作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
ペルーの首都リマに、日系人一家が暮らしていた「マツシタ邸」と呼ばれる屋敷があった。
そこはかつて凄惨な事件が起こった現場であり、それ以来、数々の超常現象が目撃されることから、地元では幽霊屋敷として知られている。
2013年9月、そんなマツシタ邸に潜入した撮影チームが、消息を絶つ。
それから6ヶ月後、撮影チームが残したと思われるビデオデータが発見されるが、そこには驚くべき現象が記録されていた──。
2014年製作、ペルーの作品。
原題も『Secreto Matusita』。
「日系ペルー・ホラー」というまた独特なジャンル表現がなされていますが、日系ペルー人のマツシタさんのご自宅だったお屋敷が舞台となり繰り広げられる、POV形式のモキュメンタリーホラー。
冒頭の「学生3人が行方不明になり、後日この映像が見つかった……」みたいな説明は、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』を彷彿とさせる、ファウンド・フッテージ作品の王道的演出。
定点カメラを通して繰り広げられる展開もまた、『パラノーマル・アクティビティ』あたりから人気の手法。
実際の心霊スポットが舞台となる点も、『コンジアム』などが有名です。
ライブ配信ではありませんが動画で人気者を目指すという点も含めて、全体を通して『コンジアム』に近い感じがあります。
が、『シークレット・マツシタ/怨霊屋敷』の日本公開は2022年でしたが、製作は2014年とけっこう前で、2019年製作の『コンジアム』より前の作品です。
というか、日本公開時、松下さんは無料で鑑賞できたというの、羨ましすぎますね。
さて、本作の舞台となるマツシタ邸。
「これは実話です」というポスターの言葉は誇大広告感が否めませんが、マツシタ邸や、それにまつわる過去の逸話は実際にあるようです。
マツシタ邸に関しては、「casa matusita」で検索すると、観光スポット、ミステリィスポットとして出てきます。
逸話の方はいずれも都市伝説ですが、パルバネ・デルバスパという女性が魔女裁判にかけられて火あぶりにされ、「この場所を呪ってやる」と言ったことや、「購入した金持ちに虐待されていた使用人が薬を盛り、騒がしさが落ち着いたあとに見にいくと手足をちぎられた死体が散乱し、壁が血だらけになっていた」「自宅で不貞を働いていた妻を見つけたマツシタさんがブチ切れて一家惨殺」「怪奇現象が起きるのは2階のみ」といった話は、いくつかのバリエーションは存在するものの、実在するもののようでした。
「テレビ番組でウンベルト・ビルチェス・ベラがマツシタ邸で過ごすと宣言して、数時間で正気を失い精神病院送りになった」という話も実際に見つかりました。
ただこれは、のちに本人が著書で否定しているというか、「視聴率のための演出だった」みたいに説明しているようです。
「マツシタさんブチ切れ事件」に関しては、「ナイフで家族を殺して最後には自分を刺した」といったような内容は見つかりましたが、「切腹した」という話は見つかりませんでした(そんなに深く調べられていませんが)。
この点は、作中の映像の最後でもファビアンが切腹して終わりましたが、映画における「日本っぽさ」のための演出なのでしょう。
諸々の都市伝説について、作中で語られていた「かつてはマツシタ邸の向いにアメリカ大使館があったため、スパイ活動防止のためにCIAに流した」という陰謀論も実際にあるもののようでした。
ちなみに、作中でマツシタ邸にまつわる話を教えてくれた1人の「タイラさん」ですが、演じていた彼の本名はPercy Tairaという本物の「タイラさん」でした。
どうやらジャーナリスト兼詩人のようで、「Percy Taira」で調べればYouTubeのアカウントも出てきます(2023年5月26日現在)。
本作で彼のファンになった人(いるかな)は、要チェックです。
さて、色々と前提が長くなってしまいましたが、本作の内容に移ると、上述した通り『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』×『パラノーマル・アクティビティ』×『コンジアム』のような、王道的なモキュメンタリーホラーであった印象です。
プラス、ラストは『エクソシスト』。
一方で、ジャパニーズホラーらしいじめじめとした雰囲気は、それほど強めではなかったように思います。
ただ、子どもの霊のビジュアルなんかは、ちょっと『呪怨』の俊雄くんっぽさも感じました。
あの子どもが、ホラー演出としては一番好きでした。
特に、序盤でカメラマンのルイスがブロックを蹴ったときに、追いかけていく影が映ったところがお気に入り。
