【映画】ソウ(ネタバレ感想)

映画『ソウ』(ネタバレ感想)
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『ソウ』の概要と感想(ネタバレあり)

老朽化したバスルームで目覚めた2人の男、ゴードンとアダム。
足には鎖、2人の間には自殺死体。
部屋にはいくつかアイテムがあり、その中から2人は自分たちがおかれている状況を把握しようとするが──。

2004年製作、アメリカの作品。
原題も『SAW』。

もはや改まって説明するまでもない、ソリッド・シチュエーション・スリラーの金字塔
そもそも「ソリッド・シチュエーション・スリラー」というのは和製英語であり、おそらく『ソウ』の宣伝で使われ始めたはず(諸説あるかも)。
20年経ってなお新作が(無理矢理ながら)作られ続け、「ソリッド・シチュエーション・スリラー」という言葉も半ば定着し、類似作品が雨後の筍のように量産されていることからも、その影響力の大きさが窺えます。

監督にジェームズ・ワン、脚本にリー・ワネルというのも、もはや伝説的タッグ。
同タッグでは『インシディアス』も作られていますし、ジェームズ・ワン監督はもはや現在のホラー映画界において欠かせない存在となっているのは周知の通り。

と、ついつい大絶賛になってしまうのは、とにかくこの作品が大好きだからです
「一番好きな映画、何?」という映画好きが究極に困る質問をされた際、回答の筆頭に挙がるのが『ソウ』です。
基本的に(経済的理由と保管スペースの問題で)なるべくBlu-rayなどは買わないようにしているのですが、数少ない所有しているディスクが『ソウ』シリーズ。

なのでもう、シリーズ含めて何度観たかわかりません。
親の顔より見たトビン・ベルの顔(それは言い過ぎ)。
このブログを始めてからも、いつか『ソウ』シリーズも再鑑賞して書きたい、むしろ書かなきゃいけないとまで思っていたのですが、逆に好きすぎてなかなか手をつけられず。
今回ついに『ソウX』の日本公開が決まったのをきっかけに、シリーズ再鑑賞をスタートしました。


そんな自分語りはさておいて。
内容については、久々に改めて観てもやはり圧巻の一言。
特に1作目の完成度は群を抜いています
携帯電話やパソコンといったデバイスの古さを除けば、とても20年前の作品とは思えません。

とはいえ、時の流れを感じなくもない部分も。
「スピーディで、あらゆるシーンに一切無駄がない」という印象だったのですが、改まって観ると今となっては若干冗長な部分も散見されました(何回も観ているからかもですが)。
展開が粗い部分も多々あります。

それでも、ラスト20分ほどの畳み掛けるような展開の勢いがとにかくすごい
特にゴードンが足を切り落として以降、ラスト8分ぐらいの、アダムがゼップのカセットテープを再生し、テーマ曲(”Hello Zepp”)が流れ始め、ジグソウ(=ジョン)が立ち上がるシーンを初めて観たときのインパクトは忘れられません。
そしてシリーズを通して踏襲される「ゲームオーバー」での幕引き。
第1作から映画館で観ている人が羨ましくてなりません。

しかしとにかく「Hello Zepp」は、シリーズ通して絶大な影響があると感じます。
「名作には名曲がつきもの」というのが持論なのですが、この曲はまさに『ソウ』シリーズを象徴し支える奇跡的な1曲
どんでん返しのインパクトを底上げする役割を果たしているのは間違いないでしょう。
無機質な金属音から始まり徐々に盛り上がっていく様は、否が応でも観ている側の心拍数を高め、作品を象徴しているかのようです。
もはや洗脳されたファンとしては、この曲さえ流れれば、それまでまったく出てこなかった見たこともない人物がいきなり犯人として登場しても押し切られるのではないかと思うほどです(それは盲目すぎ)。

低予算をカバーする、二重三重に張り巡らされた伏線とミスリードも見事
相棒を失ったタップ(元)刑事が暴走しているのか?
いやいや、ゴードンの家で妻子を監禁しているゼップが真犯人なのか?
というか、どれがどう絡み合っているんだ?
いくつかの事件が錯綜しているのか?
と混乱させておいて、最後に「すべてジグソウのゲーム」として一つにまとめ上げる回収の仕方は、もはや神懸かっています。


