作品の概要と感想(ネタバレあり)
1977年のハロウィン前夜。
全米各地のユニークな場所を取材する4人の若者たちが、拷問を愛し殺人を繰り返したドクター・サタンの伝説を調べるため車を走らせていた。
しかし車が故障し、困り果てた4人は、途中で拾った美人ヒッチハイカーの誘いで彼女の家を訪れるが──。
2002年製作、アメリカの作品。
原題は『House of 1000 Corpses』で、corpseは「死体」の意味なので、邦題はだいぶ改変されています。
改変された邦題はいまいちに感じてしまうことが多いですが、『マーダー・ライド・ショー』という邦題は良い面悪い面半々ぐらいな印象です。
まず、本作はまさに「ショー」と呼ぶに相応しい作品でしょう(でショー、と書くのは我慢しました)。
もはやここで改まって説明するまでもありませんが、監督のロブ・ゾンビはもともとミュージシャンとして名を馳せている中、本作で映画監督デビューを果たし、その他にもミュージックビデオ監督、テレビ番組のホスト、コミックスの制作等、実に多方面で活躍しています。
『マーダー・ライド・ショー』も映像面だけでも芸術的ですし、主張が強いわけではないのに印象的でかっこいいBGMも合わさって、まさにミュージック・ビデオを見ているような感覚に陥りました。
一方で、邦題とポスターからは、遊園地のアトラクション的なイメージが連想されがちかと思います。
実際にマーダー・ライド・ショーなるアトラクションはあったわけですが、まったくもってそれがメインというわけではありません。
また、観る前はこのピエロが殺戮を繰り広げるのかと思っていたのですが、そうではありませんでした。
『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』や『ファンハウス』のようなテーマパークが舞台、あるいは『テリファー』のようなピエロ殺人鬼をイメージさせるような点は、ちょっと「思っていたのと違った」感を引き起こしそうだな、と懸念されるのがマイナスポイント。
さて、タイトル問題についてはこれぐらいにしておいて。
とにかくもう、デビュー作でこの個性は天才感が尋常ではありません。
まぁそもそもアーティストとして活躍していたわけなので、その非凡なる才能は映画監督デビュー前から明らかだったわけですが、ホラー愛が溢れつつも個性際立つ作品となっていました。
デビュー作とは思えない個性の強さは、イーライ・ロス監督の『キャビン・フィーバー』を彷彿とさせます。
内容に関しては、ほぼほぼ『悪魔のいけにえ』のプロットを踏襲していると言っても過言ではありません。
というか、レザーフェイスの演出なんかド直球すぎて、一歩間違えば『悪魔のいけにえ』の劣化版、あるいはパクリと言われても仕方ありません。
それなのにこれだけの魅力があり、これだけの評価を受けているのは、ひとえにその才能によって「オマージュ」のレベルまで昇華されているからでしょう。
まとめてしまえば本作は、古典的な「やばい一家の家に迷い込んでしまった若者たち」に尽きます。
1977年という時代背景も古典スラッシャーへのリスペクトが感じられますが、『悪魔のいけにえ』以外にも『サランドラ』などの影響も公言されているようです。
『サランドラ』は観られていないのですが、リメイク版の『ヒルズ・ハブ・アイズ』は鑑賞済みで、『マーダー・ライド・ショー』後半のぶっ飛び人間を超越したクリーチャー的な存在は、なるほど影響が感じられました。
というかもはや、本作より製作は後ですが『武器人間』レベルまでドクター・サタンに魔改造されていましたね。
ストーリーに関しては、『悪魔のいけにえ』や『ヒルズ・オブ・アイズ』といった「田舎に行ったらやばい一族に襲われた系」に、悪魔信仰的な要素をプラスした程度で、あってないようなものです。
それでも、序盤のマーダー・ライド・ショーのアトラクションがメタ的なメッセージになっているようにも感じられますが、本作はあくまでも「ショー」としてエンタメに特化されている印象で、楽しめました。
人によっては「中身がない」「グロいだけ」「古典作品のパクリ」とも感じるかもしれませんが、個人的にはとても好き。
痛さ溢れる悪趣味な拷問や殺戮好き向けの作品で、それ以外の方々にはまぁ刺さらないでしょう。
内容も考察するほどの点もなく、まさにアトラクションを楽しむかのようなショータイム。
ドクター・サタンは結局謎多き存在でしたが、実在したという解釈しかありません。
もちろんマッドなドクターがまだ生きていたというわけではなく、もはや悪魔的な、人間を超越した存在でしょう。
ファイアフライ一家は、ドクター・サタンに魔改造されたモンスターというわけではなく、単にドクター・サタンを信仰して奉仕したり供物を捧げていたポジションの狂人一家でしょうか。
「父親が悪霊に取り憑かれて火をつけた」みたいな説明もありましたが、あまり細かく考えるよりは悪魔の僕的に捉えておけば間違いなさそうです。
序盤のマーダー・ライド・ショーに出てきたアルバート・フィッシュやエド・ゲインは、シリアルキラーに興味があれば名前を聞いたことぐらいはあるであろう、実在した有名な殺人鬼です。
ドクター・サタンはもちろんオリジナルですが、実在の殺人鬼と並べて出す流れがリアルっぽさを醸し出していて良い演出でした。
手動で移動するアトラクションも、低予算感(映画としてのではなく、アトラクションとしての)が溢れていて可愛い。
ファイアフライ一家は個性溢れまくりで良かったですが、やはり何とかソーヤー一家(『悪魔のいけにえ』)に追いつこうと狂人感が過剰に感じられてしまった点も否めません。
それでも、話の通じないぶっ飛びイカれ具合は好きでした。
ちなみに、若者4人を誘い込んだ“ベイビー”を演じていたシェリ・ムーンは、ロブ・ゾンビ監督の奥様とのことでした。
さすがにあんな無計画で荒い殺人を繰り返して、しかも駆けつけた警察官まで殺害したとなれば、いくら1977年といえども発覚して警察沙汰になるのは待ったなしでしょう。
と思っていたら、続編の『マーダー・ライド・ショー2』ではしっかりと(?)ファイアフライ一家が警官隊に急襲され、逃避行を繰り広げるとのこと。
通常、スラッシャー映画の続編といえばキラーが殺戮を繰り返すパターンが多いですが、妙にリアルな路線に変更してくるところもさすがとしか言いようがありません。
ホラー愛溢れるオマージュ要素の強いデビュー作を経て、続編の方が監督の個性も強まっていきそうなので、続けて楽しみに観ていきたいと思います。
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