【映画】エルム街の悪夢(1984)(ネタバレ感想)

映画『エルム街の悪夢』
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『エルム街の悪夢』

エルム街に暮らすナンシーら高校生たちに異変が起こる。
夢の中に鋭利な鉄の爪をつけた怪人が現れ、彼らを脅かすのだ。
その後、友人のひとりティナが惨殺されるという事件が。
一方、夢の恐怖は現実化し、ナンシーの体には傷まで残っていた。
悪夢とともに殺人事件が続く中、ナンシーは怪人フレディにまつわる秘密を知り、彼と闘うことに──。

1984年製作、アメリカの作品。
原題も『A Nightmare On Elm Street』。

もはや説明不要な名作古典ホラー
なのですが、実は観たことがなかったのです。
ホラー好きと言いながらけっこう古典を観ていなかったり、だいぶ前に観て忘れていたりするので、基礎固めキャンペーン中。
「観ていなくて観なきゃいけない古典ホラー」で最初に浮かんだのが『エルム街の悪夢』でした。

まず言わないといけないのが、ジョニー・デップの初出演映画であるということを寡聞にして知りませんでした
いや、さすがにどこかで見かけたり聞いたことはあると思うのですが、完全に忘れていました。
グレン、こういった立ち位置のキャラの割にはイケメンすぎて「妙だな……」とコナンくんばりに思ってはいたのですが、クレジットでジョニーデップの名前を見て「えっ、ジョニデだったん!」と目玉が飛び出して落ちたので慌てて拾って戻しました。
本作、色々感心した点があるのですが、すべて「えっ、ジョニデだったん!」で吹き飛んでしまいました。
そう言われると面影がありますが、だいぶ幼く見えた印象(21歳ぐらいのはずですが)。

ちなみに、学校の先生役は『インシディアス』シリーズなど数々のホラー作品で有名なリン・シェイでしたね。
こちらも相当若い上に短い出演でしたが、速攻わかった。
さすがの唯一無二の存在感。


真面目な感想に移ると、1984年の作品なので、もちろん演出や技術に過度な期待はしていませんでした。
しかし、そんな舐めてかかった態度を覆してくる衝撃
工夫や完成度の高さ、とても素晴らしかったです。

もちろん古臭さやチープさは否めませんが、天井に張りつくティナや、噴き上げて天井に広がる血飛沫、顔が押しつけられて伸びてくる天井(ここはちょっとギャグ)、ベッドに吸い込まれるお母さんなど、どうやって撮っているのかわからないシーンがたくさんありました
最初に出てくるキャラが主人公ではないのも今となっては定番ではありますが、ビジュアル的にもティナが主人公かと思っていたので、速攻退場も驚き。
グレンもお母さんもあっさり死ぬ容赦のなさも、素晴らしかったです。

もはや有名すぎて幼馴染なんじゃないかと錯覚するぐらい馴染みのある(過言)フレディですが、思ったより変態でした
男性陣を襲う際のあっさり加減に比べて、女性陣を襲う際のねっとり具合。
お風呂で襲われ、電話の受話器越しに舌でペロペロされ(フレディの舌かわかりませんが)、ナンシー、かわいそうすぎる。

さすが、もともと子どもばかりを狙った連続殺人鬼なだけあります。
悪夢の住人となってなお、自分を私刑で殺した街の住民ではなく子どもたちを襲うところに、生粋の変態感が滲み出ていました
あのかぎ爪、お手製だったのですね。
そこはかとない厨二病感も感じます。

フレディの腕が伸びたりするシーンは、技術的には今見ると笑えてしまいますが、そのあたりも含めて、悪夢らしさの演出も秀逸でした
スムーズに登れない階段や、クリーチャーのようになった元人間(ティナ)、ドアを開けたら突然繋がっているボイラー室。
日常と非日常の境界が曖昧になる演出が、ゲームの『サイレントヒル』にとても似ている印象を受けました。
きっと『サイレントヒル』は本作にも影響を受けているのでしょう。

