作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
ノンフィクション作家のエリソンは、未解決のままになっている一家惨殺事件を本にまとめるため、現場となった家に引越してくる。
そして、家の屋根裏部屋で事件の様子を映した恐ろしい映像を発見するが、その日から不吉な現象が立て続けに発生し──。
2012年製作、アメリカの作品。
原題は『Sinister』で「不吉な、邪悪な」といった意味合い。
これは。
これはさすがに面白い。
知名度も評価も高く、2020年にイギリスのウェブサイト「broadbandchoices」が調査した「THE SCIENCE OF SCARE」という、心拍数によって「科学的に」怖いホラー映画をランキングするという企画で1位となったことでも話題になった本作。
その評価に違わぬ完成度と面白さで、しっかりと楽しめました。
何よりもう冒頭が最高です。
あまりにも不穏な、首吊りの映像。
映写機と8ミリフィルムという、レトロな小道具もたまりません。
前に何かの作品でも書いた気がしますが、古い映像というのは、それだけでも不気味さがあるので不思議なものです。
悪趣味ですが、どのフィルム映像も個人的にはとても好きでした。
レイティングの都合か、肝心な部分ははっきりと映さなかったりしましたが、それでもおぞましさが伝わってきます。
どれも殺し方のセンスが良い(というと人間性を疑われそうですが)。
展開も見事で、少しずつ事件が繋がっていきつつも、全貌が見えなくて先が気になる。
ただ、途中から「あれ、オカルトなのか……?」という感じが強くなってくるので、そのあたりから評価は分かれるでしょう。
個人的には、スナッフフィルム(殺人の映像)なので人間による猟奇殺人系を想像していたため、パソコンの画面の中のミスター・ブギーの静止画が動いてこちらを見たあたりから「あ、あれ……?」とやや戸惑い。
しかし、オカルトなのかと理解して割り切ってからは、オカルトモノとしてもしっかりと完成度の高さを感じました。
レビューサイトなど見ると評価が割れているのは、鑑賞者の母数が大きいからというのも当然あるでしょうが、この「実はオカルトだった」に起因する部分が大きいのではないかと思います。
序盤は殺人事件の謎を解き明かしていくミステリィっぽい雰囲気が強めなので、なおさらでしょう。
そこはもう、好みの問題でしかありません。
さらに本作は、オカルトモノとして観ても、真相は曖昧なままです。
結局、ミスター・ブギーことブグール(Bughuul)とは何だったのか?
なぜ事件の起こった家から引っ越した先で事件が連鎖するのか?
なぜ子どもの1人が実行犯となった上で攫われたのか?
なぜ失踪した子どもたちが家の中に現れたのか?
これらの細かい部分は、まったく説明されません。
しかし個人的には、これらの細かい背景設定は『フッテージ』においては些事だと思っているので、あまりマイナスには捉えていません。
本作は、あくまでも「怖がらせること」に重きを置いているように感じました。
なので、整合性ある謎の解明や、謎が解明されていく過程のカタルシスを目指したものではないのだろうと思います。
ブグールなどはオリジナルの設定のようですが、オカルト的な背景を補強する程度の役目で、明らかに説明は最低限でした。
本作は「とんでもないオカルトに巻き込まれちゃったんだなぁ」程度で留めておくべきで、細かく考察・検討するべき作品でないのは間違いありません。
オカルトの怖さというのは、演出しようとすると非常に難しいのだろうと思います。
「何でもあり」すぎてもついていけなくなりますし、細かく説明しすぎても都合の良さが浮き彫りになってしまいます。
CGや特殊メイクの霊は大抵違和感を感じるので、はっきりと霊を映すと怖さが薄まりかねませんし、まったく出てこなくても物足りない。
実に絶妙な匙加減が求められます。
その点、『エクソシスト』などがオカルトの名作なのは、直接的に悪魔は出てこないけれど、人間が憑依されて豹変するという点が良いバランスなのでしょう。
『フッテージ』は、家で不穏なことが起こっているけれど、侵入者なのかオカルトなのかもわからないし、でも次々と不気味な現象が加速していく、という展開のテンポが見事でした。
『リング』『残穢』あたりの要素も感じるジャパニーズホラーのようなじわじわした雰囲気を少しずつ強めていく匙加減が絶妙。
オカルトと確定してからの畳み掛けるような終盤も見逃せません。
