作品の概要と感想(ネタバレあり)
末期がんで余命宣告を受けたジョン・クレイマーは、危険な実験的治療を試すためにメキシコへと向かう。
しかし実際に現地に行ってみると、治療の話は詐欺だった。
自分がだまされたことを知った彼は、自らをだました詐欺師や不正な治療に加担する医師たちに死のゲームを仕掛ける──。
2023年製作、アメリカの作品。
原題も『SAW X』。
日本版ポスターの「ジグソウの復活を目撃せよ」というキャッチフレーズは、まぁ言いたいことはわかるような、いやでもやっぱりずれているような、絶妙なもやもや感。
本記事には、『ソウ』シリーズ過去作のネタバレも含まれるのでご注意ください。
というわけで!
待ちに待った最新作!
しっかりと当たり前のように公開初日に鑑賞してきました。
まずはとにかく、感謝。
一旦完結したはずのシリーズが再始動している点については、正直綺麗なまま終わっておいてほしかった気持ちもなくはありません。
しかし、現実に再始動している中でそこに文句を言っても仕方ないですし、受け入れられないなら観に行かなければいいだけの話。
結局こうして待ち侘びて公開初日に観に行くほど好きなシリーズで、ファンとしてしっかり楽しめる作品を作ってくれたことには、感謝の気持ちしかありません。
『ジグソウ:ソウ・レガシー』、『スパイラル ソウ・オールリセット』と、外伝なのか?続編なのか?という点をやや誤魔化しながら続いてきていた印象のある再始動ですが、ここに来てナンバリングに戻り、時間軸を遡ってジョンを主人公に据えるという英断。
「X」は「テン(ten)」ではなく「エックス」でしたが、次回作が『SAW XI(原題)』なので、実質ナンバリングの10でもあると捉えて良いでしょう(さすがにエックスアイではないはず)。
まず大枠の感想としては、原点回帰しつつ、これまでの定番からずらした点も多々見られる作風でもあり、そのバランスがとても良かったと思います。
これまでの定番というのは、主に「デスゲーム中心」「後継者問題」「犯人あるいは最後にゲームオーバーを言うのは誰か、を含めたどんでん返し」といったあたり。
とにかく大きな違いとしては、ほぼ一貫してジョン視点で描かれたことでしょう。
これまでは、ジョン視点での場面ももちろんありましたが、主に被験者や後継者目線でジョンの恐ろしさが描かれてきました。
実質、ジョンの思想やキャラが深掘りされたのも『ソウ2』ぐらいでしたし、ここまでジョンの人間性にフォーカスされたのは初めて。
本作はもはや、スリラーよりもヒューマンドラマ色の方が強かったと言っても過言ではないのでは、と思います。
全体的な色合いも、クールで青っぽい寒色系の印象が強かったこれまでに対して、オレンジなど温かい暖色系も目立っていた気がします。
しかしまぁ、掘り下げれば掘り下げるほどにジョンのかわいそう度が増していきますね。
子どもは死産、脳腫瘍で余命宣告、そして医療詐欺と、まさに踏んだり蹴ったり。
『ソウX』では、これまでほとんど描かれなかったジョンの喜怒哀楽がふんだんに盛り込まれていました。
空っぽ(というよりは放置されてまくっていましたが)になった医療施設を見つけ、真実を知り、呆然と立ち尽くす姿はあまりにも悲しい。
ジョンのかわいそエピソードとしては、『ソウ6』で描かれた保険金詐欺(詐欺かは微妙なラインでしたが)の被害もありました。
このとき、ジョンは「自分の癌を治せる治療方法を見つけた」と保険会社のウィリアムに掛け合っています。
『ソウX』のケヴィン・グルタート監督は『ソウ6』でも監督を務めているので、もしかしてこの治療方法というのが『ソウX』における医療詐欺の治療だったのでは?と思って観返してみたのですが、治療内容の説明は異なっていましたし、その治療方法はウィリアムも知っているようだったので、残念ながら違いそう。