音に関してもこだわりが感じられ、この時代特有の電子音を用いた音楽に、かぎ爪が擦れる不快な音といったように、音による不安感や不快感の喚起も高い完成度


そして「夢の中で襲われて死んだら現実でも死ぬ」という設定がもう、ホラーとしては秀逸です。
安心、安らぎ、休息を象徴する「睡眠」。
一方で、悪夢というのは快眠を妨げ、心身が蝕まれます。
その「悪夢」を象徴的に描いたのが、『エルム街の悪夢』でした。

睡眠は、人間にとっては不可欠です。
眠らずにはいられない、しかし寝たら殺されてしまう。
寝ないように気をつけていたのに、いつの間にかうたた寝をしてしまい、悪夢の世界に迷い込んでしまう。
悪夢をテーマにした設定が、これ以上ないほど活かされていました。

また、睡眠に限らず、お風呂やベッドといったような、本来安全である場所が侵食されるのも、本作の恐ろしさでしょう。
安らぎの象徴である睡眠が危険なものとなり、セーフティゾーンであるお風呂やベッドも侵食される。
日本でも『呪怨』が有名ですが、セーフティゾーンの侵食は、フィクションが現実に侵食してくるような恐怖に繋がります

一方で、「フレディを夢の世界から現実に引きずり出す」という発想も面白かったです。
そんなんできるんかい、と思いましたが、できましたね
立場の逆転。
もともと夢の中でさえ鈍臭かったフレディですが、ワープ機能が使えなくなった(?)現実ではあまりにも鈍臭く、『ホーム・アローン』ばりの物理トラップでめためたにされてしまう始末。
だんだんかわいそうなおじいちゃんにすら見えてきました。

しかし、そこはさすが、あっさりやられはしないフレディさん。
燃え盛るままナンシー母を巻き込み、ベッドに沈んで夢の世界へと帰還。
あれは、覚醒したナンシーに夢の中から引きずり出されたのとは逆で、飲酒して泥酔していたお母さんを利用して夢の世界に戻った、ということですかね。

そんなフレディを、ナンシーは「これはただの夢よ」と言って撃退。
夢と現実が入り乱れての大バトルで、さらに境界線が曖昧になります。
向かい合うのではなく背中を向けるというのは、現実ではないことの象徴でしょうか。
全体的にポコンツでしたが、「夢の中でお化けと出会ったら、背を向けてエネルギーを奪えば消える」というのを教えてくれたグレンの存在がナンシーの勝因でした。

ただ、最後はやはりフレディが一枚上手だったということでしょうか。
フレディのセーターカラーの車に連れ去られてしまうナンシーたち。
あのラストシーンの映像の明るい色調によって、最初は神々しく見えた霧が、最終的には禍々しいものに見える見せ方も、見事でした。
ラストシーンも夢だったのか現実だったのか?という曖昧さで終わらせるところまで、完璧。


ロッド、首吊られた直後に下ろしたから助かったんじゃない?とは思いましたが、もしかしたら首が折れていたのかもしれません。
そういった細かい点はさておいて、最後に、逆にしっかりとリアルだった点を。

ナンシーが病院で脳波の検査を受ける際、「脳波測るのに顎につける必要あるの?」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、あれ、実際につけるんです(もちろんつけないものもありますが)。
オトガイ筋という部分の筋電図を取っており、睡眠の状態を見分ける指標の一つとなっています。

そのあたりのリアルさからは「悪夢」というものをしっかり調べていることが推察されます。
本作が人気を博したのは、もちろん『ハロウィン』『13日の金曜日』などに続く、フレディという新たなスラッシャーアイコンの存在も大きいでしょう。
しかし、悪夢について突き詰め、現実が侵食される悪夢の恐ろしさ見事に演出したことが、本作の評価に繋がっていたのではないかと感じました。

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