【映画】テリファー 終わらない惨劇(ネタバレ感想・心理学的考察)

映画『テリファー』のポスター
(C)2022 DARK AGE CINEMA LLC. ALL RIGHTS RESERVED
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『テリファー』のシーン
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マイルズ・カウンティーの惨劇から1年後のハロウィン。
絶命したかにみえた連続殺人鬼のアート・ザ・クラウンが死体安置所で息を吹き返し、ふたたび街に現れた。
残虐性と冷酷さを増したクラウンは、父親を亡くしたシエナとジョナサンの姉弟を標的にし、ハロウィンでにぎわう街で一人また一人と犠牲者を生み出していく──。

2022年製作、アメリカの作品。
原題は『Terrifier 2』。

ですが、原題のタイトルやロゴは『DAMIEN LEONE’S TERRIFIER 2』と表示されます。
監督名が入るところと、ロゴの文字体や雰囲気、そして中身もそうですが、前作に引き続き80年代のスラッシャー映画らしさが強く感じられました。

本記事には、前作『テリファー』のネタバレも含まれるのでご注意ください。
前作『テリファー』については、以下の記事をご参照ください。

というわけで、まさかのアート・ザ・クラウンが帰ってきた!
帰ってくるんかい!
いえ、待っていました。

グロ・ゴアも舞台の広さも被害者数も、圧倒的パワーアップ
これ以上ないほど、まさに「終わらない惨劇」を見せてくれました。
しっかりと前作から繋がっているところも嬉しい。
そもそも前作でも強烈なインパクトを残してくれたアートですが、本作でホラー映画史における有名なスラッシャーとしての地位を確立したのではないかと思います。
ちょうど、同じハロウィン時期に活躍するマイケル・マイヤーズの『ハロウィン』シリーズが一旦幕を閉じたのも、良いタイミング。

前作に引き続き、デイミアン・レオーネが監督・製作・脚本を務め、デビッド・ハワード・ソーントンがアート・ザ・クラウンを演じているので、当然ながらクオリティは完璧。
独特でコミカルなアートの動きはもちろんですが、間の取り方やリアクション、効果音の使い方などは、監督か俳優が変わっていたら絶対に違和感があったでしょう
上述したタイトルロゴからは、今後に向けても「テリファーシリーズを作っているのは自分だ!」感が強く感じられるので、頼もしい。


全体的な感想としては、(特にゲームをしない方には)わかりづらくて申し訳ありませんが、ゲームの『バイオハザード2』をプレイした時の感覚に近かったです。
『バイオハザード』は洋館内が舞台でしたが、2は街(ラクーンシティ)が舞台となり、スケールも広さもパワーアップ。
ただ、暗く狭い空間で繰り広げられる独特な雰囲気や不気味さ・恐怖感は、やはり1で確立していたな、という感覚。
予算や表現に制限のある1の方が、工夫が凝らされて印象に残るシーンが多い。
といったような点が、『テリファー』もまったく同じでした。

この点は、やはり「原点が頂点」というのがあらゆるシリーズものに言えるので、前作と比較してネガティブの捉えるのは極力控えたいと思います。
前作では、アートは何者なのか?なぜ殺戮を繰り広げるのか?といったような「得体の知れなさ」「唐突な理不尽さ」が恐怖感に繋がっていましたが、前作を観終わった我々には「特に理由もなく殺人を繰り返す、人間ではない不死身の殺人鬼」であるという認識ができてしまっています。
1作目の方がすべてが新鮮であるのは当然であり、ある意味では2では「スケールアップするしかなかった」のも当然なのでしょう。

アートの不気味さが薄れているのも、同じ理由で仕方ない側面があります。
本作でもコミカルさや無言による不気味さは失われていませんが、前作で見られた「誰も見ていないのにパントマイム」「三輪車に乗る」「女装」といったような、「意味がわからなさすぎる行動」は本作では控えめになっていた印象
いや、冷静に見ればこちらの感覚が麻痺しているだけで、すべての行動が意味不明なのは間違いないんですけどね。

個人的には、今の時代に、ゴアゴアしたシーンをしっかりと見せつけてくれる、悪趣味なスプラッタに徹してくれたのはとても嬉しかったです。
観ていて気持ちの良い、「カタルシスプラッタ」と名付けましょう


一方での、前作以上に現実から飛躍し始めた終盤の展開は、個人的にはいまいちでした。
特に剣が光り始めたときには、どうしようかと思った
ただこの点も、個人的な好き嫌い、合う合わないは誰しも言って良いと思いますが、批判するのは見当違いであり、監督自身が作りたくて作っているのであれば、とにかくこの展開で正解なのでしょう
変化がなければそれはそれでマンネリと言われ、それこそ同じく無言のスラッシャーである有名人のジェイソンくんによる『13日の金曜日』路線であり、それも良いと思いますが、変化をつけた路線を選択した、ということです。

