作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
2004年、「はすみ」と名乗る女性が、この世に存在しない「きさらぎ駅」にたどり着いた体験をネット掲示板にリアルタイムで投稿していたが、突然書き込みが止まったことで様々な憶測を呼び、現代版「神隠し」として話題となった。
それから十数年後。
大学で民俗学を学んでいる堤春奈は、「きさらぎ駅」を卒業論文の題材に選ぶ。
投稿者「はすみ」の正体が葉山純子という女性だと突き止めた春奈は、調査の末にようやく彼女と連絡を取ることに成功するが──。
2022年製作、日本の作品。
かの有名な2ちゃんねるの都市伝説を映画化しちゃった!
というだけでも、やばい空気と面白い空気が混ざり合って漂っている本作。
いやもう、何か、すごい楽しかったです。
良いですね、こういう作品。
いつまでもこういう作品を楽しめる人間でありたい。
表現もだいぶ個性強めで、好きです。
とはいえ、「楽しい」「好き」ではありつつも「面白い」とは言い難く、まともに観たら負けなのは間違いないので、映画館に観に行かなくて良かった、とは思ってしまいました。
内容も、チープすぎて笑ってしまうCGも、「たまたま見つけたインディーズのホラーゲームを、期待せずやってみたら予想外に面白かった」みたいな感覚に近いです。
「ホラーゲームのRTAみたい」という感想を多く見かけますが、まさにそんな感じ。
ちなみに、RTAというのは「Real Time Attack」の略で、クリアまでの時間の速さを競うものです。
なので、基本的には初めてのプレイではなく、ルートや攻略法を熟知した上で行います。
それにしても、主人公の堤春奈は、葉山純子からどれだけ細かく話を聞いていたのか……?という点は突っ込まざるを得ません。
おじさんがベンチで寝ようとしてお酒倒しちゃうところとか。
細部まで知識がある堤の大活躍物語でしたが、説明しなさすぎ、進め方が下手すぎな堤なのでした。
運転できる人がいるかを確認してから躊躇なく男性を殴り倒す堤の冷酷さは、ラストの伏線にもなっていてとても良い。
ゲームっぽいという感想も、前半が一人称視点で進められていた点が大きいと思いますが、実際に永江二朗監督のインタビューでも「FPS(First Person Shooterは一人称視点)の手法をとり入れて撮影した」と述べられていました。
Shooterとあるように、厳密にはFPSというのは銃で撃ち合ったりするシューティングゲームを指しますが、一人称視点のホラーゲームは多くあります。
ホラー映画でも一人称視点のPOV作品は多くありますが、ほとんどがビデオカメラなどを通した視点です。
なので、完全に登場人物の視点というのは、映画としては新鮮でした。
ちょっと不自然さは目立ちましたけど。
さて、2ちゃんねる世代のオタクでありながら、2ちゃんねるにはそれほど深くのめり込んでいなかったのを今ではちょっと後悔しているのですが(のめり込んでいたらもっと後悔していたかもですが)、それでも知っている「きさらぎ駅」の都市伝説。
この話は結局、状況を実況しながら投稿していた投稿者(はすみ)が音信不通になってしまい、真相は謎に包まれたまま……という点が想像力を喚起するので、直接的に描いてしまったら、その面白さや魅力が半減してしまうのは間違いありません。
なので、大胆にファンタジーというかSFというか方面に舵を切った本作の方向性は、間違っていなかったのではないかな、と思います。
そもそも映画化するのが正解だったのかどうかは何とも言えませんが……。
とはいえ、設定的にはけっこう元のエピソードに忠実な部分も多く、この映画を観たからにはご存知の方も多いかと思いますが、以下に挙げている部分が都市伝説に一致していたポイントです。
- 23時40分に新浜松から乗車
- 他に乗客が5人ぐらいいるが全員寝ている
- 目隠しがあって車掌は見えないし、ノックしても反応がない
- ないはずのトンネルを通過
- 「きさらぎ駅」(現実には存在しない)に停まり降りたが周囲には何もない無人駅
- 線路に沿って歩いていると、遠くから太鼓のような音が聞こえる
- 「おーい危ないから線路の上歩いちゃ駄目だよ」とおじいさんが叫んでいた
- 「伊佐貫トンネル」を通過した先に男性がいて車に乗せてくれたが、徐々に様子がおかしくなり、訳のわからない独り言を呟き始めた
ここで投稿は終わっており、その後どうなったかは不明です。
