作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
父親を亡くした大学生カイリーは、学費を稼ぐためにポルノサイトで仕事を始める。
そのサイトは、ある豪邸を舞台に、そこに住む女性たちがセクシーな姿を配信するというもので、カイリーはカメラの前で初めてストリップショーを披露し、配信する。
すると彼女のライブチャットに「ラバーボーイ」というハンドルネームのユーザーが現れる。
ラバーボーイは侵入不可能なはずのサイトに侵入し、自分の写真をカイリーに送りつけてくる。
しかし後日、その写真が女優たちの間で笑いものになっていることを知ったラバーボーイは、自ら豪邸に姿を現し、ライブ配信されているカメラの前で殺戮ショーを開始する──。
2014年製作、カナダの作品。
原題は『Girlhouse』。
原題は舞台となる「ガールハウス」そのままとなっており、わかりやすいですね。
邦題は、『ガールハウス』だと到底ホラーとは思えないからか、殺人鬼側の『ラバーボーイ』に。
ただ、『ラバーボーイ』でもホラーには思えませんが。
しかし、とにかく日本版最大の謎は、ポスターですね。
一切出てこない、このマスク。
海外版のポスターなどではこのマスクはまったく見かけません。
一体何がどうしてこうなったのでしょう。
ただ、このマスク、何かどこかで見たことがあるような……と思い調べてみたところ、『スマイリー』というホラー映画のポスターに似ていました。
それがこちら。
マスクどころかポスター全体の雰囲気も、誰がどう見ても似ちゃってますよねぇ!?
キャッチフレーズも、『スマイリー』の「出会ったら最後、二度と笑えない──」というのに対して、『ラバーボーイ』は「出会ったら、死」。
『スマイリー』は、まだ観られてはいないのですが、あらすじとしては「インターネットのチャットで、ある単語を3回タイプすると殺人鬼“スマイリー”が出現するという都市伝説があり、それを試した主人公の周りで実際に惨劇が起こる」という内容のようなので、ネットでのライブ配信を扱った『ラバーボーイ』との類似点があると言えなくもありません。
『スマイリー』は2012年製作で『ラバーボーイ』より先行しており、話題になった作品のようなので、きっとこれに便乗したのが日本でのプロモーションなのでしょう。
というわけで、ポスターの謎は解けてすっきり。
確実ではないですが、きっと大きくズレてもいないでしょう。
しかし、そんな二番煎じな売り方をするのがもったいないほど、『ラバーボーイ』はなかなか完成度の高い作品でした。
きっとチープなB級だろうと高を括ってずっとマイリストに入れていたのですが、Xでフォローしている方の「意外と面白かった」という感想に後押しされてようやく鑑賞。
その感想通り、B級ではありますが、思ったよりチープではなくしっかりした作りで楽しめました。
トータルで見ると、比較的シンプルなスラッシャー映画と言えるでしょう。
カイリーが1人だけ残りファイナル・ガールになるという、今どき逆に珍しいコテコテ具合も良い。
ベンは最後に助けに現れるかと思いきや、完全に空気でした。
殺人鬼ことラバーボーイくんは、過去に女の子から性的ないじめを受けていた経験があり、女性に対するトラウマを抱えているという設定。
改まって心理学的に考察するほどの深みはありませんが、女性や性に関する興味は強くありつつも、トラウマ経験もあり、女性(に限らず他者)とうまく接することができない。
一方で、女性に対する憎しみや怒りの感情も強く、気に食わない女性がいると、脳内妄想でぶん殴ったりして解消していたようです。
自分のすべてを受容してくれる理想の女性を追い求め、しかし少しでも思った通りの反応が得られないと「裏切られた」と思って逆ギレ。
かわいそうな過去ではありますが、まぁちょっと逆ギレしすぎとしか言えません。
幼少期、いじめていた女の子を殺した時点で、すでに極端さは顕著でした。
きっとあの日までの積み重ねもあったのでしょうが、自転車を転倒させたのは衝動的な怒りであったとしても、その後、躊躇なく橋から蹴落とすあたり、恐ろしい。