誠実な人には優しかったり、カルロス少年との友情は激アツだったりと、ジョン元来の人柄の良さも見られたのが魅力ですが、ただ「かわいそう」なだけではないところも巧みでした。
たとえば、ガブリエラにお酒を贈ろうとするシーン。
「そんなにガブリエラのこと気に入ってたんだ」とこちらが笑ってしまうほどニコニコでお茶目な姿を見せてくれましたが、電波塔などの位置から施設の位置を割り出したのはさすがにやりすぎというか、狙った獲物を逃がさないジョンの執念深さやストーカー気質が垣間見えました。
あと、ナチュラルに公共の場でデスゲーム装置案をスケッチブックに描かない方が良いと思います。
せっかくのアイデア、誰かに覗き込まれたら盗まれちゃうよ(そこじゃない)。
ジョンの人間性については、個人的には少々解釈違いに感じてしまった点もあったのですが、インタビューなどを見ると、何よりジョン・クレイマーそのものであるトビン・ベルもこだわりを持って関わっているようなので、本作で描かれた人物像こそやはりジョンなのでしょう。
そして、時間軸を戻してジョンを深掘りする上で、アマンダの再登場はあまりにも大きい。
ジョンは何だかんだシリーズのほとんどに出てきますが、アマンダが出てくるとやはり初期の印象が一気に強まります。
ジョンとアマンダが並んでいる構図は、ファンとしてはそれだけでもう熱い。
2人ともさすがに年齢を感じはしますが、20年近い時を経てなおこれだけしっかりとジョンとアマンダであるのはすごいことです。
もちろん、ビジュアルだけではなくて、表情や言動など、演技的な側面も大きいのも間違いありません。
時間軸的には『ソウ』と『ソウ2』の間なので、アマンダの初々しさや葛藤がきちんと見られたのも良かったです。
『ソウ2』において、アマンダはマシューズ刑事に対して「あなたが私の最初の被験者」と言っていたので、その設定が生きている前提で考えれば、『ソウX』におけるアマンダの立ち位置はまだ後継者見習いのようなものであったと考えられます。
そのため、死のシーンでは目を背けたりと、まだ慣れない様子が窺えました。
同じドラッグ中毒仲間のガブリエラにはちょっと共感・同情していたところも可愛い。
そしてそして、ファンとしてたまらなかったのは最後の最後にホフマンが登場したシーンでした。
ファンサがすごい。
途中、ジョンが電話で「頼みがある、刑事」といったようなことを言っていたので、相手がホフマンかも、というのは思いました。
さらに終盤、「探していた男を見つけた」という連絡があった声も、ホフマンであるのはすぐ気がつきました。
たぶん『ソウ』シリーズファンの中でもマイナーでしょうが、ホフマンはけっこう好きなのと、あの低音ボイスも好きなので(どうでもいい話)。
しかしまさか、声だけの出演かと思いましたが、ご本人登場までしてくれるなんて。
ジョン、アマンダ、ホフマンの揃い踏み。
これだけでもう、時間軸を戻したからこそできる楽しみをファンに味わってもらいたいという意気込みが感じられました。
あえて定番のプロットを外してきたところも、個人的には好印象です。
特に、どんでん返しからの「ゲームオーバー」がなかった点。
散りばめられたピースがハマって逆転するラストはしっかりと爽快感がありましたが、「予想外の展開」「どんでん返し」とまで感じた方は少ないでしょう。
そもそも、ジョンを主人公に据えて原点回帰しておきながら「ゲームオーバー」を言わせなかったのは、明らかな意図を感じます。
しかも、開いた扉の先、陽光が満ちる外にアマンダとカルロス少年と3人でまるで家族のように消えていく後ろ姿は、「あ、あれ?これ『ソウ』だよね……?」と思わず戸惑ってしまうほど希望溢れる感動ドラマのような終わり方。
その後しっかりとホフマン再登場で真のラストシーンがありましたが、それでも「ゲームオーバー」はありませんでした。
