作品の概要と感想(ネタバレあり)
高校生ケイシーとその恋人がマスクをかぶった者によって惨殺されるという事件が起こる。
やがて犯人は、ケイシーのクラスメイトで、1年前に母親を殺されていたシドニーに迫る。
町には外出禁止令が敷かれ、学生たちは大はしゃぎするが、そんな中を殺人鬼が徘徊。
果たしてその正体は──。
1996年製作、アメリカの作品。
原題も『Scream』。
いまだにシリーズが続いてる、言わずと知れた1990年代の名作。
自分が読書やミステリィにハマるきっかけになったのは綾辻行人でしたが、ホラー映画にハマるきっかけになった(初めて自分で借りてちゃんと観た)のは本作だったような。
最初に観たのは確か中学生頃?で、初めて自分で買ったDVDも本作だった記憶です。
そんな思い出もある作品なので、思い出補正で美化されているのでは?という不安もありましたが、かなり久々に再鑑賞してみてもやっぱり面白かったです。
むしろ、当時はホラー映画のメタ的なネタがあまり理解できていなかったので、今観た方が楽しめました。
監督は、『エルム街の悪夢』などでも有名な、今は亡きウェス・クレイヴン監督。
本作冒頭のケイシーと犯人の電話で、『エルム街の悪夢』を話題に出して「良かったのは1作目だけ」と言わせているところにちょっと攻めの姿勢を感じました。
ちなみに、校長先生が殺害される直前、廊下をフレディのセーターと帽子のような格好で掃除をしていたのが監督自身のようです。
構成は実にシンプルで、謎の殺人鬼に襲われるだけなのに、誰が犯人で誰が死ぬか最後までわからないので、終始飽きない展開。
本作と同じくケヴィン・ウィリアムソンが脚本を担当している『ラストサマー』の犯人は「誰やねん」感がちょっと強めでしたが、本作は犯人の正体も見事で、荒めとはいえミステリィ的にもしっかりと楽しめます。
もちろん、全体的な古さは否めませんが、それでも今でも十分通用するのはさすが不朽の名作。
とにかく導入部が素晴らしすぎました。
いたずら電話と思わせておきながら、「君の名前は?」「なぜ聞くの?」からの「君を見ているから」の一言で一変する空気。
ケイシーがあっさり惨殺されてしまうところも含めて、つかみはこれ以上ないほど抜群で、むしろその後の本編より完成度が高いと言ってしまっても過言ではないように思います。
しかしその感想もおそらくある程度妥当で、「もともとあのオープニングは一幕物(one-act play)として書いた」と脚本のケヴィン・ウィリアムソンのインタビューで述べられていました。
「それが『スクリーム』のオープニングに変化した」とのこと。
冒頭のシーンだけで完成度が高いのも納得です。
「君を見ているから」でシリアスに転調してからのホラークイズで『13日の金曜日』の殺人鬼を問うところがまた憎いわけですが、ケイシーが「20回も観たのよ、間違いないわ」と言っていたの、ちょっと笑ってしまいました。
それだけ観ていながら答えを間違ってしまったのは焦りや恐怖心があったからかと思いますが、20回て。
高校生で、一番好きな作品でもない(一番は『ハロウィン』と答えていた)のに20回も観ているとは、相当重症(褒め言葉)なホラー映画マニアですね。
『13日の金曜日』シリーズは1996年当時で言えば9作目まで作られていたので、シリーズ通して20回、かもしれませんが、それでも。
何より本作を本作たらしめている特徴はやはり、ホラー映画メタな構成でしょう。
メタ的な要素を扱ったのは本作が完全に初というわけではないかもしれませんが、ここまで大々的に扱ったのは、やはり斬新だったのではないかと思います。
今となっては程度の差こそあれメタ的な要素は珍しくもありませんが、本作で挙げられていた「生き残るためのルール」が今でも基本的に通用するのが面白いところ。
ホラー映画あるあるを挙げた上でそこから外れた演出を見せたり、一方で外した直後にお約束の展開を見せたりと、魅せ方も巧妙。
