベルリン近郊の鄙びた悪名高き結核患者療養所。
その廃墟で、あるYouTuberのグループが“24時間肝試しチャレンジ”に挑み、配信するために撮影に出かけるというファウンド・フッテージを開始。
暗視装置と熱探知カメラを携え、常に超常現象が起きるという噂を追いかける一行。
邪悪な霊がうごめいてる病棟で、果たして彼らは生き延びられるのだろうか──。
2018年製作、ドイツの作品。
原題も『Heilstätten』。
英語でいうところの「sanatorium」で「(長期的な)療養所、サナトリウム」を指すようです。
立ち入り禁止の心霊スポットをYouTuberたちが訪れるという、POV形式のモキュメンタリー作品。
観終わっての一番の感想は、自分でも「そこ?」という感じでどうかと思いますが、
「どの国も同じなんだなぁ」
でした。
しみじみ。
いやほんと、迷惑系YouTuberは世界共通の問題なのでしょうね。
むしろ、遺体安置所に忍び込んだり遺体を弄ぶなど、さすがに日本で聞いたことはないレベルで、犯罪度合いやぶっ飛び具合は海外の方がよほど高そうです(実際にこれほどまでの行為が行われているのかはわかりませんが)。
日本でも過去の災害や戦争などを揶揄するような動画を見かけることがありますが、ドイツでヒトラーの真似をするというのも、ドイツ国民から見れば相当に悪質に映るでしょう。
作品としては、比較的丁寧な作りで好印象。
「ただしラストシーンは……」ですが、この点については後ほど触れましょう。
特に、廃墟好きなのでロケーションがとにかく最高でした。
舞台となる「ベーリッツ・ハイルシュテッテン・サナトリウム(Beelitz-Heilstätten Sanatorium)」は実在する施設のようで、ヒトラーが怪我の治療のために入院したという逸話も本当のようです。
ただ、現実では本作の心霊スポット扱いはされているわけではなく、立ち入り禁止でもなさそうで、ある程度観光や見学もできるらしく、もはや行ってみたいレベル。
それでも、ヒトラーやナチスという暗い歴史を背負うドイツ。
この施設で実際に人体実験までなされていたのかはわからず、内部の様子は実際の施設で撮影はしていないでしょうが、雰囲気は抜群。
その中で、カメラに映ったり登場人物たちが遭遇する超常現象も、全体的に最後までどこかで見たことがあるような演出がほとんどでしたが、色々なパターンを使ってくれており、楽しめました。
もはやオカルトな超常現象も使い尽くされているので、「どこかで見たことがある」こと自体に否定的ではなく、変に気を衒うより既存の演出で丁寧に作ってくれた方がリアルさも不気味さも増しますが、本作ならではの個性は薄めで、好きだったけれどあまり印象に残らない、という作品になってしまっていたのも事実です。
また、雰囲気もあってだいぶ好印象だった本作ではありつつも、あまり他作品と比べるべきではありませんが、どうしても『コンジアム』と比較してしまうのは、『コンジアム』を観たことがあれば仕方ないはず。
もちろん『ハイルシュテッテン 〜呪われた廃病院〜』の方が好きな方もいらっしゃるでしょうが、個人的には『コンジアム』が大好きな作品なのもあり、舞台、緩急のつけ方、魅せ方など、あらゆる面で『コンジアム』の方が上回ってしまっていました。
ちなみに、本作も『コンジアム』も、どちらも製作は同じ2018年。
そもそもの、低予算でリアリティを演出できるPOVのモキュメンタリーホラーが、遡れば1980年の『食人族』あたりから始まり、すでに溢れすぎてしまっているのかもしれません。
オカルト路線も、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』から『パラノーマル・アクティビティ』を経て、2000年代に一気に爆発。
特に、現実世界でYouTubeを筆頭とした動画配信やライブ配信が広まってからは、その勢いが加速。
登場人物に愚かさが求められるホラー映画と、カメラを手放さず撮影を止めない理由が必要なPOV。