改めて観てみると、意外とジグソウについてはほとんど深掘りされていません。
「身体の内部は病(脳腫瘍)におかされている」「感謝を知らない連中に苛立ち、他人の苦痛を笑う奴らに怒る」というぐらいです。
その後のシリーズでひたすら骨の髄までしゃぶり尽くすように深掘りされるわけですが、第1作目は必要最低限しか描写されず、ゲームとスリラーの緊張感に振り切っているのも、潔い取捨選択でした。

逆に、のちのシリーズではだんだんと忘れられていき、「そんな設定あったね」と思った要素もちらほら。

まずは、被害者の身体の一部をジグソーパズルのピース形にくり抜く点
『ソウ2』あたりまではあったかもしれませんが、少なくとも後継者たちには受け継がれなかったような。
こんなサインを残す点は、意外とジグソウ、承認欲求というか自己顕示欲というか、高めですね。

次に、「ジグソウは自ら殺さない、死ぬように仕向けるだけだ」という重要な思想
ここが一番シリーズを追うごとに崩れていった気がします。
後継者はもちろん、ジグソウ自身も。
とはいえ、本作の時点でだいぶグレーゾーンですからね。
シン刑事の殺害やタップ刑事の首を切ったのは、保身でしかありませんし。

ただ、独りよがりであれ「命を大切にしないものにゲームを行い、考えを改めさせる」という独自の思想を持っていたところが、『ソウ』シリーズの魅力でもあります。
デスゲームものは面白いですがゲームを仕掛ける側の目的設定が難しい中で、見事かつオリジナリティの高い動機が設定されていたところも、『ソウ』シリーズの人気を支える要因だと思います。

そして、本作以降、とにかく忘れられていってしまったのが「ジグソウは最前列で見ている」というポイントでしょう。
筋弛緩剤など駆使していたとはいえあの体勢で最後まで耐え抜いたのはご愛嬌として、とにかく「最前列」すら伏線になっていたのが、あまりにも華麗。
「jigsaw」のsaw、「のこぎり」のsaw、「見る」の過去形のsawと、複数の意味がかけられているタイトルも完璧としか言いようがありません(どれだけ褒めるんだ、と自分でも感じてきました)。
その意味でも、やはり1は別格の完成度です。


せっかくなので、『ソウ』におけるゲームについても少し振り返ってみましょう。
後発シリーズで補完される情報は無視して、1作目のみの情報で検討します。

まずメインは、アダムとゴードンのゲーム。

ゴードンが選ばれたのは、容赦なく死の宣告をする医者だったから。
……いやこれ、医師であれば当たり前ですけどね!
ドライさやカンファレンスでジョークを交えていたあたりが「他人の苦痛を笑う奴ら」に引っかかってしまったのでしょうか。
ジグソウの主治医となってしまったことが運の尽きでした。
あるいは、幸せな家庭を持ちながら不倫していたりと、今持っているものを大事にしていなかったのも許せなかったのかも。

ゴードンの生存条件は、制限時間内にアダムを殺すこと
「死を宣告していた自分が他者の死因になる」ことを受け入れれば、自分と妻子(ダイアナとアリソン)の命が助かる。
他者を救えば、自分と妻子の命が失われる。

アダムは、他人の生活をする覗き見するゴシップカメラマンだったから。
……いやこれ、それでゲームに巻き込まれちゃうのもかわいそうですけどね!
冷静に振り返るとジグソウの選別基準、だいぶ偏ってます。
ただ、アダムにゴードンの尾行を依頼したのは、タップ元刑事でした。
ジグソウは先にゴードンを標的として狙っていたところ、それを追いかけ回しているアダムに気がついたから利用した、という流れかも。

アダムが生き残る条件は明確にされていませんでしたが、ゴードンがアダムを殺さなければ解放されていたのでしょう。
そう考えると、アダムにはほとんど選択権がありません
あくまでも今回のメインはゴードンのゲームだった、と考えられます。
アダムが生き残る条件は明らかにされていなかったのに「ゲームオーバー」されちゃったのはちょっとかわいそう。

アダムとゴードンのゲームに絡んでいたのが、ゴードンの勤務病院で雑役係を勤めていたゼップ(本名はヒンドル?)。
彼は遅効性の毒物を注射されており、ルールに従って動くことを強要されていました。
そのルールとは、制限時間内にゴードンがアダムを殺さなければ、ゴードンと妻子を殺すこと。

