作品の概要と感想(ネタバレあり)
アムステルダムの郊外で牧場を営む家族の惨殺死体が発見された。
警察から事件について相談を受けた動物園の獣医リジーは、死体の状態から獰猛で攻撃的なライオンの仕業だと特定するが、警察は信じようとしない。
やがて、街中で猛獣に食い殺されたかのような死体が次々と発見される。
警察署長はやむを得ず狩猟経験のあるいとこを雇うが、いとこは失敗し惨殺されてしまう。
そこでリジーは、知人であるイギリスの凄腕ハンター、ジャックに応援を要請するが──。
2016年製作、オランダの作品。
原題は『Prooi』、英題は『Prey』でどちらも「獲物」の意。
邦題は『HUNT/餌』と微妙に変わっている上に、なぜか『ハント・エサ』とフリガナまで併記されている親切仕様。
ホントにホントにホントにホントにライオンだ〜♪(『ビースト』に続き2回目)
と歌っている富士サファリパークもびっくりの、街中にライオンだー!
とてもとてもシンプルなB級動物パニック映画。
思ったよりしっかりした作りで、何だかレビューサイトなどでの評価は低めですが、自分としてはかなり楽しめました。
やっぱりB級動物パニックモノ、単純に好きなんだなと再確認。
ライオンといえば『ビースト』が完成度高く面白かったですが、広大なサバンナが舞台であった『ビースト』に対して、本作の舞台は美しきアムステルダムの街中と、またまったく違った作品に仕上がっています。
予想外に、スリルあり笑いあり涙ありの作品でした。
個人的には、短時間ではありましたが、上に載せた画像でも描かれていた「路面電車内で暴れるライオン」が見られただけでも大満足です。
こういう作品、ポスターのシーンが存在しなかったりと、ジャケ写詐欺も多かったりするので。
街中にライオンといえば、2016年の熊本地震の際にTwitter(当時)で出回った「動物園からライオンが逃げ出した」というデマ騒動が思い起こされます。
あの画像は合成ではなくて確か他の国の写真だったな……もしやオランダでは……!?と思って調べてみましたが、残念、南アフリカのようでした。
ライオンはCG感丸出しではありますが、チープさはなく頑張っていてとても良い。
しかし、銃で撃っても毒ガスを振り撒いてもノーダメージとほぼ無敵なので、もはやライオンではなく、狂犬でも恐竜でも素早いゾンビでも未知のクリーチャーでも何でも成り立っていた気はします。
獲物を探す野生のライオンというより、殺戮が目的となっていたモンスターライオン。
『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』の終盤ではサンディエゴの街中でティラノサウルスが暴れ回りましたが、あれよりは何とかなりそうに見せかけて、強さはティラノサウルス並みというチートさはずるい。
さすがに無敵すぎたり、狡猾だったり、殺戮が目的としか思えなかったり、ヘリコプターの追跡で突如見失ったりと、野生のライオンとしては素人目にもめちゃくちゃだったので、どこから逃げ出したのかわからないこともあり、生物兵器的なものかと思いきや、真相はまったく明らかになりませんでした。
急に現れたり消えたりしたように見えたのも、2頭いたからということなのでしょうが、それだけでは説明がつかない気も。
それはそれとして、最強ライオンパニックを楽しめ、背景は気にするな、ということなのでしょう。
はっきりしていて良い。
そんな生物兵器レベルの強さに、舞台や登場人物も合わさって、『バイオハザード』っぽさも感じました。
『バイオハザード』大好きなので、そのあたりも個人的に本作が好きな要因かも。
登場人物は、大半がおかしい人間に感じられて、オランダ大丈夫なのか……?と心配になりました。
ライオンの狡猾さに比べて人間のお馬鹿加減が顕著すぎて、パニックモノでは必然とはいえあまりにもみんな呑気なので、そこはひたすらもどかしい。
民間人が犠牲になりまくっているのに、対応はぐだぐだの後手後手、しかもプロを名乗っているとはいえ一般人1人に完全にお任せなど、ツッコミどころは満載。
オランダの映画もあまり観た記憶がないのですが、本ブログで取り上げていた作品で振り返ってみると、『ムカデ人間』シリーズのトム・シックス監督がオランダ人、あとは他国との合作ですが『武器人間』と、ろくな作品が出てきませんでした。
ますますオランダへの不安感が高まります(冗談ですよ)。
子羊のロティをバイクで宅配していたスタッフと、主人公リジーの現彼氏(?)デイヴが喧嘩になりかけましたが、あれで刃物をちらつかせるスタッフも、打ち解けて笑顔で購入するデイヴも、もはや自分の常識ではかると狂気の沙汰としか思えません。