その意味では、知性が低い迷惑系YouTuberとPOVホラーは、あまりにも相性が良いと言えるでしょう。
すみません、言いすぎました。
いえ、言いすぎていません(攻めの姿勢)。
モキュメンタリーとして気になったのは、特に驚かせるシーンなどで、ちょいちょい効果音が入っていたところです。
あとから編集されて投稿された映像という位置付けなのか?とも思いますが、やはりモキュメンタリーなら効果音はない方が臨場感が高まります。
そのせいで、何か音がしたのか効果音なのかが少しわかりづらく、音による不穏さが半減してしまっていたのが残念かつもったいなく感じました。
あと、映像もちょっと独特で、数秒だけ映像が飛んでいるようなシーンが何回かありました。
テンポの良さにも繋がっており、基本的に前半だったのでそれほど影響はありませんでしたが、あれも「テンポ良くするための演出?異常現象?編集された映像?」というのがわからず、ちょっと気になってしまいました。
しかしとにかく、『ハイルシュテッテン 〜呪われた廃病院〜』で物議を醸すのは、やはりラストでしょう。
心霊現象はすべて、医学生テオの仕掛けた演出でした。
彼の目的は、色々とそれっぽい思想を語っていましたが、結局は嫉妬というか、「もともと相棒で一緒に動画投稿をしていたフィンが、新たな相棒としてチャーリーを選んだことが許せなかったから」としか思えません。
フィンは今でもテオを「親友」と呼び、危険を顧みず地下まで助けに行こうとしていたので、チャーリーはともかくフィンはかわいそうでもあったというか、テオの被害妄想的なものもちょっとありそうです。
このどんでん返し的なラストは、「そう来たか!」というよりも、「そう来ちゃったか〜」という感じでした。
「心霊現象だと思ったら人の仕業だった」系は珍しくはなく、それが悪いわけではないですが、やはりそこに欲しいのは必然性と伏線です。
本作はその点が弱かったというか、目的が手段と化しているような「観客を驚かせるためだけのどんでん返し」感が拭えませんでした。
なので、賛否両論というよりは否定的な感想が目立つのも、納得できてしまいます。
伏線も「規則1 全員あるものをテオに渡す」などがありましたが、さすがにちょっと弱め。
何より、ラストで唐突(これもかなり唐突)に現れた謎の女性イリーナの協力があったとはいえ、心霊現象の演出があまりにも完璧すぎました。
タイミングだったり、バレないようにしたりするのもすべて。
予想外の乱入者であったフィンの友人クリスが死んだときなんか、迷いに迷ってたどり着いた場所で殺されていましたが、イリーナがずっと追いかけていたのでしょうか。
あれは単純に事故、あるいは実は本当に霊の仕業だった説もあり得ますが、突然の乱入者である彼を、テオがそのまま逃がすとも思えません。
あとは、最後にテオが自殺したのも、よくわからないといえばわかりません。
ただ、最後の最後のシーンでのイリーナの様子からは、霊に憑依されたような様子も窺えました。
「心霊スポット、と見せかけて人間の仕業だった、と見せかけて本当に霊がいた」というのが本作の真の構造であると考えられます。
その点も踏まえると、テオの「感情は残るものだ。いつまでも残るのだ……」という自殺直前のセリフからは、霊、あるいは過去の凄惨な事件によりあの場所に残っていた負の感情に、テオも影響を受けていたことが推察されます。
医学生としてあの場所に何回か出入りしていたテオなので、その時点で憑依されるなり影響を受けてしまっていたのかもしれません。
吐いた血糊のあとがヒトラーのヒゲのようになっていたのも、その示唆でしょうか。
というわけで、舞台や雰囲気は良かったですが、設定やストーリー、演出あたりにはちょっと物足りなさを感じてしまった作品でした。
グロさは控えめでしたが、ケーブルでズタズタにされてしまったエマと、切れ味抜群すぎるハサミで鼻を切り落とされたベティは良かったです。
熱画像カメラやボルトカッターなどが出てきたからかもしれませんが、ゲームっぽさも感じたので、ゲーム化しても面白そう。
コメント