ホラー映画を俯瞰してふざけている登場人物たちは、本作の観客に対しても「こんな風に観ているんでしょう?」といったメッセージが感じられ、こちらも攻めの姿勢が感じられました。
メタ的な構成は、ホラー映画を観る登場人物たちを観る観客という現実にまで侵食してくる恐怖といった方向性ではなく、観客の視点を取り入れた上で楽しませてやろうという意気込みとして活かされていた印象です。
それらメタ要素も含めて、全体的にはホラーコメディ感が強いので、深みがあるというよりはサクッと楽しめるエンタテインメント。
本作が怖いという人はあまりいないでしょうが、それでもしっかりホラー映画しているのが素晴らしい。
そしてとにかく、ゴーストフェイスというキラーを誕生させた功績は大きいですね。
そもそも普通の人間かつ2人組みが犯人というのが、マイケルやフレディ、ジェイソンといった『スクリーム』以前のスラッシャー系のホラー映画における有名な殺人鬼像とは異なり、当時は新鮮さもあったでしょう。
それはマスクの違いにも現れているように感じられ、白くて無表情なマスクをつけたこれらの有名な殺人鬼たちに対して、ゴーストフェイスはムンクの叫びのような絶叫顔。
「俺たちと一緒にホラー(恐怖)を楽しもうぜ!」といった心意気が伝わってきます。
実は犯人が2人組でしたというのは、ミステリィとしてはやや反則じみた設定のはずなのに、それほどずるさを感じさせません。
本格的なミステリィではないからというのもありますが、ビリーがいかにも怪しく演出されている……でも勾留中に電話があったから犯人じゃなさそう……いやでもやっぱり怪しい……でも刺されちゃったしやっぱり違うのか……みたいなミスリードが巧みであったからではないかと思います。
正体がわからず神出鬼没なところは往年の超人的な殺人鬼感がありつつ、しっかりと現実的に説明がつく形で人間の犯行として着地するのは見事です。
ゴーストフェイスの神出鬼没さや隠密度の高さ、殺害の素早さなどはちょっとずるかったですが、そこはエンタメ要素。
ケイシーを殺害する前に自分たちを刺し合っていたのは、もはやギャグ。
唯一弱かったとすれば動機でしょうか。
ビリーもスチュアートもただ殺人を楽しんだり目立ちたがっているだけの感じでしたが、ビリーの「シドニーの母親がビリーの父親と不倫をして、ビリーの母親が出て行ってしまったから」というのと、スチュアートの「過去にケイシーに振られたことがある」という背景はやや蛇足にも感じ、個人的にはなくても良かったようにも思います(それはそれで浅くなっちゃうかな)。
もちろん「本当はそんなのは動機でもないただの快楽でしかないのに、それらしい理由をつけているだけ」という可能性もありますが。
ホラー映画のような殺人を楽しむという彼らの姿は、観客の心が投影された存在でもありました。
キャラで言えば、主人公ケイシーはなぜか絶妙に好きになれず。
個人的にはコミカルすぎる校長先生が好きでした。
女友達のテイタムは良い子だったのでかわいそうでしたが、シャッターでの殺され方が最高。
ザ・ホラー映画キャラな男子勢の中でも、いちいちオーバーすぎるスチュアートの顔芸は笑っちゃいました。舌も長すぎませんかね。
ビリーはかっこよかったですが、終盤、銃を撃った直後に銃口で頭を掻いていたのは、火傷しちゃいますよ。
ポスターのビリーが何か別人に見えると思っていたのですが、改めてちゃんと見たら髭を生やしているからですね。
作中ではすっきりしているのにポスターだけ髭スタイルというのも珍しいような。
ニュースキャスターのゲイル・ウェザースは、最高に嫌なキャラに見せかけておいて最後にかっさらっていくひっくり返し方はお見事。
テイタムの兄、デューイ保安官代理はまさかの生還。
シドニーパパはひたすらかわいそうでした。
続編は2か3あたりまでは観たはずなのですが、まっっったく覚えていません。
やっぱり好きな作品なので、改めて、続けてシリーズを追っていきたいと思います。
コメント