前作の「ギコギコ」のような突出したインパクトはありませんでしたが、本作における殺し方はどれも派手で、平均点が高め。
個性の強すぎた前作から、優等生になった本作、という印象です。
個人的に好きだったのは、シエナの友人の1人であるアリーとその母親が殺されたところ。
唯一まとも感のあったアリーは、なぜそこまで……と思うほど陰湿に痛めつけられてしまいました。
母親の頭で作ったキャンディポットは、悪趣味すぎて最高です。

上映時間は138分と、ちょっと長いかな、という感は否めません。
基本、ひたすらスプラッタなので、長いとちょっと間延びしてしまう感も。

登場人物たちは、全体的に濃いめでした。
ヒロインのシエナは臆病さと強さを兼ね備えていましたが、コスプレセンスは×(これはお父さんのせいかもですが)。
弟のジョナサンは、絵に描いたようなひょろっひょろのもやしっ子で心配でしたが、最後まで頑張りました。
途中からメガネを失っていましたが、見えていたのかな。
ママはとにかく怒ると怖いですが、苦悩も垣間見えて「色々と大変なんだろうな……」と同情。
ブルックとその彼氏は、友人思いでありながら刹那的な快楽に堕落しており、「ザ・ホラー映画の犠牲者」という感じで、案の定、「ザ・ホラー映画の犠牲者っぽい殺され方」をしてしまいました。


ちなみに、本作を観てようやく思い至ったのですが、ピエロと言えば「白・黒・赤」の3色が印象としては強めですが、アートの衣装やメイクは白と黒だけです。
監督のインタビューでは、「色味を抑えた衣装」「丸い鼻を使わない」「一切声を発しない」ところは「『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のペニーワイズとの差別化」と述べられていました。
色についての言及はそれだけでしたが、個人的には「血の赤を浴びてこそ、アートというピエロが完成する」ということなのかな、と考えています。

すでに3作目の製作が決定してる本作。
だいぶぶっ飛びながら謎を残す終わり方でしたが、3作目は果たしてどうなるのか。
デイミアン・レオーネ監督とデビッド・ハワード・ソーントンの続投は確定しているようなので、期待したいと思います。

ちなみに監督のインタビューでは、「自分のヒーローであるサム・ライミの制作会社でオリジナルホラーの企画を開発中」とも述べられていました。
まだ全然わかりませんが、こちらも楽しみ。

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考察:シエナ父がアートを生み出した説(ネタバレあり)

映画『テリファー』のシーン
(C)2022 DARK AGE CINEMA LLC. ALL RIGHTS RESERVED

前作でも「結局、不死身だったのか」という点で現実を超越したラストを迎えましたが、本作はさらにファンタジー?要素が強まっており、謎は大きく残るものとなりました。
最初にヒロインと思われたタラが途中で退場となった前作とは異なり、本作ではシエナとジョナサン姉弟がしっかりと生き残るという逆に意外なラストを迎えたので、次回作でも姉弟が鍵を握り、活躍するのは間違いないでしょう

というより、とにかく鍵を握っていそうなのが、2人のお父さんです。
事件前からアートやヴァルキリースタイル(?)のシエラのイラストを描き、未来を予知するようにシエナに剣を託していました。

それらが3で深掘りされるのか?と思いますが、現時点で考え得ることをいくつか勝手にあれこれ考えてみます。

「アートはシエナの父親が生み出した」説

シエナの父親がアートの顔のイラストを描いたタイミングはいまいちはっきりしていませんが、おそらく事件前だったはずです。
とすると、本作の演出を踏まえても、どう考えてもアートの存在とシエナ父との間に関係性が示唆されます

単純に、父親に予知能力があり、娘たちの未来の危機を読み取ってイラストに残していた可能性もあるかもしれませんが、個人的に現時点で推したいのが、「アートはシエナ父が生み出した作品(アート)である」という説です。
3が公開されて完全に見当違いだったら、穴を掘って潜ります。

ただ、そう考えると、アートが妙にシエナにこだわっているように見えた理由も納得がいきます。
前作では、意味もなく手当たり次第に殺戮を繰り広げていたように見えるアートですが、タラに対しては、馬鹿にされたというのも理由としてあったかもしれません。
しかし、シエナは特にそれほどアートを馬鹿にする態度を取ったわけではないように思います。
たまたまシエナと接触したからというのはあるかもしれませんが、それにしてもシエナの関係者ばかり殺されていったのは、何かしらこだわりを感じさせます。

アートは、何かしら不思議な力を持つシエナ父が生み出した作品であり、それが現実世界に影響を及ぼしている存在である
そう考えると、不死身であることも納得しやすくなります。

そもそも、「ART THE CROWN」という名前も示唆的です。
アートにとって殺戮に意味はなく、それこそ芸術(アート)を作り出すような、殺戮そのものが彼の自己表現であり、意味や理由があるものではない、という解釈が一つ。
しかしそれ以上に推したいのが、感想部分の最後で「アートは人の血を浴びてこそピエロとして完成する」と書きましたが、「殺戮を繰り広げてこそ、シエナ父の作品として完成する」という解釈です。

少女ピエロは何者?

