作品の概要と感想(ネタバレあり)
オカルトスポットに出向いたアンドレたち。
廃墟と化した発電所は、壁一面にスプレーの落書きがされ、床には薬の注射針が散乱し、誰かがいた痕跡が残されていた。
彼らは地下へ続く階段を怖いもの見たさで降りていくが、想像を絶する恐怖が待ち受けていた──。
2017年製作、オーストラリアの作品。
原題は『Derelict』で「遺棄物」「見捨てられた人」といった意味合いのようです。
さて。
グラフィティによりアートと化した廃墟に潜む謎のガスマスク姿の殺人鬼。
その設定は、とても魅力的。
だが、それだけでした。
残念ながらつまら……少々退屈してしまった1作。
77分という短さがせめてもの救いでしたが、それも地下道で迷いまくりながら無駄な会話やゆっくりした動作で水増ししての77分間であり、肝心のガスマスクマンが本格的に動きだしてからもぐだぐだで、同じ水増しでも『アクアスラッシュ』のようなカタルシスも得られず。
いやでも、もともと期待もしていなかったですし、こういうのも愛おしいんですよね、ホラー好きの性として。
とはいえ、本作を観て「感動に打ち震えた」「これぞ最高傑作だ」と感じる人はおそらく皆無ではないかと思いますので、以下はけちょんけちょんです。
とにもかくにもなマイナスポイントとしては、やはりメインの3人組でしょう。
お前らのこと、誰が好きなん?
と、いけないいけない、ついつい口が悪くなってしまいます。
今のは一緒に観たイマジナリーフレンドの感想です。
その前にまず、主人公は男性3人組で、女性がほぼ出てこないというのはホラー映画としてはけっこう珍しい気がして、その点は評価できます。
しかも、調子に乗って廃墟に来ちゃった系の主人公たちの割には、若者でないのもまた珍しい。
無駄な露出やきゃーきゃー騒ぐ女性というステレオタイプで恐怖感を煽ろうとしない点は、とても良いです。
ですがやっぱり、華がないと苦しいですね。
いや、それは別に女性が必要とかいうわけではなく、3人に人間として華がなさすぎて。
相対的に頭が良いというだけでリーダー格っぽくなっているアンドレ。
ひたすら口が悪く喧嘩腰がデフォルトの脳筋ローワン。
最初は1人だけ若く見えたけれど、内面が幼いだけだったマイケル。
ちなみにローワン役のジェームズ・ブロードハーストは、検索すると元ラグビー選手が出てきました。
写真を見る限りでは、同一人物のような……?
とにかく3人の関係性が謎すぎました。
口を開けば嫌味や悪口しか出てこないローワンを筆頭に、些細なことでひたすら喧嘩する3人。
どう見ても仲が悪いのに、行き先を明言されないままあんな遠くまで一緒に旅行はする仲。
大人になってから仲良くなったとも思えないし、かといって学生時代の友達だとしても、毎度あんなやり取りをしていたら、あの年になるまで続かなさそう。
というわけで、時間を保たせる必要があったのでしょうが、ひたすら罵倒し合い、責め合う3人の姿を見ているだけで疲れてきてしまいました。
血まで吐いて明らかに重症そうなマイケルを罵倒してこき使うのは、どう見てもいじめでしかありません。
そりゃあマイケルもブチ切れるってもんです。
途中で登場するリアムの方がよほど華がありましたが、誰がどう見ても怪しく、その期待を一切裏切ることなく素直にガスマスクを被ってくれました。
アンドレだけの前でガスマスクを被り、アンドレを殺害したあと、ローワンとマイケルの前ではマスクを脱がなかったのに、2人は当たり前のようにガスマスクマンの中身はリアムだろうという感じで捉えていましたね。
そのあたりを筆頭に、全体的に緊張感に乏しかった点も冗長さの要因となってしまっていました。
明らかに危ないヤツがうろついているのがわかっていながら、ライトをつけたまま騒ぎまくり。
マイケルがトラップに引っかかって致命傷(注射器が刺さる)を負ったのに、その後も無警戒。
同じところをぐるぐる回って迷っていたのも、心霊スポットの影響なのかと思いましたが、ただ迷っていただけっぽいですね。
殺人鬼に襲われているという緊迫感は、ほぼゼロ。
黒ずくめのビジュアルは良いんですけどね。
マイケルに背中から飛びかかられたあと、服の裾を引っ張って直しているところは人間らしくて笑ってしまいました。
結局、設定もいまいちわかりませんでしたが、有名ブロガーの投稿を見て、ドラッグにもなる廃棄物質を求めてきたのがアンドレ。
細かく説明は聞いていなかったけれど、とりあえず連れてこられてついてきたのがローワンとマイケル。
リアムはなぜあそこで凶行に走っていたのかは謎ですが、彼もまた、ドラッグに惹かれてやってきたのでしょうか。
ガスマスクでドラッグを吸引しながら襲ってくるのは好き。
ただ、最初にアンドレたちと出会ったときにはほぼ素面の状態だったと思われますが、その状態でもアンドレたちを騙して罠にかけようとしていたわけです。
そうだとすると、薬が入ったからおかしくなるのではなくて、もともとおかしいということになります。
しばらくあそこにいて、ドラッグ依存みたいになっていたのかもしれませんが。
満を持してリアムがガスマスクを被るシーンでは、アンドレのライトがちかちかと点滅していました。
アンドレの心情をライトで表現しているのかな、演出として面白いな、と思いましたが、あれ、単純にSOSモードだと序盤で説明していたやつですね。
面白かったですが長すぎて、ポケモンショック状態にならないかとひやひやしました。
最後にマイケルが狂気を引き継いだ構成も好きでした。
いかにも怒りを抑圧するタイプだったので、ドラッグでリミッターが外れたことに加えて、積年の恨みをローワン(の死体)に対して晴らしたことで、狂気に染まってしまったのでしょう。
過去、パートナーを失うか何かしているようで、それがトラウマや引き金にもなっていそうでしたが、結局まったく明かされませんでした。
冒頭、男女が忍び込んで襲われるシーンでは、マイケルが持っていた写真も落ちていましたし、ガスマスクマンもよく見るとタンクトップ姿で、伏線にもなっていました。
ここは見事な伏線で、ラストシーンが冒頭に繋がる綺麗な構成。
……と言いたいところですが、マイケルのあの注射器による感染症はどうなったんでしょうかね。
実は大事ではなかった、一時的なものだった、という可能性もありはしますが、吐血までするというのはかなりのことです。
そのあたりも、ドラッグに治癒効果でもあったのでしょうか。
ああいう「モンスターではない普通の人間寄りの殺人鬼が廃墟などに潜んでいる」という設定の場合、ついつい犠牲者がいないときの殺人鬼の生活を考えてしまいます。
トイレとかご飯とかどうしているのかな、とか。
夜はちゃんと布団被って寝ているのかな、とか。
とりあえず重低音鳴らしておけばいいだろうといわんばかりの単調で不吉なメロディーのBGMは、少しくどく感じました。
でも、エンドロールとかではあの音楽によってけっこう暗い気持ちになったので、成功していたのかもしれません。
というわけで、何かもうおじさんたちが戯れて騒いでいただけの、何とも残念としか言いようがない作品でした。
低予算で頑張っているのは伝わってきました。
廃墟にガスマスクという設定だけで面白そうに見えてしまうところは、ずるいです。
コメント