この解釈として個人的に一番に思ったのは、本作はやはりあくまでもゲームメインではなく、ジョンのドラマがメインであるということです。
ゲームからのどんでん返しを楽しみ「ゲームオーバー」で締めるという「ザ・定番」プロットを外してきたのは、原点回帰しつつも軸となるコンセプトは違うんだという意思を感じました。
どうしても物足りなさを感じてしまう気持ちもありますが、潔い判断であると評価したい。
しかしそれでも、メインとなるゲームはしっかりと痛々しくて良かったです。
相変わらずぶっ飛んではいつつも、あまりにも壮大な装置すぎずコンパクトで、自ら犠牲を払わなければいけないゲーム性。
本作は特に、末期がん患者の弱みにつけ込む医療詐欺集団というシリーズ屈指の鬼畜被験者たちなので、心置きなくジョンを応援できました。
「生きたい」という気持ちにつけ込んで詐欺を働くというのは、様々な犯罪の中でもかなり鬼畜度高めでしょう。
この点、ジョンもジョンで犯罪者ではありますが、「生きていることの尊さ」を思い出させようとするジョンの思想とは真逆であるところも面白い。
ホフマンが言っていた通り、よりにもよってジョンを選んでしまったのが詐欺グループの運の尽きでした。
とはいえ、今回はさすがのジョンも、「命の尊さを学ばせる」というメインの目的以上に復讐の色合いが強かったように思います。
それもまた、「ゲームオーバー」がなかった一因かもしれません。
一応、クリアしたガブリエラなどに対しては病院に連れてくように指示していましたが、どのゲームも過去作のゲームと比べても犠牲が大きく、成功して病院に運ばれたとて、助かるかどうかは微妙な気がします。
太ももから切断するのとか、ゴードン先生の足首切断がちょっと可愛く見えてきてしまうほど。
すんごい勢いで糸ノコを引きまくっていたヴァレンティーナの勇姿は、ちょっと笑ってしまいました。
毎回思いますが、痛い思いをしながらめちゃくちゃ頑張ったのにぎりぎり間に合わずに失敗するパターンが一番嫌です。
マテオのゲームも、難易度高すぎませんかね。
頭蓋骨を開くのは『ソウ3』のジョンの開頭手術を彷彿とさせるので、ファンサの側面も強そうです。
しかし、火事場の馬鹿力とはいえ、ジョンでさえ怖がっていた開頭手術を麻酔なしで自ら行い、脳までたどり着いて切り取ったマテオの根性、すんごい。
そもそもあそこまでたどり着くのが無理でしょうが、脳って直接触れたら痛いのかな、痛覚とかあるのかな。
ガブリエラは放射線浴びまくりで、あのまま病院に行っていても深刻な事態にはなっていそう。
足首を砕いて拘束から抜け出すというのは、マシューズ刑事の脱出方法でした。
ここまで書いて気がつきましたが、脚を切断する、開頭手術、足首を砕いて脱出というのは、いずれも過去作にあるシーンですね。
そしてとにかく、詐欺グループのリーダー・セシリアの鬼畜っぷりが半端ではありませんでした。
異常な殺人犯であるジョンの人間らしい側面がどんどん見えてくるのに対して、とにかく「悪」でしかなかったセシリア。
ジョンの人間味を際立たせる意味合いもあったのでしょうが、そんな他者を踏み台や道具としか考えていない自己中心の権化であるセシリアが生き残ったのも示唆的です。
パートナーであるパーカーの雑魚キャラ感は半端じゃありませんでした。
一方、ジョンがゲームに巻き込まれてしまったのも斬新。
ジョンとカルロス少年の血責めゲームは、友情や絆を深めてくれました(?)。
「引く(ハラ)」が伏線になっていたのも良かったですし、「引くな」と言ったのにちゃんと引いてくれるカルロスくん、優しすぎる。
しかし、ジョンとアマンダが拘束された際には、当然ながらこれも計算の内なんだろうなと思いました。
ジョンとカルロスくんを乗せた機械が動き出したときも、実はゲームを仕掛けられるのはこの2人ではないんだろうな、と。
そしたら何と!
本当にゲームが始まっちゃったじゃありませんか!!