しかし、7年後の2011年に、投稿者の「はすみ」を名乗る人物が後日談をコメントしています。
その内容は以下のようなもの。
- あのあと、運転手が暗い森の中で車を停めて、向こうに光が見えた
- 右の方から男の人が歩いてきて、あたりが光り、車に衝撃があり、運転手が消えていた
- 歩いてきた男性に「なんでここにいる!ここにいてはダメだ!今の運転手は、消した、今のうちに逃げるんだ!」と慌てた様子で言われた
- 光の方へ行けと言われたので走って向かい、眩しさに目を瞑って再び開くと、最寄駅の前で両親が車から自分のことを呼んでいた
- それは2011年の4月で、間の7年間が飛んでいた
この追加の投稿者が同じ投稿者なのかなりすましなのかは不明ですが、この内容も映画には反映されていたわけですね。
一方で、おじいさんが走って追いかけてきたり、血管みたいなのに襲われる、といったような怪奇現象はすべて映画オリジナルでした。
都市伝説でのおじいさんは片足がなかったので、そもそも追いかけてくるのは不可能だったでしょう。
きさらぎ駅に辿り着くためのルート(何回か折り返す)というのも都市伝説には存在しません。
そもそも都市伝説では、電車から降りたのは「はすみ」1人で、電波が届かないこともなく、状況を2ちゃんねるに投稿していたので、スタートからすでに状況は異なります。
ただ、登場人物たちは、徹底して都市伝説に沿っており、変に追加されてはいません。
そのあたり、しっかりしたこだわりを感じます。
登場人物たちは、あえて特徴が過剰に強調されているようなデフォルメされているキャラで、わかりやすかったです。
演技を含めて何とも言えない感はあったので、リアルさという意味ではあれですが。
翔ちゃんの指図されたくない具合、相当にやばくて笑いました。
本田望結は、何だかんだ演技は初めて見たかも(本作では演技力はわかりませんでしたが)。
ちょうど最近『口裂け女』を観たので、佐藤江梨子の登場はタイムリーでした。
都市伝説と相性が良いのかな。
CGはめちゃくちゃですが、インパクトがあり良かったと思います。
『ゲーム・オブ・デス』ばりに頭が膨らんで爆発したり、急に燃えたり、目がおかしくなったり。
怖いというより笑ってしまう部類ですが、印象に残りました。
おじいちゃんが走ってきて爆発したときには、さすがに予想の斜め上すぎて度肝を抜かれました。
ストーリーは、真面目に考察したら負けなので控えますが、大枠としては葉山純子が、宮崎明日香を助けるために堤を罠にかけた、という理解でしょう。
FPS視点での回想の最後の部分は嘘で、実際は明日香に言われるがまま先に逃げ出したら、1人しか逃げられなくて、明日香を異世界に取り残してしまいました。
部屋に行方不明者の事件の記事が大量に貼ってあったのは、その罪悪感にとらわれているのを示していたのだと考えられます。
天井からぶら下がっていた鳥籠らしき物は、きさらぎ駅自体が閉ざされた異空間であるという点や、葉山自身がきさらぎ駅にとらわれ続けているということの示唆でしょうか。
ラストシーンでは、葉山の話を盗み聞きしていた姪の凛が、友人である葵とともに配信しながら、単身きさらぎ駅に向かってしまいました。
そこには、脱出できた明日香に代わって堤がとらわれていましたが、あの異世界は今後も永遠に続いていくというループ性や、凛たちの配信によってきさらぎ駅への行き方が広まり、犠牲者は増えるかもしれないという、ホラー映画定番の不穏エンドでした。
整合性はめちゃくちゃですがそれは置いておいて、なかなか脱出できなさそうな3人組とおじさん、かわいそう。
ちなみに、都市伝説のきさらぎ駅については色々と考察されており、舞台は静岡県で、きさらぎ駅は遠州鉄道の「さぎの宮駅」がモチーフになっているという説で定着しています。
本作でも実際に遠州鉄道が使われていますが、本作以前から、さぎの宮駅はきさらぎ駅とコラボ(?)しており、駅名の看板を「きさらぎ」と表示したり、遠州鉄道の公式ホームページでも、
都市伝説「きさらぎ駅」モチーフになったとされる遠州鉄道さぎの宮駅
https://www.entetsu.co.jp/tetsudou/kisaragieki/
とまで記載している便乗具合。
変に文句を言うのではなく、がっつりと便乗するところ、好きです。
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