作品の概要と感想(ネタバレあり)
元作家のヒョンミンは心に病を抱える妻ミョンヘを心配し、妻子を連れて人里離れた一軒家に引越すことに。
しかし家の倉庫から物音が聞こえたり、鏡に何者かが映り込んだり、不気味な気配を感じたりと奇妙な出来事が続発し、ミョンヘはますます衰弱していく。
ヒョンミンが調査すると、6年前に建てられたその家では、最初に住んだ一家の父子が謎の死を遂げるなど惨劇が繰り返されていたことが判明する──。
2022年製作、韓国の作品。
原題は『Contorted』で「歪んだ、ねじれた」、韓国語でも『뒤틀린 집』で「歪んだ家、ねじれた家」といった意味のようです。
「事故物件」の用語を用いたのは邦題オリジナルですかね。
観終わってから知ったのですが、本作はチョン・ゴンウという韓国の作家の小説『The Contorted House』がベースとなっていたようです。
雰囲気が抜群な割に何となく物足りなかったり説明不足を感じたのですが、原作の影響もあるのかな。
2024年5月時点では、残念ながら日本では翻訳・出版はされていないようでした。
ホラー映画界において大きな存在感を示し続ける韓国ホラー。
絶対好きなのですがまだあまり多く観られていないので、これからどんどん観ていきたいです。
霊が白目になりがちなタイホラーに対して、黒目になりがちな韓国ホラー。
本作もさすがというか、上述した通り雰囲気は非常に良いのですが、ストーリー的には何となく盛り上がりに欠けたまま終わってしまった印象も。
というか、謎だらけのまま終わってしまいました。
冒頭、いきなりミョンヘがジウを投げ捨てるシーンは衝撃的で否が応でも期待は高まりましたが、あそこがピークだった感は否めません。
ホラー演出は比較的スタンダードで、多くはない割にジャンプスケアが目立ちますが、電子レンジの音で驚かせてくるなどホラーシーンからは外してくるので、終始気を抜けない作り。
最初は赤い服の女性などが不気味でしたが、赤い服の女性は途中からかなりはっきりと姿が出てきたり会話をしたりするので、真相が明らかになるにつれ恐怖感も薄まっていってしまいました。
味方だった女の子2人は「だめだめ」と首を横に振ったりする姿がもはや可愛いレベル。
ジウが実が死んでいた、というのは序盤シーンの伏線も回収され良かったですが、実は死んでいた系はもはや珍しくはありません。
ただ、終盤でヒョンミンも様子がおかしくなったあたり以降、飾られていた家族写真から右下にいたジウが消えていたような細かい演出は好き。
全体的に怖いというより不穏な雰囲気はとても良いのですが、どうしても個人的に大好きな韓国ホラー『箪笥』を連想してしまいます。
その血を受け継いでいるとも言えますが、斬新さには欠けつつ、ストーリーはやや投げっ放しだった印象なので、だんだん右肩下がりになってしまったのが残念でした。
終始押し殺したような空気感と映像は好きで、何よりミョンヘを演じたソ・ヨンヒの演技が抜群でした。
綺麗な方ですが、うつ病っぽい疲れ切った無気力な表情も、元気どころか狂気を感じさせる生き生きとした表情や生肉(どころかお皿まで。肉をくらわば皿まで)に食らいつく姿も、本作の空気感はソ・ヨンヒの怪演があったからこそと言っても過言ではありません。
父親のヒョンミン役のキム・ミンジェも上手かったからこそだと思いますが、とにかくヒョンミンの役立たず度合いが目についてしまいました。
同じく事故物件系ホラーであるタイの『ラッダーランド/呪われたマイホーム』(実際はあまり事故物件という感じではありませんでしたが)の父親もだいぶクズかったのですが、本作のヒョンミンはまた違った方向性で、優しいというよりもまさにミョンヘの指摘通り優柔不断で臆病者。
寝たフリでやり過ごしたり、ヒウを守ることもせずおろおろして、生肉を食べて吐くヒウの背中をただ撫でているだけのシーンは、哀れさすら漂っていました。
本作の細部は結局よくわからないのですが、引っ越し前にヒョンミンのリサーチが不足しまくっていたのは間違いないでしょう。
そのあたりは『ラッダーランド/呪われたマイホーム』とも似ていますが、そもそも引っ越してこないと話が始まらないのでそこは仕方ありません。