世界は広い。
オランダ怖い(冗談ですよ)。
首から上を齧り取られたスタッフの死が、本作に溢れる「そうはならんやろ」シーンの最高峰でした。
しかし、主人公の獣医リジーと、警察官ブリンカーズはしっかりとまともだったので、他のキャラはあえてあのように描かれていたので間違いないでしょう。
そのあたり、だいぶお馬鹿でもどかしくありつつも、登場人物たちは全員キャラが立っていて良かったです。
特に、真の主人公と言っても過言ではないジャック・デラルーは、かなり好きでした。
おちゃらけていてユーモアがあり、一見頼りなく見えつつ実際はかなり頼りになるというのはよくありますが、車椅子のハンターというのはなかなか新鮮。
それだけに死んでしまったのは残念ですが、余命数年という話が出た時点で死亡フラグが立っていたので仕方ありません。
シリアスというよりはライトな動物パニックモノだったので、ワンチャン助かるのでは?と思いましたが、残念無念。
チープながらしっかりと人体破壊のゴア表現があったり、子どもも襲われたりと、妙に容赦のないリアル要素があるところも好きです。
しかし、一応ネタバレを避けるため何がとは言いませんが、ジャックの死に際は『ソウ』にしか見えませんでした。
オマージュなのか?レベルに感じたのですが、どうなのでしょう。
ジャックがライオンの鳴き真似をしていたところも『ジュラシック・パーク』のグラント博士を彷彿とさせるような、動物パニックモノの定番とも言えるような。
ちなみに、あのキャタピラのついた、まるで戦車のようなジャックの車椅子。
実在するのか……?と思って調べてみたところ、「アクショントラックチェア」なる電動車椅子がかなり似ていました。
さすがにあんなスピードが出せたり階段をのぼれはしないと思うので、ジャックのはオーダーメイドでしょうが。
リジーが獣医という設定が活きるのかと思いましたが、最初にライオンの仕業であることを特定しただけで、その後は特に獣医である必然性はなく、純粋なパニックアクションに。
ライオンが無敵すぎて「もう無理やん」感も漂いましたが、それでも緊迫感があって良かったです。
毒ガスをあんな殺虫剤かのごとく振り撒く姿、初めてみました。
本作では数少ない、まともな感覚を有していたリジーですが、最後の最後、ライオンの乗った車を線路上に押し出したのは、完全にトロッコ問題でしたね。
躊躇ない決断でライオンと運転手を葬り去ったあと、「やってやったぜ……」みたいな感じのリジーの姿と「これで本当に解決ですね、良かった良かった」みたいな音楽が流れていましたが、運転手さん、かわいそう。
貨物列車っぽかったのが、唯一の救いでしょうか。
しかし、あんな九死に一生を得て、大切な人を失ったにもかかわらず、飼い犬にシンバと名付ける神経は、やはりまともではないのかもしれません。
ちなみに一応、シンバは『ライオン・キング』の主人公です。
生き残りがいたというのも定番エンドではありつつ、よく街中でバレずに潜んでいるな、というのはやはり普通のライオンとは思えません。
作中は、ブラックさも目立ちました。
特に、初登場シーンからただのモブキャラではないと思わせる個性を放ちまくっていた、海賊みたいな迷彩服3人組。
彼らのせいで特殊部隊が壊滅する様は、もはや滑稽でしかありません。
目立とうとした素人が惨劇を生み出すというのは、まるで迷惑系YouTuberへの風刺のよう。
とはいえ、相手がライオンなので油断していたとはいえ、簡単にトラップに引っかかりまくり、パニックになって銃を乱射しまくる特殊部隊が一番情けなかったでしょう。
彼らのその後が一切描かれなかったところも、潔い。
警察署長のいとこ親子も、キャラが濃くて良かったです。
そんなわけで、ちょいちょいぐだぐだはしつつも、定期的にゴア要素が供給され、面白おかしく人間模様も描かれるので、しっかりと楽しめました。
こういった作品では肝心の動物が現れるシーンが少ないことも多いので、その点も良かったです。
エンドロールの曲がかっこよかったのも見逃せない。
考えてみると、日本の動物パニックモノって、知る限りではほとんど浮かびません(ただ知らないだけの可能性は大いにありますが)。
比較的近い領域にいる『ゴジラ』が大きすぎるのでしょうか。
シチュエーション作りが難しかったり、撮ろうという監督がいないだけかもしれませんが、熊などはありな気がします。
と言いつつも、2023年は東北を中心に熊による被害が大きかったので、あまりリアルに作っても不謹慎と言われかねないので、そのあたりも理由の一つかもしれません。
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