作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
チェンマイにある高級住宅地“ラッダーランド”に念願のマイホームを購入し、バンコクから妻のパーンと14歳の娘ナン、5歳の息子ナットを呼びよせ、家族4人で一緒に暮らす夢を実現させたティー。
だが、その住宅地は各所で不思議な出来事が頻発し、地元の人々から「呪われた土地」と噂される場所だった──。
2011年、タイの作品。
原題も『LADDALAND』で、「L」「A」「D」だけで構成されていて面白い。
タイ語のタイトルも『ลัดดาแลนด์』で、ラッダーランド入口のゲートに書かれていた文字と同じでした。
監督は『カミングスーン』、『プロミス/戦慄の約束』などのソーポップ・サクダービシット監督。
共同脚本はSopana Chaowwiwatkulなる方(カタカナ表記はわからず)で、『プロミス/戦慄の約束』や『フォービア2/5つの恐怖』の「バックパッカー」などでも共同脚本で携わっていました。
本作『ラッダーランド』は、監督デビュー作の『カミングスーン』に比べて家族のテーマやドラマ性が強く窺え、2017年の『プロミス/戦慄の約束』により近づいている印象を受けましたが、共同脚本の方の影響もあるのかもしれません。
娘のナンを演じていたスタッター・ウドムシンは、人気アイドル女優らしく、本作が映画デビュー作とのこと。
近影を見ると、ばっちりメイクをしていてすっかり大人になっていました。
本作の舞台となったラッダーランドは、ちょっと調べてみた感じだと実在する(した?)村のようでした。
実際にそこで強盗にメイドが殺され、その後泣き声が聞こえるようになったりしたとか。
どうやら、ある程度は実話がベースとなっているようです。
そんな本作、粗さはあれど、個人的にはとても楽しめました。
『カミングスーン』も『プロミス/戦慄の約束』もかなり好きだったので、どうやら相性が良いようです、ソーポップ・サクダービシット監督。
『カミングスーン』もそうでしたが、『ラッダーランド』もあまり細かい部分を気にするというよりは、ホラー演出重視。
本作のラッダーランドはもともと「呪われた土地」と呼ばれていたようですが、そのあたりの説明はほとんどと言っていいほどありません。
そのあたりの消化不良感はありますが、そのあたりはあえて切り捨てて、ティー一家が遭遇する恐怖に重点を置いたと考えられます。
ソーポップ・サクダービシット監督作品は、今のところ他作品も同じような印象なので、それを許容できるか否かが好き嫌いを分けそうです。
なので、あまり細かく背景を考えるというよりは、勢いを楽しむ作品でしょう。
『カミングスーン』に続いて本作もホラー演出が個人的には好きだったので、そこが相性の良さかな、と思いました。
Jホラーの影響も強く感じられた前作『カミングスーン』に対して、本作はより独自の表現が強まっていた印象。
かつ、本作はかなりジャンプスケアが多めで、作品によって様々な演出が試みられているようにも感じられます。
しかしとにかく、本作は涙なしには、そして胸を痛めずには観られませんでした。
とにかくもう、主人公のティーが空回りすぎてて空回りすぎてて。
アドベンチャーゲームというゲームのジャンルがあります。
ストーリーを追うのがメインで、選択肢によってルートやエンディングが変わる、というものです。
ゲームによっては、選択肢を間違えると主人公が死んだりバッドエンドで終わるものもあります。
『ラッダーランド/呪われたマイホーム』は、ティーがことごとく間違った選択肢を選んだアドベンチャーゲームを見ているかのようでした。
もう、全部間違ってるよ。
最初のマイホーム購入から選択肢を間違っていた感が否めませんが、「呪われたマイホーム」どころか、地域一帯が呪われていたので、そこはかわいそうでしかありません。