ジャンプスケアも多めで、この点は賛否両論あるでしょうし、自分もプラスにもマイナスにも感じましたが、必ずジャンプスケアを入れてくるのはブラムハウス作品の特徴でもあると思っているので、そこはもうブラムハウス作品はそういうものなんだと割り切っています。
ジャンプスケアがあると、「また驚かされるかも」という緊張感が生まれ、落ち着いたシーンでも油断できなくなる点がプラス。
ただ、大きい音を出されたら驚くのは当たり前で、多用するとジャンプスケア頼みのチープな作品にもなってしまいかねません。
『フッテージ』は、じわじわした恐怖感の中にジャンプスケアが挟まれていたので、バランスは良かったと思います。
しかし、ジャンプスケアでミスター・ブギーの顔がばーんと覗き込んできたのは、ちょっとやりすぎにも感じました。
霊的な存在は、直接的に出てくれば出てくるほど、見た目の怖さなどは感じるかもしれませんが、想像力に頼る恐怖感を引き出せなくなります。
ミスター・ブギーの登場と、子どもたちが家の中を動き回るシーンは、やや冗長に感じてしまいました。
ミスター・ブギーの見た目もあまり怖くありませんが、そのあたりは国の違いによる感覚の違いもあるでしょうか。
ブグールは邪神ということで悪魔的な存在なので、そもそもそのような存在への捉え方が異なりそうです。
しかし、ほとんど家だけが舞台の中で、これだけの面白さと緊張感が維持できるというのはかなりすごいのではないかと思います。
かなり広い家ですが、ほぼほぼソリッドシチュエーションと言っても過言ではない作り。
それがメインではないにせよミステリィ的な要素を絡めたところが巧みなのもありますが、個人的にはやはりイーサン・ホークの演技あってこそであるとも感じました。
とにかくまぁ、イーサン・ホークの演技の上手いこと上手いこと。
というと何様な感じがしますが、素晴らしかったとしか言いようがありません。
1人での演技が多く、そのような場合独り言などにも頼りがちですが、『フッテージ』では独り言はかなり少なく、表情や動きで「何に気づいたのか」「どう考えているのか」といった点がしっかりと伝わってきました。
上述した、それほどはっきり映しているわけではないのにフィルム映像のおぞましさが伝わってきたのは、イーサン・ホークの演技による部分も大きかったのではないかと感じます。
イーサン・ホーク演じるエリソンを中心に、登場人物に間抜けな行動が少なかったところも、醒めることのなかった要因でしょう。
エリソンがあの家に引っ越してきたのも、事件のことを探るのも、理由に説得力があります。
とはいえ、妻のトレイシーにも黙って引っ越してきたのはさすがにちょっと……ではありますし、「近所であったわけじゃないから『なかった』と言った」「家の中で事件が起こったんじゃない」といった言い訳あたりは問題ありでしたが。
トレイシーはかなり器が広かったので、最終的に巻き込まれてしまったのはかわいそう。
結局、真相を暴いたのは某副保安官というのは、ちょっと面白かったです。
そこはエリソンも気づけたんじゃない?
ネットでもっと調べられたんじゃない?
とも思いますが、執筆のプレッシャーがあった上で、いざ自分が巻き込まれたことで余裕がなくなり、視野が狭くなっていたのでしょう。
そんなわけで、実はオカルトだったという方向性や、細かい謎はほぼ謎のままという部分が引っかかってしまうのもわかりますが、「オカルトもありで、怖がらせることに特化した作品」として観ると、とても完成度の高い作品なのではないかと思います。
雰囲気作りも抜群で、好きな作品の一つとなりました。
個人的に好きなシーンは、終盤、前の家に戻った際に、屋根裏に「HOME MOVIES」の箱があったシーンです。
ゾクッとして興奮しました。
原題が『Sinister』なのと、監督のスコット・デリクソンが『エミリー・ローズ』という有名かつガチガチのオカルト作品の監督も務めていることを踏まえれば、「オカルトかも」という可能性は観る前から思い浮かびやすいかもしれません。
『フッテージ』だとフィルム映像に焦点が当たっているのでその謎を解き明かしていきそうな感じですが、原題の『Sinister』を踏まえると、やはりあくまでも不吉、邪悪、不穏といったような感覚的な要素に重きが置かれているのではないかと思います。
そう考えると、『フッテージ』というタイトルで、「何だか有名っぽいし観てみよう」という感覚で日本人が観ると、猟奇殺人モノのミステリィ感が漂うあらすじなので、「予想外のオカルトだった」と肩透かしになってしまいやすいのかもしれません。
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