末期がんのおじいちゃんが血責めに遭っている姿、「やめてあげて!!」以外の何物でもありませんでした。
いやまぁ、自業自得でもあるんですけどね。
「すべては予測の範囲内」がかっこよかったジグソウ・ジョンの、珍しく誤算があった場面でした。
ゲームがすべて手術関連になっていたところも、ジグソウらしく面白かったです。
ただ、手術関連のゲームだったということは、詐欺が発覚してから作ったことになります。
異国の地かつ短期間であれだけの装置を作ったという点は、突っ込んではいけません。
部品はアマンダが運んでくれて、職人ジョンが速攻作り上げたのでしょう。
わざわざビリー人形も持ってきたか作ったかしてくれたのは、ファンサの鬼。
被験者もジョンもアマンダも一堂に介してゲームが進んでいくという構図も、目新しかったです。
おそらく、異国の地であるということと、詐欺グループも警察に被害を訴えないだろうという目算と、あとは復讐がメインだったというあたりの理由で、ジョンが被験者の前に姿を現しても不自然でない設定も見事でした。
ガブリエラがテープ再生を途中で止めたのもシリーズで初めてでしたが、「そういえばこれまではみんなちゃんと最後まで聞いていたな」と思いました(ビデオとかは強制再生でしたが)。
ガブリエラが止めたことによって、ジョンが肉声でゲーム説明したのも良かったです。
ただ、全体的にゲームはコンパクトに戻りつつも要求水準がかなりの鬼畜だったので、「痛い痛い」という以上に「いやこれそんなに頑張れる!?そこまでできちゃうの!?」と思ってしまった場面も多々。
ちょっとぎりぎりギャグめいて見えてしまうシーンもあった点が、個人的には少し惜しいポイントでした。
ゲームで言えば、公開以前から一番話題になっていた目玉のゲームが、ジョンの妄想だった点が一番びっくりしたかもしれません。
そもそもあの装置は何なんだ?
目玉を吸い取るのか?
目に何かを入れるのか?
というところから気になっていましたが、まさかのまったく本編とは関係のない妄想シーンだったとは。
ストーリー上、詐欺グループへのゲーム以外はゲームが展開できなかったので、派手なゲーム場面を取り入れるサービス的な意味合いもあったのかな、と思っています。
ただここも、ジョンの異常性を描くシーンにもなっていました。
「憎い相手を空想の中でひどい目に遭わせる」という妄想をしたことがある方も少なくないかもしれませんが、あの相手、見知らぬ患者の所持品を盗もうとしていた見知らぬ清掃員でしたからね。
そんな場面を目撃しただけであそこまでの妄想を繰り広げてしまうジョン、すでにジグソウ脳になっていた様子が窺えます。
ラストのホフマン再登場は、ある意味ファンにとってはここがどんでん返しだったでしょう。
詐欺グループの一員だったヘンリーも逃さないところ、さすがでした。
わざわざ癌患者のセラピーグループに潜り込んでまでターゲットを騙していたというのは、相当に悪質かつ巧妙ですがリアルです。
しかしヘンリーのゲーム、何の説明もなくギコギコ始まっちゃいましたが、あれ、助かる選択肢あるんですかね。
刑事であるホフマンが顔を見られて生かしておくわけがない気もしますが、助かる選択肢を与えずに殺すだけだとジョンの思想に相反してしまうような……。
ホフマン単独ならあり得ますが、ジョンも同席していてそのゲームはないような……。
という点だけ、ホフマン再登場に熱狂しながらもちょっと気になってしまったラストシーン。
というわけで、当然ながら後付け設定だらけなので、細かく見てしまえばツッコミどころがたくさんなのは当然ですし、好きだからこそネガティブに感じてしまった点もありますが、それらをちくちく言うのは野暮というもの。
ジョンというキャラの掘り下げ、久々のゲーム、名曲「Hello Zepp」の良アレンジ、そしてジョンとアマンダとホフマンの姿を見られただけでも、ファンとしてはとても感慨深い1作でした。
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