そのあたりの導入は『フッテージ』が上手でした。
ヒョンミンは不動産屋に事故物件であることを隠されていたのでかわいそうでもありましたが、言いくるめられたまま泣き寝入り状態になったのもどうなのでしょう。
ヒョンミンたちの直前にも家族が心中しているので、日本だったら明らかに瑕疵物件で告知義務がありますが、韓国はどうなのかな。
ヒョンミンはお金がないので引っ越せないと言っていましたが、告知義務があるならそれを怠った不動産屋を責めればどうにかなった気もします。
などと色々思ってしまいますが、全体を通して細部の矛盾やツッコミどころは多い作品なので、雰囲気を楽しむに留めるべきでしょう。
序盤の心霊現象も、意味があったというよりはホラーのための演出としての側面が強そうでした。
ツッコミどころで目立っていたのは、飲んで速攻穏やかな死を迎える除草剤ですね。
だいたい吐きながら苦しみ悶えるイメージです。
そのあたりも、ドラマ性や見せ方重視であることが窺えます。
そんなわけで考えたとしても残される謎は多いのですが、一応、何が起こっていたのかについて考えておきたいと思います。
考察:何が起こっていたのか……の検討にも限界がある(ネタバレあり)
まず改めて先に言っておくと、色々と検討しますが本作はわからない点だらけです。
ただの矛盾なのか、原作の小説を読めばもう少し背景がわかるのか、あえて背景にはこだわっていない作品なのか。
いずれにせよ、映画だけだとわからない点がかなり残ります。
そもそもの家族構成の背景から若干わからないのですが、
父親……ヒョンミン
母親……ミュンヘ
長男……ドンウ
長女……ヒウ
次女……ジウ
で、長女のヒウは養子であったというところまでは間違いありません。
ただ、終盤、ヒウはドンウを「お兄ちゃん」と呼んでいました。
ヒウを連れて病院で検査を受けていた回想シーンは、ジウの妊娠が判明したのだと考えられますが、ドンウが一番年長だとすると、そもそもヒウを引き取る前にドンウが生まれていたことになります。
もし翻訳の間違いでヒウの方が年上だったとしても、ほぼ年齢は同じぐらいでしょうし、ヒウを引き取った時点でドンウは存在していたはずで、なぜヒウを引き取ったのかの背景はまったくわかりませんでした。
まぁ、単純に女の子も欲しかったとか、何かで縁があって引き取ることになったとか、色々と理由は考えられます。
ドンウも養子の可能性も考えましたが、接し方や会話などからは実子の可能性の方が高そうです。
そんな5人家族でしたが、精神を病んだミュンヘが飛び降り自殺をしようとしましたところ、ジウに止められます。
しかし、ミュンへは衝動的にジウをベランダから投げて殺してしまいました。
ここでポイントとなるのは、ミュンへの精神はジウを殺してしまう前から病んでいたという点です。
引っ越し後、ヒウに対して「“お母さん”とどうして呼んでくれないの!」と首を絞める妄想もありましたが、もともと育児ノイローゼのようになっていたのでしょう。
ヒョンミンの盗作疑惑による失職のあたりが起点かもしれません。
引き取った頃とは違い、ヒウが敬語になっていた理由も明かされませんでしたが、そのあたりが影響していそうです。
我が子を投げ落として殺害しておきながら普通に生活している状況は謎ですが、事故死として通ったのでしょう。
もしかすると、ヒョンミンも真相は知らなかったかもしれません。
薄々気がついていたとしても、見て見ぬ振りで通しそうでもありますが……。
いずれにせよ、ジウの死を受け入れられずさらに重態となったミュンヘのために、ヒョンミンは家族みんなで郊外へお引っ越し。
ここでのリサーチ不足は上述した通りです。
ヒョンミンが盗作したのかは結局わかりませんが、赤い服の女性がヒョンミンに囁いていたのは「出版社の社長はあなたの盗作のせいで自殺した」という台詞でした。
盗作疑惑で社長が自殺したのは間違いなさそうなので、盗作が事実だったにしろ事実ではなかったにしろ、ヒョンミンの罪悪感は刺激されたでしょう。
ヒョンミンは気弱な事なかれ主義に見えたので、印象としては実際に盗作はしていない可能性の方が高い気がします。