ゼップがゲームに選ばれた理由は、テープレコーダーの音声でも明らかにはされず、まったくの謎です。
ただ、ゴードンの娘のアリソンに聴診器を当てて心音を聞いたりとだいぶ変態っぽさが漂っていたので、何かしら理由はありそう。
ゴードンが「変態の異常者!」と言っていたのも、今回の犯人だとわかったから、というわけではないのかもしれません。

こうやって考えると、メインはゴードン先生のゲームで、アダムとゼップはただゴードンの周囲にいたから巻き込まれてしまった感も否めません
さらにはそこにおかしくなったタップ元刑事も絡んできたことで、事態が複雑になっていました。


以上がメインのゲーム関係者でしたが、続いて過去のゲームに目を向けてみましょう。

1人目はポール。
彼は、健康な中産階級の男性であったにもかかわらず自傷行為(リストカット)を行っていたらしいので、「命を大事にしていない」として選ばれてしまいました。
「本当に死にたかったらそのままでいろ。生きたかったら身体を切り刻め」というカミソリ・ワイヤーのゲームは、だいぶ秀逸でした。

ただ、46歳男性がリストカットするという事例は、だいぶ珍しい気がします
身体は健康だったのかもしれませんが、メンタルはだいぶ色々と抱えていたのでは。
そう考えると、きっとかなりの悩みがあった上でのリスカだったんじゃないかと思うので、ちょっとかわいそう。

2人目はマーク。
放火魔らしく、紛うことなき悪人です。
今作で一番、選ばれても仕方なかった人物。

そしてそのゲームはなかなかに鬼畜
可燃性の物質が塗りたくられた身体で、蝋燭片手に金庫の番号探し。
壁一面に数字が書かれた中、結局どれが金庫の番号だったのかはわからないまま。
蝋燭消して手当たり次第に適当な番号を試す方が、まだ生存率が高かった気も。

3人目はアマンダ。
彼女は薬物中毒者だったようなので、ポールと同じく「命を大事にしていない」に引っかかったのでしょう。
のちに重要かつ『ソウ』シリーズを象徴するアイテムの一つとなる、逆トラバサミでのゲーム。

アマンダのゲームは、他と比べるとだいぶ緩かったように思います
“死体”と表現されながら、実際は過量の麻酔で全身の自由を奪われただけの男性の胃から、鍵を取り出すというもの。
制限時間はシビアながら、自分を傷つけることなく(心は削られますが)助かることのできる、シリーズ史上でもだいぶ異色のゲーム。
アダムを殺せば良かったゴードンも同じ構図ではありましたが、ゲームの手間が全然違いますね。

薬物中毒だったアマンダは、被害者的な側面もあったからかもしれません。
手を出したアマンダも悪いのは間違いありませんが、ジグソウのゲームでしっかり更生していた素直さを見るに、色々と複雑な事情もあったのでしょう。
一番かわいそうなのは“死体”役の男性でしたが、もしかしたら彼が売人とかだったのかもしれません。

以上でしょうか?
いえ、忘れてはいけません、ジェフがいます
タップ刑事とシン刑事がジグソウのアジトに突入した際、監禁されていた男性です。

ジェフといえば『ソウ3』でメインとなった被験者の名前と同じですが、別人。
今回のジェフは、選ばれた背景もわからないまま、シン刑事によって助けられました。
いや、救出シーンは描かれていませんでしたが、あのあとたぶん助かってますよね。
アマンダだけではなくジェフも生存者(ゲームを生き延びたわけではないですが)ですが、その後はシリーズ通して一切音沙汰なし
晴れて平和な人生を手に入れることができたのでしょうか。
『ソウ』シリーズ史上、一番ラッキーなキャラかもしれません。


以上、いざ振り返ってみるとだいぶ選別基準やゲームの条件が曖昧ですね。
それでもこれだけ楽しいのは、やはりメインの軸のインパクトが強烈なのと、魅せ方の巧みさでしょう。
冒頭で天井の電気が点くシーンや、カメラの早回し映像でのスピード感は、もはや芸術的。
色々と粗さもあるとはいえ、低予算でのこの完成度はやはり別格。

愛を語るだけのような感想になってしまいましたが、『ソウX』を楽しみにしつつ、このままシリーズ再履修を続けていきたいと思います。

追記

『ソウ2』(2024/08/12)

続編『ソウ2』の感想をアップしました。



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