とはいえ、万引き犯も知っていたほど噂になっていたようなので、下調べが不十分だったというのは否定できず。
そもそもあのマイホーム購入も、本当に家族のためというよりは、ティーのプライドのようなものが前面に感じられてしまいました。
ラッダーランドのあったチェンマイは、タイでは「第2の都市」と呼ばれているようですが、首都バンコクからは北に約720kmほど離れています。
その中の高級住宅街とはいえ、バンコクに比べれば地方と呼べるでしょうし、何より妻パーンの母親から離れて自分の城を築きたいというプライドが一番強く感じられてしまいました。
そんなわけで、空回りまくりで見ている側が心苦しくなってしまうティーでしたが、思い込みが激しく計画性にも乏しかったので、自業自得感は否めません。
義母の嫌がらせなどはあからさますぎてさすがにかわいそうでしたが、決して同情できる主人公ではありませんでした。
『カミングスーン』の主人公ほどクズ男ではありませんでしたが、根っこは似ているというか、自己中心性がちょいちょい垣間見えてしまいました。
まず、冒頭の、1人でマイホームを整えているシーンからなぜか不穏です。
幸せなシーンのはずなのに。
1人で「パパは嬉しいよ。ついに家族4人、一緒に暮らせる」とドヤ顔シミュレーションしているところなんか、「もしかして時系列的にはこのシーンが本編後で、本作のメインストーリーで家族が全員死んでしまい、主人公だけ引っ越して、妄想の家族を見ているのでは……?」といきなり深読みしてしまったほどでした。
子どもたちの部屋の内装まで整えていたり、家族の顔が描かれたコップを用意したりと、彼なりに家族のことを想っていたのでしょうが、「僕の考える理想の家族とマイホーム」像を押しつけている感が漂ってしまっていたからでしょうか。
その後もティーへのツッコミは止まりません。
おばあちゃん(妻の母)に預けていた娘ナンの複雑な気持ちに寄り添うこともなく、自分の要求ばかり押しつけたり(そもそも思春期で難しいのに)。
火にワインかけたり。
子どもたちの言うことを嘘と決めつけて怒鳴ったり。
転職早々、しっかりと返済計画が立っていないまま見切り発車でローン組んでマイホーム買ったり。
その割にテレビとかも勢いで買ったり。
隣人や娘の友人にいきなり喧嘩口調で詰め寄ったり。
妻が浮気していると決めつけたり。
娘の非常事態に、「家の方が大事なら帰って」と妻から怒鳴られるままにすごすご帰ったり。
とにかく計画性のなさ、衝動性の高さ、プライドの高さ、あたりが目立ってしまいました。
嫌がるナンの腕を引っ張って幽霊屋敷に連れて行ったシーンなんか、もはや虐待。
怒りのままに猫を殺すのも相当やばいですし。
果ては、そんな自分はすっかり棚に上げて、限界を超えてナットを叩くパーンを見て「正気か?変だぞ」と言い放つ始末。
まぁまぁ、そのあたりはもともとの特性と、拗らせちゃったコンプレックスのせいだとして一旦置いておくとしても、あらゆる場面で一切自分の非を認めることがなかったのが一番良くなかったでしょう。
ティーが謝るシーンはまったくなかったのではないかと思います。
問題についてきちんと話し合いをすることもなく、仕事をクビになっても言い出せず、子どもたちのための貯金にもこっそり手をつけて、あとからバレたら開き直るティー。
コンビニで働いている途中で客として来たナンと向かい合うシーンは、気まずさ最高潮でした。
ただ、普段から色々と抑圧して「良い父」「良い夫」を演じようとしているような胡散臭さが漂っていたのは、抜群の演技でした。
衝動性が破滅を招くだろうなと予感させましたが、中盤、パーンを射殺してしまった妄想は、ラストの上手い伏線にもなっていました。
あのシーンにより、終盤の恐怖に怯えながら銃口を振り回すシーンでは、間違えてパーンを撃ってしまうのだろうと思わせつつ、撃ってしまったのは息子のナット。
そして、思い込みの激しさも発動して、ナットが死んでしまったと勘違いして自殺。