ただ、倉庫の地下で仮面を被るのは、「いい人」をやめて本性を暴く象徴でもありました。
ヒョンミンも仮面を被ったあとは豹変しましたし、上述した赤い女性の台詞がヒョンミンが仮面を被る最後の一押しとなっていたので、盗作は本当だったかもしれません。
夫婦揃って自分の悪事を「なかったこと」にしようとしていたとすると、それはそれでしっくりきます。
とはいえ、地下の仮面が本性を暴いた、というだけで本作の悲劇が説明できるものでもありません。
どちらかというと呪いのニュアンスが強そうですが、このあたりもはっきりはしません。
最初に家を建てた一家の母親がおかしくなり、夫と子ども2人を殺害したようですが、そこが起点なのか、そもそも土地が悪くてその母親も影響を受けたのかもまったく明かされず。
ミョンヘの前に現れた赤い服の女性が、最初の住人家族の母親ではなくて、2番目の住人家族の母親だった点は、注目に値します。
最後にはヒウがおかしくなっていましたが、ヒウが仮面を被るシーンはなかったことを考えると、感染する呪いのようなものが可能性として考えられます。
考えすぎかもしれませんが、ミュンヘが見ていたテレビでウイルスについて話していたのは、そのヒントだったのかもしれません。
仮面も皮膚病っぽく見えましたし、心の弱みにつけ込んで感染する呪い説を推します。
いずれにせよ、養子を迎えた家族が立て続けにあの家に住んだ理由も不明。
偶然にしては出来すぎですし、呼び寄せられたのかもしれませんが、養子が犠牲になる理由はまったく説明もヒントも見当たりませんでした。
自然の中、倉庫の地下、仮面、といったようなロケーションやアイテムは、人間の無意識に迫る印象を与えますが、「ミュンヘがいい人を捨てて本性を現し暴走した」というよりは、呪い的な側面の方が強そうでした。
無意識とか母性といったような心理学的な解釈が有効そうに見えて、実際はそのような要素はあまりなさそうです。
心の弱みにつけ込まれたことでミュンへもヒョンミンも暴走しますが、ヒウの「お母さん」の言葉によってミュンヘは正気を取り戻し、ヒョンミンに熱湯をかけて除草剤で殺害。
そこはまったく躊躇も容赦もなしでヒョンミン涙。
その後ヒウがおかしくなったのは謎ですが、上述した通り、感染したと考えれば比較的納得できます。
「お母さん」と呼んだのは呪われたヒウの策略ではなく、正直な気持ちだったはず。
ヒウが不敵な笑みを初めて見せたのはミュンヘが正気を取り戻して死んでからだったので、ミュンヘの死によって呪いがヒウに移ったのかと思います。
ちなみに、ヒウはもともと霊感があったのでしょう。
赤い服の女性はみんなにガンガン姿を見せまくっていましたが、女の子2人を見ていたのはヒウだけっぽいですし、かくれんぼのシーンでは死んだはずのジウを見ていたようにも窺えました(ミュンヘの幻覚なのか霊としていたのかはわかりませんが)。
そもそも、ヒウは新居に引っ越す前から親子の遺影を見ていました。
そう考えると、ヒウの存在があの家族をあの家に呼び寄せたとも考えられ、過去の子どもたちもみんな霊感ある養子だったのかもしれません。
最大の謎は、「助けがいる時は連絡を」と名刺を渡してきたキム・グジュ。
超思わせぶりですべてお見通しみたいな感じだったのに、その後の出番すらないまったくの役立たず。
家のことも速攻調べてくれたり、最後に駆けつけてくれたカン・ヨンギュ記者の方がよほど有能でした。
長男のドンウもだいぶ空気でした。
反抗期に父親の盗作疑惑が重なってあの態度になったのかな、とは想像できますが、それにしても空気。
ヒウを気遣う優しさが要所要所で窺え、ついに終盤でヒウを守るかと思いきや、空気。
もはやドンウも実は死んでいたのでは?とすら疑ってしまうレベルでしたが、最後に駆けつけたヨンギュが話したり触っていたりしたので違いそう。
ラストシーンも謎が強めですが、やや成長したように見えるヒウが赤い服を着ていたのは、やはり呪いの延長でしょう。
以前の姿に戻ったミュンヘの霊と母娘として幸せに暮らす……とは思えないので、再び事故物件であることを隠して売却されていそうなあの家に、次の家族が来たときにまた悲劇が起こるのだと考えられます。
コメント