また、本作における謎の一つは、唐突に現れた少女ピエロです。
個人的には、表情などアート以上に不気味さがあり、好きなキャラ。

彼女のベースはどうやら、遊園地で殺された少女のようでした。
この事件についての詳細はわかりませんが、シエナ父がこの事件の記事をスケッチブックに保管していたことからは、ここにもシエナ父の影響が推測されます。

極論、シエナ父が殺した少女、という可能性もあります。
上述した「シエナ父がアートを生み出した説」も踏まえると、アートの殺人衝動は、シエナ父に起因するものであるとも考えられます。

この少女ピエロ最大の特徴は、シエナとジョナサン以外には見えていなかったのではないか、という点です。
自分の見落としがなければ、少なくとも、シエナとジョナサン以外が少女ピエロを見てリアクションを取っていた場面はなかったはず。
唐突に姉弟に幻覚が見えるのも不自然であり、父親の不思議な力を受け継ぐ姉弟にだけ見えていた存在なのではないか、と考えられます。

夢の世界

さらに謎の一つとして挙げられるのが、シエナが夢の中で訪れたクラウンカフェです。
クラウンカフェ〜♪

あれも、ただの夢でないことは明白です。
アートが現れていた点は当然ながら、夢の内容とリンクして剣が燃えましたし、終盤、謎すぎる穴の中に落とされたシエナが水中に閉じ込められたのもクラウンカフェでした。

夢、地下に通じる穴、水。
心理学的に見れば、いずれも無意識の象徴です。
さすがに意図されているとしか思えないほどのモチーフの使われ方なので、あの場面はいずれも、シエナの無意識の世界が描かれていると考えられます。

つまり、シエナの無意識世界にアートがいるのです。
これもまた、シエナ父からの影響を支持します。
シエナが死の淵から蘇ったのもクラウンカフェでの出来事であり、剣に刺された傷跡がきっかけとなっていました。
アートという怪物を生み出してしまいながらも、娘たちを守ろうとした父親の想いの象徴が、あの剣なのです。
精神分析においては刃物は男性器の象徴と解釈されることもあります。
それは個人的にはちょっとどうかと思ってもいるのですが、あの剣が父親の残した父性的な存在として機能しているというのは、非常に納得がいきます。

ラストシーン、そして3は……?

死の淵から蘇ったシエナは、父親から託された剣により、アートの首を斬り落としました。
自ら首を差し出すアート、好き。
あえて深読みすれば、あれはアートの自殺衝動とも解釈できるかもしれません。
その場合はもちろん、シエナ父の罪悪感に起因するものです。

半不死身の存在も、首を切られたり頭部を破壊されるとおしまい、という設定はよく見られます。
ゾンビなんかその典型ですし、『進撃の巨人』の『鬼滅の刃』の鬼なども首だけが弱点です(『進撃の巨人』は斬り落としまではしなくて良いですが)。
首はあらゆる動物の急所というのもありますが、脳があり個人を特定する最大の要因となる顔がついている頭部が、人間にとっては特に最大のアイデンティティであり、個人を象徴する部位であるからというのも大きいでしょう。
晒し首なども、それらに起因するはずです。

死と再生のプロセスを経たシエナは、ある意味、超越した存在となったことが示唆されます。
それにより、シエナ父から受け継がれる不思議な力が目覚め、父親の残した剣も利用して、アートを打ち破りました。

しかしアートは、それでも消滅はせず、少女ピエロによって頭部を持ち去られ、前作の生き残りであるヴィクトリアの体内より再び生まれます。
アートもまた死と再生のプロセスにより生まれ変わった、とも解釈できますが、頭部だけで生まれてニヤニヤ笑っていたことからは、「死と再生のプロセスで生まれ変わったシエナのことを、ただただ嘲笑うために同じことをやってみせただけ」と見るのは、穿っているでしょうか。
そうだとすると、過去の犠牲者を利用して、というところが非常に悪趣味です。
きっと、生まれてくる母体がヴィクトリアであったことに、意味はなかったはずです。

いずれにせよ、明らかに人間を超越しているアートと、自らを超越したシエナ。
同じく父親の血を引いているジョナサン。
そして、過去に遊園地で殺された少女のピエロ。
すべてに共通する、シエナ父。
これらのキャラクタたちが3でも鍵を握るのは、きっと間違いないでしょう。

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