ちなみに、あのブロックに書かれていた英字はSとMでしたが、「Sereto Matusita」だからですかね。
学生3人は、精神病院で「撮るな」と言われても撮影し続けたり、警備員にお金を渡してマツシタ邸に侵入したりとモラルがしっかりと低く、マツシタ邸内でもひたすら自己中に大騒ぎしてくれるので、安心して犠牲になる姿を見守ることができました。
ファビアンとヒメナが付き合っているとは思わなかった。
ヒメナは、目力も態度も圧が強かったです。
騒がしさも含めて、ちょっと『REC/レック』のアンヘラを思い出しました。
髪型が気になって仕方なかった、霊媒師のオスカル。
ちなみに、U-NEXTの字幕では途中で「カルロス」になっていましたが、発音は明らかに「オスカル」だったのでオスカルで統一します。
名前については「エンドロールを見ればいいんだ」と確認したのですが、まさかの「Vidente(預言者、透視術者)」という表現で、名前は書かれていませんでした。
かわいそう。
彼は結局、力があったのかなかったのか、よくわかりませんでした。
霊的な力が実際にあったのは間違いありませんが、本作だけで見ると、中途半端感が否めません。
彼のせいで霊が目覚めた感じがありましたが「俺の手には負えない!」だったり、霊たちが助けを求めていることはわかっても「どうすればいいかはわからない!」だったり、パルパネの子どものミイラを見つけて埋葬しようとしましたが「あーっ!」と連れ去られてしまったり。
ちなみに、冒頭では「学生3人が行方不明で捜索中」となっていましたが、オスカルについてはまったく触れられていませんでした。
かわいそう。
マツシタ邸の背景や設定は、実際の都市伝説を引用しているところもあり、とてもしっかりしていて良かったのですが、結局何だったのか、というか、どうすれば良かったのかがわからなかったところは少し消化不良でした。
結局、思わせぶりに出てきたマツシタ一家(?)の霊はパルパネに囚われているだけで、むしろヒメナたちを助けようとしてくれていたようです。
あくまでも、元凶はパルパネ。
魔女裁判で処刑された恨みがマツシタ邸の怪奇現象のベースでした。
オスカルの話を信じれば、パルパネも助けを求めていたようです。
彼女は、愛する男性を信じて任せながらも助けてもらえなかった我が子への想いが強かった様子。
ただ、埋葬してくれようとしたオスカルも殺してしまいましたし、どうすれば良かったのかは結局わからずじまい。
もはや、恨みの感情だけに支配される存在となってしまっていた、というのが妥当な解釈でしょうか。
そもそも助かる選択肢などなかったのかもしれません。
ヒメナに乗り移った(?)際には、もはや人間とは思えない動きで、霊というよりは悪魔に取り憑かれたようでもありました。
深読みすれば、オスカルは実は生きていた説も提唱できるかもしれません。
彼は結局、ラストシーンで食卓に座らされていましたが、特に外傷は見当たらず、本当に死んでいたかはわかりません。
ルイスなんかは、見づらくてよくわからなかったのですが、内臓を取り出されてお皿の上に載せられていた?感じでもありました。
そうだとすれば、あのシーン好き。
逸れましたが、パルパネの子どもを埋葬しようとしたオスカルだけ許されて生還したのだとすれば、彼が捜索されていなかった点も説明がつきます。
そうだとすると映像の発見が6ヶ月後になった理由がつきづらくなるので、命は助かりながらも正気を失っていたのかもしれません。
ただ、ちょっと無理はある感は否定できないので、彼もやはり死んでいたと考える方が自然ではあります。
でも、生きていた説であってほしい。
そうじゃないと、行方不明になっても捜索もされていなかった彼が不憫でなりません。
事件後、警備員がすぐに映像を回収していたように見えましたが、それにもかかわらず映像の発見が6ヶ月後になった理由も曖昧です。
ただ、彼もパルパネの影響を受けて錯乱したようでした。
彼が持ち出そうとしたカメラの映像の最後にもパルパネが映っていたので、あの時点で取り憑かれ、カメラは持ち出すことなく家を出て、そのまま錯乱してしまったのかもしれません。
全体的に、やや物足りなさもありましたが、丁寧な王道ファウンド・フッテージホラーであったと思います。
しかし、それをすべて覆すのが、やはり額の「死」ですね。
ただそこは、「日本の雰囲気だけでも怖い」と思ってもらえているということなので、好意的に捉えましょう。
切腹など若干定番のずれは感じますが、日本愛も感じられる作品でした。
忍者は出てこなくて良かった。
最大の衝撃は、エンドロールの曲でした。
突然の和楽器に、日本語の歌。
何となく不気味さが漂う雰囲気に、細かく聴き取ってはいませんが内容ともリンクしていそうな歌詞。
あの歌、すごく気になります。
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