たとえナットが死んでしまったのだとしても、残されるパーンやナンのことなんかまったく考えていない逃げの行動でした。
とまぁ、とにかく本編の悲劇はすべて、呪われた土地に引っ越してきてしまったことも含めて「ティーのせい」感も漂ってしまい、家族が一番かわいそうでした。
そんな構図のせいか、結局あの家族で死んでしまったのはティーだけでしたが、最後にティーの素敵な思い出を振り返りながら、ハッピーエンドみたいな雰囲気で終わらせるのはちょっと面白かったです。
『プロミス/戦慄の約束』のエンディング後の感覚もちょっと似ていましたが、いやいや、何か勢いでめでたしめでたしみたいな感じで丸くおさめて終わってますけど、全然ハッピーエンドじゃないですからね。
そんなティーでしたが、憎めないというか、笑ってしまったシーンも多々。
筆頭はとにかく、勢い良く開いた冷蔵庫を速攻蹴って閉めたシーン。
あのシーン大好きです。
それと終盤、隣人の息子ゴーの霊が現れたとき、持っていた絵でゴーの顔を隠して見ないようにしていたところ。
あれで時間稼ぎが通用するのが面白かったですし、その後、絵を破いてピントのズレた映像でゴーの惨状が見える演出は、ホラーとしても秀逸でした。
あと個人的に好きだったのは、コンビニバイトで速攻問題を起こした際、「クビだ」と言われて間髪入れずに「辞めない!」と言ったところ。
あの強さ見習いたいですし、人生で1回は言ってみたい台詞です、「お前なんかクビだ!」「辞めない!」(いや、クビ宣告は人生で1回もされたくないですが)。
さすがに斬新すぎて、店員さんたちの戸惑いが手に取るように伝わってきました。
そんなティーへのツッコミが常に尽きない本作ですが、上述した通り、ホラー演出は色々と好みでした。
不穏な隣人を活かし、死んだはずなのにおばあさんが猫を呼ぶ鈴の音がするのとか、ベタですが好き。
猫の首輪のカメラもうまく活用されていましたが、あれ、プライバシー的にだいぶ問題がありそうですね。
ベッドで寝ながらダーの霊に笑顔で「シーッ」とやるシーン以降、ナットがちょっとホラー顔に見えてしまいました。
家の中でナットを追いかけるシーンで、パーンの映像が急に『コンジアム』やバラエティロケみたいなフェイスカメラ(顔を映す固定カメラ)になったりと、唐突感もありますが色々な工夫が面白い。
ただ、ホラー演出に関しては、序盤の路上に佇む女性(殺されたミャンマー人女性のマキン?)やお坊さんの死、誰もいないはずの家の中から外を覗き込む視点、ティーの家の外から家の中のパーンの様子を覗き込むような視点(あれは猫のカメラ?)など、思わせ振りな演出が多々ありましたが、ほとんどはホラーのための演出でほぼ意味はなかったと考えられます。
大枠としては、あの土地一帯が呪われていて、そこに住むと不幸が訪れるのでしょう。
死んでしまったのかはわかりませんが、お坊さんは巻き込まれ具合半端なくてかわいそうでした。
隣人一家も、父親がヤバい人でしたが、もともとの傾向に加えて、あの家に住んでいたからおかしくなった側面もありあそうです。
ティー一家の事件も、客観的には「錯乱したティーが息子を撃って自殺した」ということになるので、隣人の父親も、何かしら追い詰められていく要因があったのでしょう。
そう考えると、あそこに住んでいながら犠牲者はティーだけで、パーン、ナン、ナットと3人も生きて脱出できたのは、だいぶ幸運だったのかもしれません。
途中で家に現れたマスクの強盗?はかなり謎です。
最初は、ナンかその友人が、あの家から引っ越させるためにティーを脅かしたのかと思いましたが、その後のナンの様子や友人との会話でも一切出てこなかったので、違うのかな。
本当にただただ子どもの強盗だったのか(そうであればじっと佇んでいたのが謎ですが)、いずれにせよこれもあまり深掘りする余地のある謎ではなさそうでした。
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