普段の彼は、内側に怒りや鬱々とした感情を溜め込みつつも、何とかIT関係の仕事をしながら「ガールハウス」を閲覧して疑似恋愛することで、社会に適応していたようです。
しかし、一旦殺意に芽生えると、まるでスラッシャー映画の殺人鬼たちが取り憑いたかのように、真の能力を発揮させました。
被害者たちの動きや目線を予知しているかのような立ち回りは、もはや人間を超越したザ・スラッシャー殺人鬼。
あとは、ちょっとぽっちゃりで鈍臭そうな見た目からは予想できない素早いキルムーブも良かったです。
のそのそ動いて反撃される古典的な殺人鬼ではなく、猛ダッシュで距離を詰め、殺るときは一気に殺る。
しかし、一瞬で消えたり現れたりしたように見えたり、脚を刺された事実はなかったかのように走り回るなど、後半は完全にモンスター殺人鬼と化していました。
その勢いと潔さ、個人的には好き。
とはいえ、幼少期にいじめていた女の子を殺害したときも、自転車の前に突然現れたように見えたので、もともとスラッシャー殺人鬼の素質があったのでしょう。
しかしそんなモンスター殺人鬼ラバーボーイくんも、やはりファイナル・ガールの底力には勝てず、敗北してしまいました。
マスクにウィッグは謎のセレクトで、殺人鬼としてのファッションセンスはいまいち。
クラッキングできるだけの技術がありながら、写真のコラージュは雑すぎるところがお茶目。
ちなみに、幼少期と成人後の容姿がちゃんと似ているところも、ポイント高めです。
逆ギレして殺戮を繰り広げたラバーボーイくんが100%悪いのは前提の上で、ガールハウスのガバガバ具合もやはり大問題だったのは間違いありません。
何よりセキュリティですね。
経営者のゲイリーはドヤ顔で高度なセキュリティ体制を自慢していましたが、それは実質、情報工学を専攻する大学生に位置を特定され、ちょっとITに詳しい人にはクラッキングすらされてしまうレベルのものでした。
ライブ配信に関する技術面だけではなく、そこら辺の駐車場の管理人かのようにドアも開けっ放しで1〜2人しかいない警備。
豪邸は豪勢ですが、侵入者を探知する機能などもなく、どう見ても後づけで電子キーを設定しただけの古そうな作り。
住んでいた女の子が退去したあとも変更しないパスコード。
どの場所も同じ数字で開くパスコード。
その上で、あまり目立たずすぐ退場してしまいましたが、ドラッグ依存の子の責任は相当でした。
あとは、本名で顔も見せながらやるのも、普通ものすごく抵抗ありそうですけどね。
なぜ本名でやっていたのかは最大級の謎です。
「ガールハウス」というビジネスの是非に関してはあえて触れはしませんが、世界各国に愛好家がいる様子でした。
みんな仕事を放り出してまで視聴しているのは笑ってしまいましたが、日本(東京)のおじさんが一番変態っぽかったのは涙。
経営者のゲイリーがゲイかバイセクシャルっぽいところも、妙にリアル。
エログロというスラッシャーの王道を行くのは良かったですが、セクシー要素が無駄に多めで、カイリーやガールハウスの日常を描いた前半が少し長く退屈だったのは個人的なマイナスポイント。
90分ぐらいでまとめても観やすかったような気も。
ただ、それを挽回するかのように、後半は派手でスピーディな殺戮を繰り広げてくれました。
ラバーボーイくんは、一般人とは思えないほど多様かつオリジナリティの高い殺し方を見せてくれるエンターテイナーでしたが、そこも、ガールハウスの視聴者を意識した見せしめのショーとしてやっているという理由づけがあるところもしっかりしていて良い。
他の演出面でも、カメラのナイトモードを駆使したりと、ホラーの定番を組み込んでいるところも好きでした。
というわけで、色々と粗さもありますが、ちょっと似た感じでセクシーなライブ配信をする若者を制裁する『デスチューバー』というなかなかなトンデモ作品を以前に観ていたこともあり、十分楽しめた作品でした。
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